89 九州電力 CSR 報告書 2010
第三者評価
企業のCSR報告書といえば、きちんとした内容が述べら
れているということはもちろん重要なことですが、
同時にま
たはそれ以上に、読む人にその企業の社会的責任に対する
思いを伝えようという姿勢がみられることが必要ではない
でしょうか。
そういう観点からみると昨年の報告書に比べ
て、写真や図表を大きくしたりグラフ化したりして掲載する
などの読みやすくする努力が随所に見られ、改善されたこ
とがうかがえます。
報告書の全体構成
2009年度の報告書ではClose up1で
「地球にやさしい
エネルギーをいつまでも、
しっかりと」
として取り上げられて
いた課題が、今回は視点を変えて、
「低炭素社会の実現に向
けて」
として記されています。
また、
今回はClose up2として、
「安全第一の徹底」
があげられ、昨年の事故の多発を踏まえ
て特に強調された内容となっています。
このように、社会の課題認識の変化や自企業の当面する
課題に応じて構成や内容を変える工夫は評価できると思い
ます。
また、
コーポレート・ガバナンス、
CSRマネジメント、
コン
プライアンス経営の紹介と合わせて、
これらの理念をふまえ
た事業概要が、
2009年度に比べて詳しく紹介されています
が、
企業経営の責任の重みが伝わります。
原子力発電の安全性について
ステークホルダーが重要と考える項目の第一に挙げられ
ている原子力発電の安全性の確保については、Close up1の【TOPICS】
(P.12)
に、
原子力発電所における安全確保の
ための仕組みとして、
フローチャート付きで説明されており、
さらにP.45の安全第一主義の徹底の項目でも詳細な記述
がされ、
重視されている姿勢がうかがわれますが、
今後とも
十分な説明が必要でしょう。
また、
プルサーマルについては、
九州電力の先駆的な取組みとして関心が高い一方で、安全
性についての不安も大きいことから、あらゆる機会をとら
えて情報提供することが望まれます。
地球温暖化対策
地球規模での課題であり、かつ人々の関心が高い温暖化
対策については電気事業者としての役割は大きいと思いま
す。
その意味で、
温暖化対策の面で優れた電源としての再生
可能エネルギーの導入に関する説明が、2010年度からの
新たな取組み
(P.14 3バイオマス発電・廃棄物発電の中の
苓北発電所の木質バイオマス混焼発電実証実験)
も含めて
とりあげられており、
読む人に納得を与えられると考えられ
ます。
情報公開について
事業活動関係の情報ももちろん大切ですが、ステークホ
ルダーが最も知りたい情報は災害時や原子力発電に対する
情報であると考えられます。
その点で今回の報告書には災
害時の情報提供の方法
(P.34)
と、
原子力情報の公開状況が
とりあげられているのは
(P.35)
注目していいでしょう。
ワーク・ライフ・バランスの推進
男女共同参画や次世代育成支援の観点から、
ワーク・ライフ・
バランスの取組みが紹介されていますが、
育児休職や短
縮勤務に男性の参加が少ないので
(P.40)、さらに強力な取
組みが望まれます。
その意味で、
2009年度から育児休職期
間を新たに勤務年数の対象とする、
出産休暇の日数拡大、さらに2010年度から看護休暇の日数見直し、介護休暇の新
設などが行われたこと
(P.40)
などの効果が期待されます。
地域・社会との共生
企業には、企業自身が一市民いわゆる企業市民として地
域貢献を行うと同時に、従業員が地域貢献のための活動を
することが求められています。
その観点から、ボランティア
休暇制度や活動費用補助、資格取得費用補助、情報提供な
どきめ細かな支援を行われていることは高く評価できると
思います。
最近
「新しい公共」
の議論が活発になっています
が、
その担い手として大いに期待されることから、
社会貢献
としての活動をさらに広め、
紹介されることを望みます。
全体的に、
着実なCSR活動が多方面で行われていること
がわかる報告書となっていますが、
今後は、
利用者からの意
見・要望を日常的に吸い上げ、それに応える回路の更なる
充実が望まれます。
第三者意見を受けて
当社では、
CSR報告書に記載した内容の客観性を
確保し、信頼性を高めるため、第三者の立場の方に
報告書に対する評価をお願いし、
そのご意見を掲載し
ています。
九州電力株式会社
代表取締役副社長
CSR担当役員
福岡県大木町図書・情報センター館長
元 福岡県大木町副町長
元 福岡県男女共同参画センター館長
元 筑紫女学園大学非常勤講師髙たかやま
山 史
ふみこ
子氏 90九州電力 CSR 報告書 2010
2010 Corporate Social Responsibility Report
本レポートは、
発刊5周年の節目を迎え、
CSRとして九州
電力が最も重視する項目を新たにClose upとして掲げてい
ます。
その中の脚光項目として
「低炭素社会」と「安全」
を挙
げているのは、
トップリーディングカンパニーである九州電
力に社会が何を求めているかを敏感に受け止めた対応と思
われます。
特に
「低炭素社会」
の実現として原子力発電と風
力・太陽光発電等の再生可能エネルギーに焦点を当ててい
るのは、
時宜を得た企画であり、
またそれらの実現、
特に原
子力発電の運転において国民が最も懸念している安全問題
について事故内容等を詳細に記載する等、正面からこの問
題に立ち向かっていく姿勢が読者の一人として好ましい印
象を覚えます。
太陽光発電については一般消費者の生活に
より身近な戸別発電に対応する九州電力の取組みについて
も、
今後のレポートで触れていただきたいものです。
以下本レポートの重要と思われるポイントを幾つか俯瞰
してみます。
明確な経営理念に基づくCSRの実行
冒頭、
眞部社長のトップメッセージとして、
1環境にやさし
いエネルギーへの取組み、
2持続可能な社会形成、
3仕事を
通じての働きがいの三項目を挙げていますが
(PP.3-4)、こ
れが次の経営理念のページ
(PP.5-6)
で具体的にわかりやす
い言葉で説明され、それらの具体的取組みが各項目で説明
されていくという一貫した構成で、
九州電力がCSRに関して
何を目指しているのかが全体として理解しやすいレポート
になっています。透明性の確保
近年社会が最も企業に求めているのは透明性の確保であ
り、本レポートの内容はそれに対応したものと理解されま
す。
特に、
安全、
コーポレート・ガバナンス、
コンプライアン
ス、情報公開、人権尊重等に対する具体的取組みが本論の
各所で明らかにされていることは重要なことです。
コンプライアンス
(法令遵守)
経営の推進
(P.27)
コンプライアンス経営の推進では、
コンプライアンス委員
会を設置し、内部通報制度を設ける等その実行に努力して
いる姿勢が良く現れていると感じました。
特に相談・通報事
例の件数、
内容、
情報流出の事故件数
(30件)
等をオープンに
している点が、
透明性を高める役割を果たしています。
人権尊重と働きやすい労働環境の整備
(P.39)
ワーク・ライフ・バランスを推進する取組みとして、1介護支援、
2女性のキャリア支援、
3シニア社員制度等に関し
て具体的数値を掲げて丁寧に説明しており、
リーディングカ
ンパニーとして先進的な社員ケアへの努力が良く現れてい
ます。
更に内部的な社員ケアだけでなく、
障がい者の雇用促
進等社外コミュニティへのケアに関しても法定雇用率を上
回る1.9%を達成し、社会的責任を果たしている点が評価
されます。
今後はこれらへの取り組みを更に助長して、公共
企業体・公官庁並みの法定雇用率
(2.0%)
に近づける努力
をして欲しいものです。
今回も、
昨年に引き続き福岡県大木町図書・情報センター
の髙山館長に再度評価いただくとと
もに、
新たに、
九州国際大
学法学部の古屋教授にも評価をお願いし、
それぞれ客観的な
分析によ
り、
示唆に富むご指摘・ご提案をいただきま
した。
髙山館長からご提言いただいた、
原子力に関する情報提供
については、
今後と
も安全第一の徹底を図ることはもとより、お客さまや地域の皆さま方の視点に立った情報発信を着実に
実践してまいり
ます。
また、地域貢献については、従業員のボ
ランテ
ィア意識の更なる啓発を行っていくとと
もに、
「地域にお
ける企業の役割」
を認識し、行政、市民団体など、
お客さまや
地域と共に考え行動する
「協働」
を進めていきたいと考えてい
ます。
古屋教授からご提言いただいた、
「消費者に身近な住宅等
に設置されている太陽光発電に関連する当社の対応についても記載すべき」
との点については、
太陽光などの再生可能エ
ネルギーの今後の大量導入に備えた送変電・配電設備への
対策や、
次世代電力システムの構築に向けた取組みなどにつ
いて、次年度の報告書にて、記載内容の更なる充実を図りた
いと考えています。
また、
両氏からご意見をいただいたワーク
・ライフ・バラン
スの推進や多様な人材の活躍環境の整備に関して、当社は、
働きがい・生きがいを持つ多様な人材の活躍の支援をしていくことは、労働生産性の向上や組織全体の活性化に繋がると
考えており、
引き続き、
企業価値を向上させる取組みと
して、積極的に進めてまいり
ます。
今回いただいたご指摘を踏まえ、当社のCSRへの取組み
を更に充実させるとともに、
その内容については、
次回の報告
書に掲載し、
ステークホルダーの皆さまのご意見を賜りたいと
考えています。
九州国際大学
大学院法学研究科
法学部教授古ふるや
屋 邦
くにひこ
彦氏

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