69第三者意見書
CSRに関して新たにCSR担当役員が任命される
とともにCSR推進会議が設置され,昨年まで発行
されていた「環境アクションレポート」に加えて,
今年からCSRの各領域にわたる「CSR報告書」を
発行することとなりましたが,いま企業に求めら
れる社会的責任を果たし社会の持続的発展を目指
す姿勢として評価できます。一方で,従来の環境
に関する詳細情報を開示するツールとして環境ア
クションレポートの発行を継続することにしたの
も意義深いことです。以下で,CSR報告書の内容
を分析したいと思います。
報告書全体の印象
この報告書はCSRの概念と趣旨をよく理解し,
CSRは特別のものではなくて企業の本来の事業活
動の中で実践するものという考え方で書かれてい
ます。経済・環境・社会の各観点が概ねバランス
のとれた配置となっており,そこに掲げられてい
る6本の柱も理解しやすいものとなっています。た
だ,CSR報告書にありがちなことですが,環境・
社会の記載に紙面を割く代わりに経済面について
はどうしても財務報告書に任せがちになってしま
う傾向があります。企業の「経済」面での社会に
対する貢献をどのように表現していったらよいか
の工夫が今後の課題となると思います。なお,こ
れに関してデータ編で扱っている「ステークホル
ダーとの経済的関わり」
(P67)は,多様な形での
各ステークホルダーへの支出をグラフ化したユニ
ークで面白いデータであり,本文でもっと大きく
扱ってもよいのではないかと思います。
コンプライアンスとネガティブ情報の開示
CSRの重要な要素であるコンプライアンスにつ
いても十分な記載がされています。その中で,問
題事案の発見に役に立つ内部通報制度としては外
部弁護士に直接通報する仕組みも設定されていま
すが,今後はその運用実態についても開示してい
ってもらいたいと思います。また,情報漏えい事
故の発生に関する説明とその再発防止策が記載さ
れていますが,このようなネガティブ情報の開示
はコンプライアンスの基本として評価できるもの
です。
CSRの実践とステークホルダーとのコミュニケーション
CSRを単なるお題目に終わらせず,如何にして日々
の事業活動の中でそれを実践していくかが重要な
課題となりますが,その点ではCSR行動計画とし
て各項目について前年度の活動実績と今年度の行
動計画を記載したのは評価できます。今後は,環
境レポートで実施しているように,CSR活動や報
告書に対するアンケート調査なども実施して,そ
の結果を以後のCSR活動に活かすとともに報告書
で公開していくような仕組みの構築が望まれます。
そうすれば,CSRのより効果的な実践が図れると
ともに,報告書を通した企業と各ステークホルダ
ーとの有益なコミュニケーションが果たせること
になります。
CSR報告書の中に従業員や社外ステークホルダ
ーとの対話を掲載する手法がよくとられます。こ
の報告書でも育児・介護支援制度利用従業員とか
コンサートでの共演者とかボランティア活動を行
った従業員とかのコメントが掲載されていますが,
この種の対話やコメントはステークホルダーの参
加として好感をもてるので,もっと積極的に掲載
してもらいたいと思います。
九州大学大学院法学研究院
教授
阿部 道明
本報告書の客観性を確保するため,九州大学の阿部道明教授から評価を受け,ご意見をいただきました。
九州電力CSR報告書2006第三者評価 70企業グループとしてのCSRの展開
CSRはグループ企業全体で実践しなければその
実効をあげることはできません。その面では基本
理念・経営姿勢・行動憲章・コンプライアンス経
営などはグループとしての取り組みとされ,一部
の関連会社のCSRへの取り組みが紹介されています。
しかし一方で,環境レポートにおいてはグループ
企業の取り組みが事例を含めて大々的に紹介され
ています。CSR報告書としては今回初めてなので
今年はこの程度でもやむを得ないでしょうが,来
年以降はグループ企業への展開及びその紹介を充
実させることが期待されます。
また,下請・協力企業に関してはその安全対策
が緊要となります。多くの重大事故が下請・協力
企業の従業員に集中する傾向があります。従って,
労働安全衛生の項目における下請・協力企業への
支援・指導の取り扱いはもっと大きくてもいいか
と思います。
CSR報告書の発行はいま始まったところです。
今後ともしっかりした理念と具体策に裏付けられ
たCSRを実践し,ステークホルダーの意見を反映
したわかりやすく充実したCSR報告書を作成でき
るよう工夫と努力を継続していただきたいと思い
ます。
第三者意見書を受けて
九州電力株式会社
代表取締役副社長
CSR担当役員
当社では,この「九州電力CSR報告書」をも
とに,より多くのステークホルダーの皆さまとコ
ミュニケーションをさせていただき,ご意見・ご
要望を経営や業務運営に反映させ,CSRへの取
組みを更に充実していきたいと考えております。
そのためには,まず,報告書に掲載した内容に
ついて,客観性を確保することにより,お読みい
ただいた方からの信頼を高めることが重要である
と考えました。
今回,九州大学で企業法務やCSRを研究され
ている阿部道明教授に第三者という立場で本報告
書の評価をお願いしましたところ,客観的な分析
により,示唆に富むご指摘や具体的なご意見・ご
提案をいただきました。
内部通報制度の運用実態の開示については,今後,
可能な範囲で報告書に記載するよう検討していき
ます。
経済的責任に関する記述やステークホルダーと
の対話の掲載,グループ企業の取組事例や委託・
請負先への安全活動の支援・指導に関する記載に
ついては,記述の工夫や記載・掲載の拡大を図っ
ていきたいと考えています。
また,本報告書によるコミュニケーションの仕
組みの構築については,まさにこの報告書を発行
した目的というべきものであり,グループ企業へ
の展開とともに,2006年度のCSR行動計画にも
織り込み,取り組むこととしています。
なお,評価できる点としてお挙げいただいた内
容については,今後も継続するとともに,一層充
実させるよう努めます。
今回いただいたご意見を受け,当社のCSRへ
の取組みを更に充実させるとともに,その内容に
ついては,次回の報告書に掲載し,改めて皆さま
のご意見を賜りたいと考えています。
九州電力CSR報告書2006第三者評価

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