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革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ

再挑戦の軌跡 ― RAISE-4に込めた開発者の想い

三菱重工業株式会社

宇宙事業部 技術部 宇宙機システム設計課 主席技師 成澤 泰貴
宇宙事業部 製造・発射整備部 試験課 宇宙機・衛星チーム 荒川 稜平

小型実証衛星4号機 RAISE-4は、RAISE-3の経験と反省を活かし、より高精度な技術実証を目指して開発された。開発を担った成澤泰貴氏、荒川稜平氏に、開発への想いと未来への展望を伺った。

- イプシロンロケット6号機打上げ失敗により小型実証衛星3号機(RAISE-3)を失いました。どのように受け止められましたか。

成澤  RAISE-3の打ち上げ当日、私は衛星運用管制室に待機していました。
RAISE-3に搭載した実証テーマ機器を提案された皆さまからは「この機器を実証し、宇宙産業を大きく発展させたい」という強い思いが伝わってきており、その期待に応えなければならないという責任感を胸に、開発担当者一同、数々の困難を乗り越えて打ち上げの日を迎えました。
その最中に打ち上げの失敗という知らせが管制室に届き、あの瞬間は本当に言葉を失う思いでした。

荒川  もう3年ほど経ちますが、当時のことは今でも克明に覚えています。入社2年目から開発に携わってきた私にとって、自身が関わった衛星の打上げは初めてでした。そのため、悲しさというよりは現実感が薄く、「これで終わってしまうのか」という空虚さを感じたことを覚えています。
ただ、今振り返ると中継画面からロケットが見えなくなった時点で「もう大丈夫だろう」とどこかで安心してしまった自分がいたように思います。もちろん軌道投入まで完遂して初めて打ち上げ成功となるわけで、当時の気持ちは甘さの表れでした。
衛星についても同様であり、無事に運用終了を迎えるその日まで決して気を緩めてはならないのだと、強く実感させられた出来事でした。

- 小型実証衛星4号機(RAISE-4)の開発には、どのようなお気持ちで臨まれましたか。

成澤  その後、多くの提案者の皆さまから「ぜひ再チャレンジしたい」という強いご要望をいただき、RAISE-4の開発がJAXAさんで進められることになりました。ありがたいことに、当社もその一翼を担う機会をいただきました。
RAISE-4の開発にあたっては、単にRAISE-3を再製作するだけでなく、より良い実証成果を提供したいという思いのもと、RAISE-3開発で得られた反省点を丁寧に洗い出し、それをRAISE-4開発へと確実に反映させていきました。

荒川  まず、再チャレンジの機会をいただけたこと自体が非常にありがたく、感慨深く感じています。
RAISE-3の開発の際は、自身の成長を実感することができました。RAISE-4は「必ず成功させる」という強い意志とともに、レベルアップした自分を全てぶつける覚悟で挑みました。

小型実証衛星4号機(RAISE-4)イメージ画像
「D-SAIL」「HELIOS-R」展開時 イメージ画像

- 小型実証衛星4号機(RAISE-4)の開発体制は小型実証衛星3号機(RAISE-3)と同様でしょうか。

成澤  幸いなことに、RAISE-4の開発体制はほぼRAISE-3の体制を引き継ぐ形で構築することができました。RAISE-3の打ち上げ失敗直後には、RAISE-3の開発にご協力いただいたパートナーの皆さまへ残念な結果となったことをご報告しなければなりませんでしたが、あるパートナーの方からは「ぜひ再チャレンジしましょう。その時はぜひ声をかけてください!」と暖かい励ましのお言葉をいただき、大変心強く感じました。
そのような皆さまと再び力を合わせてRAISE-4の開発に取り組めることを改めてありがたく思っています。

荒川  一見変わらないようにも見える部分もありますが、担当者の目線で見ると、大きく改善されていると感じます。
例えば、遠隔地で行われた試験におけるトラブルの認識共有や対策の立案から実施までの流れは、依然に比べて圧倒的にスムーズになり、試験担当者として非常に進めやすくなりました。書面上の組織図には現れない部分ですが、タテヨコの信頼関係の強化が鮮やかな連携プレーを可能にしているのだといます。これは、RAISE-3での積み重ねの賜物でもあります。
組織として、より小型衛星の開発に柔軟に対応できる体制へと進化していることは間違いありません。


機械試験モデル 音響試験

- 小型実証衛星4号機(RAISE-4)の開発にあたり、4号機ならではの難しさ、小型実証衛星3号機(RAISE-3)からの変化などがありましたら、教えてください。

成澤  RAISE-4はRAISE-3の再チャレンジという意味合いが強いものの、新たな実証テーマ機器の搭載や、RAISE-3で採用した実証テーマ機器のいくつかのバージョンアップなど、いくつかの設計変更要因がありました。その中でも特に大きな変化は、衛星の投入軌道の変更です。これに伴い、姿勢制御や熱制御に関わる設計の見直しが課題となりましたが、RAISE-3で培った設計をできる限り活かしつつ、短期間で成立する解を見出すことができました。
また、開発の後半になって、打上げ時の振動・衝撃条件が、当初の想定と大きく異なることが判明しました。影響を評価した結果、いくつかの搭載機器が新しい振動・衝撃条件に耐えられない可能性があることがわかりました。ただし、この時点では既に試作品による検証試験を終え、フライトモデル用の構造部材の製造も完了していたため、残された開発スケジュールの中でどのように対応するかが大きな課題となりました。

荒川  4号機ならではの難しさは、試験中にトラブルがほとんど発生しない点にあります。こう書くと誤解を招くかもしれませんが、実際に試験中のトラブルは格段に減りました。トラブルが少ない分、逆に試験計画の運営はより厳密さを求められます。カレンダー上に隙間なく組まれたスケジュールの通りに各種試験を開始する必要があるので、自分の準備不足で遅延させるわけにはいかず、常に集中力を保つ必要があります。もっとも、これは上流工程が順調に回っている証でもあり、喜ばしいことです。


フライトモデル 振動試験

- 今後の宇宙産業の見通し、また、それを踏まえた御社の今後の衛星事業の展開についてお聞かせください。

成澤  昨今、小型衛星による宇宙利用の市場は劇的に拡大しており、今後もさらに成長していくと考えられます。RAISE-4のように、軌道上での技術実証の手段としても小型衛星は非常に有用であり、今後ますますその機会が増えていくと期待しています。
私たちとしては、RAISE-3、RAISE-4での開発経験を大きな足がかりとし、小型衛星による宇宙利用の分野で、確固たる地位を築いていきたいと考えています。

荒川  現在、人工衛星は社会インフラの一端を担う存在であり、地上ではなく宇宙空間にいます。そのため、災害時など地上での状況が厳しい場合でも、確実に機能する必要があります。
そのためには、1つの衛星や通信設備が故障すると全体が使えなくなる仕組みではなく、複数の衛星や通信設備が相互に補完し合えるネットワークが求められます。
新型コロナウィルス流行時には、家庭のPCをネットワークで接続し、分散型コンピューティングで解析を行いました。人工衛星も同様に、平時は個々の衛星として運用されつつ、何かあったときは他の衛星と連携し、観測技術・通信・計算能力を人々の生活の安全に役立てられる仕組みが普及すれば、大変意義深いと考えています。


フライトモデル EMC試験

- 最後に、抱負・意気込みをお願いします。

成澤  RAISE-3での経験を経て、当社の開発メンバー一同、今回のRAISE-4の開発には並々ならぬ意気込みで取り組んでいます。来年の今ごろにはRAISE-4のミッションが大きな成果を収め、実証テーマ機器を提案いただいた皆さまに宇宙利用の明るい将来展望を感じていただけること、そして皆さまと共にその成功を分かち合えることを心から願っています。その実現に向け、今後も気を引き締めてRAISE-4の開発・運用に取り組んでまいります。

荒川  数多く実施してきた試験も、残すところわずかとなりました。しかし、工場での試験が全て完了した後には射場作業という大きなイベントが控えており、さらに打上げが終われば今度は運用が始まります。さらに、これまで衛星試験に関わってきた経験を認めていただき、私を含めた試験メンバーも打上げ後の初期運用に携わることになりました。
ここからが本当の正念場です。自分の役割をしっかりと果たし、全力でRAISE-4という衛星に向き合っていきたいです。


Interview 4 4号機に関わる人々

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