東南アジア及び欧州訪問についての内外記者会見

【岸田総理冒頭発言】
東南アジア・欧州歴訪の締めくくりとして、総理大臣就任後、最初に訪問した国である、英国を再び訪れることができ、うれしく思っています。ジョンソン首相とは、総理就任後5回目となる会談を実施し、ウクライナ情勢などについて突っ込んだ意見交換を行うとともに、本年6月末までに、日本産食品への輸入規制を撤廃する予定である旨説明がありました。被災地の方々を勇気づけるものであり、心より歓迎いたします。
ジョンソン首相を始め、英国の皆さんの温かい歓迎に心から感謝いたします。
現在、国際社会は大きな歴史の岐路に立っています。ロシアによるウクライナ侵略を終わらせ、平和秩序を守り抜くための正念場を迎える中、私は、「平和を守る」訪問として、アジアの戦略的パートナーであるインドネシア、ベトナム、タイ、そしてG7の同志国であるイタリア、英国、さらにバチカンを訪問しました。
ウクライナ情勢への対応では、これまでもG7が中心となって、国際社会の取組を主導してきました。
世界の平和秩序を守り抜くため、今こそ一層G7の結束を強固なものとしていかなければなりません。私は、来年のG7の議長として、そうした思いを胸に、先週には東京でドイツのショルツ首相と、そしてこの外遊中は、ジョンソン首相、ドラギ首相との会談を重ねました。
G7と連携して、ロシアに対する圧力を更に強化すべく、私は、ここに4つの柱からなる新たな追加制裁措置を発表いたします。
第1に、資産凍結の対象となる個人を約140名追加いたします。
第2に、輸出禁止の対象となるロシア軍事団体を更に約70団体拡大します。
第3に、ロシア向けの量子コンピューターといった先端的な物品等の輸出禁止を行います。
第4に、ロシアの銀行の資産凍結の対象を追加していきます。
この新たな制裁措置を含めた我が国の対応について、私から、ジョンソン首相、ドラギ首相に説明し、両首脳から、日本の対露措置に対する高い評価が示されました。
さらに、それぞれの首脳との間では、引き続きG7で協調して、ロシアに対し厳しい制裁を実施していくとともに、ウクライナに対し、様々な面で更なる支援を行っていくことを確認でき、今後のG7の連携強化へとつながる有意義な会談となりました。
また、日本は、アジア唯一のG7メンバーとして、これまでもアジアを始めとした各国に対して、ウクライナ情勢への対応について働き掛けを行うとともに、国際社会はロシアとの関係をこれまでどおりにはできない旨説明してきました。
今回訪問した東南アジア3か国においても、私から、ロシアによるウクライナ侵略は、アジアを含む国際社会の秩序の根幹を揺るがしており、国際社会が結束して対応することが重要である旨を述べ、できるだけ理解と協力を得るよう努めました。その結果、各国との間で、力による一方的な現状変更はいかなる場所でも許されず、主権や領土の一体性が尊重されなければならないことを確認しました。いずれの首脳とも、本音で大変有意義な議論ができたと思っています。
ロシアによる侵略は、ヨーロッパだけの問題ではありません。インド太平洋を含む国際社会の秩序の問題です。力による現状変更をインド太平洋で許してはなりません。危機に直面している今こそ、我が国は、「自由で開かれたインド太平洋」の旗印を高く掲げていかなければならないのです。今回の訪問では、「自由で開かれたインド太平洋」に向けた協力の具体化を進めました。
海上保安分野では、インドネシアへの巡視船供与に向けた検討を開始することを決定しました。ベトナム海上警察の能力向上支援も促進していきます。
インドネシアのパティンバン港の拡張、インドシナ東西回廊のインフラ整備を始め、地域の連結性向上につながる支援も行っていきます。
さらに、安全保障・防衛協力においては、タイとの間で、防衛装備品協定に署名したほか、インドネシアやベトナムとの間でも、協力を深めることで一致いたしました。イタリア、英国との間でも、共同訓練の実施などを通じ、協力を一層促進していくことで一致いたしました。特に、ジョンソン首相との間で、日英円滑化協定交渉が大枠合意に至ったことは大きな成果です。
昨日、北朝鮮が日本海に向け、弾道ミサイルを発射するなど厳しさを増す東アジア情勢についても議論し、各国との間で、東シナ海・南シナ海における力を背景とした一方的な現状変更の試みや、経済的威圧への対応、拉致、核・ミサイルを含む北朝鮮について、連携して対応していくことでも一致いたしました。
我が国は、普遍的価値を共有する同志国である英国やイタリアを始めとした欧州諸国が、インド太平洋地域への関心と関与を強めていることを心強く思っています。同盟国・同志国と緊密に連携して、「自由で開かれたインド太平洋」という、この地域の未来を共に築いていきたいと思います。
そうした取組の一環として、今回の訪問では、私が提唱した「アジア・ゼロエミッション共同体」を共に進めていくことでインドネシアのジョコ大統領と一致したほか、タイ、ベトナムでも議論を開始し、この構想の具体化に向け、第一歩を記すことができました。アジアの脱炭素化に向けた現実的な取組をリードしていきます。
今回の訪問では、私が進める新しい資本主義について、ジョンソン首相、ドラギ首相と意見交換を行いました。
権威主義的体制による厳しい挑戦にさらされている自由主義、民主主義を守るためには、我々自身が強くならなければなりません。
そのために、新しい資本主義を通じて、資本主義をバージョンアップさせる。具体的には、格差の拡大や、地球温暖化問題などの外部不経済を障害物と捉えるのではなく、成長のエンジンへと転換し、新たな官民連携によって、課題解決と新たなマーケット創出による成長の実現の二兎(にと)を追い、結果として、包摂的で持続可能な力強い成長を実現するという考えです。
こうした考え方については、米国のバイデン大統領同様、両首相からも、「全く同じ問題意識であり、共感できる」との評価を頂きました。
加えて、本日午前中には、世界的金融街シティで、幅広く、私の経済政策についての考え方を講演し、「日英はこれからも良きパートナーである」、「日本はオープンな国であり、安心して日本に投資して欲しい」ということを訴え、マーケット関係者からも、前向き、積極的な評価を頂きました。
今回の講演では、6月までにまとめる新しい資本主義のビジョンと実行計画について、人への投資、科学技術投資、スタートアップ投資など、これまで申し上げてきたことに加え、 副業・兼業、リスキリングを含む、教育訓練投資の強化による労働移動の積極的支援、NISAの抜本的拡充等による「資産所得倍増プラン」、10年間で150兆円のグリーントランスフォーメーション関連の官民投資を引き出すための政策イニシアティブ、より長期的視点に立った財政運営の実現、国際金融ハブの実現などについても紹介しました。
東京に帰ると、早速11日には、フィンランドのマリン首相、12日には、EU(欧州連合)のミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長と会談します。23日には、バイデン大統領との日米首脳会談、24日には、私が日米豪印首脳会合を主催するほか、月内に更にいくつかの東南アジア諸国の首脳の来日が予定されているなど、外交日程が目白押しです。
ウクライナ危機を乗り越え、平和秩序、自由と民主主義を守り抜く。さらには、国連改革、核軍縮・不拡散、エネルギー気候問題、世界経済の持続的成長。世界は、様々な面で歴史的な岐路を迎えています。日本が、国際社会の中で、日本ならではの最大限の貢献をしていく。こうした日本国民の強い決意を背景に、内閣総理大臣として、新時代リアリズム外交を本格的に動かしてまいります。
国民の皆様の御理解と御協力を心からお願いいたします。

【質疑応答】

(テレビ朝日 山本記者)
総理、よろしくお願いいたします。本日、バチカンを含め6か国に及ぶ外遊日程の全てを終えました。アジアからヨーロッパへと歴訪されたわけですが、改めて今回の外遊をどのように総括されるでしょうか。また、帰国後は、バイデン大統領の来日に加え、クアッドも開催されるなど、大きな外交日程が続きます。ウクライナ情勢への対応、あるいは中国への対応など、今回の外遊の成果を踏まえ、今後どのような方針で臨まれるお考えでしょうか。よろしくお願いします。

(岸田総理)
まず国際社会が大きな歴史的な岐路に立つ中、東南アジア、欧州6か国を「平和を守る」との目的で訪問し、確かな成果を得たと手応えを感じています。
ウクライナ情勢については、英国、そしてイタリアとの間では、G7の協調を確認し、今後のG7の連携強化へとつながる有意義な意見交換ができました。また、東南アジア3か国に対しては、アジア唯一のG7メンバーとして働き掛けを行い、力による一方的な現状変更はいかなる場所でも許されない、こういう共通認識を得ることができました。
また、各国との間で、危機にある今こそ「自由で開かれたインド太平洋」が重要との認識で一致し、その実現に向けて、日英円滑化協定の大枠合意、日タイ防衛装備品協定の署名など、協力の具体化、これを進めることができました。
そして、先ほども申し上げましたが、帰国後も外交日程は目白押しです。今回の訪問の成果を踏まえ、平和秩序、自由と民主主義を守り抜く新時代リアリズム外交、これを本格的に動かしてまいりたいと考えています。

(ガーディアン紙 パトリック・ウィンター編集者)
総理は先ほどの冒頭発言で、ウクライナがロシアによる侵略に直面する中で、西側諸国はウクライナに対しての支援を強化しなければならないとおっしゃっていましたが、台湾をめぐる中国の脅威や威嚇に対抗する上で、インド太平洋が学ぶことができる教訓はあるでしょうか。ロシアによるウクライナ侵略に対する中国の対応につき、総理はどの程度不満をお持ちでしょうか。

(岸田総理)
私に対して、ある国の首脳がカントの言葉を引用して「民主主義国同士は戦争をしない」という言葉を言われました。ウクライナ侵略はこの言葉を逆説的に示しているのだと思っています。
国民が国際情報から遮断される中、権力が最高首脳に集中し、チェックアンドバランスが機能不全となり、トップへの情報報告が偏っていく、こうした権威主義的な体制の問題点が示されたという見方です。
だからこそ、普遍的な価値を共有する国々の協調がますます重要になってきていると感じています。同盟国・同志国と連携しながら、力による一方的な現状変更をインド太平洋、とりわけ東アジアでは許してはならないと思います。
ウクライナは明日の東アジアかもしれない。こうした危機感を背景に、私は日本の対ロシア政策を転換し、G7と協調して、制裁など毅然(きぜん)とした対応を実行しています。ロシアによる暴挙には高い代償が伴うことを示すことが、国際社会に間違ったメッセージを発することにならないために重要であると考えています。
近くバイデン大統領を東京にお招きして、日米同盟を更なる高みに引き上げていきます。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米豪印の首脳会談や、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国首脳との緊密な対面外交、これも積極的に進めていきたいと考えています。
そして台湾についてですが、台湾海峡の平和と安定は、日本の安全保障はもとより、国際社会の安定にとっても重要であります。台湾をめぐる問題が、対話により平和的に解決されることを期待する、これが従来から一貫した我が国の立場であり、そのような立場から引き続き関心を持って注視していきたいと思っています。
先ほど申し上げました普遍的な価値を重視しながら、ウクライナ情勢に対し、毅然として対応し、そして台湾海峡の平和と安定、これについて引き続き関心を持って注視していきたい、これが我が国の基本的なスタンスです。

(共同通信 池田記者)
内政について伺います。国内では新型コロナの感染状況が、改善の方向に向かっています。依然予断は許さない状況ではあると思いますが、原油高や物価高などを受けて、日本経済に大きな影響が出ている中で、社会経済活動を回していく必要性についても、総理は度々強調されています。ゴールデンウイーク後に向け、これまでのコロナ対策の緩和など、7月に参議院選挙を控える中でどういった時期にどのような対応をしていくお考えでしょうか。

(岸田総理)
3年ぶりに緊急事態宣言・まん延防止等重点措置のないゴールデンウイークとなりました。多くの人出で各地がにぎわっていると承知しています。新型コロナ対応に当たっては、引き続き、平時への移行期間として、最大限の警戒感を維持しながら、徐々に社会経済活動を回復していく考えです。
感染状況は大都市圏を中心に減少が続いていますが、連休中の人出増もあり、予断は許されないと思っています。重症者・重症化防止への対応を念頭に、保健医療体制の維持・強化、さらにはワクチンの接種などは、引き続き着実に進めていきたいと思います。
その上で、連休後の感染状況をしっかり見極めた上で、6月にも、専門家の見解も踏まえつつ、水際対策を含め、コロナ対策を段階的に見直し、日常を更に取り戻していきたいと考えています。
足元のウクライナ情勢に伴う原油価格・物価の高騰等による影響は、喫緊の課題であると同時に、エネルギー供給など、日本経済に構造的な影響をもたらす可能性もあります。
中長期的視野を持ちつつ、先手先手で対応し、新型コロナからの回復を確かなものにするためにも、2段階のアプローチにより、万全の経済運営を行っていく方針です。
すなわち、第1段階として、先般取りまとめた事業規模13兆円の総合緊急対策を迅速に実行し、直面する危機に対応する。
そして第2段階として、この夏の参議院選挙後には、新しい資本主義のビジョンと実行計画、骨太方針に基づく総合的な方策を具体化し、エネルギー分野を含め、経済社会の構造変化を日本がリードしていきたいと考えています。

(ポリティコ紙 エミリオ・カサリッチオ特派員)
英国はCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)貿易圏への加入を望んでおり、日本は加入作業部会の議長も務めています。総理は、英国がCPTPPに加入することで、米国の加入を後押しし、結果として中国に対抗する上での一助になることを望まれますか。また、ジョンソン首相がバイデン大統領と次に会談する際には、この話を取り上げるよう、総理からジョンソン首相に働き掛けられたのでしょうか。

(岸田総理)
まずTPP(環太平洋パートナーシップ)は、ハイスタンダードでバランスの取れた新しい時代のルールを世界に広める意義があり、単なる通商協定にとどまらず、これからのインド太平洋地域の経済秩序にとって、大変重要な役割を果たすものであると考えています。
こうした観点から、貿易・投資分野においても、そして戦略的にも重要なパートナーである英国の加入は、インド太平洋地域において、ハイスタンダードで、自由で公正な経済秩序を形成していく上で、大きな意義があると考えています。
我が国は、インド太平洋地域の国際秩序への関与という戦略的観点から、我が国の唯一の同盟国である米国がTPPに復帰することが望ましいと考えています。このため、本年1月の日米首脳会談でも私からバイデン大統領に対して直接TPP復帰を求めました。
来る日米首脳会談の機会なども活用して、いずれ英国とも連携しながら、我が国として、引き続き米国に対して粘り強くTPP復帰を働き掛けていきたいと考えています。

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