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国立健康危機管理研究機構 肝炎情報センター
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B型肝炎

掲載日:2016年7月12日/ 改訂日:2025年6月3日

1. B型肝炎ウイルスの感染

B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)が血液・体液を介して感染して起きる肝臓の病気です。HBVは感染した時期、感染したときの健康状態によって、一過性の感染に終わるもの(一過性感染)とほぼ生涯にわたり感染が継続するもの(持続感染)とに大別されます。持続感染になりやすい状況というのは、出産時あるいは3歳未満の乳幼児期の感染です。HBVの感染経路は垂直感染と水平感染に分けられます。垂直感染というのはお産の時に母体から生まれた子供に感染が起きることを言います。水平感染というのは垂直感染以外の経路による感染です(図1)。持続感染になる水平感染で多いのは父から乳幼児への感染(発疹のある皮膚同士の触れ合い、口移しの食餌など)、海外からの報告では児から児への感染(創傷部への唾液の付着など)があります。熱い国などでは皮膚に傷のある子ども同士の密接な接着があるからかもしれません。

水平感染
  • 傷のある皮膚への体液の付着
  • 濃密な接触(性行為など)
  • 静注用麻薬の乱用
  • 刺青
  • ピアスの穴あけ
  • 不衛生な器具による医療行為
  • 出血を伴うような民間療法
  • その他

図1 HBVの感染経路

2016年4月1日以降に生まれた全ての0歳児にHBVのワクチンが接種されるようになりました。ワクチンを打って抗体が陽性になればHBVに感染することはありません。これにより、性的な交渉による感染も阻止することができます。また、HBVにはジェノタイプ(genotype)という、少しずつ違うタイプのウイルスがあります。日本に多いのはジェノタイプC、次いでジェノタイプBでしたが、最近欧米で多いジェノタイプAの感染が増えてきています。このジェノタイプAのHBVは成人が感染しても持続感染になる率が少し高いことが知られています。抗体が陽性になればどのタイプのウイルスも感染することはありません。

2. B型肝炎の症状・経過

B型肝炎は、急性肝炎と慢性肝炎の大きく2つに分けられます。

B型急性肝炎

感染して1〜6ヶ月の潜伏期間を経て、全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、褐色尿、黄疸などが出現します。典型的な症状の症例では、尿の色は濃いウーロン茶様であり、黄疸はまず眼球結膜(目の白目の部分)が黄色くなり、その後皮膚も黄色みを帯びてきます。症例の中には、肝炎の程度が軽くて、自分では気が付かないうちに治ってしまう例もあります。しかし、中には激しい肝炎を起こして生命を維持できない状態(肝不全)となる、いわゆる劇症肝炎になることもあります。一般に、劇症化に至らない場合には、数週間で肝炎は極期を過ぎ、回復過程に入ります。発症時には後述のHBc抗体、HBs抗原、HBe抗原が陽性となりますが、1〜2ヶ月でHBs抗原、HBe抗原は陰性化し、その後HBe抗体、HBs抗体が順次出現します。しかし、治癒してもHBe抗体やHBs抗体が陽性にならない症例も時々みられます。

性交渉(セックス)によるB型肝炎ウイルスの感染

B型肝炎ウイルスは健常な皮膚を通過して感染することはまずありません。しかし粘膜(口腔粘膜や膣粘膜)に付着すると感染が起きます。これはエイズウイルス(HIV)と同じです。HIVは握手やちょっとしたキスでは感染しませんが、セックスのように粘膜どうしの濃厚な接触があると感染が起きます。コンドームを使用すると、感染はかなりの確率で防げます。これらのことはB型肝炎ウイルスでも同じです。HIVにはワクチンがないので、予防をすることは難しいのですが、B型肝炎には有効なワクチンがあるので、B型肝炎ウイルスの持続感染のある人は、医療機関でパートナーにワクチンを打ってもらい、抗体が陽性になれば感染を防ぐことができます。

B型慢性肝炎

出産時ないし乳幼児期にHBVが感染すると、幼い体の免疫系はウイルスを病原体と判断できず、持続的にウイルスが存在し続ける状態(持続感染)に移行します。感染後数年〜数十年間は肝炎は起きないで、感染したHBVは排除されずに体内で共存しており、この状態を無症候性キャリアと言います。このころのウイルス量は血清1mlに10の7乗(1千万個)から9乗(十億個)と高い場合が多くなっています(最高に高い人でも10の9乗〜10乗程度)。思春期を過ぎると自己の免疫力が発達し、HBVを異物(病原体)であると認識できるようになり、白血球(リンパ球)がHBVを体内から排除しようとする攻撃を始めます。この時リンパ球がHBVの感染した肝細胞を壊すことにより肝炎が起こり始めます。一般に10〜30歳代に一過性に強い肝炎を起こし、HBe抗原陽性のウイルス増殖の高い状態からHBe抗体陽性の比較的ウイルスが少ない状態に変化します(HBe抗原からHBe抗体へのセロコンバージョン、抗原陽性から抗体陽性にかわること、図2)。HBe抗体が陽性になるということは、体がウイルスに対してある程度抵抗力を備えたということを意味します。HBe抗体陽性となった後は、多くの場合肝炎はおさまっていきます(非活動性キャリアと言います)。このように思春期以降に一過性の肝炎を起こした後は、そのまま肝機能が一生安定する人がおよそ80〜90%ですが、残りの10〜20%の人は肝炎の状態が持続します(慢性肝炎)。肝臓は再生能力の高い臓器で、肝移植のドナーとして健康な肝臓を半分提供しても、数週間後には肝臓の大きさは提供前の8割以上のサイズに戻ります。しかし、ドナーとして1度きり提供するのと違って、慢性的に細胞が壊れ続けると、傷跡のような線維化という状態が生じるようになります。線維化が進行して固くなってしまったのが肝硬変で、再生した肝細胞の集団は再生結節という細胞の塊を作ります。再生の勢いが強すぎてブレーキが効かなくなると肝細胞癌になる人も出てきます。(図2, 図3)

[画像:HBVキャリアにおける抗原・抗体出現時期の推移]

図2 HBVキャリアにおける抗原・抗体出現時期の推移

HBV持続感染者の自然経過

[画像:B_pic3-1.png]

図3 HBV持続感染者の自然経過

【日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「B型肝炎治療ガイドライン(4)20226,P12

https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b.html(20255月参照 )

B型肝炎ウイルスの感染の既往に関する考え方

B型急性肝炎で治った人はHBs抗体やHBc抗体(後述)が陽性となり、HBs抗原、HBe抗原、HBV-DNAなどは陰性になります。自分では感染したことに全く気付いていなくても、HBs抗体か、HBc抗体のどちらか、あるいは両方が陽性になっている人もいます。このように抗体だけ陽性の人は既往感染(B型肝炎に感染したことはあるが、治っている)と考えられます。しかし、既往感染であったとしても肝臓の中にウイルスのDNAは残っています。治った後では肝臓の細胞の中でウイルスが増え始めても、そのような細胞はすぐにTリンパ球に見つけ出されて壊され、また感染自体もHBs抗体があるので広がりません。ところがこのような免疫によるウイルスに対する防御状態を弱めるような、いわゆる免疫抑制という治療を行うと、肝炎ウイルスの増殖が起こってしまいます。これがB型肝炎ウイルスの再活性化です。免疫が抑制された状態(ステロイドホルモンの投与や抗がん剤、抗リウマチ剤などの投与中)でウイルスが極度に増え、それに対して急激に肝炎が起きると劇症肝炎のような激しい肝炎が起きて、致命的になってしまうことがあります。このため、免疫抑制となる治療を行う際には必ずHBs抗体、HBc抗体を測定し、B型肝炎ウイルスの既往感染がないかどうかをチェックしておく必要があります。既往感染がわかった場合は、免疫抑制治療中もウイルスをチェックし、HBV-DNAが陽性になってきたら早急にエンテカビルやテノフォビルなどの投与をすれば危機的な状況に陥ることは回避することができます。

3. 検査

日本肝臓学会により医師向けにB型肝炎治療ガイドライン第4版が作成されており、「HBVマーカーの臨床的意義」に詳しく記載がありますが、専門的なので興味のある人は参考にしてみてください。

B型肝炎ウイルス検査「簡単なまとめ

HBs抗原

HBVの感染を調べるためには、まず血液検査でHBs抗原の有無を調べます。HBs抗原が陽性であれば、100%HBVに感染していると考えられます。逆にHBs抗原が陰性であれば、感染したばかりの極早期のHBs抗原が陽性化するまでの期間や持続感染患者の陰性化に相当する時期(この場合は後述するHBc抗体高値陽性)などの特殊の場合を除いてHBVに感染していないと考えて差し支えありません。

HBe抗原、HBe抗体

HBs抗原が陽性であれば、次にHBe抗原とHBe抗体を調べます。一般にHBe抗原陽性かつHBe抗体陰性の場合は、HBVの増殖力が強く、他の人への感染の可能性が高いと考えられます。肝炎の活動性が高い時期の多くはこの状態です。一方でHBe抗原陰性かつHBe抗体陽性の場合は、HBVの増殖は弱く、肝炎は鎮静化し、他の人への感染の可能性が低いことが多いと考えられます。しかし、中にはHBe抗体が陽性になっても、肝炎が徐々に進行して肝硬変になったり、あるいは肝炎が進行しなくても肝がんが発生したりすることがありますので定期的な血液検査や画像検査(超音波検査やCT検査等)が必要です。HBe抗体陽性の人は他人に感染させるリスクは高くないですが、万一感染すると劇症肝炎のような激しい肝炎を起こすことがあるため注意が必要です。濃厚な接触があるパートナーにはワクチンを打つなどの処置が必要です。(肝炎情報センターのホームページをご覧ください。「日常生活の場での感染伝搬予防」)

HBc抗体

B型肝炎ウイルスが感染した人はほぼ全員が陽性になります。急性肝炎の早期からIgMクラスのHBc抗体が陽性になるので、IgM HBc抗体の測定は急性肝炎の早期の診断、特に劇症肝炎や重症肝炎でHBs抗原やHBs抗体がどちらも陰性の場合などに特に有用です。B型肝炎ウイルスが持続した患者さんではIgGクラスの抗体価が高値になり、病状が改善してHBs抗原が陰性になった人でもキャリアであったことが証明できます。

HBs抗体

B型急性肝炎を発症して治癒した人、あるいはB型肝炎ワクチンを接種した人はHBs抗体が陽性となります。HBs抗体が陽性の人は、仮にHBVが体内に入ってきてもウイルスは排除され、肝炎を発症することはありません。HBs抗体はいわゆる中和抗体といって、はしかの抗体と同じような感染を防ぐ役割をします。実際にB型肝炎ウイルスが感染してHBs抗体が陽性になった人はHBc抗体も陽性になりますが、ワクチンでHBs抗体が陽性になった人はHBc抗体が陰性です。

HBV-DNA

HBVのウイルス量を具体的に数値化したものがHBV-DNAであり、特にインターフェロン(IFN)療法や抗ウイルス薬(核酸アナログ)を使用した治療効果を見るときに有用です。以前はHBV-DNA値をcopies/mL(対数表示)と表記していましたが、現在は国際的に採用されているIU(国際単位)/mLへ移行しています。

ウイルス量が4.0 log IU/mlと表示された場合は血液1ml中に約1万(10の4乗)個のウイルスがいることを意味しています。ウイルス量が少なくなると「1.0 log IU/mL未満」、あるいは「検出せず」などと表示されます。 仮に血中ウイルス量が「検出せず」となっても、多くの場合HBVは肝臓内に存在し、決してウイルスが消失したわけではないので、この点を忘れてはいけません。

肝機能検査

AST(GOT)、ALT(GPT)

肝炎を発症しているかどうか、また生じた肝炎の程度を調べるには、AST(GOT)やALT(GPT)の血液検査を行います。これらは肝臓の細胞の中にある酵素で、細胞が肝炎で破壊されると血液中に出てきます。正常値は施設によって異なりますが、40〜50 U/L未満が目安となります。急性肝炎、慢性肝炎の時AST、ALTは異常高値となります。AST、ALTが高ければ高いほど、肝炎の程度は強いと言えます。一般にAST、ALTの数値が高ければ高いほど、肝炎を患った期間が長ければ長いほど、肝硬変になりやすいといわれています。B型慢性肝炎の患者さんの中には、20歳代から激しい急性増悪を繰り返し、比較的若い30〜40歳代で肝硬変に進行することもあります。

血清ビリルビン値

急性肝炎あるいは肝硬変で肝臓の機能が著しく低下すると黄疸が出現します。この黄疸の程度の指標になるのが血清ビリルビン値です。正常値は1〜1.5 mg/dL以下で3.0 mg/dL以上になると眼球結膜あるいは皮膚が黄色くなる「黄疸」が出現し始めます。

肝生検

肝炎の進展の程度を知るために、特に慢性肝炎や肝硬変の患者さんに対して、腹腔鏡あるいは腹部超音波装置(腹部エコー)を用いて肝臓の組織の一部を専用の針で採取することを肝生検といいます。特殊な染色を行い、顕微鏡で肝臓の組織を詳しく調べます。肝生検によって慢性肝炎か肝硬変か、慢性肝炎の程度は軽度か高度かなどが分かります。(図4)

[画像:線維化の進展]

図4 B型肝炎の病理組織

4. 治療

日本肝臓学会により医師向けにB型肝炎治療ガイドライン第4版が作成されており、その中に詳しい記載があります。

B型急性肝炎

急性肝炎は一般に抗ウイルス療法は必要ありません。食欲低下などの症状があれば水分や栄養補給のために点滴などをおこないますが、 基本的には慢性肝炎の治療に使う肝庇護薬は使用せず、無治療で自然にHBVが排除されるのを待ちます。ただし急性肝炎の中でも、劇症肝炎と呼ばれる非常に強い肝炎が起こり、放置すれば命にかかわる可能性もあると予想される場合には、抗ウイルス薬として核酸アナログ製剤の投与、ステロイドの大量投与や血液を浄化するための血漿交換、血液透析などの肝臓の機能を補助する特殊な治療を必要とする場合があります。それでもさらに肝炎が進行する場合は、肝移植を行わないと救命できない場合もあります。

B型慢性肝炎

B型慢性肝炎の患者さんに持続感染しているHBVは身体から完全排除することは出来ないことがわかっています。C型慢性肝炎の場合にはウイルス(HCV)に対する直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の内服治療により、高率にウイルスの増殖を抑え、ウイルスを完全に排除することができます。一方で、HBVに対してはIFNを用いても、後述の核酸アナログ製剤を用いても、現在の治療薬ではウイルスの完全排除は期待できません。これがHBVに対する治療とHCVに対する治療の根本的な違いです。これをふまえてB型慢性肝炎の治療をすることになります。

HBVに対する抗ウイルス薬

インターフェロン(IFN)(注射薬)と核酸アナログ製剤(内服薬)の2種類に大きく分けられます。

IFN療法

インターフェロンというのは風邪をひいたりしたときに体の中で作られる、抗ウイルス作用があるたんぱく質です。これを薬剤として作り上げたものが薬として使われています。慢性肝炎の状態にある患者さんが治療の対象になります。B型慢性肝炎に対するIFN療法は、HBe抗原陽性例に対して週3回のIFNの筋肉あるいは皮下注射を24週間、あるいはHBe抗原の有無にかかわらず、ペグインターフェロンα2a製剤の週1回48週間投与が保険適用となっています。IFN療法が奏効すればIFN投与を中止してからも、そのままHBVは増殖せず肝炎は鎮静化します。しかしIFNの効果が不十分でHBe抗原が陰性化しない症例、IFNを中止するとHBVが再度増えて肝炎が再燃する症例も多く、IFN療法の奏効率は30〜40%と言われています。

IFN療法の副作用は、開始当初にインフルエンザにかかったときのような38度を超える発熱・全身倦怠感・関節痛・筋肉痛が最もよく認められます。ただしこれらの副作用はIFNを継続して投与していくと徐々に落ち着き、数週後には多くの患者さんでは出現しなくなります。また白血球、血小板、まれに赤血球の低下が起こります。これはIFNが血球を作る骨髄の働きを抑えるためです。糖尿病の患者さん、また膠原病の患者さんは、症状が増悪することがあります。全員ではありませんが、時に間質性肺炎という特殊な肺炎になる患者さんもいます。間質性肺炎になると稀に命にかかわる場合がありますので、強固な空咳、胸痛などが出現した場合はすぐに胸部レントゲン写真を撮影し、間質性肺炎と診断されればIFNを中止して肺炎の治療が必要です。またIFN療法中に時にうつ病になる患者さんがいます。また眼底出血、脱毛、タンパク尿などが出現することがあります。

このように、強い副作用があること、また、次に記載する核酸アナログ製剤が奏功することから、IFNによる治療はあまり行われなくなっています。しかし、まれにみられる耐性株が出現すると核酸アナログは効かなくなってしまいます。

核酸アナログ製剤

核酸アナログというのは、DNAやRNAが作られるために必要な材料の核酸に構造が似ているけれども少しだけ違うもので、ウイルスのDNAの合成を阻害してウイルスを増えられなくします。従って直接ウイルスに作用してHBVの増殖を抑えて肝炎を鎮静化させることになります。薬に対する耐性ウイルスがいなければ、薬が効いている間はHBVのウイルス量は低下し、肝炎は起きなくなってきます。肝硬変で常時腹水がたまっている患者さんが、核酸アナログ製剤の長期投与で肝機能が改善し腹水が消失することもしばしばあります。しかしIFNと異なり、薬を中止すると多くの症例で肝炎は再燃します。一旦内服を開始してから患者さん自身の判断で核酸アナログ製剤を自己中止しますと、時に肝炎の急性増悪を起こし、 最悪の場合肝不全で死に至る場合があります。絶対に核酸アナログ製剤を自己中止してはいけません。

核酸アナログ製剤のもう一つの問題点は、薬剤耐性株(変異株)と呼ばれる核酸アナログ製剤が効かないHBVが出現することです。初期に保険適応となった核酸アナログ製剤では長期投与により3年間で半数近くの患者さんに薬剤耐性株が出現することが分かりました。なかには、耐性株出現により肝炎が重症化する症例もありました。しかし最新の核酸アナログ製剤は、薬剤耐性株の出現頻度が非常に低く、また以前の核酸アナログ製剤で耐性株が出現した場合にはもう1種類の核酸アナログ製剤を併用すれば耐性株を抑えることができることがわかり、比較的安全に核酸アナログ製剤が使用できるようになりました。ただし、日本や韓国からいずれの核酸アナログも効かない耐性ウイルスの出現が報告されており、このような症例に対する治療法の確立が求められています。

肝庇護療法

肝炎を抑える目的で肝庇護療法を行うことがあります。ウイルス量は減少しません。治療薬は内服薬のウルソデオキシコール酸と注射薬のグリチルリチン製剤が一般的です。これらの薬剤がどう肝細胞を保護するのかのメカニズムはわかっていませんが、いずれの薬剤も軽度の慢性の肝障害に対してはある程度有効で、ALTは低下しますが、B型肝炎特有の急激な肝障害の出現時(急性増悪)には肝庇護剤はあまり有効ではありません。

費用面では、IFN療法と核酸アナログ製剤治療のいずれも、医療費助成制度によって収入額により1万又は2万円の自己負担で治療を受けることができます。肝炎情報センターのホームページに情報があります。また、厚生労働省のホームページにも制度の照会があります。

詳しくは、お住まいの都道府県の担当窓口又はお近くの保健所にお問い合わせください。都道府県別の連絡先が厚生労働省ホームページに掲載してあります。

開発中の治療薬と今後の展望

現在治験が進行中であり、有望である可能性が高い治療薬であるアンチセンスオリゴヌクレオチドについて紹介します。アンチセンスオリゴヌクレオチドは一本鎖の短いDNAで、ウイルスのDNAに結合します。週1回、24週間皮下注射し、治療終了後24週時点で主要評価項目であるHBs抗原が検出限界以下かつHBV DNAが検出されない状態になった方は、核酸アナログによる治療を受けていた患者では9%、治療を受けていなかった患者では10%でした。治療前のHBs抗原の値が3000IU/ml以下の症例では、核酸アナログ投与例で達成率が16%、非投与例で25%とやや高くなっていました。このように主要評価項目の達成率はそれほど高くなかったのですが、HBs抗原の値が顕著に減少した症例は多く、他の治療との併用などが試みられています。ただし、この治療は皮下注射なので、患者さんは週1回の注射を24週間行わなければなりません。

このほかにもウイルスの核酸を覆っているカプシドの形成の阻害剤などが開発され、試験が行われています。しかし、これらの薬剤も単独で完治に至ることは難しく、他の薬剤との併用が試みられることになるでしょう。また、ウイルスに対する免疫反応を強化する薬剤の開発も試みられています。しかし、これらの治療はB型肝炎ウイルスに限った免疫を強化するわけではないので、他の治療法との併用が必要になると考えられます。さらに、ワクチンや抗体を使用した治療の開発も行われています。ワクチンは、そもそも体の中に存在するB型肝炎ウイルスの蛋白を改めて体外から投与するものなので、強力に抗体を誘導することは今のところで来ていません。HBs抗原に対するモノクローナル抗体は、投与中は有効ですが、投与終了後にウイルスが再増殖するため、これも他剤との併用が必要になることが予想されます。

ワクチンを除くこれらの治療では、B型肝炎ウイルスが体内に少しでも残っていると、治療終了後に再増殖してしまいます。この点を克服するための治療の基礎研究が行われています。

5. 予防(母子感染予防対策・ワクチン接種など)

現在、我が国で行われているHBVに対する感染予防は、1HBV持続感染している母親からの出産時感染予防対策によるHBV免疫グロブリンとワクチン接種の組あわせによる予防、2医療従事者など希望者に対するワクチン接種による予防、さらに2016年10月より30歳児全員に対するB型肝炎ワクチン(HBワクチン)による予防が行われています。

HBV母子感染予防対策事業

本邦では1986年に開始されました。HBV持続感染している母親から産道感染で新生児にHBVが感染するため、当初は出産時と生後2ヶ月にHBV免疫グロブリンを、生後2、3、5ヶ月でHBワクチン接種を行うことになっていましたが、2013年10月から早期接種方式(国際方式)へ変更されています。これは、出生後できるだけ早い時期(12時間以内が望ましいとされています)にHBV免疫グロブリン1 mLを筋肉内投与、HBワクチン0.25 mLを皮下注射し、さらに、HBワクチン0.25 mLを1か月後、6か月後に2回追加接種するスケジュールです。母親がHBe抗原陽性キャリアの場合、旧方式では生後2ヵ月目にもHBV免疫グロブリンを追加投与していましたが、新方式では省略可とされています。

医療従事者などに対するワクチン接種

(1)初回(2)初回投与1ヶ月後(3)初回投与6ヶ月後にHBワクチンを接種します。

B型肝炎感染リスクの高い人(HBVキャリアと同居する家族、医療従事者、警察官、消防士など)は、一度はHBワクチンを投与し、その後 HBs抗体の陽性化を確認することが大切です。詳しくは、別稿の「日常生活の場での感染伝搬予防」をご覧ください。

HBワクチンの定期接種化

我が国では、1986年から開始されていた従来からの母子感染予防対策事業によって新規のHBV母子感染をほとんど防げるようになりました。しかしながら、依然として、ピアスの穴開けやタトゥー(刺青)、性行為等による水平感染や、ワクチン接種を受けていない乳幼児の水平感染の事例が報告されています。また、ジェノタイプAのHBVは成人が感染してもある程度の割合で慢性化することがわかりました。そこで、2016年10月から、B型肝炎ワクチンが定期接種化されました。0歳児に限り、公費(無料)で接種を受けられ、生後2ヶ月から接種可能です。接種回数は3回で、1回目の接種から27日を過ぎてから2回目を接種、さらに1回目の接種から139日を経過した後(20〜24週後)に3回目の接種を行うことになっています。

なお、1歳の誕生日の前日までに3回接種ができなかった場合は、誕生日以降の接種は有料となるので注意が必要です。また母児感染予防として、出生時にB型肝炎ワクチンの接種を受けたことがある場合は、定期接種の対象となりません。

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