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た褐炭は安価と見込まれる。 他の化石燃料と同様に、褐炭を化学反応させて水素を回収する際、CO2が発生する課題もある。そこで、将来的なCO2の処理方法としては、アメリカやヨーロッパなどでは先行事例のあるCCSの採用が検討されている。CO2を地中深くに埋め戻すことで、大気中への排出をゼロにするというものだ。 このプロジェクトが注目を集めたもう一つの理由は、他国において化石燃料資源を脱炭素化する試みであるためだ。CCSを採用し、脱炭素化を図り、海外でCO2フリーな水素を作り日本に運ぶという、新しい資源流通の形を示した。「これまでは、自国で水素を作らない限り、水素社会は実現しないと思われていました。しかし、海外で脱炭素化を図りながら水素を作ることは可能であり、作った水素は世界中で活用することができることを証明できました。世界にインパクトを与えられたのでは、と思います」(玉村さん) 今回の豪州褐炭からの水素製造とサプライチェーンの実証という偉業には、豪州政府も両手を挙げて喜んでいるという。Jパワーで水素製造の〝次の 2022年2月、液化水素を乗せた運搬船「すいそふろんてぃあ」が神戸空港島の専用荷役基地に到着した。豪州にある石炭の一種「褐炭」から水素を作り、片道9000
キロ
メートル先の日本に運ぶという、世界で初めての試みが完結したのだ。 同年4月には試験の完遂を記念した式典が開催され、岸田文雄首相も会場を訪れてこの快挙を祝った。関係者やマスコミ陣が総勢100名以上詰めかけ、式典は終始熱気に包まれた。 いま、脱炭素社会の実現に向けて、水素が注目されている。水素は、石油や天然ガス、石炭などの化石燃料からの改質や水からの電気分解と、さまざまな資源や方法で作ることができる。日本でも、水素を使った燃料電池自動車(FCV)の製品化や、水素発電の実用化に向けた多様な取り組みが進められている。 しかし、水素は製造や供給面に課題が多いとされる。その克服に挑戦したのが、日豪政府や豪州ビクトリア州政府の支援を受け、Jパワーや川崎重工、岩谷産業など7社で構成する「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」が取り組んだ「日豪水素サプライチェーン実証プロジェクト」だ。Jパワーは、褐炭を用いた水素ガス製造設備の建設・運用の重責を担った。 この国際プロジェクトが熱視線を注がれるのには、大きく分けて二つのステップ〟を担う、火力エネルギー部・計画室の佐藤亮太さんはこう話す。「実証を行ったビクトリア州では、州内の火力発電所で褐炭が使われています。しかし、カーボンニュートラルを目的に、再生可能エネルギーの導入が推進され、今後、褐炭焚き火力発電所を止めることも検討されています」 それらの発電所では、州内の電力の6〜7割ほどを担っているという。発電所を停止したら、電力供給の問題だけでなく、そこで働く人たちの雇用にも影響を与える。「現在、Jパワーは豪州での水素製造の事業化検討を進めています。そのためにはCCSを前提とした化石燃料の脱炭素化事業に対する豪州内での社会受容性が鍵になると考えています。各ステークホルダーの理解を十分に得ながら事業検討を進めていきたいと考えており、これは、ビクトリア州の雇用創出にもつながると考えています」(佐藤さん) Jパワーは2030年度までにまずは年間約3万〜4万トンの水素製造を検討している。できあがったクリーン水素はエネルギー利用はもちろん、メタノールやアンモニア、肥料などといった製品の原料にもなり、クリーンな水素を求める産業及び地域経済の活性化にもつながる。「当社は、2050年にCO2排出実質ゼロを目指す『JーPOWER〝BLUEMISSION2050〟』を掲げています。2023年現在は、その過渡期だと捉えています。今後、過渡期においていかに『ゼロ』に近づけることができるか。Jパワーの技術力と知見を生かして取り組んでいきます」(玉村さん)「日本でも、既設の松島火力発電所の施設を活かしながらガス化設備等を付加し、CO2フリー水素発電を目指す『GENESIS松島計画』を進めています。日本での脱炭素化の取り組みと豪州を始めとした海外での取り組みの両輪で本ミッションの達成を目指します」(佐藤さん) 両氏は、CO2フリー水素に賭ける思いをこう結んだ。(取材=土橋水菜子)Jパワーについて詳しくはウェブサイ
トで ▶ https://www.jpower.co.jp/はこう語る。「Jパワーが培ってきたガス化技術を応用することで、品位の低い褐炭から水素を製造することに成功しました。この石炭ガス化の技術開発は、およそ20年前からスタートしています」 褐炭からの水素製造を可能としたJパワーの先端技術は、長年にわたる研究開発の蓄積の上に成り立ったものといえる。「EAGLE(多目的石炭ガス製造技術)プロジェクト」と名付けられた事業は2002年から石炭の多用途利用の研究を開始、2008年からは水素製造の研究開発に手を広げていたのだ。 石炭といっても、今回の舞台となったビクトリア州のラトローブバレーで採掘されるのは、地表を少し掘るだけで現れる褐炭だ。豪州全体を見ると、褐炭の埋蔵量は日本の総電力240年分を供給できるほどだという。大量に存在し、しかもあまり用途がなかっ電源開発(Jパワー)が推進しているCO2フリー水素の製造・供給プロジェクトが活発化している。豪州で未利用の褐炭をガス化して水素を製造し、日本に海上輸送する「日豪水素サプライチェーン実証プロジェクト」に中核企業の一社として参画、一連の実証試験が2021年度に完遂したのに続き、クリーン水素製造の事業化の検討に入った。日豪両政府も期待する世界初のプロジェクトに参画20年前から技術開発を推進石炭から水素を生み出す満を持して水素製造の事業化を検討年間約3万〜4万
トンを視野に豪州褐炭を活用した水素製造でカーボンニュートラルと水素社会の実現を加速電源開発(Jパワー)たんかっには、ほとんど木片のような状態のものもあり、品位の低い炭といえる。 これまで、多くの国で褐炭が使われてこなかったのはそのような木質粒子や水分、つまり不純物を多く含むことや、自然発火する危険性が高く、長距離の輸送が難しかったことなどがあげられる。 その褐炭から、Jパワーは水素を製造することに成功した。同社技術開発部・研究推進室でプロジェクト総括マネージャーを務めた玉村琢之さん瀝青炭
亜瀝青炭
石炭化度
(coal rank)
石炭の種類と褐炭の特徴
褐炭
炭素含有量
低 高理由がある。 一つは、CCS(二酸化炭素回収貯留)を前提とした上で、化石燃料である褐炭を使用したということ。通常の石炭火力発電は、瀝青炭もしくは亜瀝青炭と呼ばれる石炭を使うが、今回は褐炭を使用した。 一般的に、石炭は植物が堆積して地中に埋没し、長期間に渡る自然の作用によって、炭素分を豊富に含んだ岩石状の物質になるといわれている。瀝青炭は炭素の含有量が高いが、褐炭は低い。褐炭は化石になりかけている途中の「若い炭」なのだ。中
豪州ラ
トローブバレーの褐炭田。
辺り一面に褐炭が埋まっ
ている
(写真提供:AGL, J-POWER Latrobe Valley)
技術開発部研究推進室の玉村琢之総括マネー
ジャー
(右)
と火力エネルギー部計画室の佐藤亮
太さん
(左) (撮影=三澤威紀)
褐炭をガス化して水素を作ることに成功した
豪州ラトローブバレーの実証プラントれきたんせい

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