聞き手・志賀正利本社社長
電源の脱炭素化が急務となる中、
会社創立から 70 年の節目を迎えた。
電力安定供給という変わらぬ使命を果たしながら脱炭素を進め、
水素社会のけん引役として
世界で存在感を示す企業として成長し続けようとしている。Jパワー社長渡部肇史
電力安定供給に寄与し
国内外で脱炭素に挑戦
水素社会をリー
ドするわたなべ・としふみ
1977年Jパワー
(電源開発)
入社。
2002年企画部長、
06年取締役、09年常務、
13年副社長などを経て16
年6月から現職。
73 エネルギーフォーラム November 2022 成するか鋭意、検討しているところです。国内外でCCS実証 年国内実装目指す志賀 CCUS(CO2の回収・貯留・利用)の実装にも積極的に取り組んでいますね。渡部 IEA(国際エネルギー機関)のレポートを読んでいても、CCUSの重要性が非常に強調されています。CCSを実現するためには貯留地が必要です。そのため当社は、国内ではエネオスホールディングスと共同でCCSの事業化調査に着手し、30年に向け国内で初めてとなる本格的なCCS実装化を目指しています。また、海外においてもオーストラリアの褐炭からCO2フリー水素を製造し、日本に輸送するプロジェクトに参加するとともに、グレンコア社のオーストラリア初の石炭火力発電所由来のCO2の回収・輸送・貯留を一貫して行う実証事業に参画することを決めました。自主判断だけでは立ち行かなくなってきています。設備の保守に緊張感 冬の需給に万全を期す志賀 夏に引き続き、冬の電力需給も非常に厳しい見通しです。渡部 時代とともに電力需給の構造が変化する中、夏・冬いずれの需要ピークにも対応しなければなりません。当社としても、冬季の需給ひっ迫が予想される中、発電所のパトロールの頻度を増やす、部品の在庫を厚く持つ、緊急時のメーカーなどとの連絡体制をこれまで以上に密にするなど、保守・メンテナンスの現場では緊張感を持って対応しています。ここぞという時に当社の電源が安定供給に貢献できるよう、万全を期していきます。志賀 21年2月に策定したカーボンニュートラルと水素社会実現に向けた取り組み「J—POWER〝BLUE MISSION205 0〟」において、30年CO2排出渡部 中期目標として、30年までに当社のCO2排出量を40%削減 (17〜19年度3カ年実績平均値、約 1900万t)することを目指しています。さらに、より短期的な目標として、まずは25年度に排出量を700万t減らすことも掲げています。それを具体的にどう達渡部 今のところは、国内の発電事業の収支については、一定期間で石炭価格上昇の影響を調整する仕組みはありますが、とはいえ、決算収支への影響を注視していかなければなりません。石炭のマーケットの高騰が早期に収まること志賀 ウクライナ情勢の膠着状態が続いています。燃料調達面にどのような影響が出ていますか。渡部 2021年度の実績ベースですが、当社の火力発電所で使用する石炭の約8%をロシア産が占めています。石炭は性状が一様ではなく、発電所のボイラーによって相性が異なります。政府が経済制裁措置としてロシアからの石炭の原則禁輸を打ち出したことを受けて、今後はオーストラリアやインドネシアを中心とする産地の相性の良い性状の石炭に切り替えていかなければなりません。志賀 オーストラリア炭を巡っては、欧州各国が既に争奪戦を繰り広げているようです。渡部 引き合いの増加に合わせて増産されることが理想です。当社もオーストラリアの石炭会社と交渉をしているところですが、今のところ同国からの石炭調達に大きな影響は出ていません。志賀 一般炭の価格が高騰していますが、収支にどのように影響しているでしょうか。としていることは非常に象徴的な取り組みだと考えます。他の発電所でも今後、水素やアンモニア、バイオマスとの混焼などを進め環境負荷低減を目指していきます。志賀 非効率石炭火力のフェードアウトの計画はどのように進める方針ですか。炭を利用して発電を開始した最初の発電所ですね。ここで最先端の技術を適用する意義とは。渡部 松島火力は運転開始から40年が経過し、政策的には非効率石炭火力としてフェードアウトの対象です。それを最先端のトランジション技術で生まれ変わらせよう量40%削減(17〜19年度3カ年実績平均値、約1900万t)、50年実質ゼロという高い目標を掲げています。進捗はいかがですか。渡部 当社は発電事業を手掛けており、中でも火力比率が高い。供給力の一翼を担っており、即座に発電を止めるというわけにはいきませんから、そうした中でカーボンニュートラルを目指すことは容易ではないと考えています。電力供給を続けながら、つまり発電事業者としての責任を果たしながら、CO2排出量を削減し最終的に50年のカーボンニュートラルにつなげなければなりません。そういう意味で、トランジションの期間をどのように有益に活用していくかが大事なポイントであり、そのためには新たな技術開発が非常に重要です。 当社は、大崎クールジェンプロジェクトを通じて石炭ガス化技術を実証しています。今後は既設の松島火力2号機にガス化設備を追設するという商用実装を計画しています。現在は建設工事に向けて環境影響評価手続きを実施中です。当計画が実現すれば、発電所全体の効率を上げ石炭消費量を抑制しつつ、ガス化の過程でのCO2回収に向けた準備にもなり、電力の安定供給を維持しながら環境負荷を低減することができます。志賀 松島火力は日本国内で海外
ガス化設備の追設を計画する松島火力発電所力自由化の流れがある一方で、原子力のみならず石炭やガス火力、再生可能エネルギーなどほぼ全ての電源が政策の影響を強く受けるようになってきていると感じます。そのため、どの電源を選択するかという課題一つとっても、企業のを期待しています。志賀 岸田政権が物価対策として電気料金を抑制する政策を打ち出せば、電力産業をはじめインフラを担う企業は体力を損なわれかねません。渡部 大変難しい問題です。電力に限らず生活や経済に影響力がある事業は、政策の動向をうかがいながら事業を運営していかなければならないタイミングなのでしょう。電力産業においては、電30
75 エネルギーフォーラム November 2022 November 2022 エネルギーフォーラム 74 に、さまざまなことに取り組んで、それを周囲に受け入れていただいて、今日に至っているのは間違いありません。私が入社したのは1977年。オイルショックの直後でした。入社当時、当社保有の発電設備出力は約700万kWでしたが、松島火力をはじめ海外炭による石炭火力発電所や大規模な揚水発電所が立ち上がり、現在は国内外あわせて約2660万kWまで拡大しました。時代ごとに、社会が求めるものを事業として実現しながら、首尾一貫、発電・卸事業を愚直に手掛けながら今に至ります。これは会社が持つアイデンティティであり、このスタイルはこれからも変わらないのではないでしょうか。社会のニーズを実現 世界が認知する会社へ志賀 時代の流れを読み、そのために技術や人をどう生かしていくかを経営判断する、この連続だったわけですね。見を生かして現在は国内の洋上風力プロジェクトに携わっています。国内初の1万kW級大型風車を採用した大規模洋上風力案件として、九電みらいエナジーなどと共同出資する「北九州響灘洋上ウインドファーム」は25年度の運転開始を見込んでいます。再エネ海域利用法に基づく洋上風力公募制度についても、今後も公募されるプロジェクトの獲得を目指していきます。大間原子力を早期に 審査に迅速に対応志賀 大間原子力の運転開始見通しについてはいかがでしょうか。渡部 9月9日に大間町や青森県など地元自治体に対し、安全強化対策工事の開始時期を今年後半から24年後半に、終了時期を27年後半から29年後半にそれぞれ延期することをお伝えしました。これは、安全強化対策工事の大前提となる原子力規制委員会の新規制基準適合性審査が長期化しているためですが、昨年から今年にかけて地盤・ケットによって大きく変動するものです。当社としては、ポートフォリオマネジメントによる収益性向上に取り組むと同時に、コンスタントに利益が出る発電事業にも注力したいと考えます。志賀 再エネへの取り組み状況については。渡部 国内の陸上風力のリプレースに加え、海外の洋上風力や太陽光のプロジェクトに積極的に参加しています。国内外での再エネ事業志賀 新組織として設置した「水素・CCS特命ライン」が担う役割は大きいですね。渡部 CO2フリー水素の製造・供給、発電利用やCCS事業を迅速かつ効率的に進めるためには、火力部門のほか、再エネ、立地、環境、技術開発など、多くの部門が連携して技術開発から事業化に至るまでを組織横断的に取り組む必要があります。このため、昨年10月に水素・CCS特命ラインを立ち上げ、各部からこれに係わる社員を指名し部の壁を越えて取り組んでいます。志賀 国内発電事業と海外事業を経営の2本柱としていますが、海外事業は収益面でどの程度貢献していますか。渡部 海外事業は、多い時では当社の連結利益の4割を占めるまでに成長しています。今年度に入ってからも、当社が参画する事業として、イギリスのトライトン・ノール洋上風力発電所やアメリカのジャクソン火力発電所、インドネシアのバタン発電所(火力)が相次いで運転を開始しています。一方で、電力周辺関連事業として、オーストラリアにおいて三つの炭鉱の権益を保有しています。昨今の石炭価格の高騰でこれらの炭鉱会社の収益が伸びており、現在は当社の連結利益に貢献しています。これらは石炭の安定調達のためにも大事な権益であることは間違いない一方で、こうした利益はマー渡部 入社直後に企画部に配属されましたが、大規模水力のプロジェクトが終わり、国内炭ももはやないという中で、何の事業を柱にしていくのか必死になって探していたことが印象に残っています。その一環で、石炭火力の新規地点の発掘や、燃料分野ではオーストラリアと交渉して発電用石炭のサプライチェーンを構築したわけです。70周年を迎えましたが民営化してからは18年です。これまで築いた事業資産や人財を基盤にしながら、20歳の青年期を迎えるような若い気持ちで事業に取り組んでいければと思います。志賀 脱炭素を会社の発展につなげることは容易ではありません。渡部 そういう意味で、先ほども言いました通りトランジション期が非常に大事なのです。水素社会を目指すとはいえ、50年に産業としてどう成り立っているのか未知数ですから、水素関連技術をわが物としつつ、同時に、当社がさらに発展するためにはどうすれば良いか冷静に考えていかなければなりません。 日々取り組むべきことを積み上げてこの70周年を迎えることができました。しかしこれは通過点に過ぎないのです。71年目を粛々とスタートし、社会のニーズを取り込み実現しながら、世界に認知されるような会社にしていきたいですね。志賀 70周年という節目に新たな方向性を提起していただくことに期待しています。脱炭素社会に向けて世界中がかじを切り替える最中に創
立70周年を迎えた。1973年のオイルショックでの脱石
油政策の象徴としてわが国初の海外炭火力が長崎県に松島
火力発電所として誕生した。それから40年、同発電所は
石炭ガス化技術を実装した次世代プラントへと生まれ変わ
り、脱炭素化に取り組む。供給責任を果たしながら2050
年のカーボンニュートラルにつなげるという難事業のシン
ボルだ。組織運営も柔軟に
「水素・CCS特命ライン」
を設
け全社に号令をかけた。決断力と行動力を備えている。
22年4月に運転開始したトライトン・ノール洋上風力発電所
(イギリス)地質の審査は着実に進捗しています。原子力規制委員会からは審査の頻度を上げると言われておりますので、当社としてもこれに迅速に対応し早期に運転開始できるよう、引き続き最大限努力していきます。志賀 9月16日に会社創立70周年を迎えました。その歴史を振り返ってみると、戦後の電力不足の中、大規模水力の開発によって日本の電力安定供給を支えるという役割から始まり、脱石油政策が進められた1973年のオイルショック後は、海外炭火力発電所の開発というプロジェクトに取り組んできました。ところが今、環境負荷が高いという理由で石炭火力への風当たりは非常に厳しくなり、会社の存在意義を改めて問われる局面に立たされているといっても過言ではないでしょう。そうした状況下においても、石炭を活用し続けながら脱炭素社会を目指すという方針を掲げられることに、発電事業者としての矜持を感じます。渡部 当社は創立以降、70年の間全体で、25年度までに17年度比で150万kW以上の新規開発を目標にしています。洋上風力では、今年運転開始したイギリスのトライトン・ノール洋上風力発電事業には18年より参画し、建設工事の初期段階から土木と電気の技術者を派遣してきました。 事業のマネジメントを実際に経験した技術者らが帰国し、その知77 エネルギーフォーラム November 2022 November 2022 エネルギーフォーラム 76

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