バイオ燃料って何? SAFをはじめとするエネルギー資源の基礎を解説!
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近年、使用済みの食用油などを原料に作られる航空燃料「SAF」が注目を集めています。SAFはバイオ燃料の一種で、化石燃料由来のジェット燃料と同様に利用できる一方で、二酸化炭素(CO2)の排出がトータルでゼロになる点で大きな注目を集めています。本記事ではSAFをはじめとするバイオ燃料の基礎知識とともに、普及に向けた課題などを解説します。
バイオ燃料とは、廃食油や古紙、木材をはじめとする「生物起源の原料=バイオマス」から作られる燃料のことです。これまでは地下に貯留する化石燃料を取り出し、精製してガソリンや軽油、ジェット燃料を製造していましたが、身近にある廃食油などを原料に、これらの燃料と同等の用途で使える燃料を製造できることが大きな特徴です。
バイオ燃料の代表的な原料として、トウモロコシやサトウキビなどの食用作物や、ひまわり油や菜種油などの油脂作物が挙げられます。それに加え、昨今では麦や稲わら、枝、葉っぱなどの農業・林業で出る廃棄物や、古紙などの都市ごみの繊維質、家畜の糞尿、使い終わった食用油や獣脂などの活用が進んでいます。
バイオ燃料の原料図
バイオ燃料は、原料に応じて「第1世代」と「第2世代」の大きく二つに分けられます。第1世代のバイオ燃料は、主に食用作物や油脂植物から作られる燃料です。一方、第2世代は非食用の植物や農業・林業廃棄物、都市ごみの繊維質など、食料ではない資源を原料とするものが該当します。
バイオ燃料の主な種類と、その用途は以下の通りです。
| 代表的な燃料 |
原料 |
用途 |
| バイオエタノール |
トウモロコシ・サトウキビ、農業・林業廃棄物など |
自動車用燃料として、ガソリンに混ぜて利用 |
| バイオディーゼル |
油脂作物(注)、廃食油・獣脂など |
トラックやバスの燃料として、軽油に混ぜて利用 |
| 再生可能ディーゼル(HVO) |
トラックやバスの燃料として、軽油の代わりに利用 |
| SAF(持続可能な航空燃料) |
航空燃料として利用 |
| バイオメタン |
家畜の糞尿や生ごみ |
天然ガスとほぼ同じ性質で、発電や暖房に利用 |
(注)大豆油、ひまわり油、菜種油、パーム油など
最近は再生可能ディーゼル・SAFをバイオエタノールから製造する技術の商業生産も始まっている
バイオ燃料は、世界各国で開発や導入が拡大しつつあります。各国が注目している理由には、以下が挙げられます。
一般的に、バイオ燃料は化石燃料と入れ替えることでCO2の排出削減に寄与しやすいと考えられています。原料となるバイオマスは、植物など光合成によって大気中のCO2を吸収して成長するものです。こうして育った植物を燃料にすると、燃焼時にCO2を排出しますが、その分は成長過程で吸収されたCO2とほぼ釣り合います。この“吸収と排出のサイクル”が繰り返されるため、大気中のCO2を増やしにくい燃料とされています。
バイオ燃料は、既存の設備やインフラ、流通経路をそのまま利用できることが大きな特徴です。カーボンニュートラル実現に向けて、各分野で電力化や水素の活用が進んでいますが、飛行機・船・大型トラックなどは、電力や水素に対応した設備の開発や既存インフラの入れ替えに時間を要するのが現状です。そのため、既存の燃料と同じ設備やインフラで利用できるバイオ燃料は、すぐに導入できる現実的な選択肢として注目を集めているのです。
将来的にはこれらの分野でも水素などの新たなエネルギーシステムへの移行が望まれていますが、その移行が完了するまでの間、バイオ燃料はCO2排出量削減に貢献する「懸け橋」としての役割が期待されています。
バイオ燃料は自国の農産物や廃棄物を使って生産できるため、エネルギー安全保障の観点から大きな強みを持つエネルギー資源です。そのため、日本のように、エネルギー資源を他国からの輸入に依存し、海外の情勢次第で供給が不安定になったり、価格が急騰したりするリスクを抱えている国にとっては、自国で生産可能なエネルギー資源として期待されています。実際に、インドやブラジル、インドネシアなどは、こうした理由からバイオ燃料を積極的に推進しています。
農作物や農業関連の廃棄物をバイオ燃料の原料として活用することは、農村の収入源や雇用創出につながります。アメリカやブラジルでは、バイオ燃料が農業政策の一環としても位置付けられています。
CO2の排出量削減が喫緊の課題となる中で、各国の政策やICAO(国際民間航空機関)などの国際機関において、バイオ燃料の普及に向けた取り組みが進められています。しかし、バイオ燃料を広く普及させていくには、課題も少なくありません。
バイオ燃料の課題の一つに、原料の安定供給の難しさが挙げられます。第1世代のバイオ燃料では、トウモロコシや大豆などの農作物が原料として使われますが、天候や病害虫の影響を受けやすく、収穫量や価格が年ごとに大きく変動するリスクがあります。
さらに、農作物に関しては「食料や飼料との競合」という問題も挙げられます。農作物を燃料に使うと、食用や家畜の飼料として利用できる量が減るため、食品や飼料の価格に影響する可能性があるのです。
一方、廃食油や農林業廃棄物などを原料にする第2世代のバイオ燃料の場合は、「食料や飼料との競合」を回避できる大きな利点があります。ただし、原料を安定的に調達するためのサプライチェーンの構築が課題となっています。
バイオ燃料の需要増加に伴い、森林や草地が農地に変わることで、元々の土地にあった植物が吸収していたCO2が失われたり、土壌中に隔離されていたメタンが放出され、結果的に大気中の温暖化ガスが増加してしまうことも懸念されている。
第2世代を中心に、バイオ燃料は化石燃料よりも価格が高い傾向にあります。特に航空燃料用のSAFは、最も安価な方法で製造されたものでも、通常のジェット燃料の3倍近い価格で取引されています。SAFの製造には高度な技術と設備が必要であるため、コストが高くなってしまうことが要因です。
バイオ燃料は、「今ある社会インフラを活かしつつ、より持続可能な社会に移行するための懸け橋」として大きな役割を果たすことが期待されている燃料です。エネルギー安全保障や農業政策の観点からも期待される一方で、原料供給やコストの課題も抱えています。
だからこそ、バイオ燃料の市場拡大には世界各国の政策や方針が密接に関わっています。日本はもちろん、世界各国のバイオ燃料に関わる動向をぜひチェックしてみてください。
記事掲載日:2025年11月11日