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資料シリーズ No.199
雇用システムの生成と変貌―政策との関連―

平成30年3月22日

概要

研究の目的

日本の雇用システムに関して、法政策との相互作用にも着目しつつ、その構造と発展について歴史的な考察を行うことを目的としている。本資料では、戦前からバブル崩壊までの時期を、1戦前期、2戦後復興期、3高度成長期、4安定成長期からバブル期までの大きく4つに句切り、それぞれの期間において、当時の経済・社会状況とともに、我が国で講じられてきた政策について労働分野を中心に整理したものである。

研究の方法

文献調査

主な事実発見

本報告では、戦前から戦後のバブル期に至る雇用システムと関連政策に関する発展の歴史をたどることにより、次のような点について認識を深めた。

(長期にわたる歴史的文脈のなかでの持続的発展)

第一に、わが国の大企業の雇用システムは、長い歴史的発展のなかで、それぞれの時代に応じた影響を受けながら、持続的に生成・発展・変容してきたことである。

すなわち、雇用システムの発展は、まず、明治期やそれ以前の江戸期から発展してきた社会的土壌や労働市場の特質を基盤とし、1第一次大戦後に大企業における雇用システムの原型が出現し、2戦時の皇国勤労体制下では、職・工一体の企業体の理念に基づく定期昇給・生活賃金の全面適用、労使懇談の産業報国会等の強制がなされ、その後の雇用システムのあり方に強い影響を与えた。

戦後は、3新憲法とGHQによる民主化と企業別労働組合の叢生と労使の激しい闘争を経て、1950年代に、定期昇給・昇進などの年功的処遇、退職金、福利厚生制度等が普及・定着し、4高度成長前期に、長期雇用と「雇用の維持」最優先の労使の姿勢の確立、技術革新等に対応した賃金・処遇面における職・工の区分の撤廃と一体的な従業員制度の形成をみた。さらに、高度成長後期に、5学卒一括採用方式の形成、職能等級制度と職能給の導入・定着、配置転換やOJTなどの能力開発手法の確立、労使コミュニケーションの活発化、企業中心主義と組織の一体化などが進み、1960年代後半から1970年代にかけて「日本的雇用システム」が確立するに至った。

その後、1970年代の石油危機を乗り切ると、我が国企業の雇用システムは、政策と判例法理による支持やOECDなどの国際的な称賛を得て、社会を支える確固たる基盤として確立した。1980年代には、プラザ合意を契機とする円高不況も乗り切り、産業構造の変動、労働力の高齢化、女性進出、非正規労働の急増など構造的問題を抱えながら、バブル崩壊前まで表面的には絶頂期が続いた。

(政策・関連分野との相互作用)

第二に、雇用システムは、労働政策をはじめとして、経営、教育などの関連分野・政策との相互の影響のもとに発展してきた。

労働関係では、戦前における企業外の政治的な組合活動の弾圧と企業内の融和策による雇用関係の内部化、戦時期の皇国勤労体制のもとでの職・工一体の理念、定期昇給制度の全面的適用と生活賃金の導入、産業報国会制度の導入が強制された経験などが、戦後の雇用・労使関係システムにも大きな影響を及ぼした。戦後の憲法制定と民主化により、我が国は、近代的な国家に相応しい法制の整備によって、完全雇用政策、対等な労使関係、最低賃金制度、社会保障制度、新制教育制度を柱とする社会労働の仕組みを構築したが、その内容は、我が国の雇用システムの強い影響を受け、西欧諸国と異なるわが国独自の性格を持った。特に、石油危機以後は、企業の雇用・能力開発の支援策など企業の雇用システムの活用と高齢化や女性の進出等に伴う変革が政策の中核を占めた。

また、我が国企業の雇用システムは、学卒一括採用制度など選抜的な性格の強い教育制度との強い結びつきや、株式持ち合い・間接金融・メインバンク制度などによる株主の直接的圧力から比較的自由な環境のもとで発展してきており、これらのシステムとの相互依存関係による安定性・持続性が強い。雇用システムの発展は、これらを含めた関連構造の発展・変容の歴史でもあった。

(社会のあり方との関連)

第三に、雇用システムの発展と変容は、社会のあり方を大きく変えた。戦後の復興期から高度成長期にかけて、農業社会から工業を中核とする産業社会へと発展するに伴い、人口の農村から都市への移動、高校進学率の上昇、人口の少産少死化が始まった。さらに、高度成長期に就業者全体のなかで雇用形態が支配的になると、良好な雇用機会獲得をめざした大学進学率の上昇と受験競争の激化、所得水準の上昇と格差の縮小、中流意識と消費社会の出現、出生率の低下と核家族化の進行、農業や生業的な生活スタイルの衰退、都市への人口集中と地域の衰退などが目立つようになった。石油危機後の安定成長の時代に入ると、豊かな消費社会と産業のサービス化・国際化の進展、雇用者の高齢化・ホワイトカラー化、女性の職場進出が顕著となる一方、家族の縮小や少子高齢化に伴う介護や育児の問題が顕在化した。

わが国は、戦後の雇用社会の発展に伴い、GNP大国など豊かな社会を築いたが、他方、歴史的に企業横断的な組織や中間的な組織の発達が十分でないうえに、農業・自営業の衰退により、圧倒的な企業社会となった。国民の生活は企業を中心とし、国や公共団体の施策も企業活動を中心に展開する構造となるなかで、バブル崩壊が企業社会を直撃することとなった。

政策的インプリケーション・政策への貢献

今後の労働政策立案の基礎資料となることが期待される。

本文

研究の区分

研究期間

平成26年度〜29年度

担当者

草野 隆彦
労働政策研究・研修機構 客員研究員

関連の研究成果

入手方法等

入手方法

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