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労働政策研究報告書 No.198
職業相談・紹介業務の逐語記録を活用した研修プログラムの研究開発─問題解決アプローチの視点から─

平成29年10月31日

概要

研究の目的

キャリア支援部門では、第I期から第III期にかけてのプロジェクト研究において、ハローワークの職業相談・紹介におけるコミュニケーションを、より効果的かつ効率的に進めるための研修プログラムの開発を進めてきた(図表1参照)。その中心となる考え方は、職員が自らの職業相談・紹介プロセスの意識化することにより、求職者との言葉のやりとりにおいて自身の応答をどのように変えれば良くなるかを検討できるようになり、その実践を通して、相談業務が改善できるというものであった。この仮説を検証するため、労働大学校との連携のもと、後述する研修研究を進めた。

本報告書では、この 14 年間に亘る研修研究の経緯を整理し、その中心となる研修プログラムである「事例研究」の有用性を検証した。研修に参加した職員を対象としたアンケート調査の結果、事例研究の研修効果が確認された。また、事例研究のプロセスを通して、職業相談・紹介プロセスの意識化が自身の相談の問題点に気づきを促す可能性が支持された。

研究の方法

研修研究とは、労働大学校における労働行政機関の担当者を対象とした研修において、研究員による研究成果を研修に反映させ、研修内容の充実を図り、その結果をさらに研究に活用していく当機構の事業である。研修研究の方法論としてアクションリサーチを採用した。アクションリサーチとは、「実践的問題と基礎的研究との結合によって、両者の循環的刺激で学問の進歩と社会改善とが相互扶助的に進むことをめざす学問の方向」と定義される。研修研究では、その実践的問題と基礎的研究をつなぐ要として「研修」を位置づける。

主な事実発見

1.研究の経緯

本研究に関わる公表された論文と報告書を図表1に示す。この図では、上段に第I〜IV期までのプロジェクト研究のテーマ名と期間が、下段には、これらの期間と対応して、公表された論文と報告書がそれぞれ掲載されている。

図表1 公表されている論文・報告書を中心に整理した研修研究

[画像:図表1画像]
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1事例研究の開発(第I期〜第II期)

職員が自身の担当した職業相談・紹介における求職者との間の言葉のやりとりを中心に文字に起こした逐語(ちくご)記録(きろく)を活用して、そのプロセスを意識化し、求職者の発言に対する自身の応答の改善点を検討する研修プログラムとして「事例研究」を開発した。事例研究の開発当初の段階では、職業相談・紹介モデルとして、求職者のキャリアをストーリーと見立て、職員がそのストーリーづくりを支援するキャリア・ストーリー・アプローチを採用した(以下「旧事例研究」という。)。

2事例研究の改訂(第III期)

それまで採用していたキャリア・ストーリー・アプローチから、求職者が就職する上で抱えている問題の解決を支援する問題解決アプローチに変更し、同アプローチの観点を取り入れた研修プログラム(以下「新事例研究」という。)の開発に取り組んだ。

2.新旧の事例研究の効果

事例研究は2005年度から労働大学校において、職員の高度な職業指導技術の習得を目的とする研修コースのカリキュラムの一つとして組み込まれてきた。研修プログラムの総時間数は7 時間40 分である。2日間に亘って実施され、1日目と2日目の間には1〜2 週間程度の間隔が置かれる。

新事例研究の効果の検証および旧事例研究との効果を比較するため、1日目と2日目の事例研究の終了後、研修生である職員を対象にアンケート調査を実施した(調査対象者:新事例研究(57人)、旧事例研究(48人))。アンケート調査では、新旧の事例研究の研修プログラムの効果として、1日目と2日目ともに「研修への満足感」と「有用な情報・ノウハウの取得」について、「とてもあてはまる」から「まったくあてはまらない」までの7段階で評価を求めた。その他、学習の効果として、新事例研究では1日目に「問題把握の理解」を、そして2日目に「方策・対処の理解」を、旧事例研究では両日ともに「逐語記録検討の理解」を、それぞれ7段階で評価を求めた。

新旧の事例研究の効果を確認するため、「ややあてはまる」から「とてもあてはまる」までを合計した肯定的評価の割合を見ると、1日目は新旧の事例研究ともに、いずれの質問項目も9割以上を占めた。2日目は新事例研究と旧事例研究で若干の違いが見られ、新事例研究は9割台半ばであり、旧事例研究は9割前後とやや低かった。

これらの結果から職員は総じて、新旧の事例研究ともに満足し、問題解決アプローチや逐語記録の検討について知識面で理解を深め、職業相談・紹介業務に有用な情報・ノウハウを得ることができたと言えよう。

3.新事例研究の肯定的評価の内訳

新事例研究の肯定的評価の内訳を見ると(図表2、3参照)、「とてもあてはまる」の割合が、「研修への満足感」(1日目:19.3%、2日目:22.8%)や「有用な情報・ノウハウの取得」(1日目:14.0%、2日目:24.6%)で1割台半ばから2割台半ばであるのと比較して、1日目の「問題把握の理解」(7.0%)と2日目の「方策・対処の理解」(12.3%)で1割前後と低く、問題解決アプローチの理解に課題のあることが指摘できる。

図表2 新事例研究の効果(1日目)

[画像:図表2画像]

図表3 新事例研究の効果(2日目)

[画像:図表3画像]

4.新旧の事例研究の比較

新旧事例研究の評価について、「まったくあてはまらない」から「とてもあてはまる」までに1点から7点を付与し、評価得点を算出し、その差異を統計的に検定した。その結果、新旧の事例研究の間で、1日目の研修効果に有意差は認められなかった(いずれもp>.05)。しかし、2日目になると有意差が認められ、新事例研究の方で旧事例研究よりも「研修への満足感」(p<.01)と「有用な情報・ノウハウの取得」(p<.05)に対する評価が高くなった。新旧の事例研究で研修プログラムの内容を比較すると、その構成は変わらない。両者の違いは、それぞれが採用している職業相談・紹介モデルにあり、端的には、職業相談プロセスの改善点を検討する際、その材料として提供される職業相談・紹介TIPs1) に現れる。新事例研究の研修の効果、特にその実用性が高く評価された背景には、職業相談・紹介モデルとして、求職者に具体的な求人を紹介するあっせんサービスにつながるキャリア・ストーリー・アプローチから、求職者が就職する上で解決すべき課題を把握し、その解決のために必要な支援を行う課題解決支援サービスにつながる問題解決アプローチに転換したことが考えられる。

5.職業相談・紹介プロセスの意識化

新事例研究と旧事例研究ともに、事前課題である逐語記録で作成した職業相談・紹介の「相談直後」に、スケーリングでその相談の評価を求めた。また両事例研究の2日目のメニューである応答分析では、職員がキャリトーク2) を使い、自身の応答を中心に職業相談・紹介での求職者とのやりとりを細かく分析し、その直後である「応答分析後」にスケーリングでの相談の評価を求めた。スケーリングは、一番良い時の職業相談・紹介を10点とし、最悪の時のそれを1点とする10段階の評価である。

統計的検定の結果、新旧の事例研究ともに、職員は両時点の間でスケーリングの得点に有意差が認められた(いずれもp<.01)。スケーリングの得点の平均値は、「相談直後」よりも「応答分析後」の方で、新事例研究で1.01ポイント、旧事例研究で0.78ポイント下がった。両時点の間、職員が自身の担当した職業相談・紹介を詳細に検討する機会はないと考えられ、事例研究におけるキャリトークを活用した逐語記録の分析、つまり応答分析により自身の職業相談・紹介プロセスの意識化が進み、自身の問題点に気づいて評価が下がったことが考えられる。

  1. ^TIPsとは、「チップ、心付け、助言」などを意味する「tip」の複数形である。ここでは、「ちょっとした表現上の心がけや言葉遣いの工夫」を指してTIPsと呼ぶ。
  2. ^キャリトークとは、キャリアコンサルティングの逐語記録を活用し、その特徴と対話のプロセスの解析により、キャリアコンサルタントの専門性の向上ならびにキャリアコンサルティングの改善をサポートするソフトウェアである。

政策への貢献

事例研究は、2016年度12月現在の時点で、これまで26回実施され、参加した職員の総数は1,048人になる。研修プログラムの効果について毎回、アンケート調査を実施し、その効果を把握している。職員のほとんどが研修プログラムに満足し、逐語記録を活用して職業相談を検討するメリットを実感し、職業相談に役立つ情報やノウハウを取得できたと回答しており、逐語記録を活用した研修プログラムの効果が確認されている。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」
サブテーマ「就職・採用実現のためのマッチングとコンサルティングに関する調査研究」

研究期間

平成24年度〜28年度

研究担当者

榧野 潤(執筆)
労働政策研究・研修機構 副統括研究員
上市 貞満
労働政策研究・研修機構 統括研究員

関連の研究成果

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