医療保険制度の改革始まる
タイでは国民全員が加入する健康保険制度が存在していない。低所得者層は2001年4月から開始された30B(30バーツ)医療保険制度に、公務員や労働者はそれぞれの医療保健制度に加入している。そのため政府は、全国民を対象とした国民健康保険の導入に着手し始めた。
国民健康保険法案、2003年の半ばまでに成立を期待
今回の法案は、これら3つの制度を統合し、国民全員を対象とした医療保険制度を確立するのが狙い。
この制度の法的根拠となる国民健康法案の基本骨子は、「基本的な医療サービスへのアクセス機会の平等と健康促進、病気予防」となっている。この法案は、公衆衛生の改善や健康政策は保健省の所轄とすることや、公衆衛生制度発展のための政策立案と問題解決を話し合う「国家健康委員会」と事務局を省内に設置することが盛り込まれている。
この法案は7〜8月に議会で審議されていたが、8月上旬に棄却され、現在は改正案が検討されている。同法は早ければ2003年の半ば頃に成立が期待されており、成立すればタイ国民の健康に関わる初めての基本法となる。
国民健康保険に関する聴講会はすでに終了
国民健康保険法の法案成立に先立ち、政府は2002年8月8日に3000人以上の参加者を募った聴講会を行い、そこでの議論を法案に反映させる予定。すでに政府は、同様の聴講会を2000年から10数回開催しており、のべ50万人がこの会に参加したと報じられている。
また、医療に直接従事する医師に対しても、5000人を対象にアンケート調査を行い、現在回収・分析中とのことである。
健康保険制度実施にあたっての問題点
いままで本誌でも何度か取り上げてきたように、まず30B医療制度の様々な問題点がある。それらが解決しないまま、果たしてほかの制度との統合を行うことができるのかという問題がある。
チュアン元首相は、「国民全員に基本的な医療サービスを提供するという健康保険制度(以下、(1)健保制度)の理念は理解できるが、これまでの30B医療制度での批判を聞く限りにおいて、30B医療制度を全国民に適用するという形での(1)制度の実施は困難であるし、賛成できない。最も懸念される要因は財源の不足である。制度の実施にあたっては、医師へのアンケートや聴講会での意見を反映させた制度にしていくことが重要である」と述べている。
一方、ILOバンコク支局のバーンズ専門官は、(1)制度の導入を評価している。(1)制度をすでに導入した他の国々では、制度が軌道に乗るまで数年を要しているため、タイにおいても長期的な視点で制度の導入を検討する必要があるとの意見であった。同様にWHOの医療経済学者であるカリン氏も、中所得クラスのタイが医療保険制度の導入に成功する確立は高いと述べている。
タイ開発研究機構(TDRI)のウィロート研究員は、今回の(1)制度によって、300-400億バーツの財政支出が見込まれており、タイの(1)制度を抜本から改革することが必要であると述べている。また、同機構のアマール研究員は、税率を引き上げて、(1)制度の財源にすべきと主張。近隣国を見ても、タイはまだ税率が低いため、引き上げは可能であると述べている。
労組や公務員は統合に反対
タイ労組連合(LCT)のプラチュアン議長は、(1)制度に反対の意を示している。その理由は、1990年から現在まで労働者が積み立ててきた社会保障制度の積立金を、30B医療保険の対象者まで拡大するということは、労働者にとっては積立金を失うことになるからというもの。公務員からも、統合反対の声が出ている。
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