1WHO ファクトシート 184
1998 年 5 月改訂
電磁界と公衆衛生
公衆の電磁界リスク認知
広い意味では、様々なハザードとリスクは、認知されたものであれ真のものであれ、技術の進
歩に常に伴うものと考えられてきました。産業、商業、家庭での電磁界(EMF)の応用におい
ても例外ではありません。
世界中の公衆は、高圧電力線、レーダ、携帯電話およびその基地局などを発生源とする電磁界
へのばく露が健康への有害な影響、特に小児への影響につながるかも知れないことを懸念して
います。その結果、いくつかの国では新たな電力線や携帯電話網の建設が少なからぬ反対にあ
っています。
多くの国の政府の共通問題となった、
このような公衆の懸念に対応して、
世界保健機関
(WHO)
は、電磁界ばく露による生物学的影響を評価し、その健康リスクの可能性を評価する国際電磁
界プロジェクトを発足させました。
現在 40 以上の国と 6 つの国際組織がこの国際電磁界プロジ
ェクトに関与しています。
最近の歴史を見れば、技術の進歩がもたらす健康影響に関する知識が完全ではないことが、技
術革新に対する社会的反対の唯一の理由ではないらしいことは明らかです。科学者、政府、産
業界、公衆の間のコミュニケーションにおいて、お互いのリスク認知の相違が適切に考慮され
ずに軽視されていることも原因です。このため、電磁界に関するリスク認知とリスクコミュニ
ケーションも国際電磁界プロジェクトの範囲として扱います。
健康に対するハザードとリスク:人々のリスク認知を理解する上で、健康ハザードと健康リス
クを区別することが重要です。ハザードとは人の健康を害する可能性がある物または一連の環
境とされます。リスクとはある特定のハザードによって人が傷害される見込み(または確率)
とされます。
あなたが思いつく全ての行動にはリスクが伴います。旅行することで自動車、飛行機、列
車の事故に遭うかも知れません。家にいることで地震に遭うかも知れません。生きること
は概して多くのリスクを伴っています。リスクが全くない物事はありません。
自動車は健康ハザードの可能性があるものです。自動車の運転はリスクです。スピードが
速くなればなるほど運転はリスクの高いものになります。
同様のことが電磁界発生源にも言えます。ある環境下では、電磁界はハザードの可能性が
あるものですが、人の健康に対するそのリスクはばく露レベルに依存します。
リスク認知:人があるリスクを取るか拒否するかの判断には多くの要因が係わっています。一
般的には、人はリスクを無視できる、受け容れられる、我慢できる、受け容れられないなどと
認知し、またリスクをその便益と比較します。このようなリスク認知は、年齢、性別、文化お
よび教育的背景によって左右されます。2 例えば多くの若者はスカイダイビングのリスクを受け容れられると判断します。多くの高
齢者はそれを危険すぎる、したがって受け容れられないと認知するため、そのようには判
断しません。
リスクの性質によって異なったリスク認知になります。
調査によると、
一般的に以下のような、
対立する 2 つの状況特性がリスク認知に影響を及ぼすことが分かりました。認知されたリスク
の大きさを前者は増大させ、後者は減少させる傾向があります。
ばく露が自発的でない vs 自発的である これはリスク認知の重要な要因です。
特に電
磁界の発生源に対してはそうです。携帯電話を使わない人は、携帯電話基地局が放射
する比較的弱い RF 電磁界のリスクを大きいと認知します。しかし、携帯電話使用者は、
一般的に、自分が自発的に選んだ携帯電話機から発生するずっと強い RF 電磁界のリスク
を小さいと認知します。
個人による状況のコントロールが出来ない vs 出来る 電力線や携帯電話基地局の設
置、特に自宅や学校や遊び場に近くの設置について何も発言権がない場合、そのような電
磁界設備からのリスクを高いと認知する傾向があります。
熟知していない vs している 状況を熟知していること、または技術を理解できると感
じることで認知されたリスクのレベルは低くなります。電磁界技術のように、技術や状況
が新しく、よく知らず、理解しにくい場合、認知されたリスクレベルは上昇します。ある
特定の状況や技術による健康影響の可能性について科学的理解が十分でない場合、認知さ
れたリスクレベルは著しく上昇することがあり得ます。
影響に恐怖感がある vs ない がん、重症で治りにくい痛みや障害などの病気や体調は
何よりも恐れられます。したがって、電磁界ばく露によるがん、特に子供のがんは、その
可能性がたとえ小さくても公衆から大変注目されます。
不公平感 vs 公平感 携帯電話を持っていない人が、携帯電話基地局からの RF 界にば
く露されたり、彼らの地域社会に電力供給しない高電圧送電線から電界や磁界のばく露を
受けるとなれば、これを不公平と考え、そのような設備に関連するどのようなリスクも受
け容れないようになります。
例えば、携帯電話を所有していない人の場合、以下の理由によって、携帯電話基地局からの RF
電磁界へのばく露は大きなリスクと認知されます。
RF 電磁界への自発的でないばく露に直面すること。
少数の携帯電話使用者が便益を得る一方、基地局の設置により地域社会全体が RF 電磁界
ばく露を受けるため、不公平であること。
地域社会にこのようなネットワークが拡大することをコントロールできないこと。
大半の人にとって、携帯電話技術はよく知らず、理解し難いものであること。
正確に健康リスクを評価するための科学的知識が不十分であること。
この技術はがんのような怖い病気を起こすかも知れないという可能性があること。
地域社会は、住民の健康に影響を与える可能性のある電磁界設備の建設に関してどのような提
案や計画があるのかを知る権利があると考えています。3科学者、政府、産業界、公衆の間に、情報公開やコミュニケーションの効果的なシステムが確
立されない限り、新しい電磁界技術は信用されず、怖れられるでしょう。
電磁界技術の開発は、その健康影響の可能性についての適切で調整された研究と組み合わせて
進めるのがよいでしょう。
これは、
WHO の国際電磁界プロジェクトの重要な目的の一つです。
(本文終わり)
(翻訳について)
Fact Sheet の日本語訳は、WHO から正式の承認を得て、電磁界情報センターの大久保千代次が原文
にできるだけ忠実に作成いたしました。文意は原文が優先されますので、日本語訳における不明な
箇所等につきましては原文でご確認下さい。
(2011 年 5 月)