国際電磁界プロジェクト
世界保健機関(WHO)における電磁界研究に関するアジェンダ
序論
一般
静的および時間的に変化する電界および磁界へのばく露の潜在的影響は、公衆衛生や労
働衛生に係る重大な懸念を引き起こしており、科学的な明確化が必要となっている。電磁
界(EMF)は、我々の生活において最も一般的な、かつ、急速に影響力が増大している問
題の一つであり、それに関する不安や憶測が広がっている。がん、行動変化、記憶喪失、
パーキンソン病、アルツハイマー病、およびその他の多くの健康影響が、EMF へのばく露
の結果生じていると示唆されている。
WHO は、これらの懸念に対処するため、国際 EMF プロジェクトを設立し、国際非電離
放射線防護委員会、国際がん研究機関、国際電気標準会議、国際労働機関、国際電気通信
連合、国連環境計画、北大西洋条約機構、欧州委員会、40 以上の政府機関、および WHO
の協力組織(英国放射線防護委員会、ドイツ連邦放射線防護局、スウェーデンのカロリン
スカ研究所/環境医学研究所、米国食品医薬品局、米国立環境衛生科学研究所、米国立労
働衛生研究所、日本の国立環境研究所)と協力している。
国際 EMF プロジェクトでは、0〜300 ギガヘルツの周波数範囲における、静的および時
間的に変化する電磁界によるばく露の潜在的な健康影響を評価している。この周波数範囲
は、1静的(0 ヘルツ)
、2超低周波(ELF、0 〜300 ヘルツ)
、3無線周波(RF、300 ヘ
ルツ〜300 ギガヘルツ)に分割される。本プロジェクトは、1996 年に、WHO より以下を
目的として設立された。
(1) EMF ばく露による健康影響の可能性についての懸念に対し、適切な国際的返答を提供
する。
(2) 科学論文を評価し、健康への影響に関する状況報告書を作成する。
(3) 健康リスク評価を改善する上でさらに研究する必要がある知識の欠落部分を特定する。
(4) 知識の重要な欠落部分を満たすことに重点を置いた研究計画を奨励する。
(5) EMF ばく露に対する正式な健康リスク評価が実施できるように、研究結果を WHO の
環境保健クライテリア・モノグラフに組み込む。
(6) EMF に適用するように、リスク認知、リスクコミュニケーション及びリスクマネジメ
ントの情報を提供する。
(7) EMF 問題について各国の担当組織に、助言および資料を提供する。
(8) EMF ばく露に関し、国際的に受け入れられる基準を開発する条件を整備する。1 国際 EMF プロジェクトは、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)と協力して、電磁
界(EMF)によるばく露により生じる可能性のある健康影響に関する初めての国際的な科
学レビューを完了した。これらのレビューは、EMF ばく露による健康ハザード及び更なる
研究が必要な知識の欠如に関して、
WHO によるより良い健康リスク評価が行うことででき
るようになる前の暫定的な結論を提供している。これらは、ミュンヘン会議およびボロー
ニャ会議の報告書(Repacholi, 1998; Repacholi and Greenebaum, 1998)に要約されてお
り、それぞれが無線周波(RF、300 ヘルツ〜300 ギガヘルツ)ならびに静的および超低周
波(ELF、0 〜300 ヘルツ)をカバーしている。
このレビューでは、低レベル EMF によるばく露、特に長期にわたるばく露がヒトの健康
に有害な影響を与えるか否かについては未解決の疑問がいくつかあり、研究が必要である
ことが確認された。WHO の研究アジェンダが、これらの疑問を解決するように構成されて
きている。後述するアジェンダは、1997 年 12 月 4〜5 日にジュネーブで開催されたアドホ
ックの研究調整会議の結果である。この会議では、WHO の健康リスク評価要件に適合する
進行中の研究が取り上げられ、科学レビューにおいて認識された研究ニーズと比較された。
そして、それでもなお WHO が必要とする追加的な研究が、後述のアジェンダに組み込ま
れた。
新しい研究が将来の健康リスク評価に有用であるためには、その研究は、明確な仮説を
有し、微細な影響を検出する研究能力が推測でき、good scientific practice(善良な科学の
実行)に適合するプロトコール(手準や様式)に則った質の高い研究であらねばならない。
研究の品質保証のやり方が、そのプロトコルに含まれ、研究の間中はモニタリングされる
必要がある。WHO および国際がん研究機関が使用する EMF の健康リスク評価クライテリ
アは、Repacholi and Cardis(1997)に記載されている。
この研究アジェンダ、国際 EMF プロジェクトの資料、活動の最新状況およびその他の情
報は、ホームページ(http://www.who.ch/emf/)に掲載されている。
定義
WHO 憲章では、
「健康とは、肉体的、精神的、社会的に良い状態にあることであって、
単に病気や虚弱でないということではないこと。
」と定義している。この定義は、健康リス
ク評価の際に考慮されるべき重要な本質的要素を含んでいる。
国際 EMF プロジェクトにお
いては、健康ハザードに関し、作業を進めるための定義を開発した。
「健康ハザードとは、
健康あるいは良好な状態であることに害を及ぼすような、通常の生理的保修限界を超える
生物学的影響を及ぼすものである。この定義において、ばく露に対する生理的応答が、生2 物学的効果を及ぼすものに当たる。健康に悪影響を及ぼす生物学的影響とは、身体の応答
の際に通常の変動範囲を超えているため、通常の保修できる範囲を超えている状況である
ということである。
研究ニーズを決定すること
国際 EMF プロジェクトによる健康リスクの評価に使用するクライテリアは、WHO の国
際がん研究機関(IARC)で用いられているクライテリア(Repacholi and Cardis、1997)
からきている。健康リスクを示唆されていると判断されるが、健康リスク評価クライテリ
アに適合する証拠が不十分な場合に、研究の必要性が認定された。はっきりしないが健康
に対する影響があると言う暗示があること、および、影響を検証するための重要な研究を
追試するという理由に基づいて、必要な研究が設定された。したがって、本プロジェクト
の全体的な目標は、人間に発生する可能性があり、潜在的に健康影響をもたらす EMF ばく
露の再現性のある影響を実証する研究を促進することにある。
インビトロ(体外)の研究は、低レベル EMF ばく露による生物学的影響の基本的なメカ
ニズムに関して重要な洞察を提供することができるが、
動物またはヒトのインビボ
(体内)
研究は、健康への悪影響に関してより確実な証拠を提供する。
疫学研究は、
人間への悪影響のリスクについて、
最も直接的な情報を提供する。しかし、
これらの研究には限界がある。特に低い相対的リスクが見つかった場合にそうである。疫
学研究は、ばく露による公衆衛生への影響をモニタリングする上で重要であり、特に新技
術からの影響については重要である。
近年の予算縮小の時代にあっては、優先度の高い研究が適切に組み合わされて行われる
ことが重要である。明らかに、有益な結果をもたらす可能性のある研究のみ実施すべきで
ある。提案の目標を精査することに加えて、研究の実行可能性とそれが影響を検出できる
可能性を評価することが重要である。提案された研究は、以下に関しても評価されるべき
である。
(i)予定されている共同研究者の特徴付けおよび/または関与の度合い
(ii)ばく露条件または測定値の再現性およびそれらのヒトばく露への適用性、および
(iii)現在行われている研究の品質の確かさ
一般公衆の懸念される健康ハザードの研究、潜在的に公衆衛生にとって重要なハザード
(ばく露される可能性のある集団の大きさ、ばく露の程度および想定される有害な健康影
響の重大性に基づく)を調査するための研究、および科学的に重要な研究(例えば、イン3 ビトロまたはインビボの結果に基づいて観測された影響あるいは仮定されたメカニズムの
関連性の試験)に優先度が与えられるべきである。
EMF 研究の優先度
無線周波数(RF)電磁界
相対的に高強度の RF 電磁界は、
生体の組織を加熱することによって健康に悪影響を及ぼ
すことが示されている。
低レベルの RF 磁界に長時間さらされても、健康に悪影響を及ぼす
ことは科学的に確認されていないが、ある種の疑問については十分に研究されているわけ
ではない。現在及び将来の研究は、モバイルまたは携帯電話システムで利用されている変
調パターンとパルスパターンを使用した、900〜2000 メガヘルツの周波数範囲に焦点を当
てるべきである。
RF 電磁界ばく露の正確な評価は今後のすべての研究の不可欠な要素であり、また、各研
究チームには RF 線量測定(ドジメトリ)
に熟達した科学者が含まれていることは質の高い
研究にとって本質的なことである。研究の線量精度は 30%かそれ以上であることが推奨さ
れる。将来の疫学研究では、
長期にわたる個人の RF ばく露を簡便かつ正確に測定すること
ができる手段または評価方法の開発が最優先事項になる。(i)様々な RF ばく露レジメン
(手法)
を用いたいくつかの動物実験が現在進行中であり、
その結果は健康リスク評価に必要なデータベースに追加されるべきである。しかし、がん
の発生、促進、共促進および進行を試験するために、米国国家毒性プログラムにおいて実
施されている典型的な、少なくとも 2 つの 2 年間にわたる標準的な大規模動物試験が必要
である。これらの実験では、毎日 2〜6 時間、共通の携帯電話システムのパルスパターンの
1 つを使用して、正常な動物や化学発癌物質の投与をはじめた動物を、携帯電話の周波数範
囲の RF 電磁界にばく露させるべきである。各試験では、
温度変化を誘発する可能性のある
レベルよりも少し低い電界強度の範囲(通常は 4 つの異なる SAR(非吸収率)
)を使用する
必要がある。
(ii)大規模な研究によれば、RF 電磁界ばく露は、遺伝子組換マウスのリンパ腫の発生率
が増加させることが示唆されている。この研究によって提起された問題を解明するには、
上記(i)に類似した実験の設計を使用して、少なくともさらに 2 つの大きな研究を行うこ
とが必要である。また、遺伝子組換動物に見られる健康への影響の暗示を提供するフォロ
ーアップ研究も必要である。
(iii)ホルモン値、眼や内耳・蝸牛への影響、記憶喪失、神経変性疾患および神経生理学的4 影響に関して報告された変化の再現性を試験するために、更なる研究が必要である。これ
らの研究は動物で行うことができるが、可能であれば、人間のボランティアを使って行う
べきである。
(iv)低レベルの RF にばく露された人々に関する現行の疫学研究の分析からは、いかなる
健康上の悪影響も示されなかった。しかし、携帯電話の使用は比較的新しいものであるた
め、更なる検討が必要である。一般的な原則として、誘導加熱の閾値以下ではあるがより
高いレベルの RF にばく露
(そのようなばく露レベルが一般的な集団ばく露を代表するもの
ではないとしても)された集団に関する研究によって、何らかの健康影響があるとの情報
がもたらされる可能が高いと考えられ。低いレベルのばく露の場合は、ばく露評価を行う
のに限界が生じるため、放送塔や移動電話基地局などの点源にばく露される集団に関する
研究は、健康影響の存在に関して有益であるとは考えにくい。携帯電話基地局周辺の集団
のがん発症率の増加に関する示唆は、実証されているわけではない。
がん、特に頭頸部のがんならびに眼または内耳に関連する障害について調査するため、
より高レベルの RF ばく露を伴う、
少なくとも 2 つの十分に特徴付けされた大規模疫学研究
が必要である。これらの研究は、有効なばく露評価を行うことができるのであれば、なる
べく、
携帯電話ユーザーまたは高い RF ばく露を受ける産業の労働者を対象とすべきである。
(v)頭痛、睡眠障害または聴覚障害などの特定の症状が報告されている人々およびこれら
の症状を RF ばく露に関連付けられている人々を試験するためには、
十分に制御された研究
が必要である。このタイプの過去のボランティアを使った研究では、症状とばく露の関連
付けに成功していない。神経学的、神経内分泌的および免疫学的影響について調査するた
めには、いくつかのより管理された調査を実施すべきである。
(vi)健康リスクの評価においては、インビトロ研究は、通常、インビボすなわちヒトに関
する研究よりも優先度が低い。しかし、このような研究は、生体内影響の可能性に直接関
連するもの、あるいは、RF ばく露の閾値ならびに細胞周期動態、増殖、遺伝子発現、シグ
ナル伝達経路および膜変化に関して報告された陽性影響の再現性の問題を取り扱うもので
ある場合には大きな手助けとなる可能性がある。理論的なモデリングによる調査は、もし
それらが、
実験することが可能な RF 電磁界ばく露の基本的メカニズムの提案をすることに
よってインビボ研究を支援するものであれば、有用となり得る
ELF(超低周波)電磁界
いくつかの疫学研究は、電力線の近くに住む子供の白血病のリスクが増加することを示
唆している。これが ELF 磁界によるばく露に起因するものであるのか、環境内の他の要因5 によるものであるのかは、まだ決定されていない。健康に関連する他の未解決の問題につ
いては、ELF ばく露が、成人の乳がんおよびその他のがん、アルツハイマー病のような神
経変性疾患、および、主観的または非特異的な影響(例えば、電気に対する"過敏症")の増加に関連する可能性があることを示唆する研究がある。
生活環境や作業環境中での ELF 電磁界ばく露からの過渡電流発生(電流切換により生ず
る)あるいは、50/60 ヘルツの電磁界上に重畳された高調波の場における、生物学的影響の
可能性について具体的に調査した研究は発表されていない。理論的には、過渡電流または
高調波は、生物学的影響を引き起こす可能性が 5 0/60 ヘルツの正弦波よりも高い。WHO
の EMF 研究アジェンダを完成させるために必要な研究として明らかにされた追加の研究
は、以下のとおりである。(i)実際の電磁界の特性をより明確にし、
それらの環境内での有症率を決定するためには、
50 / 60 ヘルツの場での過渡電流や他の摂動に関する綿密的な調査が必要である。これらの
電磁界は、50/60 ヘルツの純粋な正弦波が、細胞内で、正常な電気的ノイズレベルを上回る
シグナルを誘導する可能性があるため、生物学的影響を生み出す可能性が高い。(ii)一般的なタイプのがんについて試験するための少なくとも 2 つの標準的な 2 年間の動
物実験研究。それは、過渡電流(上記(i)に記載)を含む ELF 電磁界ばく露を伴うもので
あり、米国国家毒性プログラムによって実施されたものと同様のものである。
(iii)一つは、少なくとも標準的な 2 年間の動物試験研究。これは、
(ii)で述べたものと
同様のものであり、正弦波 50/60 ヘルツの電磁界を用いたものである。また、乳がんのた
めに特化した過渡電流-摂動電磁界を使った二つの同様の研究。
(iv)疫学者と物理学者は、どのようにすれば、50 / 60 ヘルツ電磁界と過渡電流によるば
く露に対する過去および現在の方法論や評価手法を洗練したものとすることができるか議
論すべきである。これに続き、これらの洗練された方法をテストし、検証するパイロット
研究が行われるべきである。少なくとも、2 つのさらに大規模な多センター方式による小児
白血病の疫学研究を、過渡電流および高調波の電磁界を含めて現在のばく露評価における
最善の方法を使って行うことが必要である。
(v)50/60 ヘルツ電磁界によるばく露と乳がんまたは神経変性疾患との潜在的な関連性を
調査するためにも、大規模な疫学研究が必要である。これらの研究は、高レベルのばく露
を受けた職業グループに対し、利用可能な最善のばく露評価手法を持ちいて実施されるべ
きである。6 (vi)ELF 電磁界が特定のホルモンレベル(例えば、メラトニン)に影響を及ぼすか否か
を決定するためには、ヒトボランティアを使った研究が必要である。これらの研究では、
過去の実験で使われたような 1 夜ではなく、
それ以上のばく露実験とすべきであり、
また、
男女両性を対象として実験すべきである。将来の研究では、過渡電流やその他摂動電磁界
によって引き起こされる影響について試験することが重要である。
ELF 電磁界による電磁過敏症を主張する人々に関する現在の研究、特に、制御されたラ
ボ環境に適用された電磁界に対するヒトの反応に関する研究の結果が正しいとなった場合
には、さらにどのような研究が必要になるかを決定するために、これらの研究報告書が精
査されるべきである。
(vii)生体内の影響に直接関係している可能性が高いとき、あるいは、ELF ばく露閾値の
問題、ならびに、細胞周期動態、増殖、遺伝子発現、シグナル伝達経路および膜変化の陽
性効果が報告された案件の再現性の問題に対処する場合には、インビトロ研究が必要であ
る。
低強度の電磁界及び現実の環境過渡状態がどのように生物学的システムと相互作用する
かについて実験可能な基本的メカニズムを提案するような理論的モデリングによる研究は、
インビボ研究をサポートするものであるので必要である
静電界
今日までの研究は、環境や職場におけるレベルでは、静電界が、人間に有害な影響を引
き起こすことはないことを示している。したがって、現時点では、静電界の潜在的な影響
について更なる研究を行うことは推奨されない。
静磁場は、非常に高い強度においてのみ健康影響を生じることが知られている。磁気浮
上列車、医療診断・治療、産業用などの磁気を利用した技術は、その使用が増えており、
かつ、開発中である。それらは中または高強度の静磁場を使用しており、公衆と作業者の
ばく露が大幅に増加する可能性がある。静磁場ばく露による長期的な健康影響の可能性に
関して、更なる情報が必要である。この情報を提供するために必要な研究には、以下が含
まれる。
(i)がん関連の影響に集中した、少なくとも 2 つの標準的な 2 年間の動物実験研究。これ
らの研究は、米国国家毒性プログラムで使用される基準に従うべきである。7 (ii)少なくとも 2 つの大規模な、多センターで実施される、作業者に係る疫学研究。それ
は、静磁場ばく露を良く特徴付け、交絡因子を最小限に抑え、他の EMF 源からのばく露の
測定を含んでいるものである。
(iii)
静的および時間的に変化する電磁界による複合的なばく露の生物学的影響を調査する
ための追加の研究。これは、特に輸送システムに見られるような過渡電流による影響を含
む。
品質の高い電磁界研究に関するガイドライン
序論
以下の一連のガイドラインは、国際電磁界プロジェクトの下で実施された、電磁界ばく
露の生物学的影響に関する科学的レビュー(Repacholi、1998;Repacholi および
Greenebaum、1998)を要約したものである。これらは、WHO が健康リスク評価を行う
上で有用となる研究を完了するよう、研究者を支援することを目的としている。これらの
ガイドラインから大幅に逸脱した方法論を用いた研究は、健康リスク評価に有用な情報を
提供しないかもしれない。これらのガイドラインは、イン・ビトロ、イン・ビボ、ヒトボ
ランティアおよび疫学研究のために開発されたものである。
一般的な実験デザイン
1. プロジェクトでは、明確に定義された仮説を検証すべきである。その際、電磁界ばく露
による健康リスクの評価に直接または間接的に関連する情報をもたらすであろう詳細
なプロトコルを用いなければならない。
2. 使用される生物系は、研究対象のエンドポイントにふさわしいものであるべきである。
可能であれば、閾値およびばく露量-反応データ(疑似ばく露対照群に加えて、少なく
とも 3 つのレベルのばく露群を使用)が求められる。
3. 十分に特徴付けられている生物系またはアッセイ、できれば、入手可能な科学文献から
十分に確立されていると判断されるものを使用すべきである。
4. 事前に推定される検出力(事前の知識と計画されている検査の回数に基づく)は、予測
される影響の大きさ(しばしば 10〜20%程度でしかない)を、信頼性をもって検出す
るのに十分なものとすべきである。8 5. 研究のデザインと実行の全体を通して、
優良試験所基準
(GLP)
を用いるべきである(例えば、米国食品医薬品局(FDA)
、1993 を参照)
。GLP ガイドラインに適合した具体的
なプロトコルを確立し、文書化すべきである。 研究の過程で生じたいかなる変化も文
書化すべきである。プロトコルには、実験または生物系の性質によって除外される場合
を除いて、検体とその供給源のハンドリングが無作為化され、対称的であることを含め
るべきである。プロトコルには、すべての適切な対照群(陽性対照群、陰性対照群、ケ
ージ対照群、疑似ばく露群、等)を含めるべきである。研究者は、自身が扱っているの
がばく露群か対照群かについて盲検化されるべきである。同様に、実験室内実験におけ
るヒト被験者は、自身のばく露状態について認識してはならない。
6. GLP が要求しているように、品質保証(QA)手順をプロトコルに含めるべきである。
これには、実験スタッフ内のチームおよび独立したグループの両者による、ドシメトリ
およびプログラムのモニタリングが含まれる。
実験装置およびドシメトリ
1. 温度、湿度、光、振動および音、ならびにバックグラウンドの電磁界等の環境条件は、
定期的に測定して記録すべきである。電磁界ばく露以外のすべての実験条件は、すべて
の群で同じとすべきである。
2. 電磁界は、十分に特徴付けられ、定期的に再測定すべきである。連続的な発生源、およ
びばく露装置のオン・オフ切替のどちらからのものでも、波形、パルスの形状とタイミ
ング、周波数、高調波および過渡事象を、適宜すべて測定すべきである。環境中、機器
由来、
およびその他のばく露装置からのクロスオーバー電磁界のようなバックグラウン
ド電磁界も重要であり、特徴付ける必要がある。時間変化する成分や静的な成分、なら
びに電磁界の偏波と方向を測定すべきである。 可能な限り、検体シェーカーの動作の
ような実験上の要因によって生じる電磁界の変調を記録し、測定すべきである。ばく露
装置内の培養物または動物の位置を、適宜記録し、無作為化すべきである。
データ収集と品質保証
1. 品質保証(QA)を含むすべてのプロトコルには、これをモニターするための GLP 規定
と同様に、厳密に従わなければならない。
2. データは同時に記録し、バックアップコピーを保管する必要がある。
3. データは、正当な理由(例えば、機器故障、手順が遵守されない場合等)がない限り、9 データを破棄すべきではない。破棄する場合はその理由を記録すべきである。
4. アッセイが研究者による独立した判断
(例えば、
組織学的評価)
を必要とする場合には、
QA プログラムの一環として、検体のすべて、または適切な検体試料について、少なく
とも 1 回の独立した再検討評価が行われるべきである。
5. 可能であれば、試料を将来の参照のために保存すべきである。
データ分析
1. 分析技術は、データと仮説に対して適切なものとすべきである。
2. 保存されたデータセットにはすべてのデータを含めるべきである。もし、分析から除外
されるデータがあれば、それについて明確で正当な理由を記録すべきである。
結論と報告
1. 結論は、データによって完全に支持され、データセットのすべての重要な意味合いを含
むべきである。
2. 報告書には、結論と考察について独立した評価を可能にするため、材料と方法に関する
十分なデータと情報を含めるべきである。
3. タイムリーに査読を受けた出版が必須である。
イン・ビトロ研究
1. 温度、CO2 インキュベーター内の雰囲気、振動、および、インキュベーターのヒータ
ーやファンからの漂遊電磁界は、非対称性(ばく露群と対照群の試料間の差異)の発
生源であるが、細胞および組織培養実験において見過ごされることがしばしばある。
適切な計器を用いてこれらを測定し、
「ばく露群」の試料の電磁界ばく露を除いて、ど
のような差異も最小限となるように、あらゆる努力しなければならない。
2. ばく露群の培養物と同一の環境下に維持される同時的な陽性および陰性対照群、複数
のばく露装置の擬似ばく露群間の比較、培養物の無作為化処理および盲検化を、適宜
研究の一部とすべきである。10 3. 培養物中の電界または誘導電流を特徴付けるには、電極の幾何学的形状と材質(寒天
橋等を含む)
、培養皿の形状と寸法、培地の深さと試料の寸法、培地の導電率(RF と
ELF)ならびに培地の誘電率(RF のみ)が重要である。一部の ELF 研究では、電磁
界の値を直接測定すべきである。電極を使用する場合、可能であれば、電気泳動の積
を考慮して測定すべきである。
4. ELF 磁界実験では、誘導電流に適用される上述の要因を考慮すべきである。印加され
た磁界と培地との間の角度、ならびに印加された ELF 磁界と局所的な直流磁界との間
の角度を測定すべきである。
5. バッチごとにばらつきのある可能性のある培地、血清またはその他の試薬を使用する
場合には、実験期間中は、単一バッチの十分なストックを購入し、貯蔵するように十
分に配慮すべきである。標準的な供給源に由来する細胞株の特性についても同様に、
経時的な分岐が生じないようにすべきである。元の供給源からの予備のストックを持
つべきである。
6. 数日以上かかる実験、ならびに、試料またはストックの培養物を長期間にわたって保
管したり、データを電子的に収集または保存するようなすべての場合、設備または電
源装置の故障に対して作業を保護するため、バックアップシステムを設置しなければ
ならない。
イン・ビボ研究
1. インビボ研究に関するプロトコルは、
動物またはその他の全生物を使用する実験に関す
るすべての関連規則の文言および精神に適合し、
関連するすべての審査委員会の事前承
認を得なければならない。
2. ケージラックまたは動物の飼育室内の、
印加された電磁界の不均一性、
温度、
雰囲気(例えば、湿度、室内空気の変化、等)
、照明、振動、ノイズの非対称性は、しばしば見過
ごされる。これらの条件は、各ケージの位置で測定すべきである。ケージを無作為にロ
ーテーションすることによって、ばく露群内または対照群内の、あるいはばく露群と対
照群との間の非対称性を克服することができる。
3. 対照群は、ばく露群の培養物と同一条件下に維持すべきである。動物がそれ自身の対照
でない限り、同時的な対照群が重要になる。陽性対照動物、ならびに陰性対照動物およ
び歩哨(
「ケージ対照」
)動物を、適宜使用すべきである。動物または実験材料を取り扱
う、またはアッセイを行うすべての人員は、特別な状況を除いて、ばく露状態について11 盲検化されるべきである。
4. 可能であれば、実験中およびケージの定期的な保守のどちらにおいても、複数のばく露
装置の擬似ばく露群間の比較および動物のハンドリングの無作為化を考慮すべきであ
る。
5. ケージの大きさ、材料、寝床、動物間の間隔および電磁界内の動物の位置を特定すべき
である。 ケージ、金属部品およびラック材料、他の動物の存在の遮蔽効果、ならびに
ケージの汚れに伴う電磁界強度の変化を測定すべきである。
ケージや飲料水供給装置か
らのマイクロショックを排除すべきである。
6. 動物の供給源、
系統および亜系統を特定すべきである。 特定病原体を除去した
(SPF)
動物および特別な遺伝的特徴を有する動物は、
使用前に検査すべきである。
SPF 動物お
よび施設には、細心の注意と訓練を受けた人員が必要である。SPF の状態は、実験を通
してモニタリングしなければならない。
ヒトボランティア研究
1. ヒトボランティア研究に関するプロトコルは、被験者を用いた実験に関するすべての
関連規則の文言および精神に適合し、関連するすべての審査委員会の事前承認を得る
べきである。ボランティアと一緒に作業する人員には、特別な訓練と監督が必要であ
る。
2. 適宜、陽性対照ならびに陰性対照を使用すべきである。
疫学研究
1. 疫学研究に関するプロトコルは、すべての関連規則の文言および精神に適合し、関連
するすべての審査委員会の事前承認を得るべきである。
2. 研究のデザインに際し、弱い ELF および弱い RF 電磁界によって生じるかもしれない
影響についてのばく露指標には不確かさがあることを認識すべきである。被験者のば
く露、特に、代用指標によって決定されることがしばしばある過去のばく露を決定す
る際は、可能であれば具体的な測定値に基づいて検証すべきである。将来の研究に役
立つように、
データには、
別の指標に関する情報を可能な限り多く含めるべきである。
詳細情報は、Ahlbom(1996)
、Beaglehole ら(1993)および Bracken ら(1993)か
ら入手できる。12 独立した研究レビューおよび管理
1. 独立した科学者からなる独立したパネルが、提案された研究プロジェクトを評価し、
研究を実施するのに最良の研究者に助言を行い、研究の進捗状況をモニターし、研究
結果への助言となる第一段階のレビューを行うべきである。
2. 研究の成果に利害関係を有すると思われる研究の資金提供者を、研究および研究者の
あらゆる面から引き離すべきである。資金提供者が、支援対象の研究の一般的な性質
について概略を示すことは構わない。独立した機関が、研究に関する詳細な性質を決
定し、研究者を選定・監督し、資金を含めてプログラムを管理すべきである。
研究の調整
多くの国々が電磁界研究プログラムを発表しており、また、その他の研究機関および組
織が現在、良好に管理された研究を実施し、または資金提供を行っている。この研究を世
界的に調整することは、不必要な研究の重複に対して希少な研究資金が浪費されずに、す
べての重要な問題が研究されることを保証するのに役立つ。国際電磁界プロジェクトは、
主要な国々および多国間の研究資金提供機関との協力により、計画中および進行中のプロ
ジェクトについて、世界規模での調整および情報交換のための有用な機能あるいは枠組み
を提供することができる。これを目的として、アドホックの研究調整委員会が国際電磁界
プロジェクトの下に設置されている。本プロジェクトは、進行中の、WHO の優先的研究課
題の要件を満たしていると考えられる研究プロジェクトのリストを整備している。 このリ
ストは、本プロジェクトのホームページ(http://www.who.ch/emf/)に掲載されている。
参考文献・書誌
Ahlbom A (1996): Some fundamental aspects of epidemiology with reference to research on
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Germany. Tel:+49 89 31603288, Fax:+49 89 316 03289, E-mail RMatthes@bfs.de
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ICNIRP (see above).
以下の国際電磁界プロジェクトのドキュメントは次のホームページに掲載されている。
http://www.who.ch/emf/ or are available from: Dr Michael H Repacholi, Office of Global and
Integrated Environmental Health, World Health Organization, CH-1211 Geneva 27,
Switzerland. Tel: +41 22 791 3427, Fax:+41 22 791 4123, E-mail: repacholim@who.ch
- Minutes: First International Advisory Committee meeting (30-31 May 1996). WHO/EHG/96.14.
- International EMF Project Progress Report (1995-1996). WHO/EHG 96.19
- Minutes: 2nd International Advisory Committee meeting (2-3 June 1997). WHO/EHG/97.14.
- International EMF Project Progress Report (1996-1997). WHO/EHG 97.19
- Electromagnetic fields and public health: The International EMF Project. WHO Fact Sheet #181
Oct. 1997
- Electromagnetic fields and public health: Physical properties and effects on biological systems.
WHO Fact Sheet #182 Oct. 199715 - Electromagnetic fields and public health: Health effects of radiofrequency fields. WHO Fact Sheet
#183 Oct. 1997
- Electromagnetic fields and public health: Public perception of EMF risks. WHO Fact Sheet #184
Oct. 1997
- Brochure: International EMF Project. WHO/EHG/98.7
- Minutes: Research Coordination meeting (4-5 Dec.1997). WHO/EHG 98.1416

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