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2024 年 6 月 12 日
セメント大手各社の 24/3 期決算の注目点
大手セメントメーカー各社(住友大阪セメント、太平洋セメント、UBE 三菱セメント、トクヤマ(セメント
事業セグメントのみ)
)の 24/3 期決算および 25/3 期業績予想を踏まえ、株式会社日本格付研究所(JCR)の
現況に関する認識と格付上の注目点を整理した。
1. 業界動向
23 年度のセメント内需は前年度比 7.3%減の 3,458 万トンとなり 5 年連続のマイナスとなった。民需は同比
5.7%減、官需は 9.2%減とともに落ち込んだ。セメント輸出については前年度比 15.8%減の 686 万トンと 2 年
連続で大幅な減少となった。ただ、足元では輸出は回復傾向にある。前年度の大幅減少による反動増の部分は
大きいが、値上げにより採算が改善しつつある。
セメント協会が 24 年 2 月に公表した 24 年度の内需は、3,500 万トン(前年度比 1.2%増)と増加する見通
し。官需は公共事業予算が微増となっているが、公共工事が労務費上昇などの下押し要因があるとして前年並
み。
民需は住宅投資が減少するが、
企業の投資マインドは引き続き堅調であることや半導体・EV 関連の工場投
資が見込まれることから 23 年度を上回るとの見方である。しかし、近年は人手不足や職人不足など構造的な
問題が供給の制約要因として年々高まっている。加えて、建築費の高騰などにより企業が投資計画を延期、中
止するケースも増えているもようであり、JCR では内需の減少傾向は今後も続く可能性があると考えている。
21 年秋に石炭価格高騰などを理由に各社ともセメント値上げを打ち出し、およそ 2 年をかけてトン当たり
5,000 円もの大幅値上げを達成した。しかし、石炭価格はピークアウトしたにもかかわらず、24 年 5 月に太平
洋セメントと UBE 三菱セメントの大手 2 社が再び値上げを打ち出している。ともに 25 年 4 月出荷分からトン
当たり 2,000 円以上の値上げを実施するとのことである。
2. 決算動向
24/3 期のセメント大手 4 社合計のセメント関連事業の業績は、売上高は 1 兆 7,081 億円(前期比 7.3%増)、営業利益は 1,069 億円と昨期の 489 億円の赤字から黒字転換した。各社とも製品値上げにより収益が改善した
ことが主要因である。また、太平洋セメントや UBE 三菱セメントは好調な海外事業も寄与した。しかし、業績
は改善したとはいえ、国内セメント事業だけをみると、住友大阪セメントや太平洋セメントの同事業のセグメ
ント利益は赤字となっている。値上げ効果がまだ半年ほどしか貢献していないことや販売数量減少の影響があ
る。
財務構成については、専業大手 3 社(住友大阪セメント、太平洋セメント、UBE 三菱セメント)とも改善し
た。3 社合計の有利子負債額は 23/3 期末 7,207 億円から 24/3 期末 6,306 億円と 12.5%減となった。石炭価格
が下落したことによる運転資金減少が主な要因である。
また、
合計自己資本額
(UBE 三菱セメントは純資産額)
は 23/3 期末 1 兆 350 億円から 24/3 期末 1 兆 1,738 億円と 13.4%増加した。最終黒字化による利益蓄積などで
自己資本が拡充した。結果、自己資本比率の 3 社平均値は 23/3 期末 43.9%から 24/3 期末 47.2%と 3.3 ポイン
ト改善した。
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3. 業績予想における格付上の注目点
25/3 期のセメント大手 4 社合計のセメント関連事業の業績予想は、売上高が 1 兆 8,117 億円(前期比 6.1%増)、営業利益が 1,382 億円(同 29.3%増)となっている。売上高については主に販売量増加により増収となる
との計画である。営業利益については前年度の値上げ効果が引き続き残ることと石炭価格下落が貢献するとし
ている。
25/3 期の格付上の注目点は、1新たに打ち出した値上げの進捗状況、2内需動向と生産体制、3カーボン
ニュートラルに向けた取り組みや成長投資の財務構成への影響_の 3 点である。
24 年 5 月に大手 2 社が表明した値上げは、近年の物流費や人件費の上昇を転嫁しようとするものである。
今後、他メーカーも追随するのかが注目される。また、これまで値上げは石炭価格急騰時に実施されている。
今般は石炭価格が高値圏とはいえ落ち着いている中での交渉となる。さらなる追加値上げをユーザー側が受け
入れるのか注目している。
内需の動向と業界の生産体制についても注目している。近年の内需は各社の期初予想を下回るケースが多
く、今年度も想定以上に内需が減少する可能性があると考えている。人手不足は容易には解消しにくく、建築
会社が受注自体を絞る可能性がある。
加えて建築単価も上昇しており、
投資マインドが減退する可能性もある。
既に UBE 三菱セメントやトクヤマが 24 年にキルンを停止しており、デンカもセメント生産を 25 年に停止す
ると発表するなど業界内で生産能力縮小の動きはある。しかし、今後、内需が想定以上に減少すればさらなる
生産体制の再構築への取り組みもありうると考えている。
カーボンニュートラルに向けた取り組みや成長投資の財務構成への影響も引き続き確認していく。
CO2排出
抑制に向けた新技術開発や設備投資はさらに必要となっている。各社の経営計画には環境対応のための設備投
資計画が盛り込まれている。しかし、新技術による設備投資負担などについては不透明な点が多く、想定以上
に設備投資が膨らむ可能性がある。また、国内のセメント以外の事業の強化、成長を図っており、年々投資額
は増加している。これらの財務構成への影響を注視していく。
(担当)加藤 直樹・井上 肇
(図表 1)各社(兼業含む)のセメント関連事業の売上高・営業利益 (単位:億円、%)
20/3 期 21/3 期 22/3 期 23/3 期 24/3 期 25/3 期予想
住友大阪セメント(5232) 売上高 2,205 2,170 1,597 1,758 1,964 2,077
セメント・鉱産品・建材 営業利益 125 132 17 さんかく156 29 86
太平洋セメント(5233) 売上高 8,743 8,479 6,778 7,817 8,593 9,320
セメント・資源・環境事業・建材建築土木 営業利益 559 574 404 さんかく12 516 786
三菱マテリアル(5711) 売上高 2,475 2,158 2,098
セメント 営業利益 122 66 32
UBE(4208) 売上高 3,030 2,828 2,215
建設資材 営業利益 145 147 34
UBE 三菱セメント(非上場) 売上高 5,736 5,853 6,050
連結 営業利益 さんかく284 457 430
トクヤマ(4043) 売上高 872 908 503 585 671 670
セメント 営業利益 38 45 さんかく19 さんかく37 67 80
売上高 17,325 16,543 13,191 15,923 17,081 18,117
合計 営業利益 989 964 468 さんかく489 1,069 1,382
営業利益率 5.7% 5.8% 3.5% さんかく3.1% 6.3% 7.6%
合計額の前年度比増減率
売上高 さんかく3.6% さんかく4.5% さんかく20.3% - 7.3% 6.1%
営業利益 さんかく10.2% さんかく2.6% さんかく51.5% - - 29.3%
(注 1)住友大阪セメントは外部顧客に対する売上高
(注 2)三菱マテリアルは 21/3 期に他セグメントとの移管あり
(注 3)トクヤマは 22/3 期に他セグメントとの移管影響あり
(出所)各社決算資料より JCR 作成
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(図表 2)専業各社の決算 (単位:億円、%)
20/3 期 21/3 期 22/3 期 23/3 期 24/3 期 25/3 期予想
住友大阪セメント 売上高 2,451 2,392 1,842 2,047 2,225 2,296
営業利益 161 166 68 -85 73 111
営業利益率 6.6 6.9 3.7 -4.2 3.3 4.8
当期利益 109 117 96 -57 153 103
自己資本 1,967 2,037 2,010 1,824 1,943 -
有利子負債 526 514 566 997 795 834
自己資本比率 61.3 61.8 60.7 51.2 54.5 -
太平洋セメント 売上高 8,843 8,639 7,082 8,095 8,863 9,600
営業利益 610 636 467 44 565 840
営業利益率 6.9 7.4 6.6 0.6 6.4 8.8
当期利益 391 468 289 -332 433 620
自己資本 4,367 4,709 5,106 4,949 5,632 -
有利子負債 2,661 2,481 2,706 4,035 3,704 3,800
自己資本比率 42.3 45.1 46.3 39.0 42.1 -
UBE 三菱セメント 売上高 5,763 5,853 6,050
営業利益 -284 457 430
営業利益率 -4.9 7.8 7.1
当期利益 -473 246 210
純資産 3,576 4,162 -
有利子負債 2,175 1,807 -
自己資本比率 41.4 44.9 -
(出所)各社決算資料より JCR 作成
【参考】
発行体:住友大阪セメント株式会社
長期発行体格付:A 見通し:安定的
発行体:太平洋セメント株式会社
長期発行体格付:A 見通し:ポジティブ
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