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23-D-0169
2023 年 5 月 26 日
電力各社の 23/3 期決算の注目点
電力各社(旧一般電気事業者 10 社:東京電力ホールディングス、中部電力、関西電力、中国電力、北陸電
力、東北電力、四国電力、九州電力、北海道電力、沖縄電力)の 23/3 期決算および 24/3 期業績予想を踏まえ、
株式会社日本格付研究所(JCR)の現況に関する認識と格付上の注目点を整理した。
1. 業界動向
23/3 期の電力需要は前期比減少に転じた。電力広域的運営推進機関の需要実績によると、22 年 4 月〜23 年
3 月における全国エリア需要は前期比 1.7%のマイナスとなった。
月次でみると、
前半はおおむね前年同月比プ
ラスで推移した。後半に入ると省エネ活動が続く中、暖冬や節電の影響が加わり、前年同月比弱含んだ。ただ、
今後はコロナ禍からの経済活動の正常化に伴う生産活動の回復や観光客の増加などにより、電力需要は持ち直
していくとみられる。
競争面では、21 年夏をピークに新電力のシェアが低下傾向にある。23 年 1 月の新電力の販売電力量シェア
(全体)
は 18.8%
(ピーク時、
21 年 8 月 22.6%)。需要分野別でみると、
低圧分野 24.0%
(同、
22 年 8 月 27.5%)、高圧分野 19.7%(同、21 年 7 月 29.2%)
、特高分野 6.8%(同、21 年 8 月 11.4%)
。卸電力取引市場価格の高騰
を受け、新電力の経営が悪化し、事業縮小・撤退を余儀なくされたことが理由として挙げられる。燃料や卸電
力取引市場価格の変動性の上昇を考慮すると、当面の競争は落ち着くものと想定される。
2. 決算動向
23/3 期業績は厳しい結果となった。電力 10 社合計で見ると、10 社単純合算の売上高は電力料金の上昇によ
り、25 兆 4,235 億円(前期比 41.7%増)と増収となった。一方、同経常損益は 8,139 億円の赤字(前期は 269
億円の黒字)
。企業別でみると、中部電力を除く 9 社が経常赤字となった。歴史的に見ても、過去最大もしくは
東日本大震災以降、過去最大の赤字幅を計上した。燃料及び卸電力取引市場価格の高騰による電力供給コスト
の増加に加え、燃料費調整(燃調)制度において、電気料金に転嫁できる上限価格を超過した費用の負担など
が業績を圧迫した。他方、中部電力では販売事業会社の中部電力ミライズで電源調達ポートフォリオの見直し
等が功を奏し、経常黒字を確保した。また、業界内でみると原発の稼働状況如何で、業績の悪化度合いに差が
生じた。
財務構成は大幅に悪化。
23/3 期末では、
高価格の燃料調達に伴う運転資金の負担を背景に有利子負債が増加
する一方、10 社中 8 社が最終赤字に陥り、自己資本を毀損した。10 社合計の自己資本比率は 23/3 期末 19.0%
(22/3 期末 21.1%、各社ハイブリッド証券の資本性考慮せず)となった。ただし、近年は資本性のある資金調
達を実施することで、財務構成へのマイナス影響の抑制に取り組む事業者が複数見られる中、規模の大きい東
京電力ホールディングス、中部電力および関西電力の自己資本比率の低下幅は比較的小さかった。反面、その
他事業者の悪化幅が大きかった。
3. 業績予想における格付上の注目点
23 年 4 月末時点では、中部電力、関西電力および九州電力 3 社が 24/3 期の業績予想を公表した。中部電力
では、期ずれ差損の解消や送配電事業における託送料金見直し効果が増益に寄与する見込みである。関西電力
や九州電力は原発の再稼働で先行しており、燃料費などの負担減や期ずれ差損の解消などが経常黒字転換の主
因とみられる。
その他事業者については、規制料金の認可が下りることで、24/3 期の業績予想の公表が相次いでいる。燃料
価格が調整局面にあり、期ずれ差損が解消に向かう中、自由料金分野でのメニュー改定や規制料金分野での価
格改定の効果が収支改善を後押しするとみられる。コロナ禍からの電力需要の回復、新託送料金制度の導入、 2/3Copyright © Japan Credit Rating Agency, Ltd. All Rights Reserved.
新電力の競争力低下など、収益環境のプラス要素が今後顕在化してくる見込みである。総じて、各社の業績は
改善に向かうと JCR ではみている。
23/3 期は深刻な経営環境に置かれたが、諸制度の問題点が浮き彫りとなった。燃調の上限撤廃、料金原価に
おける電源構成の見直し、自由料金分野の標準メニューの改定など、収益構造の強化を促し、今後の業績回復
や収支安定化に資すると考えられる。利益蓄積を中心とした財務基盤の回復も見込めることも格付のプラス要
因といえる。一方、過去 1〜2 年で自己資本の毀損と有利子負債の増加が進んだ。原発の安全投資や脱炭素投
資を控える中、財務余力が低下していることは一定の留意を要する。
近時の業績を受け、業界各社の多くが財務体質強化を経営の優先課題として取り上げている。今後の注目点
は、まずは電気料金の価格改定効果と連結損益の回復度合いである。業績回復を軌道に乗せることが重要であ
る。次に自己資本の水準である。23/3 期末の自己資本比率が 10%台前半まで低下した事業者が複数みられる。
追加的な損失を吸収する財務耐久力が低下していることは否めないため、配当政策やハイブリッド証券の活用
など、財務基盤の強化に対する巧拙が問われる。
(担当)殿村 成信・小野 正志
(図表)電力各社の連結業績の推移 (単位:億円、%)
決算期 売上高 前期比 経常損益 前期比 当期損益 自己資本比率
東京電力 HD 22/3 期 53,099 - 422 - 29 24.8
(9501) 23/3 期 77,986 46.9 -2,853 - -1,236 22.8
24/3 期予 - - - - - -
中部電力 22/3 期 27,051 -7.8 -593 - -430 32.7
(9502) 23/3 期 39,866 47.4 651 - 382 31.9
24/3 期予 37,000 -7.2 2,800 329.8 2,300 -
関西電力 22/3 期 28,518 -7.8 1,359 -11.6 858 19.2
(9503) 23/3 期 39,518 38.6 -66 - 176 20.4
24/3 期予 43,000 8.8 4,250 - 3,050 -
中国電力 22/3 期 11,366 -13.1 -618 - -397 17.0
(9504) 23/3 期 16,946 49.1 -1,067 - -1,553 11.1
24/3 期予 20,410 20.4 800 - 590 -
北陸電力 22/3 期 6,137 -4.0 -176 - -67 19.6
(9505) 23/3 期 8,176 33.2 -937 - -884 12.9
24/3 期予 - - - - - -
東北電力 22/3 期 21,044 -8.0 -492 - -1,083 14.8
(9506) 23/3 期 30,072 42.9 -1,992 - -1,275 10.5
24/3 期予 - - - - - -
四国電力 22/3 期 6,419 -10.7 -121 - -62 20.8
(9507) 23/3 期 8,332 29.8 -225 - -228 18.3
24/3 期予 - - - - - -
九州電力 22/3 期 17,433 14.5 323 -41.3 68 12.1
(9508) 23/3 期 22,213 27.4 -866 - -564 10.4
24/3 期予 22,500 1.3 1,200 - 900 -
北海道電力 22/3 期 6,634 13.4 138 -66.4 68 13.7
(9509) 23/3 期 8,888 34.0 -292 - -221 11.7
24/3 期予 - - - - - -
沖縄電力 22/3 期 1,762 - 27 -76.0 19 35.7
(9511) 23/3 期 2,235 26.8 -487 - -454 23.4
24/3 期予 2,347 5.0 56 - 40 -
22/3 期 179,467 -6.3 269 -96.4 -996 21.1
10 社合計 23/3 期 254,235 41.7 -8,139 - -5,860 19.0
24/3 期予 - - - - - -
(注) 24/3 期予想は会社予想
(注) ハイブリッド証券の資本性勘案せず
(出所)各社決算資料より JCR 作成 23 年 5 月 24 日現在 3/3Copyright © Japan Credit Rating Agency, Ltd. All Rights Reserved.
【参考】
発行体:東京電力ホールディングス株式会社
長期発行体格付:A 見通し:安定的
発行体:中部電力株式会社
長期発行体格付:AA 見通し:安定的
発行体:関西電力株式会社
長期発行体格付:AA 見通し:安定的
発行体:中国電力株式会社
長期発行体格付:AA 見通し:安定的
発行体:北陸電力株式会社
長期発行体格付:AAp 見通し:安定的
発行体:東北電力株式会社
長期発行体格付:AA 見通し:安定的
発行体:四国電力株式会社
長期発行体格付:AAp 見通し:安定的
発行体:九州電力株式会社
長期発行体格付:AA- 見通し:安定的
発行体:北海道電力株式会社
長期発行体格付:AA-p 見通し:安定的
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