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24-D-0165
2024 年 5 月 21 日
トランジションに関する日欧比較
Natixis & JCR 共著
株式会社日本格付研究所(JCR)は、Natixis CIB*1
と共同し、日本と EU のトランジション(脱炭素社会への
移行)に対するアプローチを比較研究した記事をまとめましたのでお知らせします。
〜要約〜
トランジション(脱炭素社会への移行)は、世界中で脱炭素化に取り組む際に重要な概念であ
る。一方で、トランジション関連の金融商品やサービスを定義、特定、設計する際には、国境を
超えた議論が生じ、その結果、ラベルやコンセプトが競合したり矛盾したりする可能性がある。
現状では、グローバルに統一された定義がないため、地域によってトランジションの取り組みが
大きく異なってしまうリスクがある。トランジションはテーマだろうか、金融商品のラベルだろ
うか、市場のサブコンポーネントだろうか、一連の特定の方法論的ツールか、それとも「フリー
サイズですべてに適合するグリーン基準」を却下し、より低い脱炭素化のペースや要件に対応す
るための取り組みだろうか?
Natixis Mr. Menard Olivier, Ms. Leisa SouzaとJCR梶原敦子が、トランジションファイナン
スの日欧の共通点と相違点について比較し、今後のトランジションファイナンス拡大の可能性を
探る。
*1 ナティクシスのコーポレート&インベストメント・バンキング部門 「ナティクシス CIB」は、フランス第 2 位の
金融グループである BPCE グループのグローバル・フィナンシャル・サービス 部門の中核として、世界 35 ヵ国
にわたり業務を展開しています。
(本件に関するお問合せ先)
株式会社日本格付研究所
サステナブル・ファイナンス評価本部
TEL:03-3544-7016
トランジションファイナンスに関する
「多義性」を解決するには?
トランジション(脱炭素社会への移行)は、世界中で脱炭素化に取り組む際に重要な概念である。一方で、トラ
ンジション関連の金融商品やサービスを定義、特定、設計する際には、国境を超えた議論が生じ、その結果、ラベ
ルやコンセプトが競合したり矛盾したりする可能性がある。現状では、グローバルに統一された定義がないため、地
域によってトランジションの取り組みが大きく異なってしまうリスクがある。トランジションはテーマだろうか、金融商
品のラベルだろうか、市場のサブコンポーネントだろうか、一連の特定の方法論的ツールか、それとも「フリーサイズ
ですべてに適合するグリーン基準」を却下し、より低い脱炭素化のペースや要件に対応するための取り組みだろうか?共通のゴールに向かって
世界が 2030 年までに排出量を半減し、2050 年までに実質ゼロを達成するには、経済のあらゆる部門の脱炭素化が
不可欠である。このパラダイムシフトには、テクノロジーだけでなく、農業生産、発電、輸送システム、産業プロセスなど
の重要な社会経済活動にわたる実践においても、大幅な変革が必要だ。一部のセクターは脱炭素化がより困難で、
特にコストが高く、時間がかかる。利用可能な炭素収支が縮小しているため、温室効果ガス排出量を直ちに削減す
ることが急務となっている。管轄区域は、その独自の状況、経済構造、資源の利用可能性(自然、資本、技術)
がさまざまな障害を引き起こすため、必要な変革を実現する上でさまざまな課題に直面している。 2050 年のネットゼ
ロに向けた個々の道筋は、各国の出発点が異なるためその過程が異なる可能性があるが、いずれも 1.5 °Cという同じ
共通目標を維持する必要がある。
トランジションファイナンスを定義する
現在、トランジションファイナンスが何を意味するかについての普遍的な定義は存在しない。トランジションとは、炭素集
約的な事業会社や経済活動、特に産業(セメント、化学、鉄鋼、鉱業、石油・ガス)や輸送(海運、道路、航空)
などの削減が難しい部門の脱炭素化であると広く理解されている。国際証券市場協会 (ICMA) は、トランジションをラ
ベルではなくプロセスまたは軌跡として言及することがよくある。新しいタイプのラベルのガイダンスを作成する代わりに、
ICMA は 2020 年にクライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブックを発行した (2023 年に更新)。このハンドブック
では、発行体レベルでの気候変動戦略の策定、資金使途及び KPI にリンクする商品の役割が強調されている。
トランジションのための資金調達
EU と日本は両国とも1
、グリーン活動および移行期のグリーン活動への資本の動員を含む規制の枠組みを導入してい
る。 EU は 2019 年に、気候、環境、エネルギー、交通、産業、農業、持続可能な金融にわたる取り組みを通じて温
室効果ガス排出量を削減し、2050 年までにカーボンニュートラルを達成することを目的としたグリーンディールを採択し
た。EU の持続可能性への取り組みを推進するための主要な規制ツールは、グリーン・カテゴリーと企業および投資家
への開示要件である。日本は 2023 年に(前回の 2021 年グリーン成長戦略に基づく)グリーントランスフォーメーショ
ン(GX)方針を採択し、エネルギー、交通、建築環境、産業、金融にわたる取り組みを通じて 2050 年までにカーボ
ンニュートラルを達成することを目指している。 EU とは異なり、日本にはタクソノミーはないが、技術開発に焦点を当て
た脱炭素化の取り組みを導くための政策と技術のロードマップを策定した。
EU と日本におけるトランジションファイナンス
EU と日本は概念的にはトランジションについて同様の理解をしているが、実施方法が異なる。欧州委員会の 2023 年
持続可能な金融パッケージによって提案された定義では、トランジションファイナンスを、設定された期間内における現
在の気候パフォーマンスレベルから気候中立的なパフォーマンスレベルへの変革プロセスとして理解している。委員会が
定めた勧告では、トランジションに資金を提供するために使用できる手段、特にグリーン、サステナビリティ、サステナビリ
ティ・リンク・ボンド/ローンがある。より重要なのは、トランジションのためのプロセスや経路である。 日本はトランジション
ファイナンスを、温室効果ガス排出削減を目指す企業等の資金調達と理解している。 同国は、ICMA のクライメート・
トランジション・ファイナンス・ハンドブックを参照した独自のトランジションファイナンスに係るガイダンスを制定し、GHG 排
出量の削減が難しいセクターにおける発行体レベルの移行を促す金融商品として、資金使途特定型と資金使途不
特定型の両方でトランジションファイナンスを実行できることとした。日本はでラベルとしてのトランジションファイナンスとい
う定義を重視している。1米国では 2022 年にインフレ抑止法(IRA)を通じて同様のフレームワークが実施されている。
表 1 EU と日本のアプローチの概要 1
欧州連合 日本
トランジションファイナンスの
条件
• 技術的または経済的に実行可能な環
境に優しい代替手段がない
• 業界標準を超えた取組の強化が求め
られる
• 排出量の多い資産やプロセスへのロック
インを回避する必要がある
• 将来のグリーン活動の展開を妨げては
ならない
• トランジション戦略の策定
• SBTi、IPCC、IEA、日本の NDC などの科
学ベースの目標のいずれかに合わせる
• GHG 排出量の高い技術へのロックインを
回避する必要がある
• 公正な移行を含む、環境や社会へのあ
らゆる負の影響の可能性の考慮
• 2030 年、2050 年の GHG 排出削減目
標達成に向けた中期投資計画を開示
脱炭素化の軌跡 • 1.5oC およびネットゼロ • パリ協定とネットゼロ
マイルストーン • 2030 年、2050 年 • 2025 年、2030 年、2040 年、2050 年
基準/要件 • テクノロジーに依存しない
• 炭素強度の閾値
• DNSH
• 総排出量削減目標
• 技術開発
経済セクター及び低炭素テ
クノロジー
*EU にはテクノロジーに関
するタクソノミーがある
日本には 2050 年までの技
術ロードマップがあるが、タ
クソノミーではない
• 製鉄・製鋼(溶銑、焼結鉱、コーク
ス、鋳鉄、電気炉 – 高合金鋼、炭素鋼)• 化学物質 (HVC、芳香族化合物、塩
化ビニル、スチレン、エチレンオキシド/エ
チレングリコール、アジピン酸)。
• エネルギー(再生可能エネルギー、原
子力、電力貯蔵、水素貯蔵、天然ガス)• アンモニアの製造
• アルミニウム製造
• 水素製造
• 鉄鋼(高炉、ストランド鋳造〜圧延、電気
アーク、直接還元)
• 化学品(ナフサ分解、原料切り替え、最終
製品、リサイクル、無機化学品)
• 電力(アンモニア、水素、CCUS、再生可能
エネルギー、原子力、DR、貯蔵)
• ガス(合成メタン、グリーン LP ガス、水素、
バイオガス、アンモニア、CCUS)
• 石油(水素やアンモニア、バイオ燃料、合
成燃料などの再生可能クリーンエネルギーへ
の切り替え)
• パルプと紙 (高効率パルプ製造、分離リグニ
ン、効率化プロセス、CO2 回収と吸収)
• セメント(省エネ・効率化プロセス、原料転
換、バイオマス熱エネルギー、CCUS)
• 自動車(蓄電池、合成燃料、充電インフ
ラ、水素ステーション、バイオ燃料)
トランジションを支援するた
めに要するサステナブルファ
インスに関連する金融商品
• グリーン、サステナビリティボンド/ローンお
よび SLB/SLL
• トランジションボンド/ローン
• グリーンおよびサステナビリティボンド/ローン
出典: 2020 EU Taxonomy。 2023 年 EU 持続可能金融パッケージ、2021 年経済産業省気候変動金融基本ガイドライン、 2021 年の経済産業
省テクノロジーロードマップ。
トランジションファイナンスにおける多義性を解決する必要性
EU と日本のトランジションアプローチには概念的な大きな違いがある。 EU と日本は全体的な理論的根拠は同じだが、
トランジション・セクターとテクノロジーをどのように認定するかという点で重要な根本的な違いがある。 普遍的な定義は
ないものの、市場は、炭素の固定化につながる可能性があり、排出削減につながらない技術への依存に挑戦している。
統一されたアプローチを作成することは、さまざまな地域がトランジションファイナンスとそれをどのように拡大するかについ
て共通理解を持つために重要である。 緩和が難しい分野でのトランジションファイナンスを大規模に実行するには何が
適格なのか、またグリーンウォッシングに対する懸念にどのように対処するのかについて同じ見解を持つことが重要となる
だろう。地域の優先事項とトランジションの課題を把握する必要があるが、課題に対して挑戦を続けなければならない。
日本と欧州連合の発展と、それらがどのように収束/分岐するのかをより明確にするために、日本格付研究所
(JCR)とナティクシス CIB のグリーン・アンド・サステナブル・ハブにより、トランジション、トランジションの進捗状
況、種類、使用されるアプローチと手段、そして成長をして規模を拡大させていくために必要なギャップなどについて
以下の通り議論を行った。
レイザ・ソウザ
Green & Sustainable
Finance Expert
ナティクシス
オリビエ・メナルド
Head of the Green &
Sustainable Hub, APAC
ナティクシス
梶原 敦子
常務執行役員 兼 サステナブル・
ファイナンス評価本部長
日本格付研究所
パート I
質問:なぜ日本はトランジションに焦点を当てることにしたのですか? トランジショ
ンはどのように定義され、セクター/プロジェクトや資産の選択にどのような影響を
与えるのでしょうか?
JCR 梶原: 日本は産業部門(排出量の 30% が産業によるもの)からの排出が大規模であるため、削減が困難な部
門の(脱炭素への)トランジションの努力を支援することが最優先事項の 1 つであると考えています。その理由は、ト
ランジションの経路にはネットゼロに到達するための非連続的な革新的な技術が必要ですが、これは直線的に進むも
のではなく、簡単に達成できないためです。既存のテクノロジーだけでは、すべての分野でカーボンニュートラルを実現す
るのに十分ではありません。たとえば、水素やアンモニアなどの新しいクリーン・エネルギー・ソリューションがなければ、産
業プロセスでネットゼロを到達することはできません。トランジションファイナンスを促進するために、政府は削減が困難な
主要 10 分野における 2050 年 CN までの技術ロードマップを開発し、2021 年にこれらの分野におけるトランジションフ
ァイナンスのモデル事業を創出しました。
日本におけるクライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針を策定する際には、ICMA のクライメート・トラン
ジション・ファイナンス・ハンドブック(CTFH)を参照しています。 その際、グリーンボンド/ローンまたはサステナビリティ・リンク
ボンド/ローンの「トランジションラベル」が導入されました。これは削減が困難なセクターによって資金調達され、その資
金使途には革新的な研究開発や脱炭素化への新たな設備投資が含まれます。 基本指針は、従来のグリーンボンド
の資金使途を拡大して、革新的な研究開発に重点を置いたり、市場のトランジションへの注目を加速させたりするこ
とを目的としています。
質問:トランジションに対する EU のアプローチは異なりますか? どのようなアプロ
ーチが採用されており、どのセクター/プロジェクトや資産が優先されていますか?
ナティクシス レイザ・ソウザ:日本とは異なり、EU ではトランジションファイナンスはラベルとしてではなく、むしろテーマと
して採用されています。 この地域の中長期的な排出削減目標を達成することは、根底にあるテーマです。 これは、持
続可能な経済への移行に向けた金融の促進に関する欧州委員会の 2023 年 6 月の持続可能な金融パッケージに
反映されています。 これには、持続可能な活動のための EU Taxonomy の使用、トランジション計画の開発、資金使
途を特定しない債券及びローンと、グリーンおよび持続可能性に資金使途を特定した債券及びローンが含まれます。
全体として、市場にはすでに十分なサステナブルファイナンスに関連するラベル/フォーマットがあり、トランジションラベルに
対する強い意欲や推進はないという共通の理解があります。 これは、特に緩和が難しいセクターにおいて、トランジショ
ン関連の取引が企業によって実行されなかったり、投資家によって求められていないことを意味するものではありません。
ナティクシスが市場で目にしたのは、ICMA 原則に沿った、石油・ガス、金属・鉱業、航空、ソフトコモディティー、食品・
飲料などを含むさまざまなセクターにわたる、排出量削減を目的とした資金使途不特定型の資金調達です。当社は、
トランジションは、明確な開始点と到着点を持って、炭素が制約された世界に適応するために事業体がビジネスモデ
ルと活動を変革することを必要とする暫定的なプロセスであると理解しています。 これは、トランジションが企業の全体
像と変革のニーズを評価する企業レベルの概念であることを意味します。だからこそ、トランジションを実行する企業は、
企業の全体的な KPI にリンクする形だが資金使途を特定しない資金調達を広く利用してきたのです。一方で、事業
体レベルでの低炭素社会実現への目標を実現するために、投資を行わないといけないことは明らかであり、この問題
を取り組むための重要なてこの役割を果たすと考えられます。したがって、ラベル付けされているか否かに関わらず、金
融商品の資金使途に使われるトランジションというテーマとしての理論上の正当性を示しております。(現在の EU の
タクソノミーのように広範で詳細かつ科学的根拠に基づいた)精緻でダイナミックなトランジション・タクソノミーの欠如に
より、このようなアプローチは、「トランジション・ウォッシング」、あるいは少なくとも必要以上に遅いペースのトランジション
であると言及される可能性に特にさらされています。それゆえ、トランジションを事業体レベルで取り組み、(設備投資
を含む)あらゆる手段でもって脱炭素化目標を支援することが行われています。
パート II
質問:日本の企業が信頼できるトランジション計画を示す方法に影響を与える
独自の要因はありますか?また、それらはトランジションファイナンスにどのような影
響を与えますか? 日本が採用した方法論/指標に対して、国際市場関係者からど
のようなフィードバックが得られましたか?
JCR 梶原: 表 1 に示すように、政府は削減が困難な分野を対象とした 2050 年までの優先技術ロードマップを策定し
ているため、他国と比較して日本の企業はトランジションファイナンスの資金使途を選択することが容易です。 また、日
本企業はその信頼性を示すため、移行計画を高い透明性をもって開示することが求められます。 例えば CTFH では、
スコープ 1、2、および 3 の GHG 排出量、2030 年のマイルストーンと 2050 CN 達成の宣言、ネットゼロへの移行のガバ
ナンス、移行経路が科学に基づいた目標 (SBTi、SBTi、 IPCC、IEA など)、可能であれば、NDC または日本のセクター
ロードマップ、少なくともグリーンプロジェクトの設備投資の中期投資計画の開示が求められています。
実は GX 国債も上記の要素を開示しています。 GX 国債フレームワークによる日本の移行パッケージを欧米の投資家
に説明したところ、このフレームワークは信頼性の高いトランジション政策を有しており、エネルギー移行、産業、運輸、
運輸などの様々な分野への追加性があるなど、非常に肯定的なコメントをいただいております。クライメート・ボンド・イ
ニシアティブの最高経営責任者(CEO)ショーン・キドニー氏はプレスリリースで次のように述べています。「この債券は、
政府などがその移行に投資する資金をどのように調達できるかを明確に示しており、トランジションファイナンスにおける
重要なマイルストーンとなるでしょう。」2
2Climate Bonds Initiative (CBI)(2024). 日本では 11 億ユーロ相当のクライメート・トランジション・ボンドが発行される予定である。
質問:EU と日本のアプローチを考慮して、違いを乗り越える企業や投資家にとっ
て課題はありますか? このようなギャップは国境を越えた投資に影響を与える可
能性があるでしょうか?
ナティクシス オリビエ・メナルド: ヨーロッパと日本のアプローチの間の主なギャップの 1 つは、解釈と、既存のサステナブ
ルファイナンスに関連する商品がトランジションの勢いをどのように包含するかであるようです。 資金調達をどのような形
式で行うかは、その事業体がトランジションをどのように行っていくと説明できるか、より具体的には企業支出の中身や
企業内部のトランジションの時間軸をどう説明できるかによります。EU では、グリーン債、サステナビリティ債、サステナビ
リティリンク債/ローン、さらには株式等が、事業体のトランジションにかかわる資金調達に貢献する手段として認識され
ております。実際、環境に配慮したトランジション商品の発行は、その多様化と実現という観点から、トランジションの
実証を支援しています。形式に関係なく、根本的な問題は、発行体が温室効果ガス排出削減を支援する科学的
根拠に基づいた目標を持ち、信頼できる気候変動計画/戦略を持っているかどうかです。 当社は欧州で情報開示規
制を通じて強化されつつある、公のトランジションの計画の策定がますます重視されるようになってきていると認識してお
ります。
トランジションアクティビティを定義する根拠も、EU と日本のもう一つの違いのようです。 持続可能な活動のための EU
Taxonomy は、投資家や広範な市場に対して、活動の適格性を定義する基準としてしばしば引用されます。多くの投
資家は独自の投資基準を持っていますが、タクソノミーは、技術的なスクリーニング基準として、科学的証拠に基づい
て経済活動の平均炭素強度の閾値を設定しているため、有用なベンチマークとなっています。EU taxonomy は、特に
DNSH(Do No Significant Harm) に関する技術的スクリーニング基準に関して EU の法律に大きく依存しており、100 以
上の活動をカバーしているため、EU Taxonomy はすべての地域に適用できるわけではないことを理解しています。した
がって、各地域のタクソノミーがある場合は、それらを使用するだけでなく、Science-Based Target Initiative (SBTi) などの
他のツールも使用して、取引が確実に 1.5°C の軌道に沿って行われるようにすることがあります。私たちは常に、緑と茶
色の色合いと総合的な基準を組み込んだ事業体レベルでのトランジションファイナンス・フレームワークの必要性を主張
してきました。市場には、信頼できるトランジションを達成するための基本原則を設定する重要なガイダンスがすでに存
在します。ネットゼロの未来に沿っていない活動の囲い込みを避けるために、大幅な排出量削減が優先され、確実に
達成されるように、これらを強調することが重要です。
パート 3
質問: 日本政府はそのような取り組みや投資をどのように支援していますか?
日本でよく使われている金融商品は何ですか? 国の優先分野/目標 (GX 政策な
ど) に対してどのように取り組んでいますか?
JCR 梶原: 2021 年以降、政府は民間セクターにおけるトランジションファイナンスを奨励しており、日本では、緩和が難
しいセクターがトランジション計画のためにグリーン/トランジションおよび/またはサステナビリティリンクなどのラベル付きファ
イナンスによって資金調達するのが一般的です。さらなる投資を加速するため、政府は今後 10 年間に 20 兆円(約
3000 円)のGX 経済移行債を発行する計画です。資金使途は、革新的な研究開発プログラムに加え、住宅設備、
電池、半導体などのすでに確立されているエネルギー効率の高い機器に対する補助金プログラムをサポートします。日
本は中間製品の製造において国際競争力を持っています。したがって、これらの補助金は社会の温室効果ガス排出
削減を促進しながら、同時に日本企業の国際競争力を維持することが期待されます。
カーボンニュートラルを達成するためのもう 1 つの重要な手段は、いわゆる成長促進型カーボンプライシング・コンセプト
の導入です。 政府は、さまざまな支援プログラムを備えた GX 国債を発行することで企業のゼロカーボンへの取り組み
を支援した後、早期の GX 投資を奨励するためにカーボンプライシングを導入します。炭素排出権取引制度などの炭
素価格制度、発電事業者への割増金入札、化石燃料供給に対する GX 課徴金などの収益は、GX 国債の返済に
活用される予定です。
質問:EU の広範な持続可能な金融市場は国際的なアプローチをどのように評
価していますか、また市場はそのような投資をどのように奨励していますか?
ナティクシス オリビエ・メナルド:多数の規制要件があるため、より広範な欧州のサステナブルファイナンス市場が、国
際的なアプローチが地域で実施されているものとどのように連携しているかを評価するのは自然なことです。これは、技
術的なスクリーニング基準が EU の分類法とどのように比較されるのか、また企業がすべての排出範囲 (1-3) をカバーす
る移行計画を公表しているかどうか、またこれらが短期、中期、長期の削減目標で対処されているかどうかを理解する
ことを意味します。 規制要件はあるものの、トランジションファイナンスに関しては、ほとんどの金融機関がベストマーケッ
トプラクティス、主に国際資本市場協会(ICMA)が定めた推奨事項に従っています。 ある意味では、トランジション
をテーマとした市場を合理化し、投資家にとってより受け入れやすいものにするのに役立つ共通言語がすでに存在しま
す。
欧州ではグリーン債、サステナビリティ債、またはサステナビリティリンク債に区別はありませんが、ヨーロッパのサステナブル
ファイナンス市場ではグリーンラベルが最もよく使われているにもかかわらず、トランジションの手段としては炭素集約型セ
クターではサステナビリティリンク債が好まれる手段であるようです。そのため、Key Performance Indicators(KPI)の重要
性と、それらが実際に中核となる排出範囲に対応しているかどうかに、より大きな焦点が向かうと考えています。 ラベル
は投資家にとって重要な指標ですが、グリーンウォッシングの主張を回避するために企業が求められる慣行を実施して
いるかどうかを確認することに注目することが重要です。前述したように、これには、科学に基づいた目標と重要な主要
業績評価指標、その目標達成に貢献する要素の十分な開示を備えた、1.5°Cの軌道に基づく移行計画の策定が含
まれます。この明確な枠組みを持つことで、国際的なアプローチを評価することが容易になります。
パート IV
質問: 日本と EU のトランジションの見通しはどうですか? 今後数年間でどのように
進化すると予想されますか?
JCR 梶原:日本は今後 10 年間で 20 兆円の GX 国債発行を契機に、民間金融セクターから 130 兆円を動員し、
日本のグリーントランスフォーメーションを実現する予定です。 2024 年 2 月 14 日と 27 日に発行された最初の GX 国
債は、1.5 度の公約に沿った気候変動債としてクライメート・ボンド・イニシアティブ(CBI)によって認定されました。 ブルー
ムバーグもこの債券をグリーンに分類しました。 これらは、トランジションファイナンスも広義のグリーンファイナンスの定義
に含めるべきであるという市場への極めて重要なメッセージです。 この債券で「Greenium」が観察されたことも注目に値
します。
通常のグリーン債と比べ、発行体には詳細なトランジション計画の開示が求められるため、投資家は発行体とのトラン
ジション計画に関するコミュニケーションツールの一つとしてトランジションファイナンスを活用することが期待されます。 多
くの次世代技術は 2030 年までに商用化されると予想されています。これらの技術は、日本のような製造業が産業構
造の大きな部分を占める国に新たな脱炭素ソリューションを提供するでしょう。 こうした日本のトランジションへの取り組
みが、2050 年のカーボンニュートラル達成に向けて課題に直面しているアジアを中心とした他の国々にも広められるこ
とを期待しています。
ナティクシス レイザ・ソウザ:欧州連合は、2050 年までのネットゼロに向けた移行の指針となる明確な政策と規制の
枠組みを定めています。 トランジションのテーマは、エネルギー、運輸、農業、工業、イノベーション、金融分野に組み
込まれており、今後数年間で、脱炭素化、情報開示、ラベルに関する設定要件の多くが導入される予定です。 欧州
のトランジションの焦点は環境に優しいものでしたが、過去 2 年間で戦略的自治、産業競争、イノベーションなど、この
地域の他の中心的なトピックが浮上しました。 これはまた、欧州でサステナブルファイナンスを活用しているセクター、特
に産業部門や重要なサプライチェーンの多様化をさらに進める必要性を浮き彫りにしています。 テーマとしては、トラン
ジションはサステナブルファイナンス市場を引き続き支えていくでしょう。 トランジションの活動に明確に対処するために拡
張された Taxonomy に関する議論を再度行うことで、必要な活動の種類と軌道について市場にさらなる指針を提供
できる可能性があります。 それまでの間、金融機関は、緩和が難しいセクターに必要な変化をもたらすためのエグジッ
トファイナンスなど、トランジションに焦点を当てた革新的な手段を提供することができるでしょう。

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