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2024 年 5 月 14 日
小売グループ大手各社の 24/2 期決算の注目点
小売グループ大手 2 社
(セブン&アイ・ホールディングス
(セブン&アイ、
証券コード:3382)、イオン
(同:
8267)
)の 24/2 期決算および 25/2 期業績予想を踏まえ、株式会社日本格付研究所(JCR)の現況に関する認識
と格付上の注目点を整理した。
1. 業界動向
23 年度のチェーンストア既存店売上高は、
前年度比 3.7%増
(22 年度は同 1.0%増)
と 4 年連続の増加となっ
た(日本チェーンストア協会)
。品目別にみると食料品は、節約志向により買上点数が減少したものの、値上げ
による一品単価の上昇により同 5.0%増であった。一方、衣料品は、天候不順の影響から同 0.7%減と伸び悩ん
だ。住関品は同 3.7%増であり、外出需要の増加などから、年間を通じて堅調に推移した。
小売各社の業績は総じて堅調に推移している。コンビニエンスストア(CVS)では、人流の回復や原材料価
格の高騰による値上げなどから来店客数および客単価がともに伸び、平均日販が上昇している。総合スーパー
(GMS)やスーパーマーケット(SM)でも、人件費などコスト増が続いたものの、客単価の伸びを主因に、多
くの企業で既存店売上高が増加している。ショッピングセンターの業績は、外出需要の増加などにより改善傾
向にある。
セブン&アイ、イオンとも、将来の成長を見据えたグループ戦略を展開している。セブン&アイでは、海外
における CVS 事業の強化方針を打ち出している。
北米 CVS 事業ではオリジナル商品の強化、
7-Eleven,Inc.
(SEI)
と Speedway の統合シナジー創出、M&A などを進めている。また、グローバル CVS 事業でも、25 年度までに日
本および北米を除く地域で 5 万店、30 年度までに日本および北米を含めた全世界で 30 の国と地域での店舗出
店を目指し、新規市場への進出、既存展開国の支援などに取り組んでいる。国内 CVS 事業では、24 年 2 月に
従来の CVS 店舗よりも売場面積が広く、アイテム数を拡大した新コンセプト店舗「SIP ストア」がオープンし
た。
そこで効果が出ている商材を既存店舗に展開し、
更なる成長を図っている。
その一方、
イトーヨーカ堂(IY)では自社が運営するアパレル事業からの完全撤退、店舗閉鎖など収益性改善への取り組みを実施している。IY
を含むスーパーストア事業については、持続的成長のための有力な選択肢の一つとして、現実的に最速のタイ
ミングでの IPO に向けた検討開始が公表された。
24 年 2 月、
イオンとツルハホールディングス
(ツルハ HD)、ウエルシアホールディングス
(ウエルシア HD)
は、経営統合の協議を開始することで合意し、資本業務提携契約の締結を公表した。27 年 12 月末までに、ツ
ルハ HD とウエルシア HD との経営統合を目指すとしている。経営統合が実現すれば、イオングループ内にお
けるヘルス&ウエルネス事業の重要度が増し、主力的な位置付けとなる。また、首都圏における SM 事業の基盤
強化に向けて、23 年 4 月に持分法適用関連会社いなげや、連結子会社ユナイテッド・スーパーマーケット・
ホールディングス(U.S.M.H)と「関東における 1 兆円の SM 構想」実現のための経営統合に向けた基本合意書
を締結した。イオンは、23 年 11 月にいなげやの議決権の 51%を上限とした株式公開買付けにより、同社を連
結子会社とした。24 年 11 月末には U.S.M.H といなげやとの経営統合を予定している。
2. 決算動向
24/2 期決算はセブン&アイが減収営業増益、
イオンが増収営業増益となった。
両社とも営業利益は過去最高
益を更新した。
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セブン&アイの営業収益は、海外 CVS 事業におけるガソリン価格下落などが影響し、11 兆 4,717 億円(前
期比 2.9%減)と 3 期ぶりの減収であった。一方、営業利益は 5,342 億円(同 5.5%増)と 3 期連続の増益、2
期連続で最高益を更新した。セグメント別では国内および海外 CVS 事業、スーパーストア事業、金融関連事業
ともに増益であった。国内 CVS 事業のセブン-イレブン・ジャパン(SEJ)は 2 期連続の増益となった。外出需
要の増加に加え、来店を促す各種フェアの積極的な開催などが奏功した。海外 CVS 事業の SEI は、ガソリンの
価格下落および販売量減少などの影響を受け、ドルベースでは減益となったものの、円安の進行から円ベース
では増益となった。
一方、
IY は、
ヨークとの合併など収益性改善に向けた施策を推進したが、
プロセスセンター
やセントラルキッチンなど戦略投資インフラの整備に伴うコスト増加により、営業赤字であった。
イオンの営業収益は 9 兆 5,535 億円(前期比 4.8%増)
、営業利益は 2,508 億円(同 19.6%増)と 3 期連続の
増収増益であった。営業利益は 4 期ぶりに最高益を更新した。セグメント別にみると、GMS 事業、SM 事業が
全体をけん引した。GMS 事業の中核であるイオンリテールは、プライベートブランド商品のトップバリュの売
上増、デジタルを活用した生産性向上などの効果により増益となった。SM 事業でもトップバリュの拡販、自
動発注システムの導入といった業務効率化の推進などによりコスト増を吸収し、3 期ぶりの増益となった。
24/2 期末の財務状況をみると、セブン&アイの自己資本比率は 35.1%(前期末 32.9%)と上昇した。長短
借入金、社債の減少などがその要因である。イオンの自己資本比率は 8.1%(同 8.0%)
、総合金融事業を除い
た場合では 14.4%(同 14.5%)となった。総合金融事業を除く有利子負債(長短借入金、CP、社債、リース債
務、割賦未払金ほか)の増加が続いている。
24/2 期の設備投資はセブン&アイでは 4,737 億円(前期比 9.7%増)と増加した。国内 CVS 事業が、SEJ の
既存店投資等の伸びにより同 33.9%増となり、全体を押し上げた。海外 CVS 事業は、同 2.2%増とほぼ横ばい
であった。SEI では新店投資等が減少しドルベースでは同 4.4%減、円ベースでは円安影響で同 2.2%増となっ
た。成長分野に位置付けている海外および国内 CVS 事業で全体の 67.8%(前期 65.9%)を占めている。イオン
は海外店舗向け投資が増加し、3,962 億円(前期比 6.8%増)であった。構成比は国内店舗 53%(前期 56%)、海外店舗 19%(同 14%)
、デジタル・物流 28%(同 30%)となり、国内店舗の構成比が低下傾向にある。地域
別構成比をみると、日本 77.6%(前期 84.5%)アセアンが 14.1%(同 11.2%)
、中国 8.3%(同 4.3%)となり、
中期経営計画で掲げているアジアシフトに沿った動きになっている。
3. 業績予想における格付上の注目点
25/2 期の業績予想はセブン&アイが減収営業増益、イオンは増収営業増益となっている。
セブン&アイの営業利益は 5,450 億円(前期比 2.0%増)と過去最高益の更新を計画している。海外 CVS 事
業では、ガソリン小売価格の低下を織り込む一方、フレッシュフードをはじめとしたオリジナル商品の強化、
コスト削減などにより増益を見込む。国内 CVS 事業では、冷凍食品の拡充や焼成パンなど新商品の展開、販促
イベントの継続実施などにより、既存店売上高を伸ばす計画である。スーパーストア事業では、IY における店
舗閉鎖など抜本的変革施策の推進により、減収営業増益を見込んでいる。
イオンの営業利益は 2,700 億円(前期比 7.6%増)であり、過去最高益の更新を見込んでいる。セグメント
別の業績予想数値は公表されていないが、全セグメントで増益を計画している。
原材料価格の高騰に伴う商品値上げが続いており、消費者の生活防衛意識が強まる可能性がある。また、今
後も人件費をはじめとした販管費の増加が予想される。両グループとも既に売上増加、コスト削減に向けた各
種施策を展開しており、取り組みの成果を引き続き見定めていく。セブン&アイにおいて、SEJ ではオリジナ
ル商品やセブンプレミアムの開発強化に取り組んでいる。24/2 期セブンプレミアムの売上高は、前期比 5.1%
増の 1 兆 4,500 億円と伸びた。生産性向上策として、SEJ ではセルフレジの拡大、AI 発注の導入などにより、
店舗業務の負担軽減を図っている。また、SEI でもオリジナル商品の強化とともに、コストリーダーシップ委
員会を通じてさらなるコスト削減を図っている。イオンではトップバリュの開発、拡販に注力している。付加
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価値型のトップバリュ、価格訴求型のトップバリュ ベストプライス、環境配慮型のトップバリュ グリーンア
イを展開し、24/2 期トップバリュの売上高は前期比 10.9%増の 1 兆 10 億円と増加した。生産性向上に向け
て、セルフレジの導入拡大や AI の活用などにより、店舗作業の負担軽減を進めている。
店舗とネットとの融合、デジタル化に向けた取り組みは、将来的な成長を目指す上で重要であり、取り組み
の進捗とその成果が注目される。セブン&アイでは、SEJ、SEI ともにデリバリーサービス「7NOW」の拡大を
図っている。イオンでは 23 年 7 月にオンラインマーケット「Green Beans(グリーンビーンズ)
」を開始し、会
員数を伸ばしている。
25/2 期の設備投資について、セブン&アイは 5,757 億円(前期比 1,019 億円増)
、イオンは 5,000〜5,500 億
円(同 1,037〜1,537 億円増)と両社とも増加の計画である。セブン&アイでは、国内外の CVS 事業が全体の
68.1%を占め、両事業に投資が重点配分されている点に変化はない。イオンの投資計画の内訳をみると、国内
店舗向けの構成比が 50%(前期 53%)
、海外店舗が 25%(同 19%)
、デジタル・物流が 25%(同 28%)となっ
ており、アジアシフトが加速していくとみられる。両グループともに注力する海外事業への投資の進捗、利益
貢献状況が注目される。
(担当)千種 裕之・大塚 浩芳
(図表 1)小売グループ大手 2 社の連結業績 (単位:億円)
企業名 決算期 営業収益 営業利益 経常利益
親会社株主に帰属する
当期純利益
セブン&アイ 23/2 期 118,113 5,065 4,758 2,809
(3382) 24/2 期 114,717 5,342 5,070 2,246
25/2 期(会社計画) 112,460 5,450 5,020 2,930
イオン 23/2 期 91,168 2,097 2,036 213
(8267) 24/2 期 95,535 2,508 2,374 446
25/2 期(会社計画) 100,000 2,700 2,600 460
(出所)図表 1〜4 とも各社決算資料より JCR 作成
(図表 2)小売グループ大手 2 社のセグメント別営業利益 (単位:億円)
セブン&アイ(3382) イオン(8267)
23/2 期 24/2 期 23/2 期 24/2 期
GMS(注記) 123 135 140 283
国内 CVS 2,320 2,505 - -
海外 CVS 2,897 3,016 - -
SM - - 228 419
DS - - 36 84
ヘルス&ウエルネス - - 448 426
金融関連 371 381 590 512
ディベロッパー - - 452 473
サービス・専門店 - - 102 172
国際 - - 128 103
その他 25 26 -41 -115
調整額 -673 -723 10 147
合計 5,065 5,342 2,097 2,508
(注記)セブン&アイはスーパーストア事業(SM などを含む)。
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(図表 3)小売グループ大手 2 社の連結財政状態 (単位:億円、%)
企業名 決算期 自己資本 有利子負債額(注記) 自己資本比率
セブン&アイ 23/2 期末 34,745 29,757 32.9
(3382) 24/2 期末 37,165 27,386 35.1
イオン 23/2 期末 9,925 34,831 8.0
(8267) 24/2 期末 10,541 37,156 8.1
(注記)セブン&アイは長短借入金、社債の合計。イオンは長短借入金、社債、CP、リース債務、割賦未払金ほかの合計。
(図表 4)小売グループ大手 2 社の設備投資額 (単位:億円)
企業名 決算期 設備投資額
セブン&アイ 23/2 期 4,319
(3382) 24/2 期 4,737
イオン 23/2 期 3,708
(8267) 24/2 期 3,962
【参考】
発行体:株式会社セブン&アイ・ホールディングス
長期発行体格付:AA 見通し:安定的
発行体:イオン株式会社
長期発行体格付:A 見通し:安定的
しかく留意事項
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