若狭湾沿岸における津波堆積物の調査結果について
平 成 2 4 年 1 2 月 1 8 日
関 西 電 力 株 式 会 社
日本原子力発電株式会社
独立行政法人日本原子力研究開発機構
関西電力株式会社、
日本原子力発電株式会社、
独立行政法人日本原子力
研究開発機構の3社(以下、「3社」)は、平成23年10月24日から
三方五湖およびその周辺において津波の堆積物調査を開始しました。
その後、同年11月11日付で原子力安全・保安院(以下、
「保安院」)
から東北地方太平洋沖地震の知見等を踏まえた原子力施設への地震動及
び津波の影響に関する安全性評価の実施について指示を受けたことから、
天正地震に関する評価を実施し、
若狭湾に津波・暴浪などによる海水の流
入があったとしても久々子湖の奥には至らない規模であったとの評価結
果を同年12月21日に保安院に報告しました。
この結果、保安院は、平成24年1月25日の地震・津波に関する意見
聴取会において、
「これまで得られている文献調査や水月湖等での調査等
の結果を踏まえると、
古文書に記載されているような天正地震による大規
模な津波を示唆するものは無いと考えられるが、
天正年間も含めてデータ
を拡充するために、津波堆積物について、さらなる追加調査を行う。
」と
の見解を示しました。
これを受け、
3社は、
平成24年2月17日から久々子湖東方陸域や猪
ヶ池において津波堆積物の追加調査を実施し、
天正地震による津波に関し
て、
古文書に記載されているような大規模な津波を示唆する痕跡はないと
の評価結果を同年6月21日に保安院に報告しました。
本日、
平成23年10月24日から実施していた津波堆積物調査におけ
る完新世(約1万年前以降)に関する評価結果について、原子力規制委員
会に報告しました。
調査の結果、
各発電所の安全性に影響を与えるような津波の痕跡は、認められませんでした。
今後も引き続き、地震や津波に関する情報の収集を行っていきます。
以 上
添付資料:若狭湾沿岸における津波堆積物の調査概要
<別紙:調査概要と調査結果について>
1.調査概要
若狭湾における津波の痕跡に関するデータを拡充することを目的と
して、
i)三方五湖およびその周辺(久々子湖5箇所、中山湿地1箇所、菅湖
1箇所)
ii)久々子湖東方陸域(早瀬地区、久々子・松原地区、坂尻地区の各8
箇所)
iii)猪ヶ池(6箇所)
において平成23年10月から平成24年12月にかけて津波堆積
物調査を実施した。
2.調査結果i)三方五湖およびその周辺において、
津波堆積物の指標となりうる砂
層は認められなかった。
またイベント堆積物についても、
有孔虫等
の海洋生物が認められず、
河川の洪水または湖底地すべりによる堆
積物と考えられるため、
津波により形成されたと考えられる堆積物
は認められなかった。ii)久々子湖東方陸域において、
津波堆積物の指標となりうる砂層は認
められなかった。
またイベント堆積物についても、
有孔虫等の海洋
生物が認められず、
河川の洪水または湖底地すべりによる堆積物と
考えられるため、
津波により形成されたと考えられる堆積物は認め
られなかった。iii)猪ヶ池においては、
津波により形成された可能性のある堆積物が確
認されたが、
三方五湖およびその周辺や久々子湖東方陸域には痕跡
が残されておらず、
現在の津波想定を上回るようなものではなかっ
たことを確認した。
若狭湾沿岸における津波堆積物の調査概要
1.調査目的
• 若狭湾における津波の痕跡に関するデータ拡充を図
ることを目的として、関西電力(株)、日本原子力発電
(株)、(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)の3社
共同で、津波堆積物調査を実施
2.調査位置
• 三方五湖およびその周辺(久々子湖5箇所、中山湿
地1箇所、菅湖1箇所)
• 久々子湖東方陸域(早瀬、久々子・松原、坂尻の各
地区8箇所)
• 猪ヶ池(6箇所)
3.調査・評価方法
• ボーリングにより、完新世(約1万年前以降)の地層を
カバーするよう試料採取を行い、X線CTスキャンを併
用した肉眼観察、微化石層分析等を実施し、海から
運ばれた痕跡(砂層など)を調査し、津波堆積物の有
無を評価
4.調査期間
• 平成23年10月〜平成24年12月
5.評価結果
しろまる各発電所の安全性に影響を与えるような津波の痕跡
は認められなかった。
猪ヶ池
調査位置
0 500m 100m
・・・ボーリング位置No.1No.6
猪ヶ池
0 1km
久々子・松原地区
坂尻地区
中山湿地
菅湖
久々子湖
・・・ボーリング位置
三方五湖周辺・久々子湖東方陸域
早瀬地区
KM11-1
KM11-4
KM11-2
HY11-1
SK11-1
SK11-2
KM11-3
KM11-5
KG11-1
KG11-2
KG11-3
KG11-4
KG11-5SU11NK111三方五湖周辺および久々子湖東方陸域においては、津波により形成された
と考えられる堆積物は認められなかった。
猪ヶ池においては、津波により形成された可能性のある堆積物が確認された
が、三方五湖周辺や久々子湖東方陸域に痕跡が残されておらず、現在の津
波想定を上回るようなものではなかったことを確認している。
添付資料
しろまるいずれのイベント堆積物も、有孔虫・貝形虫・ウニが認められず、河川の洪水または湖底地すべりによる堆積物と
考えられることから、津波堆積物を示唆する痕跡は認められないと評価する。
分析結果概要(久々子湖)2地点
津波堆積物の
指標となり得る
砂層の有無
海生微化石 地層の年代
有孔虫 ()内は種 貝殻 貝形虫 ウニ 海水性珪藻久々子湖
KG11-1 なし あり(湾奥部)(注記) 1
あり 微量 微量 あり(注記) 2
約1.1万年前以降
KG11-2 なし あり(湾口〜湾奥)(注記) 1
あり 微量 微量 あり(注記) 2
約1.1万年前以降
KG11-3 なし あり(汽水〜湾奥)(注記) 1
なし 微量 なし あり(注記) 2
約1.2万年前以降
KG11-4 なし なし(注記) 1
なし なし なし あり(注記) 2
約0.9万年前以降
KG11-5 なし あり(内湾)(注記) 1
あり なし なし あり(注記) 2
約0.9万年前以降
【層相観察・微化石分析等の分析結果】
(注記)2 地層上下方向に対して連続的に検出され、ピークは認められない
イベント堆積物(13層) 地層
海生微化石
推定される成因
有孔虫・貝形虫・ウニ 海水性珪藻
1〜13 シルト層 なし
微量
(淡水性珪藻が優勢)
• 河川の洪水または湖底地すべり
【イベント堆積物の特徴と成因の検討】
(注記)1 過去に津波があった場合は、湾奥部や湾口に生息する種と異なり、日本
海の深海などに生息する外洋性のものが検出される
イベント堆積物とは:洪水、地震、津波などにより地層に挟み込まれた堆積物
14C年代・火山灰
分析結果
しろまる久々子湖の地層は、内湾〜汽水湖底堆積物からなり、津波堆積物の指標となり得る砂層は認められない。
しろまる外洋性の有孔虫や、海水性珪藻の急激な増加はないことから、津波を示唆する急激な環境変化は認められない。
イベント堆積物は、肉眼観察およびX線CT画像を併用して抽出(以下、同じ)
分析結果概要(菅湖・中山湿地)3地点
津波堆積物の指標と
なり得る砂層の有無
海生微化石 地層の年代
有孔虫 貝殻 貝形虫 ウニ 海水性珪藻
菅湖 SU11 なし なし なし なし なし なし 約1万年前以降
中山湿地 NK11 なし なし なし なし なし なし 約2.6万年前以降
しろまる菅湖には、津波堆積物の指標となり得る砂層、有孔虫・貝形虫・ウニ・海水性珪藻が認められず、イベ
ント堆積物もすべて河川の洪水または湖底地すべりによる堆積物と考えられる。
しろまる中山湿地には、津波堆積物の指標となり得る砂層、有孔虫・貝形虫・ウニ・海水性珪藻、イベント堆積
物は認められない。
⇒菅湖、中山湿地いずれの地点においても、津波堆積物を示唆する痕跡は認められないと評価する。
【層相観察・微化石分析等の分析結果】
【イベント堆積物の特徴と成因の検討(菅湖)】
イベント堆積物
(17層)
地層
海生微化石
推定される成因
有孔虫・貝形虫・ウニ 海水性珪藻
1〜17 シルト層 なし なし
• 河川の洪水または湖底地すべり14C年代・火山灰
分析結果
分析結果概要(久々子湖東方陸域:坂尻地区)4しろまる坂尻地区は、イベント堆積物が認められない。
⇒分析可能な範囲内において、津波堆積物を示唆する痕跡は認められないと評価する。
【層相観察・微化石分析等の分析結果】
地点
津波堆積物の指標と
なり得る砂層の有無
海生微化石
地層の年代
有孔虫 貝殻 貝形虫 ウニ 海水性珪藻坂尻
SK11-1 なし なし なし なし なし あり 約0.8万年前以降
SK11-2 なし なし なし なし なし あり 約0.8万年前以降
14C年代・火山灰
分析結果
しろまるKM11-3のイベント堆積物には、有孔虫・貝形虫・ウニが認められず、河川の洪水または湖底地すべりと考えられる。
⇒分析可能な範囲内において、津波堆積物を示唆する痕跡は認められないと評価する。
分析結果概要(久々子湖東方陸域:久々子・松原地区)5【層相観察・微化石分析等の分析結果】
地点
津波堆積物の指標と
なり得る砂層の有無
海生微化石 地層の年代
有孔虫 ()内は種 貝殻 貝形虫 ウニ 海水性珪藻久々子・松原
KM11-1 なし なし なし なし なし なし 約1万年前以降
KM11-2 なし なし なし なし なし 微量 約1万年前以降
KM11-3 なし 微量(湾奥部) 微量 なし なし 微量 約0.9万年前以降
KM11-4 • 観察した全層準にわたり、砂・礫からなり、津波堆積物の指標となり得る砂層の識別性を有さない。
• 年代測定試料が得られずに完新世の層準が特定できないことから、微化石分析、イベント堆積物の判定は行わない。
KM11-5
イベント
堆積物(4層)
地層
海生微化石
推定される成因
有孔虫・貝形虫・ウニ 海水性珪藻
1〜4 シルト層 なし
微量
(淡水性珪藻が優勢)
• 河川の洪水または湖底地す
べり
【イベント堆積物の特徴と成因の検討(KM11-3)】
14C年代・火山灰
分析結果
しろまる久々子・松原地区の完新世の地層は、浜堤、河川、内湾〜汽水湖の堆積物からなる。
分析結果概要(久々子湖東方陸域:早瀬地区)6しろまるイベント堆積物には、いずれも有孔虫・貝形虫・ウニが認められず、河川の洪水等によるものと考えられる。
⇒津波堆積物を示唆する痕跡は認められないと評価する。
【層相観察・微化石分析等の分析結果】
地点
津波堆積物の指標と
なり得る砂層の有無
海生微化石
地層の年代
有孔虫
()内は種
貝殻 貝形虫 ウニ
海水性
珪藻
HY11-1
あり
(イベント堆積物1)
あり
(内湾〜浅海帯(注記))あり あり あり あり
約1.4万年前
以降
イベント堆積物
(2層)
地層
海生微化石
推定される成因
有孔虫・貝形虫・ウニ 海水性珪藻
1 細礫層 なし なし • 土石流による運搬
2 シルト層 なし
微量
(淡水性珪藻が優勢)
• 河川の洪水または湖底
地すべり
【イベント堆積物の特徴と成因の検討】
(注記)日本海では40m以浅
14C年代・火山灰
分析結果
しろまる早瀬地区の完新世の地層は内湾〜汽水湖と湾口の堆積物からなる。
しろまる内湾〜内部浅海帯を示唆する有孔虫が検出されるが、湾口付近であること、久々子湖における内湾期(約5000
〜8000年前)のものであり、津波堆積物を示唆する急激な環境変化は認められない。
しろまるイベント7〜11の成因が津波と仮定した場合、池内に最も広く分布するイベント7を形成した津波が、最も大きなものであったと考えられるが、その
津波は、三方五湖周辺や久々子湖東方陸域に津波堆積物を形成しない程度であったと考えられ、また現在の津波想定を上回るようなものではな
かったことを確認している。
分析結果概要(猪ヶ池)7【層相観察・微化石分析等の分析結果】
地点 津波堆積物の指標となり得る
砂層の有無
海生微化石
地層の年代
(14C年代測定結果)
有孔虫 ()内は種 貝殻 貝形虫 ウニ
海水性
珪藻
No.1〜6 あり なし〜あり(内湾(注記)
) あり あり あり あり 約1.3万年前以降(注記)
(注記)No.3地点の結果を代表として標記
しろまる猪ヶ池の完新世の地層は、池(淡水)〜内湾(海水)の環境に変化している。
しろまる堆積物中に砂層が認められた。
【イベント堆積物の特徴と成因の検討】
内湾(海水)
の堆積物
(シルト)
池(淡水)
の堆積物
(腐植)
通常時の
堆積物
イベント
堆積物
(11層)
地層
海生微化石
推定される成因
有孔虫・貝
形虫・ウニ
海水性
珪藻
1 • シルト層 なし なし •湖底地すべり
2 • 砂層 なし なし ・砂洲・海底の砂と比較。特徴(帯磁率の大きさ,海生微化石の
有無)が砂州に類似していることを確認
• 池全体にわたって採泥調査を実施し、砂層は池の中心に広
がらないことを確認
→砂州の表面の砂層が小規模に崩壊したものと推定
3、4 • シルト層 なし なし • 湖底地すべり
5 • 不明瞭 なし なし
6 • 砂層(火山ガラス多量) なし 微量
7〜11 • 砂層(一部砂礫層) あり あり
・通常時と異なる地層(砂層)を確認。
・このうちイベント7〜11は、猪ヶ池とつながっていた海から運
ばれてきた可能性がある。
→高波浪または津波が成因の可能性がある。

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