1東海第二発電所 残留熱除去系海水系(B系)の点検に伴う
原子炉の手動停止について(原因・対策)
1.経緯
当社、東海第二発電所(沸騰水型軽水炉、定格電気出力110万キロワット)は、定格熱出
力一定運転中のところ、6月17日(木)、残留熱除去系海水系*1
(B系)ポンプの定期試験
を実施していた際、ポンプ2台運転時において定格流量を僅かに下回っていることを確認しま
した。そのため、保安規定に定める残留熱除去系海水系の機能が健全であることを確認できな
いと判断し、同日15時41分に運転上の制限*2
からの逸脱を宣言するとともに、保安規定で
要求されている必要な措置*3
を講じ、当該ポンプ等の分解点検を含め原因調査を継続していま
したが、6月25日に流量試験等を実施した結果、ポンプの性能が僅かに低下している可能性
があることを確認しました。
このため、今後さらに詳細な点検を行うこととし、6月26日午前1時から原子炉停止操作
を行いました。
なお、この事象による外部への放射能の影響はありません。
本事象は、実用炉規則第19条の17第2号の報告事項に該当しております。
(6月25日お知らせ済み)
調査のため、7月8日に残留熱除去系(B系)熱交換器の内部を点検したところ、残留熱除
去系海水系配管の内面に施工されているポリエチレンライニング*4
(以下、ライニング)の一
部が剥離し、熱交換器の海水側入口水室部にとどまっていることを確認しました。
その後、ライニングが剥離した箇所を調査した結果、残留熱除去系(B系)熱交換器の上流
側にあるクローザージョイント*5
から剥離したものであることを確認しました。
また、当該クローザージョイントと熱交換器の間に設置されている系統流量計オリフィス*6
が下流方向に変形していることを確認しました。
この変形は、剥離したライニングが流量計オリフィスを通過する際にオリフィスに応力が加
わり生じたものと推定しています。このオリフィスの変形が、系統流量指示の低下に影響を与
えた可能性があるため、調査を行っています。
引き続き、クローザージョイント短管からライニングが剥離した原因について、詳細調査を
実施するとともに、対策を検討・実施してまいります。
(8月5日お知らせ済み)
その後、
系統流量計オリフィスの変形と流量指示低下の関係やクローザージョイント短管から
ライニングが剥離した原因について詳細調査を行い、
その結果に基づく原因・対策を取りまとめ、
本日、国へ報告いたしました。調査結果と原因・対策は以下のとおりです。
平 成 2 2 年 9 月 9 日
日本原子力発電株式会社 22.調査結果
(1)流量低下事象の調査
流量が確保できない事象を要因分析図で整理し、
各要因について調査を実施しました。今回の事象に対する要因を大きく以下のように分類し調査を行いました。
1系統運転特性が変化し実流量に低下を与える要因
・ポンプ性能低下と系統圧力損失の増加等により、系統流量低下の有無について調査を行
なった結果、ポンプの性能低下や配管、弁、ストレーナには圧力損失を増加する要因は
確認出来ませんでした。
2計器の指示値不良による見かけ上の流量低下を与える要因
・流量計測ループ全体特性、流量計差圧伝送器の異常、流量検出配管の影響について調査
し問題のないことを確認しましたが、
流量計オリフィスの異常の有無について確認した
結果、
流量計オリフィス板が下流側へ中心孔を頂上とした山形に変形していることを確
認しました。
(変形量:最大17.5mm)
・このことから、その変形が、流量計の指示に与える影響を評価した結果、流量指示低下
に相当する差圧変化が発生することを確認しました。
3系外への漏えいによる流量低下を与える要因
・残留熱除去系海水系(B系)系統配管及び弁の点検を実施し、系外への漏えいが無いこ
とを確認しました。
(2)ライニング剥離状況の調査
熱交換器開放点検により海水側入口水室内部から回収されたライニングは、
成分分析結果
からポリエチレンであり、その形状、寸法から、流量計オリフィスの上流に設置されている
クローザージョイント短管のライニングが剥離したものと判明しました。
そのため取水ポンプ室から原子炉建屋間に設置されている3箇所のクローザージョイン
トの内部確認を実施した結果、
最も建屋側に位置しているクローザージョイント短管内面に
施工されたライニングが剥離し、移動していることを確認しました。
3.推定原因
(1)クローザージョイント短管内面ライニングの剥離
短管内面のライニングは、端部でポリエチレンとタールエポキシが重ねて塗布されてい
る構造であり、この重ね合わせ部は接着力が弱いことから、この部位の隙間を通して海水
が浸入しました。それによりポリエチレンライニングの接着力が低下し、ライニングが部
分的に剥離し、
さらに海水が奥へと浸入することで短管内面の腐食範囲が継続的に拡がり、
剥離範囲が拡大し、流体力が増すことで全体が剥離、移動しました。
(2)系統流量計オリフィスの変形
クローザージョイント短管から剥離したライニングが、残留熱除去系海水系ポンプ運転
による流体力で系統配管内を移動し、流量計オリフィス孔を通過する際にオリフィスを変
形させたため、オリフィス前後で生じる差圧が低下し、見かけ上の流量計指示値を僅かに
低下させました。 3(3)点検計画の不備
クローザージョイントについては、
一部にタールエポキシライニングが施工されていまし
たが、これに配慮した点検計画が定められていませんでした。
(4)設計変更に対する検討不足
施工当時受注メーカよりポリエチレンとタールエポキシを重ね合わせた構造とする提案
を受けていましたが、十分な社内検討が行われていませんでした。また、受注メーカ等との
技術情報の伝達が不足していたことで、
ポリエチレンとタールエポキシの接着性が悪いこと、
およびポリエチレンライニングが海水の浸入によって接着力が弱まることについての知見
を設計に反映することが出来ませんでした。
4.対策
(1)ライニングの再施工と点検計画の見直し
当該ならびに類似のライニングを施してあるクローザージョイント短管については、手
入れを実施したうえで、全面タールエポキシによるライニングに再施工しました。
また、長期的に使用されるタールエポキシライニング部はクローザージョイントのみで
あることから、今後は5定検で全てのクローザージョイントを点検するよう保全計画に反
映します。
(2)当該オリフィスの交換
変形した流量計オリフィスは新品と交換しました。
(3)その他(保守管理の改善)
今回の事象を踏まえて、品質マネジメントシステムの調達、詳細設計および保全につい
て、さらなる充実を図ります。
1調達文書に「当社へ納入実績のない新設計を採用する際は、外注先との技術的検討を
密に行い、知見を共有した上で、総括的に設計の妥当性を検討し、その結果を当社に
提示する。
」旨の記載を追加します。
2設計図書レビューの際に実施する所内検討会の手引書に、設計不良を原因とする過去
のトラブル事例等を順次添付し、整備・充実を図ります。
3設計変更を行った場合は、
供用後における設計変更部分の健全性を担保していくための
具体的な点検メニューについて、保全計画に反映します。
今後、準備が整い次第、原子炉を起動する予定です。
(経済産業省によるINESの暫定評価)
基準1 基準2 基準3 評価レベル
- - 0+ 0+ 4*1:残留熱除去系海水系
「残留熱除去系」は、原子炉を停止した後に発生する燃料の崩壊熱の除去を行うもの。熱の除去は熱交換器を通じて、海水
で行われる。
*2:運転上の制限
保安規定で定める運転上の制限とは、この範囲内で運転していれば十分に安全を確保できる設備の機能的能力又は性能水
準を示したものである。運転上の制限を満足していない状態(運転上の制限を逸脱)になったというだけで直ちに安全上
の重大な問題を生じていることを意味するものではない。
*3:必要な措置
他の海水系の1系列(A系)が動作可能であることを確認すること。なお、他の海水系1系列が動作可能であることを確
認できない場合、又は10日間以内に復旧できない場合は、24時間以内に原子炉を高温停止しなければならない。
*4:ポリエチレンライニング
配管内面の腐食を防ぐために、配管の内面にポリ粉体の塗布を行い、被膜をつくること。
*5:クローザージョイント
設置された配管の管軸方向の伸縮吸収、配管の偏心・伸縮・捻れ・曲りを吸収する装置の部品で両端外面がゴムリングで
シールされている鋼管。
クローザージョイントは、
短管
(スピゴットパイプ)
と2つのソケットパイプより構成されている。
*6:流量計オリフィス
流量を測定するため、流体を通す管の内部に設けた中心に円形の孔のある仕切り板。この板の前後に生じる圧力差と流量に
相関があるため、この圧力差を測定することにより制御室に流量指示を表示することができる。
添付資料1 残留熱除去系海水系(B系)調査結果
添付資料2 推定メカニズム
添付資料3 クローザージョイントの対策概略
以 上
添付資料1
残留熱除去系海水系(B系)調査結果
クローザージョイント点検状況
ライニングが
剥離している
二重管エリア
取水ポンプ室
熱交換器点検状況
中心孔を頂上とした山形に
最大17.5mmの変形
流量計オリフィス点検状況
ライニング
回収したライニング
添付資料2
推定メカニズム
1施工時、ポリエチレンライニング上に
タールエポキシを塗布(重ね合わせる構造)
2重ね合わせ部は接着力が弱いことから、
剥離の起点及び剥離部へ海水が浸入し、
ポリエチレンライニングの接着力が低下
3ポリエチレンライニング剥離の更なる拡大と、
ポリエチレンライニング部の一部が剥離
4ポリエチレンライニングが
残留熱除去系海水系ポンプの運転により、
クローザージョイントから下流へ移動
5剥離したライニングが流量計オリフィス孔
(内径 240mm)を通過する際に、オリフィスが変形
(変形により、見かけ上の流量計指示値が低下)
6剥離したライニングは熱交換器水室へ到達し
留まる
添付資料3
クローザージョイントの対策概略
構造図
重ね合わせ構造部の対策概略図(A部)A部ソケットパイプ ソケットパイプ
短 管 (×ばつ
径約0.5m)短管
短管

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