審議経
過・内容
評価作業
手順
評価対
象・項目
評価対象
期間
中間評価の概要
しろまる『「量子ビーム応用研究」に関する中間評価』について:平成25年1月9日諮問
しろまる第8回量子ビーム応用研究・評価委員会【中間評価】:平成25年3月12日開催
・量子ビーム応用研究部門の概況について
・量子ビーム応用研究の進捗と今後の展開について
・上記報告内容に対する質疑・意見交換
しろまる『「量子ビーム応用研究」に関する中間評価』について:平成26年2月12日答申
しろまる量子ビーム応用研究の第2期中期計画(平成22年4月〜平成27年3月)を推進するため、計画開始から2年半が経過した現時点における研究開発の進捗状況、情勢
変化に対応した研究開発の目的・目標、進め方などの見直しの必要性、研究開発資源の配分妥当性などを研究・評価委員会において評価した。
しろまる上記の目的のために、本委員会によって定められた評価項目に従い、原子力機構から提出された平成22年4月から平成24年9月までの量子ビーム応用研究部門の
運営及び量子ビーム応用研究の実施に関する説明資料(付録参照)の検討、及び量子ビーム応用研究部門長ならびに副部門長の口頭発表、質疑応答による評価を
実施した。
「量子ビーム応用研究部門の運営」ならびに「各地区(東海、高崎、木津、播磨)における研究開発」を評価の対象とした。具体的には以下の通りである。
対象1「量子ビーム応用研究概況」
・組織のあり方、部門の運営、部門の研究のあり方に関するこれまでの成果及び今後の進め方の妥当性
対象2「各地区における研究開発」
・個別研究課題(中期計画外の成果も含む)について、これまでの進め方ならびに成果(到達度)の妥当性
・今後の進め方の妥当性
(注記)量子ビーム応用研究は、原子力科学研究所、高崎量子応用研究所、関西光科学研究所が実施する量子ビーム技術の開発・高度化研究を包含する。
(注記)本評価対象期間中に発生した東日本大震災に鑑み、福島復興対応に関する研究開発についても評価の対象とした。
平成22年4月より平成24年9月末
評価の
概要
しろまる全体として研究は活発に行われるとともに、優れた成果が数多く発表されており、量子ビーム応用研究部門の運営ならびに量子ビーム応用研究の実施状況は適切
であると判断される。
しろまる福島復興対応への貢献を目指した研究開発は、原子力機構がなすべき仕事として非常に重要であり、部門の果たした役割は大きい。提示された研究課題に対する
成果もそれぞれ大きな意義があり、全体として高く評価できる。今後さらに、部門ならびに関連研究拠点の有するポテンシャルを活かし、国民の期待に応えることが望ま
れる。
しろまる部門のもう一つの大きな位置付けは、日本の科学技術・産業全般を支える基盤としての存在である。部門本来のミッションと福島復興対応のバランスが重要であり、
環境・エネルギー、物質・材料、医療・バイオ応用、先進ビーム技術など幅広い分野の出口を意識した量子ビーム応用研究を今後も継続・推進していくべきである。
しろまる今後、原子力政策がどのように変化しても、科学技術・学術の発展、イノベーション創出、産業の振興等に資する量子ビームの重要性が揺らぐことはない。部門及び
関連研究拠点は、この分野の中核組織として、我が国の量子ビーム応用研究を今後も牽引していくことを切望する。
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I.量子ビーム応用研究概況
1.組織のあり方
高評価
項目
期待・検
討項目
しろまるサイト横断型のマトリクス方式により、同一テーマにおいて複数の先端研究施設の相補的・補完的利用が進められるなど、お互いの関係とつながりが明確となること
により、効率よい組織運営が行われている。
しろまる組織全体が有機的なネットワークで構築されたことにより、各地区の強みがさらに生かされてきている。このような運営が意識的に行われ、成果の向上に結びつけた
ことは、高く評価される。
しろまる基礎研究から施設供用のサポートまで非常に幅の広い活動がバランスよく実施されている。部門が目指すサイト横断的な連携が進み、現場の若い研究者の間に「量
子ビーム研究者」としての一体感が醸成され、様々な量子ビームの複合的・相補的利用により特筆すべき成果が出始めている。
指摘事項
しろまる部門のあり方
・部門が原子力機構の一部にあって、研究項目/人事/予算配分等の
運営全般について、原子力政策に左右されるのは我が国の研究基盤の
強化にとって必ずしも幸福なことではなく、量子ビーム応用研究のあり方に
ついては、研究系の独立行政法人再編の機会等に改めて検討されること
が望まれる。
・原子力機構のミッションの変化によって、広義の量子ビーム利用研究が
機構内で難しくなるのであれば、原子力機構は責任をもってこれが可能な
外部組織への移管も含めて具体的に検討するべきである。
しろまる部門内の連携
・部門の特長であるサイト横断的活動を、今後より発展させシナジー効果
を上げるためには、情報交換や議論を定常的に行う場を設けるとともに、
若手研究者の人事異動を含めたサイト間の交流をサポートしていくことが
重要である。
対応
しろまる部門のあり方
量子ビーム応用研究のミッションが「量子ビームによる科学技術の競争力向上と産業利用
に貢献する研究開発」であることを念頭に、この実現のために最も適当な組織のあり方を目
指すべきものと考える。ご指摘の研究系の独立行政法人再編等をはじめとする諸々の改革
にも強い関心を寄せつつ将来の方向性を検討してゆきたい。
しろまる部門内の連携
日頃4地区に分かれて活動している部門在籍の研究者が一堂に会し、最新の研究成果
に関する発表と討議を行う部門研究交流会を年一回開催し、定常的な交流の場を設けて
いる。今後さらに、トップダウンとボトムアップの相互情報発信、研究者間の情報交換、連携
協力や交流の促進、「福島復興対応」課題の議論を行うとともに、部門の運営に関して部門
首脳陣と現場研究者が直接意見を交換する機会を積極的に設けるなどの取り組みに努め
たい。
各項目に対する評価と指摘事項への対応
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高評価
項目
期待・検
討項目
2.部門の運営
しろまる運営方針である、 1.強い組織の構築、2.トップダウンとボトムアップの融合、3.応用研究と学術研究の両面の推進、4.コミュニティを強化する活動の推進、5.組織
の強みの確認、は全て的を射たものであり適切である。
しろまる第1期中期計画において意図された3研究所(東海、高崎、関西)の部門による連携・融合が、第2期中期目標期間において一層強化されている。サイトを横断的に
組織した「領域」の設定により出口を明確化し、異なる量子ビームの有機的な利用促進を目指した運営を行っていることは高く評価できる。
しろまる運営費交付金は8億円から4億円に半減しているが、この目減りを外部資金獲得で補う努力を行っており、この取り組みは高く評価できる。外部研究資金の獲得額は
年々増加しており、平成23年度では運営費交付金の3倍を越える外部資金を得ている。この状況は特筆すべきことであり、研究のアクティビティが高く時流に乗った研
究を行っている証でもある。これはリーダークラスの研究者による大型予算獲得以外に、ボトムアップの提案による科研費の獲得率の向上の結果であると考えられる。
しろまる成果の発信に関しては、英文年報の発行、各種シンポジウムの開催、特筆すべき成果のプレス発表などを通じて、適切になされているものと評価される。
指摘事項
しろまる組織マネジメント
・部門長や副部門長がリーダーシップを発揮してトップダウンにより研究
の方向性を示すとともに、現場からのボトムアップ提案・意見をトップが常
に把握し、双方向の情報交流について常に留意することが望まれる。
・トップダウン的な運営方針は今後とも必要であり、人員の補充を含め、
部門長、副部門長を中心とした体制のより一層の充実、強化が望まれる。
・特に現在、不在になっている東海地区の副部門長など、適材適所の人
材配置を早急に手当てする必要がある。経験年数に依存するのではなく、
それまでの実績に立った能力主義での人選が必要である。
・組織におけるテーマ設定については、原子力機構のミッションや部門
の方針に基づくトップダウンだけでなく、研究者の共同発案を促すような仕
組みも重要と考える。研究プロモーターのような役割を各地区に配すること
や、研究者にインセンティブを与えることも考えてはどうか。
しろまる研究資金の獲得
・若手研究者が、自分自身の提案で研究資金を自ら獲得することは、研
究の動機付けに大変大きな意味を持っており、若手の発想や研究意欲が
より一層発揮できる部門運営がなされることが望まれる。
・研究者が資金の獲得だけに目を向け、心眼に曇りが出るような事態に
ならないような注意も必要である。
・今後も運営費交付金が減少する恐れが高いことから、長期運営のため
の定常的な財源確保のために大型予算の獲得、産業界との連携などを含
めて、組織的な取り組み方針を考えていくことが必要と思われる。
しろまる情報発信
・量子ビーム関連部署がどのような技術や成果を有し、その活動が第4期
科学技術基本計画でうたっている課題にどう貢献できるかを、より積極的
に情報発信して欲しい。部門で得られている高い成果が必ずしも外部から
見えない面もある。情報発信のあり方についての工夫も必要であろう。
対応
しろまる組織マネジメント
毎月開催される部門運営会議を通じた幹部の意志決定のもと、トップダウンによる研究の
方向性を提示すること、また、必要に応じて行われる部門長のグループヒアリングなどの機
会を通じてボトムアップの意見を常に把握することなど、双方向の情報交流を図る仕組みを
常に持ち続けるとともに今後もさらにこれらの取り組みを強化していきたい。
人事案件については必ずしも部門の裁量のみで意志決定がなされるものではないが、ご
指摘の体制強化と能力主義、適材適所の人材配置については実現に向け常に主張し続
けていきたい。
また、部門に於いては独自に4つの研究領域を設け、「領域長」を配置することにより研究
の方向性について目配りを行う取り組みを行っている。これをさらに実体のあるものとし、研
究を推進するための役割を担わせることを検討したい。
しろまる研究資金の獲得
研究資金の大幅な減少は部門の研究活動の根幹にかかわる重大なリスクと考えている。
これまで以上に外部資金獲得の努力が必要であるとの認識にたち、研究推進室が中核と
なって外部資金獲得の戦略を検討し、新たな外部資金・施策に係る情報の入手、部門内
への情報の周知、各地区管理職・研究者との緊密な連携による内外関係者への働きかけ
等の活動をさらに進める。
しろまる情報発信
毎年約300報の学術論文発表及び50件の特許登録、10件前後のプレス発表を行うととも
に、部門主催による国際・国内シンポジウムの開催、各種英文ハイライト集の発行、ホーム
ページの更新、パンフレットの発行などを通じて、研究成果の情報発信及び保存・集約・共
有を進めているが、今後さらに部門の成果や技術が社会に認知されるよう情報発信の機会
拡大に努める。
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高評価
項目
3.部門の研究のあり方
しろまる研究分野の地区横断的な研究として、研究者からの自由な発想に基づいたテーマが尊重されていることは、基礎研究の進め方として大いに評価できる。
しろまる「第2期中期計画の考え方」に記載されている「出口を意識した成果創出」という目標に関して、水中の放射性セシウム捕集に有効な家庭用浄水器のカートリッジを開
発・製品化するなど、まさに出口としての具体的な成果が得られており、研究員の努力に敬意を表するとともに、十分に評価される成果である。
しろまるこれまで国内外の外部機関との共同研究や研究協力は着実に行われており、評価できる。
期待・検
討項目
指摘事項
しろまる研究テーマの選定・目標設定
・部門の看板となる代表的な研究テーマを掲げ、リソースを集中して育て
る取り組みがもう少しあってよいと思われる。
・研究テーマの選定において、部門の持つ強みを活かすことにこだわり
過ぎ、世の中のニーズとの整合や他の研究機関との比較などが不十分な
ものも見受けられる。
・研究テーマについては、個々の研究者の考えに加え、原子力機構外
の者にも理解されるよう、客観的なテーマ決定の仕組みがあるとよい。
・地区横断的な研究にどのような方向性を求めるのか、経営的な視点か
らの施策をより明確に示すことが望ましい。部門としてのロードマップも、よ
り明確に示すことが望まれる。
・実用化を目指す研究においては計画達成に向けた目標において、時
期と具体的な目標について定量的に示していくのも一つの方法ではない
か。出口が十分意識されていない研究もいくつか散見される。
しろまる人材育成
・若手研究者の行った研究を、確実に論文や特許などの成果につなげ、
業績を上げるよう、本人の努力とともに、経験豊かな研究者によるフォロー
アップが必要である。
・新たな人材補給ができない組織は、優秀な集団であっても老齢化し、
活性が失われる。原子力機構は部門における人材補給の努力を、今後と
も最大限継続させていく必要がある。
・組織内で育てた人材を他の組織や社会に送り出し、さらなる活躍の場
を与えることは、その機関の発展につながるとともに、納税者国民に対する
責務の一つとも考えられる。また、大型施設の整備や技術を担う職員が減
少していることを鑑み、技術者の育成に力を注ぐことも望まれる。
・人事評価にあたっては、論文や学会発表の数のみではなく、「真に科
学技術の競争力に寄与したか」や「産業利用に寄与したか」を十分考慮す
るべきである。量子ビーム施設・装置の維持管理や供用支援などの業務
に対し適正な評価を行うことも重要である。
しろまる量子ビーム源との関わり
・JRR-3における大学共同利用を総括している東大物性研、さらには中
性子を利用する広い学術コミュニティや産業界からも、未だ実現していな
いJRR-3の早期再稼働に向けての声が高まりつつある現状に鑑み、最大
限の努力を継続してほしい。
対応
しろまる研究テーマの選定・目標設定
ご指摘の考えに沿って、現在ボトムアップで進行している複数のテーマの中から、対外的
にインパクトのある成果につながるテーマを積極的に支援するトップダウン的な仕組みを設
けることを今後検討していきたい。
また研究テーマの選定に関しては、現状ではマシンタイムの獲得に強く依存する側面が
ある。このテーマ決定のあり方は一定の客観性はあるものの、組織として目指す方向性とは
必ずしも整合性の取れない場合もあり得る。この点にも留意しつつ、研究テーマの選定に
組織として関与していきたい。
また、地区横断的な研究の方向性と、ロードマップの明確化についてはご指摘の通り重
要な内容であると考える。実用化研究におけるタイムマネジメントへの意識とともに、具体化
に努める。
しろまる人材育成
日常の研究活動やグループにおける討論、セミナー・コロキウム・研究成果報告会・部門
研究交流会の開催などを通じて、創造的な研究者・技術者の育成を常に意識するととも
に、若手研究者に対しては、科研費の申請書類や論文の書き方等の指導を行っている。
原子力機構における活動が評価され、部門から大学や他研究機関へ転出する例が増え
ている。ご指摘の通り、人事交流の活性化のためにその流動化は重要であるが、後任の採
用が円滑にできないことは大きな問題と認識しており、新規職員の採用枠の減少を補うた
め今後ともテニュア制度等を積極的に活用して人材の確保に努める。
人事評価のあり方については部門の考えのみにより変更しうるものではないが、裁量の許
す範囲に於いて評価軸を柔軟に運用し、それぞれの業務を担当するスタッフのモチベー
ション向上につながるよう対応していきたい。
しろまる量子ビーム源との関わり
量子ビーム応用研究遂行に必須であるのみならず、外部の需要が極めて高いJRR-3につ
いては、その再稼働及び安定運転について、機構の総力を挙げた取り組みを進めるべきと
考える。部門としても研究炉加速器管理部はじめ研究炉利用に関わる機構内の他組織と
協調して早期再稼働に向け最大限の努力を行う所存である。
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高評価
項目
期待・検
討項目
4.福島復興対応への取り組み
しろまる東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、原子力機構の中期計画に新たに「福島第一原子力発電所事故への対処に係る研究開発」が
加わった。これに対して、部門及び関係拠点が、その能力や機動力を生かし、迅速かつ積極的に対応を行ったことを高く評価する。放射線グラフト重合技術を用いた
セシウム捕集材の開発において、その製品が販売できるところまで実用化したことなど、福島復興に関連する研究活動は何件か特筆すべきものがある。また、通常の研
究活動と並行して、環境モニタリング、コミュニケーション活動、除染活動など、各種福島復興対応に部門から2,000人日に上る協力を行ったことも機構職員として当然
とは言え、評価されるべきものである。
しろまる福島復興対応を最優先課題として、部門全体がその高い科学力を活かして積極的に取り組んでいることは高く評価できる。
指摘事項
しろまる福島復興対応の位置付け
・福島復興対応は、原子力機構だからこそできる対応であり、ミッションの
異なる他の独立行政法人や大学では真似できないものであることのポジ
ティブな側面をいかに全ての職員が理解するか、部門全体が問われてい
る。
・部門の本来の位置付けは、あくまで日本の科学技術・学術全般を支え
る基盤部門としての存在であり、量子ビームを利用して物質の多様性の起
源を探るという基礎科学推進としての重要なミッションがある。部門の本来
のミッションと福島復興対応の両者のバランスをいかにとるか、このことが最
も重要な点であり、原子力機構と部門双方の首脳部に問われている。量
子ビーム利用による基礎科学推進が、日本全体の復興にとって欠かすこと
のできないミッションであることを忘れてはいけない。
しろまる福島復興対応研究の方向性
・福島のニーズの状況変化に応じた研究開発方針の見直しを随時行い
つつ、部門の有するポテンシャルを活かせる課題に関して福島復興に積
極的にコミットしていくことが期待される。
・福島復興対応を部門の持つ高い能力を示すことのできる、具体的なモ
デルとして捉え、基礎研究のより一層の充実と、その社会還元を強く推進
してゆくことは部門の一つの方向性として検討されることが望まれる。
・除染や廃炉に向けた技術開発については、基礎から検討が必要な課
題も多々あり、それらを抽出し、部門として取り組めるテーマを新しい視点
から設定し、取り組んでほしい。
・福島復興対応の研究内容について、多くは個々の研究者の発想に委
ねられているように思われる。組織としては基礎研究を土台とした高いレベ
ルの支援ができることを示す機会であり、このような研究でこそ、これまで
培ってきた基礎研究が生かされることをより明確に示すことができる。基礎
研究の重要性に対するメッセージをしっかり発信すべきである。
対応
しろまる福島復興対応の位置付け
これまで、福島技術本部を中核として推進する環境修復・除染技術開発に参画し、科学
技術戦略推進費を活用して新たなセシウム吸着捕集材を開発する等の成果を挙げてき
た。今後も量子ビームの優れた機能を活かして、放射性物質回収・除去技術の開発等を積
極的に推し進めたいと考える。
同時に、「量子ビームによる科学技術の競争力向上と産業利用に貢献する研究開発」が
本来我々の持つミッションであることを忘れずに、量子ビームの高品位化、利用の高度化を
進め、量子ビームの優れた機能を総合的に活用して、環境・エネルギー、物質・材料、生命
科学・先進医療・バイオ技術等の様々な科学技術分野における革新的な成果の創出に貢
献する量子ビームサイエンス・アンド・テクノロジーの研究開発を推進し、科学技術・学術の
発展、新分野の開拓と産業の振興に資するための取り組みを積極的に続けていきたい。
しろまる福島復興対応研究の方向性
福島技術本部と連携しつつ、必要とされる課題とそれを解決するための限られたスケ
ジュールの中で、ご指摘のように部門の持つポテンシャルを最大限に活かすための道筋を
常に意識すべきものと考える。
同時に、福島復興対応の状況は常に変化しつつあり、柔軟かつ機敏な対応も必要である
と考えている。またこれらの取り組みにより得られた成果については部門がこれまで培って
きた基礎研究が生かされたものであることを強くアピールし、基礎研究の重要性を着実に発
信していきたい。
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II.福島復興対応に関する研究開発
高評価
項目
期待・検
討項目
しろまる原子力機構がなすべき仕事として非常に重要であり、各種セシウム捕集材の開発をはじめ部門の果たした役割は大変大きい。部門の各地区に於いて課題に積極
的に取り組むとともに、得られた成果もそれぞれ大きな意義があり、全体として高く評価できる。
しろまる高評価を受けた研究開発の内容は以下の通り。
・セシウムの生体分子への吸着機構を解明したタンパク質の構造研究
・高分子捕集材の高度化・量産技術による水中の放射性セシウム捕集に有効な家庭用浄水器のカートリッジの開発と市販
・セシウム137のリアルタイムイメージング技術開発によるイオンビーム育種植物のセシウム移行、集積のリアルタイム解析
・イオンビーム育種によるセシウム高吸収、低吸収ヒエの開発
・セシウム134とセシウム137を分別して定量できる簡便な手法の開発
・耐放射線性光ファイバーの研究
・セシウム高選択性有機配位子の開発と、吸着剤として利用することによる農業用水の除染
・粘土鉱物への吸着メカニズムの解明
指摘事項
しろまる福島復興対応に関する研究開発全般について
・今後、事故対応に実際に使える技術とそうでない技術を峻別するととも
に量子ビーム関連部門・拠点の有するポテンシャルを活かし、迅速な実用
化を目指して、国民の期待に応えて欲しい。
・国民の関心の強い低線量被ばくの影響についても、放射線医学総合
研究所等との業務分担を踏まえつつ、原子力機構においてもその特長を
活かした基礎研究が実施されることを期待する。今後は、より実用化を意
識した取り組みが必要となろう。
・個々のテーマについては部門の長期ビジョンのもと、これまでの研究実
績を活かすとともに状況の変化に対応して課題を整理し、随時計画の見
直しを行うことも必要である。
しろまる各研究開発について
・高分子捕集材や高選択性有機配位子の開発では今後はセシウム用だ
けでなく、ストロンチウムなど他核種への応用も期待される。
・イオンビーム育種によるセシウム高吸収、低吸収ヒエの開発にも期待が
持てる。低吸収、高吸収に関わる遺伝子が同定されれば、同じイネ科植物
であるイネへの応用が可能である。
・これらの開発を進める際、イネとヒエの混植を農家は望まないことや、
ファイトレメディエーション後の残渣処理が難しいことなども考慮し、福島の
ニーズに即することが重要である。
・レーザーの利用に関しては、デブリの分析以外への適用についても検
討されることが望まれる。
・高強度レーザーを用いて原子炉内の状態を把握するために、どのよう
な技術が必要なのか、その際の課題が必ずしも明快ではない。
・クラウンエーテル型吸着剤の開発は、コスト面、大量合成面から考え
て、実用性があるかについての留意も必要である。
・粘土鉱物への吸着機構の解明については、より普遍性のある研究を進
め、天然ナノ物質の層間の特性を明らかにすることも望まれる。
対応
しろまる福島復興対応に関する研究開発全般について
今後とも部門の持つポテンシャルを活かした福島復興対応に関する研究開発を積極的に
進める所存である。特に、低線量被ばくの影響についてはご指摘のあった放射線医学総合
研究所等との連携も視野に入れつつ、対応していきたい。
また、福島復興対応については常に状況が変化していることに鑑み、現在何が求められ
ているかを意識して研究開発を進める必要があると考える。このためには随時計画を見直
すことや、機敏な対応が必要となると考える。
しろまる各研究開発について
・高分子捕集材や高選択性有機配位子の開発において、ストロンチウム等他元素への応
用は福島復興対応だけでなくより汎用性の高い技術になる得ると考える。既に他元素への
応用に取り組んでいる課題もあるが、引き続きより有用性の高い技術となるよう検討を進め
ていきたい。
・イオンビーム育種によるセシウム高吸収、低吸収植物の開発について、特にイネについ
てはセシウムの吸収に関わる遺伝子の同定も視野に入れて研究開発を進めている。
・また、福島のニーズに即した研究を行うとともに、実態に即した対応をとることも福島復興
対応に於いては重要と考える。福島技術本部との連携を密にしつつ、より実用性の高い技
術開発を目指したい。同時に、普遍性の高い成果を得ることにより、基礎科学への貢献も可
能であり、実用と基礎の両面からこれらの研究開発を進めることが重要と考えている。
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III.各地区における研究開発
1.東海地区
高評価
項目
期待・検
討項目
指摘事項
しろまる東海地区全般について
・今後、JRR-3とJ-PARCをどのように使い分けて成果を出すかについて、
大方針を示すべき時期が来ている。次期研究炉に向けてのグランドデザイ
ンについても真剣な検討が必要となる。
・東日本大震災によるJRR-3 運転停止のため、増え続けていた産業利用
が不可能となり、中性子利用の有効性を広める機会を失ったことは非常に
残念である。今後部門としてもJRR-3 運転再開の必要性を最大限アピー
ルすることが必要であろう。
・国の研究開発の施策であるグリーンイノベーションやライフイノベーショ
ンに貢献できることを示すため、企業や他機関とのさらなる連携を進めると
ともに、社会へ向けた強力な情報発信を期待する。
・海外の研究機関と比較した場合の研究の優位性がよりわかるように示
すことが望まれる。それらの研究の先にどのような最終ゴールがあるのかを
明らかにして研究の意義を示すことも必要である。
しろまる各研究開発について
・燃料電池内の水等の分布を超高分解能で可視化する手法確立は、社
会的なインパクトも大きく非常に重要であり、研究成果の出口を意識して、
目指すべき点を明確にした手法開発の取り組みが必要である。
・実用化を目指して研究を進めている材料に関しては、企業や他機関と
の連携が必須であり、研究内容の外部へのアピールを含めて、さらなる活
動を期待する一方、成果の実用化の観点からの客観的評価も必要であろ
う。
・JRR-3やJ-PARCを利用したバイオ応用領域の研究は、いずれも原子
力機構に於いてのみ実施が可能であり、コミュニティからの期待も大きい。
このような研究には、より重点が置かれるべきであり、それを意識した人材
等の投資も検討されるべきである。
対応
しろまる東海地区全般について
JRR-3については、日本学術会議により研究用原子炉のあり方について提言がなされて
おり、その中で「J-PARCだけで我が国の中性子利用を支えることは不可能な現状がある。」
ことが明記されている。東海地区ではこの現状を踏まえ、機構内のJRR-3利用に関わる組
織と共同して「JRR-3戦略的運用検討会」を開催し、今後の運用のあり方について検討を
行った。この議論を通じ、JRR-3において重点化すべきミッションと運営戦略について提言
をまとめたところである。同時に、次期炉についても原子力機構内の他組織と密接な議論を
行い、実現に向けた検討を行う所存である。
中性子利用の有効性を広めるなどの普及活動についても重要と認識している。現状の
JRR-3ユーザーズオフィスなどを実体のある実効的な組織としてさらに機能を高めることを
検討したい。
また、特に基礎研究に於いては、得られた成果が学術の進展にどのように寄与するのか
研究の意義を示すとともに、国内外の他機関との差異を明確にすることにより、現状の研究
の課題や問題点等を整理し今後の研究開発を進めることが必要と考える。
しろまる各研究開発について
JRR-3の停止する中で一定の制約を受けることはやむを得ないと思われるが、実用化を目
指した研究については、開発のスケジュールを明確にするとともに産業界との連携をさらに
強化する必要があると考える。量子ビーム利用普及の観点からもこれらの研究成果をア
ピールし、利用者増につなげていく取り組みも重要と考える。
タンパク質の構造解析をはじめとする中性子を利用したバイオ応用研究は、これまで非常
に優れた成果を挙げており、ご指摘のように今後とも重点的に実施すべき課題と考える。同
時に、この分野を原子力機構に於いて実施することの重要性に対する理解は研究の発展
だけでなく研究に従事する者の意欲増進にも直結するものである。得られた成果の高さと
研究の必要性を強くアピールする取り組みを続けたい。
しろまる東日本大震災以降、JRR-3の停止が続く中、着実に研究開発が続けられ、全体的に高い成果が発信されている。地区間の連携や他機関との共同研究も良好に推
進され、質の高い成果が得られていることは賞賛に値する。
しろまるJ-PARCや国外の研究炉を用い、マルチフェロイックに関する研究など、中性子の有する特性を巧みに活用した物性研究が進められており高く評価される。とりわけ、
播磨地区と協調した水素化物の高圧下での研究においては、放射光において金属原子の構造を決定した後、J-PARCのNOVAを用い国内最高の17GPa下で中性子
により水素位置を決定する優れた成果が発表された。
しろまる上記の他、高評価を受けた研究開発は以下の通り。
・動的核スピン偏極コントラスト変調法のタイヤ材料への応用と、含有するシリカの部分散乱関数の測定成功
・3He偏極スピンフィルターの開発(72%の偏極度)と、その応用として、垂直型円錐スピン構造と自発電気分極の関係性の解明
・βラクタマーゼの世界最高分解能中性子構造解析および放射線抵抗性の鍵となるタンパク質(PprA)の立体構造解明
・中性子非弾性散乱による、アクチンの単量体(G-actin)と繊維状重合体(F-actin)におけるダイナミクスの差異の検出、および、アクチンのダイナミクスと水和水のダイ
ナミクスの相関の実証
・理化学研究所、SACLAと連携した、単粒子の弱い回折像から実像イメージを構築するシミュレーション法の開発
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2.高崎地区
高評価
項目
しろまる種々の量子ビームの特性を活かした質の高い研究・開発が行われている。原子力機構ならではの解析技術を駆使したアプローチも評価できる。
しろまるものづくりにつながる具体的なテーマが多く、目標もわかりやすい。企業との連携も活発で、実用化に近い研究も多いため、広報的な観点からもアピールしやすい。
燃料電池膜については、グラフト型燃料電池電解質膜のイオンチャンネルの階層構造と燃料電池特性の関連性の解明を行い、ここまで導電性を向上させてきたことは
すばらしい成果である。
しろまる量子ビーム技術の医療・バイオ領域への応用は原子力機構に特徴的な研究であり、非常に有意義である。新しいイメージング技術開発による生細胞の微細構造や
生体機能、植物でのイオン移行挙動の解析などの研究により量子ビームの利用範囲を広げ、高いアクティビティで研究を遂行している。積極的にプレス発表を行って
いることも高く評価できる。
しろまる上記の他、高評価を受けた研究開発の内容は以下の通り。
・エマルショングラフト重合技術を開発するとともに、照射線量の低減化とグラフト重合反応の効率化を達成し、その成果に基づき民間企業との共同研究により、微量
金属除去用イオン交換繊維を商品化
・窒素イオン照射等による量子コンピュータに有利な長いスピン位相緩和時間を有するNV-欠陥の形成技術の開発
・三次元の線量評価を可能にする高分子ゲル線量計の開発
・イオンビーム育種技術開発に於ける、群馬県との連携による吟醸酒製造に適した清酒酵母を作出および県内の酒造蔵への頒布
・レーザープラズマ軟X線顕微鏡の開発とそれによる生細胞の微細構造のイメージング
・TIARAで製造した臭素76を用いた新たなRI薬剤の開発と、微小な褐色細胞腫の鮮明なPETイメージング
・植物でのカドミウムイオン移行挙動の直接イメージング解析
・重イオン照射による細胞のバイスタンダー効果の発見
期待・検
討項目
指摘事項
しろまる高崎地区全般について
・施設の稼働率が、「計画外停止時間」を使用して定義されており、見か
け上99%を超えている。「計画停止時間」を減らすなどの目標のために
は、絶対時間の定義に変える方が好ましいのではないか。
しろまる各研究開発について
・開発が進められている材料についてはさらなる性能向上を果たし、実
用化されることを期待する。また、優れた性能だけに注目するのではなく、
実用性能すべてにわたる慎重な評価も望まれる。これらとともに普遍性を
追求した研究も行ってほしい。
・燃料電池膜、バイオ燃料など多くの企業が手掛けている課題について
は、原子力機構で研究を行うことの特徴が出るような研究のアプローチを
常に心がける必要がある。
・イオンビーム育種技術は非常に有用なツールであるとともに原子力機
構ならではの技術であり、今後の発展を期待する。清酒などの嗜好品だけ
でなく、害虫に食われにくい植物、糖分が画期的に多い食物など、未来の
高付加価値農業を見据えた革新的な技術開発に展開することも望まれ
る。
・開発されたレーザープラズマ軟X線顕微鏡は、生体機能の解明に有効
と考えられる。今後のさらなる空間分解能の向上に期待したい。
・医療応用については、原子力機構単独ではその実践が難しいと考えら
れる。従来より行われている関連機関、企業などとの共同研究をさらに推
進し、部門に於いて開発された技術を実用性に即して評価していくことも
重要である。
対応
しろまる高崎地区全般について
施設の稼働率の提示について、どのような方法が最適であるか、ご指摘の内容を踏まえ、
他施設の状況と比較するなどにより検討を行いたい。
しろまる各研究開発について
・材料開発については、原子力機構ならではの特長が現れるよう心がけるとともに、単一
の性能のみに注目するのではなく、実用性能全般にわたる評価を通じてより信頼性の高い
実用材料開発を目指す。同時に、基礎科学に立脚した普遍性の追求を進めることにより、
実用性能にフィードバックさせる研究も行いたい。
・燃料電池膜、バイオ燃料触媒などのテーマについては、量子ビームの特徴を活かした
研究開発を推進し、革新的成果の創出を目指したい。
・イオンビーム育種については、高付加価値で実用性の高い品種の作出を見据え、さら
なる技術開発の展開を開始している。
・開発したレーザープラズマ軟X線顕微鏡について、多様な細胞試料に対応するため高
コントラスト化を進めるとともに、今後もさらなる空間分解能の向上を目指したい。
・また、医療応用など、原子力機構単独での実施が難しい研究分野については、必要に
応じて関連機関、企業などとの連携、協力の推進を図っていく。
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3.木津地区
高評価
項目
指摘事項
しろまる木津地区全般について
・研究開発の成果を新たな量子ビーム技術として実用化につなげるため
に、既存の技術との対比を常に念頭に置きながら、他の領域あるいは原子
力機構外との共同研究を進め、ビーム開発にフィードバックさせていくこと
が重要である。
・全体の研究目標設定が定量性も含めてやや不明瞭なきらいがあり、進
捗状況や世界的な研究動向・レベルとの比較などに関する評価が難しい
部分がある。国際競争が激化し、近くは東アジアでも中国、韓国、台湾で
のこの分野での研究が進展している中、量子ビーム利用としてのミッション
との整合性をとりつつ、木津地区が何を目指すのかを明確にすべきであろ
う。
・ペタワット級の先の超高強度レーザーの開発は、もはや一研究所が担
える段階を超えつつあり、今後、機関連携が極めて重要となる。これらの研
究は、従来までの原子力機構のミッションからはやや異色の分野ではある
が、国内最大のフェムト秒レーザーを有する施設としてこれらの研究を位
置づけ、国内(あるいは海外)連携について、木津地区が積極的に中心的
役割を担うことが期待される。
・研究推進に必要となる高出力レーザー技術の進展が不可欠であるが、
開発に携わる研究者の人材育成を含め、より戦略的な取り組みが望まれ
る。
しろまる各研究開発について
・高出力レーザーによる二次量子ビームは、イオンビーム以外にもテラヘ
ルツ〜XUV、X線、ガンマ線のみならず電子、さらに中性子といった極めて
スペクトルの広い高輝度・短パルスの複合量子ビーム源であり、部門として
積極的に研究開発に取り組むべき領域である。
・J-KARENレーザー及び軟X線レーザー共に利用件数に減少傾向が見
られることに留意すべきである。先進ビーム技術の開発は、長期的に見て
意義のある分野であり、いずれも基礎研究としての意義は高いと思われる
が、研究の出口である具体的な目標との距離感が感じられる。また、技術
的なテーマについて研究開発は順調と判断するが、その応用について他
地区との連携成果が見えにくい。
・同位体分離研究では、原理実証とともに核種分離・核変換への展開と
その実用化に至る道筋を示していくことも必要と考えられる。
対応
しろまる木津地区全般について
研究目標設定が不明瞭であるとのご指摘については、世界の現状と、木津地区の目指す
方向性を明らかにした上で、よりわかりやすいものとして今後改めて提示したい。この中で
研究開発の成果を新たな量子ビーム技術として実用化につなげるための方策や、他分野
との連携についても具体化していきたいと考える。
超高強度レーザーの開発が現状の組織のあり方では困難となりつつあることはご指摘の
通りである。これらの開発研究を進めるために最適な組織がどのようであるべきかを常に意
識しつつ、木津地区が中心的な役割を果たせるよう、諸々の機会を捉えて将来計画の検討
を行いたい。同時に技術開発を行うための人材育成戦略についてもこれらの計画を担う重
要な側面と考えている。
しろまる各研究開発について
高出力レーザーによる二次量子ビームは、広範な種類の量子ビーム源となり得るものであ
り、今後とも積極的に研究開発を推進したい。これらのビーム発生については開発の緒に
就いたばかりのものも少なくないが、その応用の探索も含めて他地区との連携を図り、必要
とされる技術開発の道筋をより具体化したい。
J-KARENレーザー等の利用件数減少については注視しているところではあるが、汎用性
の高い機器とは異なることから、利用増のためにはこれまでの視点とは異なる取り組みが必
要となってくるものと思われる。高強度レーザー普及の観点から改めて検討を行いたい。
また同位体分離研究では、その研究の特性からご指摘の通り実用化に至る道筋を明らか
にすることが不可欠と考えられる。目的、目標をどこに置くのかを判断しつつ研究開発のプ
ロセスを再点検したい。具体的には、当研究に必要な高強度テラヘルツ光源発生及び発
生用超短パルスレーザー開発等の要素技術を開発しながら、テラヘルツ光による同位体選
択励起実証試験を同時並行して進める。選択励起実証試験については、まず軽元素の一
般同位体分子を対象とした基礎的な試験を行った後に、重元素を対象とした実証試験を進
め、最終的な分離対象の135CsIのレーザー量子制御による核種分離技術を確立する。更
にこの技術を元にADSと連携した廃棄物低減に向けた研究展開を検討していく。
しろまるJ-KARENレーザーのパルスコントラストの向上や高次高調波、イオン加速において成果が出ていることは高く評価できる。
しろまる相対論的プラズマからの高次高調波発生の新しいメカニズムの発見は、コヒーレント超短パルス光源開発における高エネルギーフォトン発生の将来展望にとって大
変魅力的であり高く評価できる。
しろまる上記の他、高評価を受けた研究開発の内容は以下の通り。
・光陰極直流電子銃の開発における500kV, 10mAでの電子ビーム発生の成功
・光量子利用技術の産業応用への展開による、着実な成果の創出
期待・検
討項目
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4.播磨地区
高評価
項目
期待・検
討項目
指摘事項
しろまる播磨地区全般について
・構造解析の対象としている物質が妥当であるかについて、学問的興味
の範疇を含め充分検討する必要がある。基礎研究の重要性については十
分認識するが、その研究の先にどのような学術的に重要な原理原則の解
明があるのかを示すことが望まれる。
・テーマによっては量子ビーム利用の手法自体が必ずしも目新しくないと
思われることもあり、研究対象を何にするかの選定が重要と思われる。放
射光は、産業利用にも幅広く普及しており、産業応用のテーマは産業界
の連携先との協力を密にして進展を図ることが有効と考えられる。
しろまる各研究開発について
・水素化物の研究は、被覆管の脆化等、原子力エネルギー関連研究に
も生かされることが期待され、今後、他の研究分野と一体となって推進す
べきと思われる。
・中性子散乱法を用いた放射光との相補的研究や、理論グループとの
連携により、超伝導引力とフォノンの関連性について考察が深まることが
期待される。
・共鳴非弾性X線散乱法は、鉄系超伝導体の電子状態解析などで優れ
た成果を上げているが、エネルギー分解能等でアメリカに大きく後れを
取っており、より多くの人数を割くための体制作りが望まれる。原子力機構
の中での解決が難しい場合は、他機関と積極的に連携するなど、至急手
立てが必要と考えられる。
・錯体化学の研究は水溶液系だけでなく、非水溶媒、新規媒体であるイ
オン液体のミクロ構造、これら媒体中の金属錯体の構造や挙動等の研究
に発展することが望まれる。
対応
しろまる播磨地区全般について
基礎研究に於いて、得られた結果が学術の進展にどのように貢献するかを明らかにする
ことは必要と考える。量子ビーム利用の手法自体が従来と同様のものであっても明らかにす
べき対象を捉え、これを曖昧にすることなく目標設定や対象物質の選定を行いたい。また、
産業応用を主眼とするテーマについては基礎研究以上に目標設定、研究スケジュール設
定を確実にする必要があると考えており、産業界との連携を密にして開発の進展を図りた
い。
しろまる各研究開発について
水素化物の研究や中性子散乱との相補的研究など、他地区、他分野との協力によりその
成果の進展が強く望める課題については積極的な連携に努める。また共鳴非弾性X線散
乱法など、世界から後れをとっている課題についても問題の本質を明らかにしつつ他機関
との連携を模索するなど解決を図りたい。
いくつかの研究については、これまでの延長線上とは別の分野への発展が期待される。こ
れらについてはご指摘の主旨を踏まえ、従来計画にとらわれず、より高い成果が得られるよ
う計画の変更を含めて機敏に対応したい。
しろまる放射光と中性子の複合的・相補的利用や計算機シミュレーションを活用して、将来の応用が期待される材料(強磁性・強誘電体、超伝導体、機能性高分子等)の構
造と物性機能発現機構の相関を明らかにし、新機能物質・材料の創成を目指す研究方針は、大いに評価できる。また、SPring-8の専用ビームラインにおける運転・利
用状況も順調であり、外部利用者の実施課題数も妥当である。全体として高い成果が創出されており、マネジメントが有効に機能していることを示している。
しろまる金属の水素吸蔵や、燃料電池など、水素関係のエネルギー関連研究は放射光と中性子の相補利用により量子ビーム利用の独自色創出に大きく貢献するとともに、
レベルの高い研究成果を上げている。
しろまる放射光を利用した錯体化学の研究は、溶液化学(構造、反応)の分野に新しい概念を提供するとともに世界をリードするレベルの高い、先進的な研究が行われてい
る。アクチノイドだけでなく、他の金属錯体の研究に発展できるテーマであり、核種分離法や福島原発の汚染水の処理法開発にもつながる重要な成果である。
しろまる上記の他、高評価を受けた研究開発の内容は以下の通り。
・水素−金属相互作用に関する研究
・放射光メスバウアー分光法による薄膜の局所磁性の研究
・鉄系超伝導体の格子振動についての研究
・非共鳴X線非弾性散乱法を用いた微単結晶によるフォノンモードの研究
・元素戦略プロジェクト「脱貴金属を目指すナノ粒子自己形成触媒の新規発掘」による、貴金属の代替材料につながる研究開発
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IV.まとめ
期待・検
討項目
しろまるまとめ、全般について
・我が国の原子力政策が原子力機構における量子ビーム応用研究の活
動に影響することは否めないが、今後、原子力政策や原子力機構の業務
内容がどのように変化しても、科学技術・学術の発展、イノベーション創
出、産業の振興等に資する量子ビームの重要性が揺らぐことはない。持続
可能な社会をどのように構築するかという課題を考えた場合、基礎科学、
エネルギー、環境、材料、情報技術、その他さまざまな観点からの研究が
必要であり、どの分野においても量子ビームという研究資源は、他では得
られない貴重な情報をもたらす。量子ビーム応用研究部門及び関連研究
拠点は、この分野の中核組織として、我が国の量子ビーム応用研究を今
後も牽引していくことを切望する。
・部門が、本質的に変わろうとしていることはここ数年の評価を通してよく
理解された。この姿勢を原子力機構がどのようにとらえ、支援するかが課
題と考える。将来に向けた組織のあり方も見据えつつ、日本全体の量子
ビーム応用研究にかかわる問題だという認識で、今後とも期待とともに注
視したい。
しろまるまとめ、全般について
周囲の状況がめまぐるしく変化する中、ご指摘のように量子ビーム応用研究が様々な影
響を受けていることは否定できない。しかしながら、量子ビーム応用研究のミッションである
「量子ビームによる科学技術の競争力向上と産業利用に貢献する研究開発」が社会全体
に大きなプラスをもたらすことを常に認識し、周囲の状況に惑うことなく研究開発を進展させ
ていきたいと考える。
これまでいただいた貴重なご意見と激励に心より感謝するとともに、今後も引き続き量子
ビーム応用研究に対するご支援をお願いしたい。
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