<主張>総裁選と拉致問題 母の嘆きに真剣に応じよ 社説
自民党総裁選と立憲民主党代表選が進行中だ。だが、北朝鮮による拉致問題への言及が寂しすぎないか。特に自民党政権にとって拉致は「最重要課題」だったはずである。
北朝鮮は選挙期間中も日本海に弾道ミサイルを撃ち込み、その反応とともに各候補の拉致問題への熱意の有無をみている。
拉致被害者家族会と支援組織「救う会」は11日、各候補者に呼び掛ける異例の記者会見を開いた。拉致被害者の横田めぐみさんの弟で家族会代表の拓也さんは「選挙前の会見実施に迷いもあったが、母から『あまりに発言の乏しい現状に絶望している』と相談があり、決意した」とその経緯を明かした。
その母、早紀江さんは会見で「日本のために頑張りたいという思いで立候補されたのであれば、国の問題、命の問題である拉致問題を取り上げ、真剣に論じてほしい」と訴えた。母の嘆きは、国民の怒りであると受け止めてほしい。
拉致問題に関する論戦は確かに低調である。立民に至ってはほとんど聞こえてこない。
候補者に聞けば「全ての拉致被害者の即時帰国を目指す」といった答えが返ってくるが、これらは従来通りの方針である。具体案は、高市早苗経済安全保障担当相による「NHKの国際放送を通じた国際世論喚起」にみられる程度だ。
石破茂元幹事長はかねて「東京と平壌に連絡事務所を開設して交渉の足掛かりとする」とうたっているが、家族会は時間稼ぎに利用されるだけだと強い拒否反応を示している。
河野太郎デジタル相は「この問題をふりかざして北朝鮮と向き合っても乗ってくるとは限らない」などとし、「北朝鮮が望んでいることは何かを引き出すことが大事だ」と述べた。
小泉進次郎元環境相は自身が金正恩朝鮮労働党総書記と同世代であり、父親同士が会っているという関係性を礎に「新たな展開を切り開いていきたい」と語った。当時の小泉純一郎首相の訪朝が実現した背景に日米の強い圧力があった教訓を抜きに「同世代と父親の縁」に頼る姿勢は甚だ心もとない。
こうして言葉を並べれば、早紀江さんの嘆き、怒りはもっともである。拉致問題解決への方策について、もっと熱く論じ合ってもらいたい。