基本測量に関する長期計画

1基本測量に関する長期計画
令和 6 年 4 月 1 日
国土交通省 国土地理院 2目 次
1.はじめに
2.背景
3.基本方針・計画期間
4.国家座標に基づく測位と測量
5.基盤となる地図情報等の整備
6.測量技術を活用した防災・減災、災害対応の推進
7.地理空間情報の提供及び活用推進
8.測量行政及び国際的な活動
9.研究開発及び人材育成
10.計画の実施とフォローアップ 31.はじめに
昭和 28 年度から昭和 37 年度の第 1 次基本測量に関する長期計画(以下「長期計画」とい
う。
)の策定から 70 年目を迎え、今回の長期計画は第 9 次となる。長期計画は測量法(昭和
24 年法律第 188 号)第 12 条に基づき国土交通大臣が定めるものであり、全ての測量の基礎
となる測量として国土地理院が行うこととされている基本測量に関する計画である。
この長期計画は、基本測量の目標とそれを達成するための施策をあらかじめ明らかにす
ることにより、
測量成果の利活用に必要となる測量の正確さを確保するとともに、
基本測量
成果を利用することにより様々な主体等による測量への重複投資が避けられるという測量
法の理念を達成するために策定するものである。加えて、近年の長期計画においては、今後
10 年間に国土地理院が目指すべき施策の方向性を定めるという面も備わっているという意
味でその重要性が高まっている。
また、現在及び将来にわたって国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会
を実現する上で地理空間情報を高度に活用することを推進することが極めて重要であると
いう地理空間情報活用推進基本法(平成 19 年法律第 63 号)の理念に則り、誰もがいつでも
どこでも必要な地理空間情報を活用できる「地理空間情報高度活用社会(G 空間社会)
」を
実現することが求められている。そのためには、測量の正確さの確保等により、位置的に重
ね合わせができる良質な地理空間情報を整備することが必要である。
今回の長期計画においては、これらに加え、準天頂衛星システム「みちびき」の 7 機体制
の完成が迫り、11 機体制の検討が開始された中で、今後、到来が予測される高精度測位社
会において、海外に依存せずとも安定して正確な位置情報を享受できる社会の実現を目指
すことに重点を置く必要がある。
また、
国民全てが精度の高い地図に自由かつ安価にアクセ
スできる環境を構築・維持し、それをデジタルにおいても実現することが必要である。この
ため、インターネット上の地図や電子基準点データ等のデジタルデータの利用拡大に対応
したデータ提供体制の構築が重要である。
加えて、
近年、
行政機関においては限られた人員・ 4予算の中で効率の向上がますます重視されるようになってきていることから、デジタル技
術を活用した業務改革を通してより効率的で利用者のニーズに則した行政サービスの提供
体制を構築することが不可欠である。これら今後 10 年間で、国土地理院が目指すべき施策
を明らかにすることを目的とするものである。 52.背景
第 8 次長期計画期間中には、社会情勢・社会課題に大きな変化が生じた。日本を巡る地政
学的な位置づけの変化や自然災害の激甚化の影響により、
国民の間に安全保障・防災等への
意識が高まっている。また、測量技術の進展に伴い、測位環境が大きく向上した。さらに、
新型コロナウイルス感染症を契機とした社会全体のデジタル化の加速は社会の有り様を大
きく変化させ、DX 進展と地理空間情報の活用拡大が進んでいる。
(1)安全保障・防災等への意識の高まり
ICT(情報通信技術)の積極的な活用の重要性が様々な場で強調される一方、サイバーテ
ロやハイテク犯罪等が国家や組織、個人の安全保障にとっての重大な脅威となりつつあり、
我が国はサイバーセキュリティをいかに確保するかという課題に直面している。このよう
な情勢の下、令和 4 年 5 月 11 日に経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の
推進に関する法律(経済安全保障推進法)が成立した。この法律は、国際情勢の複雑化、社
会経済構造の変化等により、安全保障の裾野が経済分野に急速に拡大する中、国家・国民の
安全を、
サイバーセキュリティを含む経済面から確保するための取組を強化・推進すること
を目的とするものである。
また、我が国の安全保障をめぐる環境が一層厳しさを増している。国家安全保障戦略(令
和 4 年 12 月国家安全保障会議・閣議決定)では、我が国を取り巻く安全保障環境と我が国
の安全保障上の課題として、中国による我が国の尖閣諸島周辺における領海侵入や領空侵
犯、
北朝鮮によるかつてない高い頻度・新たな態様での弾道ミサイルの発射と急速な能力増
強、ロシアによるウクライナ侵攻や我が国固有の領土である北方領土での軍備強化等が挙
げられている。
このような中、
我が国の主権と領土保全の重要性について再認識されている。
我が国は、その国土の地理的・地形的・気象的な特性により、従来から数多くの自然災害
に見舞われてきた。
特に近年は、
気象災害に関して時間雨量 50mm を超える雨が頻発する等、 6雨の降り方が、局地化・極端化しており、地球温暖化に伴い土砂災害、洪水被害の頻発化、
激甚化が顕著になると指摘する研究者もいる。
また、南海トラフ地震や首都直下地震は、今後 30 年間に高い確率で発生するとの予測が
地震調査研究推進本部により示されている。
「通常と異なるゆっくりすべり」が南海トラフ
地震臨時情報の発表条件の 1 つであることや、東日本大震災では現在に至るまで顕著な余
効変動が継続していること等から示されるように、
地殻変動の継続的な監視は、
大規模災害
への備えや発災後の復旧・復興に欠かせず、
その鍵である測量技術の重要性が高まっている。
そのような中、南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法、日本海溝・
千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法、火山調査研究推
進本部の設置等を定めた活動火山対策特別措置法等の地震・火山災害に関する法令の改正
が続いている。
(2)技術の進展に伴う測位環境の向上
近年の測量技術の発展は著しく、特に準天頂衛星システム「みちびき」をはじめとした衛
星測位システムの拡充等により衛星測位分野は大きく発展し、利活用はめざましく拡大し
た。高度な衛星測位は G 空間社会の実現に不可欠な技術であるが、平成 22 年度に初号機が
打ち上げられた準天頂衛星システム「みちびき」は、準天頂軌道 2 機、静止軌道 1 機の追加
3 機が平成 29 年度に打ち上げられ、平成 30 年度から 4 機体制によるサービスを開始した。
準天頂衛星システム「みちびき」は、宇宙基本計画工程表(令和 4 年度改訂)では令和 6 年
度中の 7 機体制運用開始を目指すとされていることに加え、宇宙基本計画(令和 5 年 6 月
宇宙開発戦略本部・閣議決定)では、自律測位の観点から、機能性や信頼性を高めて衛星測
位機能を強化するため、7 機体制から 11 機体制に向け、コスト縮減等を図りつつ、検討・
開発に着手するとされている。
このように測位衛星を用いた測量環境が整う中、
令和元年 10
月に「民間等電子基準点の性能基準及び登録要領」が制定され、国土地理院に登録された 7GNSS 連続観測局(民間等電子基準点)を利用することで、国家座標に準拠し、一定精度を
有する GNSS データを利用することが可能となった。また、衛星測位システムをはじめ、超
長基線電波干渉法(VLBI)等の宇宙測地技術は、高精度な測位サービスの基盤であることに
加え、
国連総会が決議した地理空間情報の基盤である
「持続可能な開発のための地球規模の
測地基準座標系(GGRF)
」の構築・維持に必要不可欠であり、海面変動の精緻な観測等、地
球環境の把握にも欠かすことができない。
準天頂衛星システム「みちびき」を含む GNSS 衛星を用いた精度の高い標高決定を可能に
するため、
国土地理院は、
令和元年度からの 5 年間で全国の重力データを航空重力測量によ
り詳細に取得し、その他に利用可能な地上重力、衛星重力、海上重力等のデータと組み合わ
せて、これまでよりも高い精度の精密重力ジオイド(精度 3cm 以内)を構築した。国土地理
院は、
精密重力ジオイドと電子基準点網に基づいて標高を決定する新たな仕組みを令和 6 年
度までに整備することとしている。
また、
量子重力計及び光格子時計の測地分野での利活用
が広がり、絶対重力値の連続観測や重力ポテンシャル差の直接測定が高い精度で実現した
ことによって、GNSS 観測と組み合わせることでジオイドの変化をより高い精度で監視する
ことが可能となりつつある。さらに、国際測地学協会(IAG)による「国際高さ基準座標系
(IHRF)
」の構築及び運用開始の準備が進められている。
(3)社会における DX 進展と地理空間情報の活用拡大
新型コロナウイルス感染症を契機としたデジタル化の加速は社会の有り様を大きく変化
させ、DX が進展するとともに地理空間情報の活用が拡大している。
急速に進歩した衛星測位技術を用いた自動運転や自動施工
(i-Construction)
等の導入が
精力的に進められ、作業時間の短縮、省力化等により効率的な施工に貢献している。また、
位置情報と各種データを組み合わせて利用することで、物流や都市計画等の様々な分野に
おいてより高度な分析や効率的な計画立案が可能となる。このように様々な分野において 8位置情報の活用が広がっている。
経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2023(令和 5 年 6 月閣議決定)では、安全
保障にも資する地理空間(G 空間)情報の充実・高度活用が、グリーントランスフォーメー
ション(GX)
、DX 等の加速に必要な施策として登録される等、DX を推進する上での地理空間
情報の重要性が広く認知されてきている。
一方、平成 28 年に施行された官民データ活用推進基本法においては、国及び地方公共団
体はオープンデータに取り組むことが義務付けられており、オープンデータへの取組によ
り、国民参加・官民協働の推進を通じた諸課題の解決、経済活性化、行政の高度化・効率化
等が期待されている。
内閣府は Society5.0 の実現を通じて世界規模の課題の解決に貢献するとともに、我が国
自身の社会課題の克服や産業競争力の向上に向けて、AI に関する総合的な政策パッケージ
を示すことを目的に、令和元年に AI 戦略 2019 を策定した。令和 4 年に策定された AI 戦略
2022 では、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックや大規模災害等、より明白にな
る多くのリスク要因等を反映し、従来の AI 戦略の状況に適合した拡張を行った戦略方針を
提示した。
令和 3 年 5 月に第 5 次社会資本整備重点計画が閣議決定された。第 5 次計画では、昨今
の社会情勢の変化を踏まえて、
「インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション」に
関する目標が新たに追加された。
本重点計画においては、
国土地理院が行っている 3 次元地
図の基盤となる標高データの整備、電子基準点及び先進レーダ衛星等を使用した世界最高
水準の地殻変動等の監視、並びにセンチメータ級の高精度測位を支える取組が、
「インフラ
分野のデジタル・トランスフォーメーション」
の目標達成に必要な重点施策として示されて
いる。電子基準点については、国民経済・生活を支え、国民の生命を守る重要インフラが、
あらゆる自然災害に際してその機能を継続して発揮できるよう、平成 30 年 9 月の重要イン
フラの緊急点検に関する関係閣僚会議を受けて実施されている
「重要インフラ緊急点検」の 9
対象ともなっている。
令和 4 年 3 月に第 4 期地理空間情報活用推進基本計画が閣議決定された。地理空間情報
活用推進基本法に基づき策定される地理空間情報活用推進基本計画においては、第 1 期計
画(平成 20 年 4 月閣議決定)以降、一貫して G 空間社会の実現を目指してきた。第 4 期計
画においては、誰もがいつでもどこでも自分らしい生き方を享受できる社会の実現に向け
て、
地理空間情報のポテンシャルを最大限に活用した多様なサービスの創出・提供の実現を
目指すことを目的としている。
重点的に取り組むべき施策として、
国土地理院関係では、
「高
精度測位時代に不可欠な位置情報の共通基盤「国家座標」の推進」が登録されている。
令和 3 年に内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、公的機関等で登録・公開され、
様々な場面で参照される、人、法人、土地、建物、資格等の社会の基本データであり、正確
性や最新性が確保された社会の基盤となるデータベースである「ベース・レジストリ」とし
て、国土地理院の電子国土基本図を指定した。電子国土基本図は、デジタル庁設置法に基づ
くデジタル庁告示第 12 号(令和 5 年 7 月)においても、引き続きベース・レジストリとし
て指定されている。デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和 5 年 6 月閣議決定)では、
電子国土基本図について、ベース・レジストリであることを踏まえ、更新頻度及び機械可読
性の向上を図るとともに、国土全域を対象とした 3 次元化を実現するとされている。
測量業界においては、近年、今後の地理空間情報整備・活用を支える若年測量技術者が減
少している。
一方で、
少人数又は非熟練技術者でも測量が可能な測量機器の普及が進むとと
もに、低価格な測量機器が登場している。
高校教育における学習指導要領では、
「社会的事象の地理的な見方・考え方を働かせ、課
題を追求したり解決したりする活動を通して、
広い視野に立ち、
グローバル化する国際社会
に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資
質・能力」を育成することを目的として、令和 4 年度から「地理総合」が必履修化された。
また、GIGA スクール構想を踏まえたデジタル教科書の効果的な活用も検討されており、地 10理教育分野での防災・地理空間情報の活用推進に向けた支援も期待されている。 113.基本方針・計画期間
(1)本計画の基本方針
情報技術の急速な進展、
社会情勢の変化及び位置情報の活用拡大に対応するため、
本長期
計画の基本方針は以下の 3 点とする。
1インフラ分野の DX をはじめとした社会のデジタル化の基礎となる基盤的なデータの整備
に関する取組に重点を置く。
2測量のみならず測位分野における基本測量の役割の増大に対応した取組に重点を置く。
3新技術を活用し、デジタル社会のニーズに対応した地図情報の鮮度の向上と 3 次元化の
推進に関する取組に重点を置く。
(2)計画期間
基本測量の測量成果に基づき、公共測量等の各種測量が正確かつ効率的に実施されるた
めには、基本測量に関する計画が一定期間継続して施行される必要がある。また、施策の効
果を評価する上でも、社会に浸透するまでに一定期間を必要とする。このため、今回の長期
計画の計画期間は令和 6 年度から令和 15 年度までの 10 年間とする。 124.国家座標に基づく測位と測量
(1)共通の位置の基準である国家座標の整備及び保全の推進
国土地理院は、
測量行政の中核的な役割を担う国家地理空間情報当局として、
全ての測量
の基礎となる基本測量を実施するとともに、位置情報を整合させるための共通ルールであ
り、我が国の位置の基準として社会活動を支える国家座標を整備・保全する責務を負う。日
本列島周辺は、
複数のプレートがぶつかり合うことで、
地殻に複雑な力が加わって大小様々
な地殻変動が起きている。国土地理院は、日本の領土・領海を明示し保全するために不可欠
な国土の測量を行うことに加え、様々な技術を用いた測地観測により地殻変動を正確に捉
えることで、
正確な測位・測量に必要な地殻変動補正情報の品質及び使いやすさの向上を図
り、高精度測位社会を支える。そのため、以下の施策を行う。
・全球統合測地観測システム、国際 VLBI 事業、国際 GNSS 事業、南極域での測地観測等国際
協働観測に参加し、
地球の形状・回転・重力場を定める宇宙測地技術のコアサイトとして、
国連総会が決議した世界共通の位置の基盤である「地球規模の測地基準座標系」の構築・
維持を推進する。
・国の安全の観点から、我が国独自に GNSS 衛星の正確な軌道情報を算出し、安定的に提供
することで、これらを海外から取得せずとも衛星測位により迅速かつ安定して正確な位
置を得られる環境を構築する。
・国家座標の基盤である電子基準点を維持管理し、
国土のどこでも衛星測位を通じて正確な
国家座標を利用できる環境を維持するとともに、電子基準点リアルタイムデータの安定
的な配信を確保するため、GNSS 連続観測システム(GEONET)の冗長性・抗堪性の向上、国
家座標の維持管理への精密単独測位(PPP)の導入等によって、電子基準点を基盤とする
高精度な測位・測量環境の安全性・耐災害性を向上させる。
・高精度な精密重力ジオイドを整備し、
全国の標高を精密重力ジオイドに基づく値に刷新す
る。この際、関係機関への情報提供を遅滞なく適切に行う等、標高改定の円滑な実施に努 13める。また、精密重力ジオイドに基づき標高を決定する GNSS 標高測量を導入し、明確な
基準日
(元期)
における精密な標高を衛星測位によって迅速に得られる環境を整備する。
さらに、地殻変動で日々変化する座標値の利用を可能とするダイナミックな位置の基盤
(ダイナミック測地系)の試行を開始する。これにより、日々の測量業務が効率化される
とともに、地震等により大規模な地殻変動が発生した場合でも迅速に測量成果を改定し、
迅速な復旧・復興工事が可能となる。
・地殻変動補正の精度向上や精密重力ジオイドを更新するための継続的な観測・解析を行う
とともに、
量子重力計等の最新技術を活用した効率的な重力測量の導入に向けた調査・検
討を行うことにより、衛星測位による高精度な標高決定を持続可能とする基盤である精
密重力ジオイドを着実に維持管理する。
・電子基準点による定常時における地殻変動監視と干渉 SAR 技術を組み合わせることによ
り、地殻変動補正情報の空間及び時間分解能を向上させる。
・国家座標の時間管理を導入することにより、
任意の時点で地殻変動補正を行った正確な位
置情報を国土のどこでも利用可能とする基盤である 4 次元国家座標が構築され、位置情
報を扱う幅広い分野での国家座標の活用促進、
社会全体の生産性・安全性が担保される環
境を実現する。
・4 次元空間情報の表現方法を検討し、4 次元国家座標へのアクセス性を向上させる。
・民間等電子基準点の利用等により地殻変動補正の分解能を向上させる。
・基準点測量、
重力測量等の実施により、
我が国の領海を根拠付ける離島における国家座標
を維持・管理し、我が国の国土管理に貢献する。
・国家座標の維持管理では、電子基準点を用いた GNSS 測量がその効率の高さのため主流に
なっている。これを踏まえ、標石基準点(三角点)は、地表における局所的な相互の位置
関係を示す標識として維持・管理を行う。特に、離島の保全に資する点、法令等に指定さ
れている点及び主要な山岳等、
土地に紐づいた目印として文化的・歴史的に重要な点につ 14いては着実に維持・管理を行う。さらに、地震等により地殻変動が生じた際には、変動前
後の位置情報をつなぐための基準点として、電子基準点と比べて密度の高い標石基準点
を用いて国家座標の維持・管理を行う。
(2)高精度測位技術の一般化の推進
第 4 期地理空間情報活用推進基本計画において、インフラ分野の DX の一環としての i-
Construction の推進、ドローン物流の社会実装の推進、農業機械の自動走行等のスマート
農業の現場実装の加速化等が目標として示されている。これらの目標を達成するためには、
準天頂衛星システム 7 機体制の実現等による測位環境の向上に加え、より高精度な衛星測
位を可能とする補正情報の高精度化及び利便性の高い方法での提供が不可欠である。その
ため、以下の施策を行う。・「官民データ活用推進基本法」や「オープンデータ基本指針」等を踏まえ、電子基準点の
観測データ等の電子基準点に関わるデータが容易に利用できる環境を維持するとともに、
必要に応じた拡張を行う。
・民間等電子基準点を用いた多様なサービスの発展を見据え、
民間等電子基準点の精度評価
を引き続き行い、利用者が安心して各種サービスを安定的に利用できる環境作りを行う。
・電子基準点の利活用を拡大するため、
精密暦の提供等、
国家座標に準拠した高精度測位の
結果を利用者が容易に得られる環境を整備する。 155.基盤となる地図情報等の整備
(1)国の領域に関する情報を整備・更新するための取組
国土地理院は、我が国唯一の国家地理空間情報当局として、明治 2 年の組織発足以来、国
土の基盤となる地図情報の整備を行っている。国土地理院が整備する地図情報は我が国の
領土を対外的に示す役割も担っており、その確実な整備・更新は領土・地名等に関する我が
国の認識を国際的に発信する上で必要不可欠である。そのため、以下の施策を行う。
・我が国の領土を国内外に正確に明示する基礎的な地理空間情報を着実に整備・更新する。
・我が国の領海を根拠付ける離島に関する基礎的な地理空間情報を着実に整備・更新する。
(2)社会の基盤となる地理空間情報を整備し、提供するための取組
国民が正確性・信頼性の高い地理空間情報を享受し、
その地理空間情報が行政の様々な計
画や意思決定、
災害対応等で参照されるとともに、
民間も含めた多様な地理空間情報の基礎
情報として活用される社会を実現するため、基盤地図情報や電子国土基本図(地図情報、オ
ルソ画像、地名情報)
、3 次元データ(高さデータ)等の測量に基づく精度の高い地理空間
情報を、遅滞なく継続的かつ効率的に整備・更新する。このため、以下の施策を行う。
・3 次元データ(高さデータ)について、国土全域での整備を概成する。
・社会における DX の進展を受けて、基本測量成果の整備・提供方法を、これまで以上にデ
ジタルデータの利活用拡大に資するものへ転換する。また、これを実現するため、国土地
理院が整備すべき基礎的な地理空間情報を再定義した上で整備・更新する。この際、国の
安全に関わる情報として利活用される観点から、
防衛省・自衛隊等の関係機関と十分な調
整を行う。
・高精度測位社会が進展する中で安価・容易な高精度測位手法が登場している。
これらの手
法により獲得される地理空間情報を活用したサービス・アプリの普及、
リアルタイムデー
タの活用拡大等の近年の社会状況の変化や社会全体における DX の推進に対応するため、 16基盤地図情報の役割及び整備すべき地理空間情報の項目を再定義し、高精度測位社会に
則した地理空間情報を整備・更新する。この際、国の安全に関わる情報として利活用され
る観点から、防衛省・自衛隊等の関係機関と十分な調整を行う。
・ベース・レジストリである電子国土基本図の整備・更新における生産性向上を図るため、
従来から行っている公共測量成果の活用を強化することと併せ、衛星データの活用や AI
等の最新の技術を導入するとともに、DX を含めた業務プロセスの見直しを行う。 176.測量技術を活用した防災・減災、災害対応の推進
(1)災害を予防し、発災時の被害を低減させるための取組
近年、自然災害が激甚化、広域化する中で、発災前に行われる防災・減災の重要性はます
ます高まっている。政府の防災基本計画(令和 5 年 5 月 中央防災会議決定)において、災
害を防止し、
または災害が発生した場合における被害を最小限にするための取組として、国土地理院には防災地理情報の整備や災害予知・予測につながる観測態勢・施設の充実・強化
を図ることが求められている。防災・減災において必要な役割を果たすため、以下の施策を
行う。
・航空レーザ測深(ALB)等の測量技術、並びに三次元点群データを含む基本測量成果及び
公共測量成果等を活用して、自然地形や人工的な盛土等の土地に関する地理的災害リス
クの情報等、地震、噴火、豪雨等による災害の危険性に関する防災地理情報を効率的に整
備・提供する。
・防災地理情報の活用方法を分かりやすく発信し、
行政機関及び国民の防災地理情報の活用
力向上を図り、災害による被害の軽減を実現する。
・自然災害から国民の命を守るため、
過去の自然災害から得られた教訓の伝承
(自然災害伝
承碑)
等に関する情報の整備及び活用促進の取組を関係行政機関と連携して行い、
地域住
民の災害に対する意識の醸成を図る取組を推進する。
・干渉 SAR 技術や衛星測位(電子基準点等)を用いて、地震や火山活動に伴う地殻変動の定
常的な監視を行うとともに、地震・火山活動の評価に必要な変動情報の提供を行う。
(2)被害情報を迅速に把握して迅速な救助・復旧・復興を可能とするための取組
災害発生時における災害応急対策及びその後の復旧・復興のためには、
被害情報を迅速に
把握することが必要である。
人命救助、
施設の応急復旧等に必要な地理空間情報を迅速に提
供するため、以下の施策を行う。 18・干渉 SAR 技術や衛星測位(電子基準点等)を用いて地殻変動の監視を行い、地震又は火山
活動に伴って地表が大きく変動した範囲を迅速に特定するとともに、
復旧・復興に資する
発災後の正確な位置情報の提供を行う。
・基本測量に関する技術、
施設や機器を活用した緊急空中写真撮影による被害規模の把握や
地殻変動観測を実施する。また、空中写真判読等により被害状況調査を実施し、災害現況
図等の分かりやすい資料として、その調査結果を提供する。
・国土地理院が観測・整備した災害関連情報を、
国土地理院のウェブ地図サービスから統合
的な閲覧を可能とするとともに、
API の提供等により多様な災害関連情報集約サイト等で
も利用可能な形で提供する。また、ウェブ地図サービスからの供覧に加え、解析等が可能
な形式のデータを提供し、第三者による高度な分析・利用が可能となるよう努める。
・巨大地震発生時に地殻変動の状況からマグニチュード等を求める仕組み
(電子基準点リア
ルタイム解析の手法(REGARD)
)について、精度及び堅牢性・安定性を向上させ、精度の
高い津波の予測に必要な情報を引き続き関係機関に提供する。
・国土地理院の地形データ及び気象庁の推計震度分布図等から地盤災害の可能性を推計す
る仕組み
(地震時地盤災害推計装置
(SGDAS))について、
推計精度を向上させるとともに、
関係機関に推計結果を提供することにより、地震災害発生時の迅速な初動対応に貢献す
る。
・国土交通省及び政府の災害関連情報集約システムをはじめとした各種防災情報システム
に対し、基盤となる地図データの配信及び空中写真等の国土地理院の災害関連情報を提
供するとともに、
災害に関する情報の収集及び伝達において、
地理空間情報の活用を推進
していく観点から必要な協力を行う。 197.地理空間情報の提供及び活用推進
(1)測量法に基づく地理空間情報の提供
社会において DX 進展と地理空間情報の活用拡大が進む中で、国土地理院が整備する国土
の基盤となる地理空間情報がデジタルデータとして広く一般に確実に入手・利用できる環
境が必要不可欠である。このため、以下の施策を行う。
・基本測量成果等の提供に際してはデジタルデータの提供に重点を置くとともに、
インター
ネット提供機能を強化する。
・基本測量成果等の提供方法を不断に見直し、持続可能な形で実施する。
(2)官民連携による地理空間情報活用の推進
地理空間情報の活用推進には国・地方公共団体・関係事業者及び大学等の研究機関が相互
に連携を図りながら協力することが必要である。また、人的・予算的資源が限られる中、国
土地理院が整備する地理空間情報を効率的かつ安定的に提供し、国民から効果的に利活用
される環境を維持するためには、様々な主体の協力が不可欠である。そのため、以下の施策
を行う。
・政府の地理空間情報活用推進会議及び内閣官房地理空間情報活用推進室、
地理空間情報産
学官連携協議会等の枠組を活用し、政府関係省庁、地方公共団体、民間、学界等と有機的
に連携する。
・基本測量成果等が「信頼できる一次情報源」として安定的に活用されるよう、様々な主体
とのコミュニティ形成等、官民連携を活用して利用者の利便性及びサービスの持続性を
高める。
・地理院地図を含む地理空間情報ライブラリーを継続的に維持管理し、
分散配備可能なもの
とするとともに、データへのアクセシビリティ向上を図る。
・官民が整備した測量成果等の地理空間情報の流通・活用を促進するため、
その利活用に際 20して留意すべき個人情報・二次利用・国の安全等に関して、ガイドラインの整備等適切な
措置を講ずる。 218.測量行政及び国際的な活動
(1)測量行政の運営の効率化及び高度化
測量法の理念である測量の重複の排除の観点から、
公共測量の調整及び情報集約、
成果を
閲覧に供すること、基本測量成果を始めとする国土地理院が整備する地理空間情報を広く
利活用可能とすることは重要な取組である。
また、
測量分野における技術革新は今後とも続
くと考えられることから、新たな技術を活用して効率的かつ効果的な測量を実施可能とす
ることが必要である。このため、以下の施策を行う。
・公共測量に関しては、デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和 3 年 12 月閣議決定)
に定めるデジタル原則を踏まえた調整や情報集約を行い、成果の写しを閲覧に供するこ
とにより、提供価値を高める。
・インフラ分野の DX に資する新たな測量技術に関するマニュアルの整備や作業規程の準則
への反映を行う等、
技術の進歩や社会状況の変化に応じて、
公共測量に関する標準的な作
業方法を改善する。
・政府のオープンデータ基本指針(平成 29 年 5 月高度情報通信ネットワーク社会推進戦略
本部・官民データ活用推進戦略会議決定)を踏まえ、上記デジタル原則に基づいて、地理
空間情報の活用を推進する。
(2)国際的な活動
領土・地名等に関する我が国の認識を国際的に発信し、
外務省等と連携して我が国の立場
や基本的な価値観の共有に取り組むため、地理空間情報分野における国土地理院の国際的
な地位を高めるとともに、
国際的な協力を通じて相手国との信頼関係を構築・強化すること
が必要である。このため、以下の活動を行う。
・地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会等の多国間の場において議論や
取組に貢献する。 22・測地・地図作成等の地理空間情報に関する二国間協力を推進する。 239.研究開発及び人材育成
(1)4 次元国家座標の構築及び維持管理に資する技術開発
国家座標及び高精度測位技術の更なる高度化や地殻変動等の監視による防災への貢献の
ため、以下の研究開発を行う。
・任意の時点、
任意の地点における位置情報の取得を可能とする地表変動モデルの構築等に
関する研究開発を実施し、高精度測位社会にも対応する 4 次元国家座標を維持管理する
ための技術を開発・整備する。
・地球形状とその変動を取得する宇宙測地技術及び地殻変動解析技術に関する研究開発を
実施する。
定常時及び災害時における地表の変動を高分解能かつ高精度に計測する GNSS・
SAR 等の観測・解析技術や、測地基準系の維持・管理に必要なジオイド等に関する技術の
開発・高度化を行う。
・光格子時計の実用化に向けた研究開発に関する調査を継続し、
高精度な国家座標の効率的
な維持への活用可能性を検討する。
・地球形状の変動の原因やメカニズムの解明に関する研究開発を実施する。
変動メカニズム
のモデル化等により、国家座標の維持管理の時空間分解能の向上に貢献する。
・プレート境界面上でのゆっくりすべりや余効すべりを自動的に推定してそれらの推移を
監視する技術を開発・実装することにより、
大規模な地震につながる可能性のある通常と
異なるすべり発生の自動検出を可能とし、海溝型巨大地震の発生可能性の評価に貢献す
る。
・干渉 SAR 時系列解析の成果を活用して全国の稠密な地盤変動情報を提供する技術を開発
し、
地盤沈下等の把握に必要な測量を効率化する計画の立案を支援することで、
公共測量
の効率化を実現する。 24(2)地図・地形データ作成の効率向上・高精度化に関する研究開発
基盤となる地理空間情報の整備・更新の効率化及び防災地理情報の高度化等に資するた
め、以下の研究開発を行う。
・自動画像解析等の AI 技術やビッグデータを活用し、地図作成工程の効率を向上させる技
術開発を行い、地図作成の自動化を進める。
・人工衛星画像を用いた、
全国の地物等変化量把握手法や空中写真撮影困難地域における地
図更新技術を高精度化するとともに効率を向上させる。
防災・減災対策に資するため、以下の研究開発を行う。
・地形分類情報等のハザードマップ作成に資する情報の高精度化及びその作成の効率向上
を実現する。
・地形に加えて地質の情報も総合的に分析することで自然災害に関する土地の脆弱性を定
量的に評価する手法を検討し、災害ハザードに関する発生予測の精度を向上させる。
・効率的にデータ自動解析を行う手法に関する研究開発を行い、
迅速な被災状況の把握に寄
与する。
(3)人材育成・知識の普及
基本測量の継続的かつ適正な実施、並びに測量成果を含む地理空間情報の整備及び利活
用を進めるためには、より高度な知識を有する専門家・技術者を育成するとともに、国民一
般のリテラシー向上のための取組が必要である。このため、以下の施策を行う。
・測量・地理空間情報分野における技術の進展等を踏まえ、
新技術を適確に活用できる知識
と技能を有し、測量成果の正確性を確保するための精度管理を行える人材の育成が必要
である。
このため、
産学官の主体が行う測量継続教育やリスキリング支援の取組への協力
等により測量士・測量士補の資質の向上を図るとともに、資格制度の改善に取り組む。
・地図の読み方をはじめとして、
国民が自然的・社会的事象を位置や空間的な広がりに着目 25して捉える能力を身につけられるよう、GIGA スクールの進展も見据えた地理教育関係機
関との連携・支援を行い、小学校・中学校・高等学校等の各課程に合わせた防災・地理教
育支援のためのコンテンツを開発・周知・提供する。
・大学や行政機関と連携して、
大学生や社会人への測量技術及び地理空間情報利活用技術等
の習得支援を行う。
・国家座標及び地理空間情報の必要性、
並びに地理空間情報の公開・共有の重要性に関する
教育も含めた国民に対する防災・地理教育の支援等に取り組む。 2610.計画の実施とフォローアップ
本長期計画に基づく各施策・事業の実施に当たっては、3〜4 年間を計画期間とする短期
の実施計画を策定し適宜更新しながら進め、その効果について定期的なフォローアップを
行う。また、高い実効性を確保しつつ変化し続ける社会情勢に即したものとなるよう、計画
5 年目での中間見直し及び定期的なフォローアップの実施を必要に応じて行う。

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