要旨(PDF)


小型 GNSS 観測装置の開発と試験観測
Development and test observation of compact and small GNSS observation
instrument
#松本紗歩1
, 小林知勝1
, 中川弘之1
, 松尾功二1
, 古屋智秋1
1:国土地理院
Saho Matsumoto1
, Tomokazu Kobayashi1
, Hiroyuki Nakagawa1,Koji Matsuo1
, Tomoaki Furuya1
1: Geospatial Information Authority of Japan
はじめに
国土地理院では,日本全国に約1,300点の電子基準点を整備しており,その観測データ及び解析結
果は地殻変動の観測等に利用されている.一方で,電子基準点の配点間隔は平均約20kmであり,対
象となる地殻変動の空間的な規模がメソスケール(数十km)以下の場合,電子基準点では配点密度が
不足するため,それを補う観測が必要となる.このような背景の下,近年,機動性に優れた小型のGNSS
アンテナおよび受信機が普及し始めている.これらを用いて十分な計測精度の観測が可能となれば,電
子基準点のみでは網羅できないメソスケール以下の地殻変動を対象として高密度なGNSS観測が可能
となり,高い空間分解能で変動の時空間変化を精密に捉えることが期待できる.
国土地理院地理地殻活動研究センターでは,小型のGNSS観測装置を用いた地殻変動把握のため
の手法の開発を行っている(小門,2020).令和4年より,開発した装置の地殻変動把握への適用可能
性の検証のため,活発な地震活動が継続している石川県能登地方に設置し,観測を開始した.本発表
では,能登地方での検証の結果について報告する.
能登地方に設置した小型GNSS観測装置
令和2年12月頃から活発な地震活動が継続している石川県能登地方では,地殻活動観測の強化を
目的として,令和4年7月にREGMOS(可搬型GNSS連続観測装置)が国土地理院により2台設置された.
REGMOSは,太陽電池パネルを搭載し電源がない過酷な環境下でも自立したGNSS観測が可能であり,
電子基準点をサポートするGNSS観測点として国土地理院が従来使用している観測装置である.本研究
では,小型GNSS観測装置の検証を目的として,石川県珠洲市狼煙町に設置されたREGMOS(M珠洲
狼煙)と同じ敷地内に小型GNSS観測装置を設置し,REGMOSとの比較観測を開始した.
小型GNSS観測装置は,GNSSアンテナおよび受信モジュールを内蔵した受信機部より構成される.
本研究では,主に3つの目的の下,段階的に条件を変えながら観測を実施した.まず初めに,受信性能
の評価を目的に,アンテナ架台としての安定性が確認されているREGMOSの筐体に小型GNSS観測装
置用のGNSSアンテナを取付け,令和4年7月より観測を開始した.小型GNSS観測装置の電源は,
REGMOSの太陽電池パネルおよびバッテリーから供給した.次に,同年12月より,新たに開発した地上
用アンテナ架台にGNSSアンテナを取付けることでREGMOSから独立させ,アンテナ架台を含む装置全
体の安定性の評価に移行した.架台は分解可能であり,持ち運びが簡便にできる点が特徴である.電999 源は,引き続きREGMOS側から供給を続けた.しかし,日照不足による発電量の低下により,令和5年1
月より小型GNSS観測装置の観測を停止させることとなったため,設置安定性の評価のためのデータは
41日間にとどまった.その後,自律した電力供給による観測性能の評価を目的に,太陽電池パネル及
びバッテリーを搭載した独自の電源ユニットを作成し,令和5年6月に小型GNSS観測装置と接続し,観
測を再開した.これにより,完全に自立した状態での観測が実現した.
観測データから,GPS統合基線解析システム(畑中,2012)を使用し電子基準点の日々の座標値
(F5)準拠の値を取得した.図-1に,小型GNSS観測装置の基線変化(固定点:電子基準点「舳倉島」)を
示す.観測開始当初は,データ転送の不具合によるデータ不足のためばらつきが大きかったが,安定し
たデータ取得が可能となった令和4年(2022年)10月以降はREGMOSの解とよく似た振る舞いを示すよう
になった.10月から一時停止した令和5年1月までのデータについて地上用アンテナ架台へ取り付け前
後の標準偏差を比較すると,東西,南北,上下方向でそれぞれ0.9mm→1.2mm, 1.1mm→1.2mm,
3.8mm→4.4mmとなり,大きく変化しなかった.観測を停止していた期間中の令和5年5月5日には,設置
場所のほぼ直下を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生し,小型GNSS観測装置とREGMOS(M
珠洲狼煙)のデータから同じ期間におけるそれぞれの地震時変動を求めると,各成分2mm以内で両者
整合した変動量が得られた.これは,小型GNSS観測装置がREGMOSと比べ簡易的な架台ではあるも
のの,アンテナの設置安定性に大きな問題が見られなかったことを示す.
図-1 小型GNSSの基線変化
上:REGMOSに設置 下:独立架台に設置(固定点:電子基準点「舳倉島」)
まとめと今後の展望
地殻変動把握のため開発した小型GNSS観測装置を能登地方に設置し,REGMOSとの比較観測を
したところ,アンテナ架台を含めた装置全体の安定性について示すことができた.小型GNSS観測装置
は,現在も電力供給を自律化させた観測を実施しており,長期安定性やデータの品質チェック等を今後
も引き続き実施していく予定である.
参考文献
小門(2020): 低価格アンテナ・受信機を用いた GNSS 連続観測システムの開発, 日本測地学第 134 回
講演会要旨集, 135-136.
畑中(2012): GPS統合解析技術の高度化(第3年次), 国土地理院平成23年度調査研究年報, 112-115.

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