要旨(PDF)


2003 年以降の地殻変動イベントを踏まえた
電子基準点の定常解析結果の時系列モデルの推定
Estimation of time series model using daily coordinates of GNSS CORS
#古屋智秋1
, 小林知勝1
, 中川弘之1
, 松尾功二1
, 松本紗歩1
, 山下達也1
1: 国土地理院
Tomoaki Furuya1
, Tomokazu Kobayashi1
, Hiroyuki Nakagawa1
, Koji Matsuo1,Saho Matsumoto1
, Tatsuya Yamashita1
1: Geospatial Information Authority of Japan
はじめに
国土地理院では,プレート運動などに伴う定常的な地殻変動によって生じるひずみの影響を緩和す
るため,2010年に測量分野においてセミ・ダイナミック補正を導入し,2020年からはそれを測位分野にも
拡張した定常時地殻変動補正システムを公開している.これらの補正には,日本全国の約1,300点の電
子基準点のある特定の日の座標値と,測地基準座標系の基準日(元期)の座標値との差をクリギング法
によってグリッド化したパラメータを用いている.時間の経過とともに蓄積する地殻変動量を適切に補正
するため,定常時地殻変動補正システムではこの地殻変動補正パラメータを3か月に一回更新している.
しかし,近年の衛星測位技術の進展により誰もが簡単に高精度な座標値を取得できるようになったこと
で,例えば衛星測位により求めた位置を地図に重ね合わせるというように,高精度測位で得られる任意
の時点の座標値を,測地基準座標系の元期における位置に基づく地理空間情報とともに用いるために
は,元期からの累積地殻変動量を常時高精度に補正できる地殻変動補正パラメータが必要であるが,
現在のパラメータの推定手法では,平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震直後の余効変動のよう
に,変動速度や変動加速度の大きい地殻変動を高精度に追随できない可能性がある.
こうした背景を踏まえ,本研究では,より高精度に地殻変動を追随することができる地殻変動補正パ
ラメータ(地表変動モデル)の構築を目指し,電子基準点の定常解析結果に含まれる地震時の地殻変
動をオフセットで,地震後の余効変動をTobita(2016)による対数関数や指数関数で,豊後水道等で発生
するスロースリップによる地殻変動を一次関数でフィッティングした時系列モデルを全国の電子基準点に
おいて推定した.本発表では,推定時に考慮した余効変動を伴う地震やスロースリップ等の地殻変動イ
ベントを紹介するとともに,それらのイベントで生じたものとは異なると推測される電子基準点の定常解析
結果に見えた変動(例:定常解析の結果に含まれる誤差)についても報告する.
余効変動を考慮する必要がある地震
時系列モデルの推定のうち余効変動のフィッティング関数の推定では,対数関数及び指数関数の時
定数をグリッドサーチするとともに,AICを使用して最適な時定数の組合せを選択した.AICを使用する
際は,対数関数や指数関数をフィッティング関数として用いなかった場合の組合せも評価対象としており,
例えば余効変動が観測されない小規模な地震は,余効変動に伴うフィッティング関数が不要と判断され
るようにした.本研究では,使用した電子基準点の定常解析結果の期間(2003年1月1日〜2021年12月999 31日)において,国土地理院ホームページ(https://mekira.gsi.go.jp/catalogue/index.html)のGEONETに
より地殻変動を観測した地震一覧にある概ねマグニチュード6.8以上の地震を対象に,余効変動に伴う
フィッティング関数の必要性を評価した.その結果,表1に示す地震において,余効変動の大きさや影響
の範囲は異なるが,余効変動に伴うフィッティング関数を考慮すべきと判断した.なお,北海道や東北地
方は非常に多くのイベントが重なっており,図1の北海道の電子基準点「苫小牧」のフィッティング結果は,
2003年9月25日の十勝沖地震や2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の余効変動をはじめとする
数多くのイベントを7つの対数関数と1つの指数関数でフィッティングしており,定常解析結果との残差の
標準偏差は東西2.4mm,南北1.4mm,また図1にはグラフを示していないが上下は4.6mmとなっている.
表 1: 余効変動を対数関数や指数関数で考慮した地震
図 1: 電子基準点「苫小牧」のフィッティング結果(左:東西 右:南北)
上段:定常解析結果と時系列モデル 下段:定常解析結果と時系列モデルの残差
今後
余効変動をはじめとする様々な地殻変動イベントを考慮したりすることで,電子基準点の定常解析結
果からフィッティング関数を用いた時系列モデルを推定した.今後は,推定された時系列モデルを用い
て,任意の日付における電子基準点ごとのモデル値を計算し,地表変動モデルの空間補間の手法に関
する検討を実施する予定である.
参考文献
Tobita, M. (2016): Combined logarithmic and exponential function model for fitting postseismic GNSS
time series after 2011 Tohoku-Oki earthquake, Earth Planets and Space, 68:41,
doi:10.1186/s40623-016-0422-4.

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