要旨(PDF)


海洋残差地形モデルの導入による沿岸ジオイドの精密化
Coastal geoid refinement by incorporating an oceanic residual terrain model
#松尾功二1
1: 国土地理院
Koji Matsuo1
1: Geospatial Information Authority of Japan
はじめに
ジオイドは,平均海面の近似面であり,標高の基準面となる.GNSSが広く普及した現在,ジオイドが
果たす社会的役割は益々高まっている.特に,ジオイドが沿岸部で果たす役割は大きい.例えば,津波
や高潮による浸水予測には高精度な標高モデルが必要であり,そこではジオイド・モデルが基盤的役割
を果たす.また,船舶の航行や海上工事には海面の最低潮位モデルが必要であり,そこでもジオイド・
モデルが基盤的役割を果たす.しかしながら,沿岸域のジオイドを精密に決定することは極めて難しい.
その主な原因として,沿岸域10km以内の海域で良質な重力データを得ることが難しいことが挙げられる.
例えば,沿岸海域では大型船の航行に制約があることから,船上重力測量の実施が困難である.また,
衛星アルティメトリデータに基づく海洋重力場モデルは,陸からの反射誤差の影響を受け,沿岸海域で
20mGal以上にも及ぶ誤差を有する場合がある.航空重力測量は,これらの課題を克服する優れた手段
であるが,航空法の制限や大気擾乱の影響から低高度での観測が困難なため,得られる重力データが
中波長成分に留まるという限界がある.
そこで,本研究では,航空重力測量では得ることが難しい短波長な重力成分を海洋残差地形モデル
の導入により補強することで,沿岸ジオイド決定の精密化に挑む.残差地形モデルとは,数値標高モデ
ルをもとに地形由来の短波長な重力成分を推定したモデルである(Forsberg, 1984).残差地形モデル
の適用は,陸域ではごく一般的に行われているが,海域まで拡張した研究事例は少ない(Hirt, 2013).
本研究では,日本周辺海域を対象に、ジオイド計算における海洋残差地形モデルの効果を調査すると
ともに,そのジオイド精度向上への効果を実測ジオイド高データとの比較によって評価する.
データと方法
使用した重力データは,326,869点の地上重力データ,120,677点の船上重力データ,142,020点の
航空重力データである.なお,航空重力データは,2019年12月から2021年12月まで国土地理院によっ
て収集されたもので,本州を約10kmの測線間隔でカバーしている.陸域の数値標高モデルは,国土地
理院が提供する10mメッシュのモデルである.海域の数値標高モデル(海底地形データ)は,日本海洋
データセンターが提供する1kmメッシュのJTOPO30v2モデルである.残差地形モデルは,海陸の数値標
高モデルと球面調和関数モデルから構築する.残差地形モデルのジオイド計算への適用は,
RTM/Helmert法を用いた(Omang and Forsberg, 2000).ジオイド計算手法は,除去復元-UNBストーク
ス・ヘルメルト法を用いた(Huang and Véronneau, 2013).999 結果と考察
まず,海洋残差地形モデル導入前後のジオイド計算結果の差分を見ることで,ジオイド計算に対する
海洋残差地形モデルの導入の効果を調べた. なお,今回は,航空重力測量がすでに実施済みの本州
とその周辺海域を対象とした.その結果,ジオイド高の差として、富山湾で正の最大値+11.4cm,鴨川沖
で負の最大値-8.5cmが見られた.富山湾は水深が深い(最大水深約1200m)ことから,海洋残差地形モ
デルの効果が大きいものと推測される.鴨川沖の水深はあまり深くないが(水深200m程度),重力構造
が比較的複雑であることが海洋残差地形モデルの効果が大きい要因の一つかもしれない.
続いて,海洋残差地形モデル導入前後のジオイド計算結果と実測ジオイド高データを比較すること
で,海洋残差地形モデルのジオイド精度改善への効果を調べた.図1に比較を行った領域と比較結果
を示す.その結果,ジオイド較差は標準偏差で,関東01で0.35cm,関東03で0.15cmの改善が見られた.
これらの地域の周辺海域は,急峻な海底地形で短波長な重力構造が卓越していることから,海洋残差
地形モデルの改善効果が顕著に表れたものと推測される.その他の地域については,0.1cm程度の悪
化が見られる地域もあったが,おおよそ変わらないという結果となった.
図 1. (a)各領域の実測ジオイド高データの空間分布.(b)ジオイド計算結果(海洋残差地形モデルの導入前
後)と実測ジオイド高データの間の較差の統計.
参考文献
Forsberg (1984): A study of terrain reductions, density anomalies and geophysical inversion methods in
gravity field modeling. Report 355, Department of Geodetic Science and Surveying, Ohio State
University, Columbus, USA
Hirt (2013): RTM gravity forward-modeling using topography/bathymetry data to improve high-degree
global geopotential models in the coastal zone, Marine Geodesy 36(2) :1–20, DOI:
10.1080/01490419.2013.779334
Huang and Véronneau (2013): Canadian gravimetric geoid model 2010. J Geodesy 87(8):771–790.
ttps ://doi.org/10.1007/s0019 0-013-0645-0
Omang and Forsberg (2000): How to handle topography in practical geoid determination: three examples.
J Geodesy 74(6):458–466. https ://doi.org/10.1007/s001900000107

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