1:25,000 活断層図 解説
平成 30 年 7 月11:25,000 活断層図 糸魚川‐静岡構造線断層帯とその周辺
「白馬岳 改訂版」 解説
糸魚川-静岡構造線断層帯は,
長野県北部から諏訪湖付近を経由して山梨県南部にかけ
て延びる,全長約 158 km に及ぶ活断層帯である.そのうち,小谷
お た り
村から安曇野市明科
あかしなに至る長さ約 50 km の区間は糸魚川-静岡構造線断層帯の北部区間とされ,神
かみ城しろ
断層,松
まつ本もと盆ぼん地ち東とう縁えん
断層により構成される(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2015)
.本図に
は,神城断層の北部と周辺に分布する活断層および複数の推定活断層が記載されている.
・神城断層
本図における神城断層は,地震調査研究推進本部地震調査委員会(2015)で北端とされ
る小谷村立屋
た て や
付近から白馬村飯森
いいもり
まで,一般走向が北東-南西方向で長さ約 11 km,東側
が西側に対して相対的に隆起する特徴を持つ活断層として記載されている.
断層北端の立屋付近から楠川左岸にかけての区間では,
西から張り出す上位段丘面の下
流側が隆起している様子が確認できる.断層に沿って,その東側に延びる浅間山
せんげんやま
などの丘
陵部は,
上位段丘よりも上位にあった段丘面が断層運動による隆起とその後の侵食により
形成されたものである可能性がある.なお,上位段丘面上に東側が隆起する形状を示す撓
曲崖や低断層崖が認められるものの,
これより新しい地形面の分布が少ないため最近の活
動を議論することは難しい.
白馬村の切
きり
久保
く ぼ
から森上
もりうえ
付近にかけては,複数の断層が並走し,上位段丘面,中位段丘
面,下位段丘面を横切って,断層や撓曲変形が認められる.楠川左岸から追跡される神城
断層の主断層のトレースに沿って,
明瞭な東側隆起の逆向きの断層崖が認められる.
また,
切久保付近では段丘面を変位させる複数の断層と撓曲変形が認められ,
これらは切久保の
南側に分布する下位面にも連続しており,変位量は累積的である.特に,最も西側の赤破
線のトレースは,
神城断層の主断層と同じセンスをもつ東側上がりの明瞭な断層崖として
確認することができる.ただし,この活断層は,その東側に位置する西側上がりの活断層
(活撓曲)のバックスラスト(主断層と逆向きに傾斜する断層)と考えることもできる.
その場合,後述するように,西側上がりの活断層(活撓曲)は,この南西延長に分布する
松川右岸(南岸)の白馬村八方
はっぽう
付近の活断層につながる可能性も想定され,神城断層とは
地下で離れる方向に延びている可能性もある.
信濃森上駅付近より南側は新期の扇状地が広がっており,変位地形は認められない.改
訂前の都市圏活断層図「白馬岳」
(澤ほか,1999)では,大出
おおいで
付近の神城断層による東側
隆起の低断層崖から連続するように伏在断層が記載されていた.しかし, 2014 年に発生
した長野県神城断層地震(以下「神城断層地震」という.
)では,大出付近から城山方向
1:25,000 活断層図 解説
平成 30 年 7 月2に地表地震断層が出現し,
切久保より続くトレースにずれは生じなかった.
このことから,
本図では地表地震断層を活断層線とし,伏在断層の表記を削除した.伏在断層の存否は今
後の調査によって明らかにされるべき課題である.
大出から城山付近の神城断層地震によ
る地表地震断層に沿う区間では,西に傾斜する新旧の扇状地を逆向きに変位(東側隆起)
させる明瞭な断層崖が認められ,変位量は累積的である.
白馬村の 蕨
わらび平だいら
の南から飯森の北の区間では,蕨平以南に分布する姫川右岸(東岸)の
段丘面群上に地震断層が断続的に出現した(廣内ほか,2016)
.この区間,本図ではこの
地震断層とは異なる位置(右岸の段丘面の西側)に,
「活断層(位置やや不明確)
」の断層
線を表記した.蕨平以南の姫川右岸には蕨平以北と同様に,基盤である岩戸山
い わ と や ま
層(中野ほ
か,2002)が露出する.また,その上位に薄い段丘構成層をのせた新旧の段丘面が分布す
る.これらと森上付近の神城断層の運動様式を踏まえると,北城盆地周辺の地形は,森上
付近で姫川を横断する神城断層の活動によって姫川の下流側が隆起し,
姫川の上流側が閉
塞されることで形成され,その結果,神城断層の上盤側には薄い堆積層からなる段丘が分
布し,
下盤側に堆積した上盤側の段丘と同時代の地層は盆地の下に埋積されたと考えるこ
とができる.姫川の右岸側の段丘面群は神城断層の上盤側(東側)の地形であり,段丘面
群より西に神城断層が位置しているものと考えられる.ただし,神城断層の断層崖は姫川
や平川によって侵食されていると考えられるため,
「活断層(位置やや不明確)
」として表
記した.なお,2014 年の神城断層地震では,このトレースに沿っては明瞭な地表地震断層
は確認されなかった.
・白馬村八方付近の活断層
白馬村八方付近には,段丘面に沿って北東-南西方向に延びる長さ約 1 km の活断層が
分布する.ジャンプ場の北側から松川の右岸(南岸)まで 4 段の異なる地形面(中位段丘
面,時代の異なる下位段丘面,扇状地)に連続して撓曲変形を伴う変位が見られ,変位量
は累積的である.変位を受けた地形面のうち,最も新しいものは新期の扇状地であり,完
新世にも活動したことは確実といえる.その北側延長にあたる松川左岸は,新期扇状地の
なかでも,より新しい扇状地面であり,活断層の活動の痕跡は認められず,本断層の北延
長は不明である.ただし,上述のとおり,活動様式から考えて,切久保に分布する西側隆
起の逆断層につながるように伏在断層が延びている可能性も考えられる.
・神城断層の北延長の推定活断層
本図北部の小谷村石坂
いしざか
から同村黒川
くろかわ
付近までの区間では,
姫川を境にして走向の異なる
推定活断層が複数分布している.
姫川左岸(西岸)には,複数のリニアメントが認められるが,地すべり地形が連続的に
1:25,000 活断層図 解説
平成 30 年 7 月3分布しており,断層運動によるものなのか,地すべりによるものなのかを明確に区別する
ことが困難である.
最も西の推定活断層は浦川右岸の緩斜面や地すべり土塊を横断するリ
ニアメントで東側隆起の断層の可能性がある.この南の神城断層の上盤側(東側)に沿っ
て認められる浅間山のような丘陵地形は認められないが,
丘陵地形は地すべりによって失
われている可能性がある.最も西のトレースから南に分岐するように見えるトレースは,
小谷村虫
むし尾お
の北西で地すべり土塊を西上がりに変位させている可能性がある.
この崖の成
因は地すべりによると考えられるが,地すべり土塊が直線状に分布していることから,断
層運動と地すべりの複合的な成因である可能性も否定できないため推定活断層とした.この北東に分布する同村石坂付近のトレースは,
浦川
うらかわ
右岸の下位段丘面を減傾斜させている
ようにみえるが,
これ以外に新期の断層運動を認識できる明瞭な地形が確認できないため,
推定活断層とした.
姫川右岸(東岸)の小谷村太田付近に延びるリニアメントは尾根を横切り,これより西
側が高いという地形的特徴が認められるが,
活断層によると考えられる明瞭な地形が確認
できないため推定活断層とした.
同村大久保から南小谷駅付近の断層に沿っては東側が高
く,一方で西側は段丘面が連続的に分布しており,山地と段丘の地形境界となっている.
しかし,変位が明瞭に確認できる地形が認められないため推定活断層とした.横根沢付近
を通る推定活断層は,尾根を横切るリニアメントで,鮮新世の岩戸山層を変形させている
岩戸山向斜(中野ほか,2002)に沿って分布することから組織地形の可能性があるが,南
端部では向斜軸と異なる方向に延びており,
向斜する地質構造に規制された単純な組織地
形ではない可能性があると考え,推定活断層とした.
・姫川より東の活断層と推定活断層
本図の東部,
姫川より東側には神城断層と同じ走向を持つ活断層と推定活断層が認めら
れた.白馬村青
あお鬼に
付近から野平
のだいら
付近に至る断層と,小谷村真木
ま き
から白馬村花園
かぞうの
付近に延び
る断層である.
白馬村青鬼付近から野平付近に至る断層は,
姫川東の青鬼沢の南から高戸山西方まで北
東-南西方向に延びる長さ約 2 km の西側隆起の活断層として認定できる.野平集落付近
の段丘面に明瞭な断層崖(現在は人工改変によって西側も段丘面のようになっている)が
認められ,神城断層地震の際には,これに沿って西側隆起の地表地震断層が出現した.
小谷村真木から白馬村花園付近に至る断層は,
分岐断層を伴いながら北東-南西方向に
延びる長さ約 10 km の推定活断層で,
この断層は小谷断層および中山断層という地質断層
(中野ほか,2002)とほぼ一致する.従来は地質断層に沿った組織地形と考えられていた
が,物見山西方の浅い谷など,左横ずれしている可能性がある河谷がリニアメント上に分
布することから,推定活断層とした.
1:25,000 活断層図 解説
平成 30 年 7 月4・図幅南東部の推定活断層
長野市冷 沢
つめたざわ
付近から南 浦
みなみうら
付近の断層,アヅメ沢から長野市土倉
つちくら
に至る断層である.
長野市冷沢付近から南浦付近に至る断層は,
長野市冷沢付近から裾
すそ
花川
ばながわ
の西方を経て同
市南浦付近まで北東-南西方向に延びる長さ約 7 km の断層で,鮮新世の日影
ひ か げ
層を変形さ
せる日影向斜(中野ほか,2002)に沿ってみられる連続的なリニアメントで,これに沿っ
て閉塞された窪地の地形が見られる.断層運動に伴う典型的な変動地形ではないものの,
断層運動と関連がある可能性も否定できないため,推定活断層とした.
アヅメ沢から長野市土倉に至るリニアメントは,
奥裾花ダム上流のアヅメ沢から同市土
倉付近まで北東-南西方向に約 3 km 東側上がりの地形境界をなす.このリニアメントは
地質構造とは無関係に連続的に延びているため推定活断層とした.
また土倉集落東側では
逆向きの高まり地形が認められ,
西側隆起の断層運動で出現した可能性のあることから推
定活断層とした.
・白馬大池と乗鞍岳付近の推定活断層
本図北西部の白馬大池と乗鞍岳付近には,
北西側を隆起させる北東-南西に延びる長さ
約 1 km の二条の断層が平行して延びる.この断層は,乗鞍岳溶岩(中野ほか,2002)と
呼ばれる火山斜面を変位させているが,
新期の断層運動は認められないため推定活断層と
した.
(岡山大学教授 松多信尚)
(広島大学准教授 後藤秀昭)
引用文献
澤 祥・東郷正美・今泉俊文・池田安隆・松多信尚(1999)
:1:25,000 都市圏活断層図「白馬
岳」
,国土地理院.
地震調査研究推進本部地震調査委員会(2015)
:糸魚川-静岡構造線断層帯の長期評価(第二版).https://www.jishin.go.jp/main/chousa/katsudansou_pdf/41_42_44_itoigawa-shizuoka_2.pdf
(2018 年 3 月 12 日閲覧).中野 俊・竹内 誠・吉川敏之・長森英明・苅谷愛彦・奥村晃史・田口雄作(2002)
:白馬岳
地域の地質.地域地質研究報告(5 万分の 1 地質図幅)
,産総研地質調査総合センター,
105p.
廣内大助・澤 祥・石村大輔・岡田真介・楮原京子・後藤秀昭・杉戸信彦・鈴木康弘・松多
信尚(2017)
:1:25,000 都市圏活断層図「白馬岳・大町 一部改訂版」
,国土地理院.

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