国土地理院技術資料 D1-No.755
1:25,000 都市圏活断層図
菊川断層帯とその周辺
「下関北部」
「宇部」
解説書
楮原京子・堤 浩之
平成 28 年 11 月
下関北部
宇部
編集 国土地理院 1目 次
1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.口絵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
3.菊川断層帯および周辺地域の地形・地質概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
4.「下関北部」図幅の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
5 .「宇部」 図幅の特徴 ・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・ ・・ ・・・・ ・・・・ ・・ 12
6. 既往研究に基づく菊川断層帯の活動性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
7 . 引 用 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 5
8.使用空中写真および作成委員会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
都市圏活断層図作成地域図
調査図郭
下関北部
宇 部 21.はじめに
国土地理院では,平成 7 年(1995 年)1 月 17
日に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震
災)を契機に,活断層に関する詳細な位置情報
を記載した「1:25,000 都市圏活断層図」の調査
を開始した.
本調査は,各機関の活断層研究者で構成する
全国活断層帯情報整備検討委員会において,主
に空中写真(縮尺約 1 万分の 1〜4 万分の 1)を
用いた地形判読により活断層を抽出し,併せて
既存の各種調査結果も参考にして,詳細な位置
を 1:25,000 地形図(平成 26 年以降は電子地形
図 25000)上にまとめたものである.
平成 16 年度までに三大都市圏,
政令指定都市,
県庁所在都市及びその周辺を中心として 124 面
が作成され,平成 17 年度以降は,地方主要都市
域周辺部(山間地域を含む)の主要な活断層に
ついて,新たに図示項目を追加し作成されてき
た.平成 28 年 11 月現在,計 201 面(うち 20
面は第 2 版または改訂版)が整備され 181 面を
公表している.
(下図参照)
本 図 で は 、 最 近 数 十 万 年 間 に 約 千 年 か ら 数 万
年の間隔で繰り返し活動してきた跡が地形に表
れているもので,今後も活動を繰り返すと考え
られる断層を「活断層」として図示している.こ
のうち,地形的な証拠から明確な活断層と考え
られるものを赤線,活断層の存在が推定される
が現時点では明確に特定できないものを黒線で
図示している.加えて,河川や風雨による侵食
や堆積・人工的な要因による地形の改変のため,
活断層の位置を明確に図示できない区間は破線
とした.また,活動の跡が土砂の下に埋もれて
しまっている区間は点線で図示している.
活断層の位置のほか,活断層に関連する段丘
地形・沖積低地・地すべり地形など第四紀後半
(数十万年前から現在)に形成された主な地形
も図示している.これにより活断層周辺の地盤
状況や,活断層の活動によって地すべりが再活
動する可能性のある地域など防災に役立つ情報
を読みとることができる.本図 1 枚に図示され
ている範囲は,国土地理院刊行の縮尺 2 万 5 千
分 1 地形図 4 面分に相当する.
なお,
図の記載内容,
詳しい整備範囲などは,
国土地理院のホームページに掲載されている.
・赤枠は図郭.
・ピンクで塗った枠が菊川断層帯の図 32.口絵
口絵1 地理院地図色別標高図と調査図幅断層線の重ね合わせ
北九州市
下関市
山陽小野田市
宇部市
美祢市
凡 例
活断層
活断層(海底部)
推定活断層
下関北部
田部盆地
菊川盆地
厚狭盆地
宇部
長門市
長門市
下関市
北九州市
口絵 2 撮影方向
口絵 3 撮影方向 4口絵3 木屋川左岸・下関市下保木付近の地形(下大野付近から北に望む)
山麓線に沿って三角末端面が連なる.
(口絵 1 参照)
口絵2 菊川断層に沿った断層谷(下関市上岡枝付近から北西に望む)
(口絵 1 参照) 5図 1 中国地方の地形概観(アナグリフ画像)後藤秀昭氏作成
広島県〜山口県にかけて北東-南西方向のリニアメントが発達している様子がよく分かる.
3.菊川断層帯および周辺地域の地形・地
質概観
中国地方西部は北東-南西方向から南北方向
に延びる盆地や山地の配列が顕著である
(図1).これらの地形配列を支配しているのは,ジュラ
紀付加体が持つ古い地質構造(断層や褶曲)と
みられ,その一部は,活断層として活動してい
る.それに対して,本調査の対象である菊川断
層帯は,古い地質構造を断ち切る方向(北西-
南東方向)の活構造である(図2).「新編日本の活断層-分布図と資料」
(活断層
研究会編,1991)によると,本断層帯は北西-
南東走向の断層で,断層に沿って尾根や谷は左
横ずれし,北東側が相対的に隆起する活断層と
されている.また,累積横ずれ変位量は 580m
以下,
累積上下変位量は 150m 以上とされている.
調査地域である山口県南西部では,山地が響
灘に面しており,これらの山地に囲まれるかた
ちで,瀬戸内側に標高 100-200m の台地や丘陵
が広がる.
(図2)山地は長門山地と呼ばれ,狗
留孫山(くるそんさん)(御岳)や鬼ヶ城,竜王
山をはじめとする標高 600-700m の山が点在し,
その他は標高 300m ほどである.
山地の大部分は
白亜紀前期の関門層群からなり,油谷湾周縁で
は白亜紀後期の阿武層群が関門層群を不整合に
覆って分布する(西村ほか,2012).台地・丘陵は長門丘陵と呼ばれ,国定公園と
して知られる秋吉台もこれに含まれる.標高は
石灰岩から成る地域は 300-400m とやや高いが,
それ以外の地域は 200m ほどである.台地・丘陵
を構成する地質は古生代シルル紀から中生代ト
リアス紀の堆積岩類や白亜紀後期に貫入した花
崗岩類であり,堆積岩類は下位より秋吉石灰岩
層群,大田層群/別府層群,厚保(あつ)層群,
美祢層群に区分されている.
また,
木屋
(こや)
川・厚東(ことう)川・厚狭(あさ)川下流域
では,いわゆる「瀬戸内面」とされる小起伏面
が広く発達している.これらの小起伏面は古第
三紀の宇部層群や後期白亜紀花崗岩類を基盤と
する.
菊川断層帯はこれらの地質を切っており,
特定の地質の境界をなすのではなく,断層を挟
んだ地質は場所によって異なる(図2).
一方,この地域の沖積低地は,河川に沿った
谷底平野や河口部の三角州性低地を除いては,
規模の小さな田部盆地・菊川盆地・厚狭盆地(口絵1)が発達するのみである.河成段丘は山麓
や河川沿いに1〜3段形成されているところも
あるが,その分布は断片的であり,形成時期に
関する情報も乏しい.このように菊川断層帯お
よびその周辺は,第四紀の断層運動を記録し,
断層変位基準となり得るような地形・地質に恵 6図2 菊川断層及び周辺地域の地質図(西村ほか,2012 に基づく) 7まれているとは言い難い.そのため,菊川断層
やそれに付随する断層の活動を明らかにするた
めには,変位地形が確認できる地点での精査と
その蓄積が重要である.
以下では,本調査で認定した変位地形を中心
に各図幅に示された活断層の特徴を紹介する.4.「下関北部」図幅の特徴
本図幅内に分布する活断層は,菊川断層帯に
属する菊川断層,神田岬沖断層(図4)
,杢路子
(むくろうじ)断層,およびいくつかの推定活
断層である.
本図幅の北西端から陸上に向かって延びる海
底活断層が,神田岬沖断層である.この断層は
海上保安庁(1985)の調査で更新統を切る断層
として報告され,
活断層研究会編
(1991)
では,
下関市宇賀から神田岬(図4)の先端に至る海岸
線が直線的であることから,活断層によって海
岸線が規定されていると推定した.その後,伊
藤・泉(2009)
,杉山ほか(2010)によるナロー
マルチビームによる海底地形調査(図3)
,阿部
ほか(2010)によるマルチチャンネル音波探査
(図4)により,神田岬沖断層をはじめ,響灘
に分布する活断層の形状や地下の断層形状,地
層の変形構造に関する詳細が捉えられてきた.
そして,
神田岬沖断層が長さ約 53km にわたる活
断層であること,陸上近くでは1条の断層であ
るものの,沖合に向かって数条に分岐する断層
群を形成し,最終氷期以降に活動していること
が明らかとなった.
神田岬沖断層の活動によって発生する地震に
図3 菊川断層帯海域延長部の海底地形図(杉山ほか,2010) 8図4 菊川断層帯海域延長部の海底活構造(阿部ほか,2010)
Fk-1 断層が従来知られていた神田岬沖断層に相当する. 9ついては,6.において後述するが,阿部ほか
(2010)では神田岬沖断層が構造的に3つの活
動区間に分かれる可能性も指摘している
(図4).本図幅の陸上に分布する活断層のうち,下関
市宇賀から同市下大野(図中の三町)に向かっ
て北西-南東方向に連続的に延びているのが菊
川断層である.本調査で認定した活断層は,
「新
編日本の活断層−分布図と資料」
(活断層研究会
編,1991)や「活断層詳細デジタルマップ」(中田・今泉編,2002)などで報告されていた菊川
断層にほぼ相当する.概して,活断層線よりも
北東側が高く,三角末端面が発達する急崖がみ
られる.
下関市宇賀の沖積低地内では正確な位置が分
からないものの,海域へ連続すると推察される
ため,位置やや不明確な活断層として記した.
宇賀から大河内温泉付近までは山地と沖積低地
の境界よりもやや山地側に,
活断層を認定した.
ここでは,活断層を挟んで地形の高度不連続が
みられ,本流である本郷川に対して支谷が上流
方向へ屈曲している箇所も認められる.
大河内温泉から横道にかけては,河谷の系統
的な左屈曲に加えて,明瞭な断層鞍部を確認す
ることができる.横道より貴飯峠(きばだお)
の約1km 北西までは,鞍部列や河谷の屈曲があ
まり明瞭ではなく,断層変位を示す地形は,高
度の不連続や尾根の微弱な屈曲が認められる程
度である.
貴飯峠付近では,
峠を挟んだ両側(北東側と南西側)の山地斜面に,河谷の系統的な
左屈曲や鞍部列が認められたことから,局所的
ではあるが,
貴飯峠に2条の活断層を認定した.
貴飯峠を越えると,断層変位地形がより鮮明
に現れる.特に,貴飯峠から茶屋川(木屋川右
岸)にかけては,河谷の左横ずれが顕著で,こ
れと合わせて,河谷の屈曲量にも注目すると,
流域面積や流路長を指標として比較的規模の大
きな河谷では,横ずれ量も大きくなっているこ
とがわかる.このように,ここでは菊川断層に
よる左横ずれ運動が長期にわたって繰り返され,
断層変位が累積していることが読み取れる(図5).
産業技術総合研究所(2015)は,下関市上岡
枝の上諏訪地点においてトレンチ調査を実施し,
河川性堆積物と斜面堆積物,基盤岩を切断する
明瞭な断層を確認した(図6)
.断層による地層
の切断と被覆関係,断層面の走向変化,地層の
変形程度に基づき,
約 5,900 年前以後,
約 3,300
年前以前,
および約 15,000 年前以後,
約 14,000
年前以前の2回以上の断層活動イベントが指摘
されている.なお,後述の地震調査研究推進本
部の評価(地震調査研究推進本部地震調査委員
会,2015)では,これらの2回のイベントの間に,更に別のイベントが生じた可能性を推定し,
それぞれの地層から採取された年代試料から,
約 13,000 年前以後,
約 5,900 年前以前のイベン
トを追加した.
木屋川から下関市下保木までは,断層変位地
形を認めることができない.しかし,下保木に
は三角末端面を持った直線的な山地斜面と尾根
の 屈 曲 が 認 めら れ (口 絵 3), さ ら に 南 方 の 三
町・諏訪では,河谷の屈曲と明瞭な鞍部列も確
認できる(都市圏活断層図「宇部」一部参照).こ
れらのことから,
木屋川から下保木にかけては,
山地境界に活断層が通っているものの,木屋川
の侵食や崖錐堆積物による被覆などによって,
その証拠が失われてしまったと判断し,この区
間の活断層線を位置やや不明確として記した.
また,
下関市下組付近には山地境界だけでなく,
木屋川左岸の低地にも東上がりの地形が認めら
れる.横ずれははっきりしないものの,この地
形が,前述の三町・諏訪で確認された断層トレ
ースの延長線上に位置することから,下組付近
から2つに活断層が分岐しているとした.
貴飯峠から狗留孫山(御岳)と華山(げさん)
の間を通って北東の明見(あから)に至る2条
の右横ずれ断層を新たに認定した.杢路子川に
沿った活断層であるため,
「杢路子断層」と新称
する.この活断層に沿っては,はっきりとした
鞍部列と複数の河谷に右屈曲が認められる.
「山
口県地質図(第3版)」(西村ほか,2012)では,
この活断層と近接した場所(北側の断層トレー
スは地質断層と一致するが,
南側は一致しない)
に関門層群を切る北東-南西走向の地質断層が
記されているが,その詳細については記載され
ていない.この他,本図幅には菊川断層と同方
向(北西-南東)あるいは共役方向のリニアメ
ントが確認される.リニアメントの中には,不
明瞭ながらも河谷や尾根の屈曲,鞍部列が認め
られるものもある.本調査では,やや系統性に
は欠けるが,菊川断層およびその共役断層に対
して調和的な横ずれを示すリニアメントを推定
活断層として記した. 10図5 貴飯から萩ヶ台付近の変動地形
a)基盤地図情報 5m メッシュ標高データによる斜度図.赤線は活断層を,水色 線は屈曲谷を示す,b)は a)と同範
囲の本図.c)菊川断層が通る上岡枝付近の直線的な谷の様子.撮影場所は a)に示す. 11図6 菊川断層・上岡枝の上諏訪地点におけるトレンチ北壁面(産業技術総合研究所,2015)
写真(上)とスケッチ(下) 125.
「宇部」図幅の特徴
本図幅内に分布する活断層は,菊川断層帯に
属する北西走向の左横ずれ断層と北北東〜北東
走向の右横ずれ断層に分類される.
図幅の西隅から南東に延びる活断層群が,都
市圏活断層図「下関北部」図幅から延長する菊
川断層帯である.本図幅内の菊川断層帯は,
「新
編日本の活断層−分布図と資料」
(活断層研究会
編,1991)や「活断層詳細デジタルマップ」(中田・今泉編,2002)などの既存の活断層図には
活断層として示されていなかった.この区間の
菊川断層帯を,地形学的な証拠に基づき活断層
として最初に図示したのは田力ほか(2011)で
あり,今回の判読結果は,田力ほか(2011)の
判読結果とほぼ同様である.
図幅西端の下関市土井から山陽小野田市火ノ
山に至る区間では,白亜紀の花崗岩類やトリア
ス紀の美祢層群の堆積岩類(西村ほか,2012)
からなる小起伏の丘陵を横切って,北西走向の
複数の断層トレースが分岐やステップを伴いな
がらも連続的に連なる.これらの活断層に沿っ
ては,鞍部列と河谷の系統的な左屈曲が認めら
れる(図7)
.断層を挟んで,丘陵高度はほとん
ど変わらないので,顕著な縦ずれ変位は認めら
れない.
菊川断層帯は,火ノ山の南東で周防灘の海底
に延び,山陽小野田市竜王山の南西斜面で再び
陸上に現れる.ここでは2条の断層により,河
谷が明瞭に左屈曲している(図8)
.竜王山から
本山岬に至る区間では地形の人工改変が著しく,
断層変位の有無を十分な確度で判断できなかっ
た.本山岬の南東方海域においては詳細な活断
層調査が行われていないため,菊川断層帯の南
東端の位置や長さは現時点では不明である.
菊川断層帯を構成するこれら一連の活断層の
北側に,5条の北西走向の推定活断層を認定し
た.これらも菊川断層帯の一部である可能性が
あるが,河谷の屈曲などの変位地形がやや不明
瞭であるので,推定活断層とした.
山陽小野田市湯ノ峠付近に,北北東走向の2
条の活断層が新たに認定された.厚狭川の右岸
の断層は長さ約3km で,河谷の右屈曲が認めら
れる.山田付近では,中位段丘を西落ちに変位
させ逆向き低断層崖を形成している.厚狭川の
左岸には,長さ約1km の東落ちの活断層が分布
する.この断層は,
「山口県地質図(第3版)」(西村ほか,2012)に示されている南北走向の
断層と関連している可能性がある.これらの断
層は短いが,共に中位段丘を変位させることか
ら,活断層と認定した.
花崗岩類からなる宇部市霜降岳や観音岳の西
麓に,長さ約6km で北北東走向の右横ずれ活断
層を新たに認定した.霜降岳の西麓で,厚東川
に流入する支谷が厚東川の上流方向にシャープ
に右屈曲する.また,広瀬から文京台に至る区
間では,幅の広い鞍部列と複数の河谷の右屈曲
が認められる.この活断層は,山口盆地南部の
西縁を限る小郡断層(地震調査研究推進本部地
震調査委員会,2016)とほぼ同走向で,その約
5km 西を並走する.山口県東部や広島県西部に
分布する北北東〜北東走向の右横ずれ断層群の
一部である可能性があるが,
「山口県地質図(第
3版)」(西村ほか,2012)には対応する断層は
示されていない.
その他,宇部市中ノ浴から山中にかけて北東
走向の長さ約5km 以上の推定活断層を認定し
た.鞍部列と河谷の右屈曲が認められるが,横
ずれ変位の有無を判断できる河谷の数が少なく,
推定活断層とした.
「山口県地質図(第3版)」(西村ほか,2012)は,地質学的な証拠に基づ
き,ほぼこの位置に活断層を図示しているが,
詳細な記載はなされていない.
6.既往研究に基づく菊川断層の活動性
地震調査研究推進本部地震調査委員会
(2003)
は,堤ほか(1991)によるトレンチ調査結果,
平成8・9年度に山口県によって行われたトレ
ンチ・ボーリングを含む総合的な活断層調査(山口県,1997,1998)に基づいて活断層の長期評価
を行った。その後,平成 21 年度に行われた地震
予知総合研究振興会による沿岸海域の活断層調
査(阿部ほか,2010)
,平成 26 年度に行われた
産 業 技 術 総 合 研 究 所 に よ る 活 断 層 の 補 完 調 査
(産業技術総合研究所,2015)などに基づき,
改めて菊川断層帯の地震活動に関する長期評価
を行った(地震調査研究推進本部地震調査委員
会,2015)
.以下に,その概要を紹介する.
【菊川断層帯の位置・形状】
菊川断層帯は響灘から概ね北西 —南東方向に
延び,山陽小野田市に至る,長さ約 114km の断
層帯である.ただし,さらに南方へ延長する可
能性も含んでいる.また,菊川断層帯は断層ト
レースの形状や地表地質の特徴等から,大きく
3つの区間(北部区間,中部区間,南部区間)
に区分される.北部区間は響灘沖合から神田岬
北西方の沖合に至る長さ約 53km,中部区間は神 13図7 埴生口峠から埴生付近の変動地形
a) 基盤地図情報 5m メッシュ標高データによる斜度図.赤線は活断層,黒線は推定活断層,水色線は屈曲谷を
示す,b)は a)と同範囲の本図.c)大持付近で撮影した断層鞍部の様子(赤矢印).【訂正:令和 4 年 4 月】
図 a)に赤線で表記する活断層の位置に誤りがあって、1:25,000 都市圏活断層図の本図である図 b) に表記す
る活断層の位置と一致していない箇所があることが分かりました。このため、図 a)の活断層の表記位置を修正
し、図 b)に表記する活断層の位置と一致するようにしました(1:25,000 都市圏活断層図そのものに修正はあり
ません)。 14
田 岬 北 西 方 の 沖 合 か ら 下 関 市 に 至 る 長 さ 約
43km,南部区間は山陽小野田市埴生付近から山
陽小野田市竜王山に至る長さ約 18km もしくは
それ以上である.なお,阿部ほか(2010)およ
び山口県(1998)では,それぞれ北部区間,中
部区間に対して,異なる活動区間を呈示している.【予想される地震規模】
北部区間全体が1つの区間として活動する場
合,M7.7 程度で,その際には左横ずれを主体と
して5m 程度のずれが生じる可能性がある.中
部区間全体が1つの区間として活動する場合,
M7.6 程度で,その際には左横ずれを主体として
4m 程度のずれが生じる可能性がある.南部区
間全体が1つの区間として活動する場合,M6.9
程度もしくはそれ以上の地震が発生すると推定
される.また,その際には2m 程度もしくはそ
れ以上のずれが生じる可能性があるとしている.
さらに,本断層帯の各区間はそれぞれ別々に活
動すると推定されるものの,仮に菊川断層帯全
体が1つの区間として活動する場合,
M7.8-8.2
程度もしくはそれ以上の地震が発生する可能性
があると推定している.
【菊川断層帯の活動履歴】
北部区間の最新活動時期は音波探査記録とピ
ストンコアリング結果に基づき,14,000 年前以
後と推定された.中部区間の最新活動時期は,
トレンチ調査(堤ほか,1991;山口県,1997,
1998)の解釈も見直され,約 5,900 年前以後,
約 3,300 年前以前と推定された.また,中部区
間では,最新活動に先行する活動が,約 13,000
年前以後−約 5,900 年前以前,
さらに古い活動は,
約 15,000 年前以後−約 14,000 年前以前に生じと
推定された.
【菊川断層帯の平均変位速度】
北部区間の平均的なずれの速さは上下成分で
約 0.02-0.4mm/yr,中部区間の平均的なずれの
速さは水平成分で,0.7〜1.0mm/yr 程度と推定
された.
図8 竜王山付近の変動地形
a) 基盤地図情報 5m メッシュ標高データによる斜度図.赤線は活断層,水色線は屈曲谷を示す,b)竜王山周辺
の本図.図中の枠は a)の範囲を示す. 157.引用文献
阿部信太郎・荒井良祐・岡村行信(2010):菊川断層帯海域延長部における断層分布と活断性について.活断
層・古地震研究報告,10,81-118.
伊藤弘志・泉紀明(2009):菊川断層帯の延長海域で発見された変動地形.活断層研究,31,27-31.
海上保安庁水路部(1985):5万分の1沿岸の海の基本図海底地形地質調査報告「角島」,65p.
活断層研究会編(1991):『新編日本の活断層-分布図と資料』.東京大学出版会,437p.
産業技術総合研究所(2015):菊川断層帯,平成26年度「活断層の補完調査」成果報告書,48p.
http://jishin.go.jp/main/chousakenkyuu/tsuika_hokan/h26_kikukawa.pdf
地震調査研究推進本部地震調査委員会(2003):菊川断層帯の長期評価について.
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/katsudansou_pdf/90_kikukawa.pdf
地震調査研究推進本部地震調査委員会(2015):菊川断層帯の長期評価(一部改訂).
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/katsudansou_pdf/88_kikugawa.pdf
地震調査研究推進本部地震調査委員会(2016):中国地域の活断層の長期評価(第一版)
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/16jul_chi_chugoku/chu_honbun.pdf
杉山伸二・堀迫順一・福山一郎・田中喜年・西下厚志・成田学・加藤正治・氏原直人・笹原昇・森弘和・井上
渉・本間章禎・久間裕一(2010)
:山口県沖(日本海側)における海底地形調査速報,海洋情報部研究報告,
46,92-95.
田力正好・中田高・後藤秀昭・松田時彦(2011):菊川断層帯の活断層地形の詳細空中写真判読.日本活断層
学会2011年秋季学術大会講演予稿集,60-61.
堤浩之・中田高・諸岡達也・松田時彦・嶋本利彦(1991):1991年菊川断層(上岡枝地区)トレンチ調査,日
本の活断層発掘調査[34].活断層研究,9,103-111.
中田高・今泉俊文編(2002):『活断層詳細デジタルマップ』.東京大学出版会.DVD-ROM2枚・60p.付図
1葉.
西村祐二郎・今岡照喜・宇多村譲・亀谷敦(2012):『山口県地質図第3版(15万分の1)および同説明書』.
山口地学会.
山口県(1997):『平成8年度地震調査研究交付金菊川断層に関する調査成果報告書』.205p.
山口県(1998):『平成 9 年度地震関係基礎調査交付金菊川断層に関する調査成果報告書』.99p.
8.使用空中写真および検討委員会
1)使用空中写真
米軍 4 万:M869,M126,M741-A,M121,M731-A,M318-2,M120,M731,M114
国土地理院 2 万:CG-63-5X,CG-65-6X, CG-63-3X
国土地理院 1 万(カラー)
:CCG-74-13,CCG-74-12
2)全国活断層帯情報整備検討委員会
a.委員会の開催
第 1 回委員会 平成 27 年 8 月 26 日(水) ダイヤ八重洲口ビル あすか会議室
地域部会 平成 27 年 11 月 21 日(土) ダイヤ八重洲口ビル あすか会議室
第 2 回委員会 平成 28 年 2 月 22 日(月) ダイヤ八重洲口ビル あすか会議室 16b.
「菊川断層帯とその周辺」の作成委員(平成 27 年度)
c.国土地理院
防災地理課長 山本 洋一
課長補佐 吉武 勝宏
技術専門員 石川 弘美
専門職 菊池 修
係長 三谷 麻衣
連絡先
国土地理院応用地理部防災地理課
〒305-0811 茨城県つくば市北郷1番
電話:029(864)1111(代表)
この解説書を引用する場合の記載例
楮原京子・堤 浩之(2016)
:1:25,000 都市圏活断層図菊川断層帯とその周辺「下関北部」
「宇部」解説書.
国土地理院技術資料 D1-No.755,1-16p.
附 記
平成 28 年 11 月編集
令和 4 年 4 月一部修正
図 名 氏 名 所 属
下関北部 しろまる楮原 京子 山口大学講師
石村 大輔 東北大学助教
杉戸 信彦 法政大学専任講師
千田 昇 大分大学名誉教授
堤 浩之 京都大学准教授
中田 高 広島大学名誉教授
宇部 しろまる堤 浩之 京都大学准教授
石村 大輔 東北大学助教
楮原 京子 山口大学講師
熊原 康博 広島大学准教授
千田 昇 大分大学名誉教授
中田 高 広島大学名誉教授
しろまる全体のとりまとめを担当した委員

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /