Microsoft Word - 答申.docx


東日本大震災をはじめとした大規模・多様化する災害
等への消防の広域的な対応のあり方に関する答申
平成25年6月11日
消 防 審 議 会
平成24年3月16日付けで諮問のあった「東日本大震災をはじ
めとした大規模・多様化する災害等への消防の広域的な対応のあり
方」について別紙のとおり答申する。
平成25年6月11日
消防審議会会長
吉 井 博 明
消防庁長官
岡 崎 浩 巳 殿 1(別紙)
東日本大震災をはじめとした大規模・多様化する災害等への消防の広域的な対
応のあり方に関する答申
1.検討の経緯
第26次消防審議会は、平成23年6月に発足後、東日本大震災を踏まえた
大規模地震等の災害に備えた消防防災体制の充実・強化について議論を重ね、
平成24年1月30日の「東日本大震災を踏まえた今後の消防防災体制のあり
方に関する答申」を行ったところである。
その後、消防庁長官より平成24年3月16日に「東日本大震災をはじめと
した大規模・多様化する災害等への消防の広域的な対応のあり方について」諮
問を受け、議論を開始した。
諮問事項のうち、平成24年度末に期限が到来するため、早急に方針を示す
必要があった市町村の消防の広域化の推進については、平成24年9月7日に
「消防組織法第31条に基づく市町村消防の広域化に関する中間答申」を行っ
たところである。
その後、残された課題である首都直下地震や南海トラフ巨大地震といった従
来想定していた規模を超える震災に対応するための緊急消防援助隊をはじめと
した広域応援体制のあり方や、予防・救急等個別分野における広域的な対応、
大規模・多様化する災害(豪雪・火山災害等)に対する消防機関の対応等につ
いて議論を行ってきた。
その結果、大要以下の結論に達したのでここに答申する。
2.緊急消防援助隊をはじめとした広域応援体制のあり方について
(1)大規模災害時の緊急消防援助隊の指揮・調整について
緊急消防援助隊による広域応援については、東日本大震災のように複数都道
府県に及ぶような大規模災害時に、全国の多くの地方公共団体からの応援部隊
が被災地で活動することとなり、指揮・調整のあり方が課題となる。
大規模災害発生時に、
「消防機関の職員がその属する市町村以外の市町村の消
防の応援のため出動した場合においては、当該職員は、応援を受けた市町村の
長の指揮の下に行動するもの」
(消防組織法第47条第1項)とされているが、
極めて甚大な被害を受けた場合は受援市町村が十分に指揮や調整を行うことが 2できない事態が生じうること、受援市町村の規模等によっては大規模な部隊の
運用や高度な資機材の活用に習熟していない場合がありうること等の課題があ
ることを踏まえ、その指揮・調整活動を支援するために、政令市等の消防本部
の指揮支援隊が当該受援市町村の災害対策本部等に入る体制となっている。
都道府県レベルの指揮・調整にあっては、
「一の都道府県の区域内において災
害発生市町村が二以上ある場合において、緊急消防援助隊が消防の応援等のた
め出動したときは、当該都道府県の知事は、消防応援活動調整本部を設置する
もの」
(消防組織法第44条の2)などとされ、活動先市町村の決定等に関する
総合調整及び自衛隊や警察、医療機関等の関係機関との連絡のために、あらか
じめ指定された応援都道府県の指揮支援部隊長の属する指揮支援隊が入る体制
となっている。
都道府県知事は、消防応援活動調整本部の長として、調整の権限を有効に行
使できるようにするため、被災状況に応じた実動機関の部隊投入調整などの機
能をこれまで以上に発揮できるよう消防応援活動調整本部運用訓練等に取り組
む必要がある。
大規模災害発生時、とりわけ都道府県域を越えるような広域災害の場合の指
揮・調整については、前述のような現行の指揮支援体制が平成8年から毎年実
施されている緊急消防援助隊地域ブロック合同訓練等を通じて標準化されてお
り、東日本大震災の際にも、情報収集等に一部混乱が見られたものの、おおむ
ね適切に機能したところである。
なお、一方では、大規模災害における指揮・調整を円滑に行うために、都道
府県や国(消防庁)に指揮権を委譲し、都道府県や国が直接緊急消防援助隊の
指揮を行うことが有効ではないかという意見もあったところである。広域的な
指揮・調整のあり方については、引き続き、より実践的なものに見直していく
必要があるが、当面は、都道府県や国が実動部隊を保有しているわけではない
という現状も踏まえ、事前計画の再検討やより実践的な訓練等を通じて、指揮
支援体制の強化に取り組んでいくべきである。
(2)巨大地震時等における緊急消防援助隊の出動等について
複数の都道府県が被災した場合の応援部隊の活動場所の決定までの流れとし
ては、国全体での調整が必要となることから、まず国(消防庁)がその被害状
況及び緊急消防援助隊の派遣可能規模等を的確に把握し、その後、それぞれの
被災都道府県にどの都道府県隊を派遣するかを迅速に決定している。国(消防
庁)での調整により派遣決定された部隊の活動先市町村については、災害の規
模、態様、被災市町村の状況等を踏まえ、受援都道府県の消防応援活動調整本
部が決定している。 3極めて大規模かつ広範囲な被害が想定される南海トラフの巨大地震や首都直
下地震に迅速かつ適切に対応するためには、緊急消防援助隊の拡大も視野に入
れつつ、必要となる応援部隊規模を考慮した事前計画などを、政府の計画の策
定に即して整備していかなければならない。加えて、そのような規模の災害が
発生した場合には、被災地が広範囲にわたり、適切に部隊派遣の調整を行って
いくため、事前計画を検証するための訓練なども行っていくべきであり、その
訓練結果等も踏まえて指揮支援隊の能力向上を図り、地域ごとの対応を考えて
いく必要がある。
また、大規模災害において現地の情報が刻々と変化する状況においては、現
地に近く情報を把握できる消防応援活動調整本部などで調整することとなると
思われるが、政府の現地対策本部との役割分担や連携といった面も課題である。
これらを視野に入れ、訓練などの機会を活用しつつ、被災地情報の的確な収集
や緊急消防援助隊の迅速な運用等、消防庁の役割を十分に発揮できるよう継続
して取り組んでいく必要がある。
なお、首都直下地震が発生した場合には、消防庁庁舎も被災する可能性があ
り、このような事態においても緊急消防援助隊のオペレーションを的確に行え
るよう、バックアップ拠点の確保等に努める必要がある。
(3)緊急消防援助隊の他機関との連携について
東日本大震災においては、自衛隊・警察・海上保安庁などの関係機関ともお
おむねスムーズな連携を行うことができたものの、被災現場での活動に関して
情報共有や通信などの一部に不具合が見られたところであり、このような被害
が複数都道府県に及ぶような大規模災害においては、関係機関との連携も困難
となることが見込まれることから、円滑な連携の確保が課題となる。
現場においては、市町村の災害対策本部の中に指揮支援隊が入るとともに、
警察や海上保安庁等との調整を行うことが事前計画等に定められているが、さ
らなる実効性向上のため、合同訓練等あらゆる機会を通じて、共通の通信手段
を用いた訓練を実施するなど、情報共有方法や通信方法について普段から確認
していく必要がある。
また、海外からの応援部隊の派遣も考えられることから、政府において、受
け入れる都道府県の割り振りや現地本部との情報共有などについて、円滑に海
外からの応援部隊との連携が図られるよう配慮していく必要がある。
さらに、DMATやJMAT等の医療チームが災害時に機能的に役割を果た
せるよう、関係団体も考慮した上で、役割や活動環境の整備方法の標準化を全
国的に進めるとともに、都道府県の地域防災計画の中の受援に関する部分への
位置づけ、都道府県災害対策本部の中へのDMATやJMAT等からの連絡員 4の受け入れ、災害医療コーディネーターなどの派遣調整役の設置など、関係機
関との調整や医療チームの派遣調整を円滑に行うことができるような体制づく
りを、検討する必要がある。このような体制づくりに加え、DMATやJMA
T、救急隊員等が円滑に現場活動を行えるよう、災害時におけるメディカルコ
ントロール体制のあり方及びその充実・活用、被災現場へ医師を搬送するため
の緊急消防援助隊による支援や医師からの指示のあり方等についても、消防と
医療の連携の観点から検討しておく必要がある。
(注)DMAT:災害発生直後の急性期(概ね48時間以内)に活動が開始できる機動
性を持った、専門的な研修・訓練を受けた災害派遣医療チーム。
JMAT:日本医師会が全国の都道府県医師会の協力により被災地に派遣する災
害医療チーム。救護所・避難所等の医療や被災地の医療機関への支援
を担う。
(4)航空部隊運用に特有の事項について
東日本大震災での活動において、緊急消防援助隊派遣に係る必要な部隊規模
や装備、進出場所等について消防庁で判断するための初動時の被災情報の不足
や被災県における応援航空部隊の受入に必要な後方支援人員の不足等の課題も
見られたことを踏まえ、緊急消防援助隊の航空部隊の運用について、都道府県
の地域防災計画や緊急消防援助隊(航空部隊)受援計画等の各種見直し等が必
要であり、具体的には以下のとおり。
・ 大規模地震等発生時の初動においては迅速な情報収集が何より重要であり、
導入を進めているヘリサット
(地上受信設備を必要とせず直接衛星経由で消
防庁に映像を伝送するシステム)
の活用により、
リアルタイムの映像情報を
確実に消防庁に伝送する体制の構築を図る必要がある。
・ 東日本大震災等を踏まえ、
航空運用調整及び応援航空部隊受入に係る地上
後方支援のあり方等について検討し、
航空部隊の効率運用を図る航空運用調
整部署を各都道府県の緊急消防援助隊の受援計画に位置づけるよう促すな
どにより、
緊急消防援助隊はじめ、
他機関を含めた各活動隊間の綿密な情報
共有と連携をより効果的に実施していく必要がある。
・ 平時から緊急消防援助隊ブロック訓練等により、
ヘリコプターの機動力を
活用した緊急消防援助隊等の広域航空消防応援の制度に基づく応援・受援や
連携活動の訓練を推進する必要がある。
(5)緊急消防援助隊等の後方支援体制・受援側の体制について
東日本大震災では、都道府県による支援として、都道府県が緊急消防援助隊 5の隊員の輸送のためにバスを借上げたり、経由地の都道府県が消防学校を宿営
場所として提供したりするなどの支援例も見られた。
消防庁においても、高速道路通行の可否状況の提供や部隊移動中の消防学校
における宿営について調整を行うなどの支援を行ったほか、都道府県による緊
急消防援助隊の活動の支援を促進するため、緊急消防援助隊活動費負担金交付
要綱を一部改正し、負担金の交付対象に都道府県を加えるなどの取組を進めて
きた。
しかしながら、東日本大震災において、緊急消防援助隊が携行した資機材で
は寒冷地での活動に不十分であり、また、水・物資・燃料の確保に苦慮したと
いう課題があったことを踏まえ、さらなる後方支援活動の充実に向けて、今後
も引き続き都道府県レベルや国レベルでの支援が必要である。
緊急消防援助隊は、指揮支援部隊及び航空部隊を除き、通常は、消火、救助
等の活動に必要な資機材を積載した消防車両で陸路を使用して出動するので、
受援側に配備された車両・資機材を使用するということはない。しかし、発生
が懸念されている南海トラフの巨大地震のように、被災地域が極めて広い範囲
にわたる災害では、道路が寸断され、陸路を使用して出動することが困難とな
るおそれがある。このような場合には、航空機により迅速に投入された人員が
受援側に配備された車両・資機材を用いて活動するという手法も有効である。
また、我が国が海に囲まれている地形であるいう特徴を生かし、関係機関との
協力等による海路でのアクセスも考慮に入れていく必要がある。
受援側に配備する車両・資機材に関しては、どのような仕組みで配備するの
か、平時の維持管理をどのように行うか、使用に慣熟していない資機材を容易
に使用することができるかなどの課題について、応援・受援のあり方と併せて
有効な方策を検討する必要がある。また、車両・資機材の配備に当たっては、
出動時の手続きや携行資機材などを定める緊急消防援助隊都道府県隊応援等実
施計画や連絡体制、応援部隊の受入体制又は宿営場所、資機材の備蓄などを定
める都道府県緊急消防援助隊受援計画にも反映させていく必要がある。なお、
前者の計画を未作成の団体については、早急に作成する必要がある。
(6)情報収集・共有のための手段の整備等について
緊急消防援助隊の調整を国(消防庁)×ばつG空間(地理空間情報等)を活用し、災害状況の把握や、延
焼等の被害シミュレーションを活用したリアルタイム分析に基づく安全で効果
的な応急対応、住民避難等を可能とする技術の開発・導入を進めていく必要が
ある。
なお、被災地域の地理的状況、人的状況に詳しい消防団の把握している情報
を活かすため、地域の実情に応じて、消防団関係者と災害対策本部の連携体制
の構築を図る必要がある。
さらに、他機関が収集した情報なども有効に活用できることから、その共有
手段や連携体制の構築についても考慮していく必要がある。
(7)その他検討すべき事項について
消防団による応援出動については、消防団は、本部以上に地域密着した存在
であり、消防組織法上も消防長又は署長の命令がない限り、管轄区域外で行動
することはできないこととされていることを踏まえ、近隣市町村間においては、
応援出動を行うことができるよう、事前の協定の締結を進めていく必要がある。
3.個別事務の広域的対応のあり方について
(1)検討の必要性
今なお全体の約6割を占める小規模消防本部における諸課題を解決し、各地
域においてより充実した消防防災体制を確立するため、広域的対応の主要な方
式の一つである広域化については、これまでに当審議会において議論を重ねた
ところであるが、
「消防組織法第31条に基づく市町村消防の広域化に関する中
間答申(平成24年9月7日)
」において、
「現在行われている消防事務の全部
を統合するという広域化の方式に加え、既に一部地域において取組が進んでい
る消防指令業務等の一部の事務のみ共同処理する方式などを、事例の紹介を行
うこと等を通じ、更に推進することについても検討が必要である」としたとこ
ろである。
(2)個別事務の共同処理と消防組織法第31条に基づく市町村消防の広域化
との関係
個別事務の共同処理を、原則すべての消防事務を共同処理する広域化と比較
すると、個別事務の共同処理は、消防防災体制の強化のための一つの有力な方
策ではあるものの、そのスケールメリットは消防の広域化と比較して限定され 7ると考えられることから、国としては消防の広域化をまずは優先的に推進し、
個別事務の共同処理の推進はいわば次の策として位置づけることが適当である
と考える。
よって、既に個別事務の共同処理を行っている又は検討している地域におい
ては、事務の共同処理の効果に対する認識が高いと考えられることから、それ
らの地域に対して、個別事務の共同処理の次のステップとしての広域化を進め
るよう国と都道府県が連携して働きかける等の取組を進めることが望ましい。
その際、広域化のメリットについて積極的に情報提供を行うほか、新しい組
織の設立手続の煩雑さ等、個別事務の共同処理と比較した広域化のデメリット
を軽減するため、広域化をより円滑に進めるためのノウハウに関する適切な情
報提供等のきめ細かい支援を行うことが必要である。
他方、消防の広域化を推進するに当たっては、各地域における広域化に関す
る必要性や期待等を踏まえることが重要であることから、広域化の実現までに
時間を要すると認められる地域等については、当面は個別事務の共同処理を推
進する等、地域の実情に応じた取組を行うことが重要である。
(3)消防指令業務における対応について
消防指令業務の共同運用(以下「指令の共同運用」という。
)については運営
組織の設置が簡便であるほか、1高機能消防通信指令システムの導入による指
令業務の迅速化・的確化が可能となること、
2人員配置の適正化が可能となり、
現場体制の強化が図られるほか、迅速かつ効率的な相互応援が可能となること
といったスケールメリットが一定程度達成されることが期待される。
しかしながら、すべての担当職員が的確な消防指令業務を行えるようICT
を活用して発信地を特定できるシステム(位置情報システム等)を整備すること
などが必要であることに加え、例えば、1救急業務における口頭指導要領の統
一や責任・費用負担等の課題をあらかじめ協議・整理しておく必要があること
や、2関係市町村間で異なる部隊運用方式を定めている場合の調整が煩雑であ
ること等の課題がある。
したがって、今後、指令の共同運用を推進するに当たっては、まずは、これ
らの課題について、先行団体において蓄積されている解決事例等の情報を提供
する等の対策を講じることが必要である。
(4)救急業務における対応について
救急業務はそもそも高度な医学的知見を要する上、今後も、増大する救急需
要や救急業務の高度化等に対応していく必要があるため、消防組織法第31条
に基づく消防の広域化を達成することが有効であるが、そのために時間を要す 8る等の場合は、前述の指令の共同運用による救急搬送の統一的運用を進めるほ
か、現時点では一部の地域でしか実施されていない救急相談業務について、広
域単位で実施することにより、必要な医師・看護師を確保しやすい等のメリッ
トがあることから、引き続き、先進事例の情報提供を行うなど、共同処理によ
る取組を、国として支援していくことが必要である。
そのほか、市町村消防の広域化に係る取組と平行して、地域メディカルコン
トロール協議会を活用した広域的な教育のあり方について検討するとともに、
都道府県によって取組度合いに差がある搬送・受入れの実施基準の運用につい
ては、リアルタイムでの情報共有により、円滑な搬送・受入れを可能とするた
めのICTの活用を推進するなど、その改善や見直しの議論を継続的に支援し
ていく必要がある。
(5)予防業務における対応について
防火・防災管理に係る指導や火災原因調査など、予防業務を通じて火災を未
然に防止することは、国民の生命や財産の保護にとって非常に重要である。こ
れら予防業務は原則各消防本部において行われるものであるが、火災原因調査
については、消防法第35条の3の2の規定に基づき、消防本部の求めがあっ
た場合等に、消防庁長官が調査を行う仕組みもあるところである。
しかし現状では、
・ 建築物等の大規模化・複雑化が進展し、大規模消防本部においてすら専門
的知見を持つ予防分野の人員が不足しがち
・ 消防本部間でも、予防業務に関する知識・スキルには開きがあり、特に小
規模消防本部における技術や知見の向上、
高度な資機材の確保が求められる
・ 消防法令にとどまらず、
建築基準法等の広範な法令の知識が必要であるが、
専門的な人材の確保・育成に苦慮
・ 長官調査の仕組みはあるものの、
大規模災害時には多数の火災原因調査が
発生すること、
また復興時には多くの手続きが集中し一時的に業務量が増大
する場合がある
といった課題があるのが実態である。
これらの課題を解決するためには、消防組織法第31条に基づく消防の広域
化を行うことが有効であるが、そのために時間を要する等の場合は、予防業務
を効果的に行うため、消防本部同士での共同処理や相互応援により、予防業務
のみの広域的な対応を行うことが考えられる。
ここで、特に現場では、予防業務で知り得た情報を消防本部内で共有し、警
防業務(消火・救助・救急業務)に活用することが、円滑・安全な活動を行う
上で不可欠である。このような予防業務の特徴や現場の状況を踏まえると、予 9防業務の共同運用によって他業務と組織や運用が分離される場合、予防・警防
業務間の情報の共有や活用に支障が生じないよう、十分な連携体制を構築する
ことが課題となる。
したがって、予防業務に関する広域的な対応としては、予防・警防業務間の
連携を確保したうえで、一時的な業務量増加への対応や専門人材の確保等のた
めに事務委託や消防本部間の職員派遣を行うことなどが考えられる。
また、各種審査や指導、措置命令、違反処理、火災原因調査等を的確に行う
ため、人材の確保・育成、業務対応能力の向上による予防業務の充実強化は、
あわせて進めていくべきである。
人材の確保・育成面の取組としては、消防大学校や都道府県消防学校等にお
ける研修を引き続き実施するとともに、措置命令等の技術指導を現場で実践的
に行えるよう、内容の充実・向上を図っていくべきである。また、各消防本部
においては、豊富な知識・経験を持つベテラン職員を活用しつつ、研修等を通
じて職員の知識・スキルの向上を図る取組や、これらの知識・スキルを表彰等
により適切に評価し職員のモチベーション向上につなげる取組を行っていくべ
きである。なお、既に実施している取組が参考になることから、これらの情報
提供も適切に行っていくことが望ましい。このような取組を通じ、計画的に予
防業務に係る教育訓練を行い、消防本部全体の知識・スキルの向上につなげて
いくべきである。
業務対応能力の向上に関する取組については、既に違反是正支援アドバイザ
ー制度として、専門的知見を持つ者により実地教育を行う取組が行われている
が、これに加え、消防本部間での事務委託の活用や一時的に業務量が増加する
場合の職員派遣などにより、大規模消防本部及び国・県等を通じた広域的な補
完、応援体制の整備を図ることが必要と考えられる。さらに、現場の実状や意
見を踏まえつつ、措置命令や違反処理等を進めるための更なる仕組みや支援の
あり方についても検討していくべきである。また、業務上必要な資機材の確保
についても、
同様に広域的な補完、
応援体制を検討していくことが必要である。
4.大規模・多様化する災害に対する消防機関の対応について
大規模・多様化する災害には、地震・大規模火災・豪雨といった、消防がそ
の任務として救急・救助等の活動を行うことが通常であるもののほか、豪雪や
火山災害など多様なものがある。後者に対しては、消防職団員が豪雪時の除排
雪や火山災害時の降灰除去などについて、1消防の任務として対応する場合、
2必ずしも消防の任務では無いが市町村の公務として対応する場合、3個人で 10ボランティアとして対応する場合など、各市町村において様々な対応が行われ
ているところである。
地域により地勢・気候等の実情が異なることや、住民の消防に対する期待が
非常に高いことを踏まえると、消防が果たすべき任務の限界について、全国画
一的に線を引くことはできないと考えられる。
一方で、除排雪や降灰除去等の業務も危険を伴う場合があり、業務にあたる
消防職団員の安全確保や、
公務災害を受けた際の補償の観点から、
消防の業務、
あるいは市町村の公務として行う活動として位置づけることが望ましく、その
範囲・内容について各市町村で事前に検討を行い、検討結果に基づいて明確に
文書化(地域防災計画への位置づけなど)し、資機材整備及び教育・訓練等を
進めることが必要である。
消防機関は特に大規模な災害時には、消火、人命救助、救急などの業務に限
られた資源を集中的に投入していくこととなり、住民自らが、自分の身を自分
が守る(自助)とともに普段から顔を合わせている地域や近隣の人々が集まっ
て、互いに協力し合いながら、防災活動に組織的に取り組むことが必要となる
ために、平常時から、
「住民の意識改革」や、教育・保育施設における「防災教
育」について、
「自助・共助・公助」の役割分担を念頭に、関係機関が協力しな
がら取り組んでいくことが重要である。なお、
「共助」の取組に当たっては、公
的機関と住民の連携による「協働」も視野に入れておく必要がある。
また、過去の災害での有効活動事例、教訓、反省点などを共有することが重
要である。また、関係機関と連携し、専門的な知見を得られるよう情報連絡体
制をあらかじめ整備することが必要である。

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /