消防防災分野に係る研究機関における
公的研究費の管理・監査の指針
平成19年8月
総務省消防庁
目 次
第1 総論
1 前提条件 ・・・ 1
2 本指針の位置づけ ・・・ 1
3 本指針の適用対象及び運用上の留意事項 ・・・ 1
第2 各論
1 研究機関内の責任体系の明確化 ・・・ 1
2 適正な運営・管理の基盤となる環境の整備 ・・・ 2
3 不正を発生させる要因の把握と不正防止計画の策定・実施 ・・・ 4
4 研究費の適正な運営・管理活動 ・・・ 6
5 情報の伝達を確保する体制の確立 ・・・ 6
6 モニタリングの在り方 ・・・ 7
7 総務省消防庁による研究機関に対するモニタリング、指導及び是正措置・・・ 8
8 不正経理及び不正受給への対応 ・・・10
別添 実施事項の例
1 研究機関内の責任体系の明確化 ・・・11
2 適正な運営・管理の基盤となる環境の整備 ・・・11
3 不正を発生させる要因の把握と不正防止計画の策定・実施 ・・・12
4 研究費の適正な運営・管理活動 ・・・12
5 情報の伝達を確保する体制の確立 ・・・13
6 モニタリングの在り方 ・・・14
本指針は、総務省消防庁において配分する消防防災科学技術研究推進制度による研究資金(以
下「競争的資金」という。)について、配分先の研究機関における当該競争的資金の適正な管理
に関する必要な事項を示したものである。
第1 総論
1 前提条件
競争的資金には、研究機関を補助するものと個々の研究者を補助するものがあるが、個々の
研究者を補助するものであっても、その原資が国民の税金であり、国民の信頼に応えるため、
競争的資金の管理は当該研究機関の責任において行うことが必要である。
競争的資金の管理を委ねられた研究機関の責任者は、当該競争的資金の不正な使用が行われ
る可能性が常にあるという前提の下で、不正を誘発する要因を除去し、抑止機能のあるような
環境・体制の構築を図らなくてはならない。
2 本指針の位置づけ
研究機関は、その性格や規模において極めて多様であり、管理の具体的な方法について一律
の基準を強制することはかえって非効率化を招き、研究機関の研究遂行能力を低下させる危険
性が高い。本指針は、大綱的性格のものであって、具体的にどのような制度を構築するかは、
個々の研究機関の判断に委ねられている。
そのため、各研究機関において、組織の長の責任とリーダーシップの下、構成員である研究
者と事務職員が自律的に関与して、
留意事項を参照しつつ、
それぞれの研究機関にふさわしい、
より現実的で実効性のある制度を構築することが求められる。
3 本指針の適用対象及び運用上の留意事項
競争的資金の配分を受ける大学、企業、財団法人、NPO等の研究機関、外国の研究機関等
全てが本指針の適用対象となる。
ただし、小規模な企業、財団法人又はNPO、あるいは我が国の原則を強制することが無理
な外国の研究機関等、指針に掲げたすべての項目を実施することが困難と認められる団体につ
いては、資金配分機関においてチェックを強化するなどの措置を講ずることが必要である。
また、企業等において、会社法に基づく内部統制システムの整備の一環等として、規程等が
すでに設けられている場合には、これを適用することができるものとする。
また、別添に幾つかの実施事項の例を挙げているが、これらは多様であり得る制度構想の選
択肢の一部として参考までに挙げているものであり、各研究機関がこの例の通りに実施するこ
とを求めるものではない。
なお、本指針自体も、今後の運用を通じて、研究機関の実態に、より即した、より現実的か
つ実効性のあるものになるよう見直しを行うこととする。
第2 各論
1 研究機関内の責任体系の明確化
競争的資金の運営・管理を適正に行うためには、運営・管理に関わる者の責任と権限の体系
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を明確化し、研究機関内外に公表することが必要である。
(研究機関に実施を要請する事項)
1 研究機関全体を統括し、競争的資金の運営・管理について最終責任を負う者(以下「最高
管理責任者」という。)を定め、その職名を公開する。最高管理責任者は、原則として、機
関の長が当たるものとする。
2 最高管理責任者を補佐し、競争的資金の運営・管理について研究機関全体を統括する実質
的な責任と権限を持つ者(以下「統括管理責任者」という。)を定め、その職名を公開する。
3 研究機関内の各部局等(例えば、大学の学部、附属の研究所等、一定の独立した事務機能
を備えた組織)における競争的資金の運営・管理について、実質的な責任と権限を持つ者(以
下「部局責任者」という。)を定め、その職名を公開する。
4 最高管理責任者は、統括管理責任者及び部局責任者が責任を持って競争的資金の運営・管
理が行えるよう、適切にリーダーシップを発揮しなければならない。
(実施上の留意事項)
各研究機関において適当と判断する場合は、部局等単位で責任の範囲を区分するなど、対
象となる競争的研究資金制度によって責任の範囲を区分することができる。なお、その場合
は、責任の範囲があいまいにならないよう、より明確に規定する必要がある。
2 適正な運営・管理の基盤となる環境の整備
最高管理責任者は、競争的資金の不正な使用(以下「不正」という。)が行われる可能性が
常にあるという前提の下で、不正を誘発する要因を除去し、十分な抑止機能を備えた環境・体
制の構築を図らなくてはならない。
(1)ルールの明確化・統一化
(研究機関に実施を要請する事項)
競争的資金に係る事務処理手続きに関するルールについて、次の観点から見直しを行い、明
確かつ統一的な運用を図る。
1 すべての研究者及び事務職員にとって、分かりやすいようにルールを明確に定め、ルール
と運用の実態が乖離していないか、適切なチェック体制が保持できるか等の観点から常に見
直しを行う。
2 研究機関としてルールの統一を図る。ただし、研究分野の特性の違い等、合理的な理由が
ある場合には、研究機関全体として検討の上、複数の類型を設けることも可能とする。また、
ルールの解釈についても部局間で統一的運用を図る。
3 ルールの全体像を体系化し、すべての研究者及び事務職員に分かりやすい形で周知する。
4 事務処理手続きに関する研究機関内外からの相談を受け付ける窓口を設置し、効率的な研
究遂行を適切に支援する仕組みを設ける。
(実施上の留意事項)
ア 研究機関内ルールの策定に当たっては、慣例にとらわれることなく実態を踏まえ、業
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務が最も効率的かつ公正に遂行できるものとする。
イ ルールの例外的な処理は、ルールと実態の乖離を招く恐れが強いことから、原則これ
を認めない。やむをえず認める必要がある場合については、例外処理の指針を定め、手
続きを明確化して行うものとする。また、例外的処理を認めたケースについて先例集を
作成して周知させるなど、実務が放恣に流れないよう最大限の努力を行うべきである。
(2)権限の明確化
(研究機関に実施を要請する事項)
1 競争的資金の事務処理に関する研究者と事務職員の権限と責任について、
機関内で合意を形
成し、明確に定めて理解を共有する。
2 業務の分担の実態と職務分掌規程の間に乖離が生じないよう適切な職務分掌を定める。
3 各段階の関係者の職務権限を明確化する。
4 職務権限に応じた明確な決裁手続きを定める。
(実施上の留意事項)
ア 不正を防止するためには、適切なチェックが必要であることについて研究者の理解を
促進し、現場でのチェックが適切に行われる体制を構築することが重要である。
イ 業務の実態が変化しているにもかかわらず、職務分掌規程等が改定されないまま実態
と乖離して空文化し、責任の所在があいまいになっていないかという観点から必要に応
じ適切に見直す。
ウ 決裁が形式的なものでなく責任の所在を明確にした実効性のあるものとなるよう、決
裁手続きを簡素化する。その際、決裁者の人数を少人数に絞ることが望ましい。
(3)関係者の意識向上
(研究機関に実施を要請する事項)
1 研究者個人の発意で提案され採択された研究課題であっても、研究費は公的資金によるも
のであり、研究機関による管理が必要であるという原則とその精神を研究者に浸透させる。
2 事務職員は、専門的能力をもって公的資金の適正な執行を確保しつつ、効率的な研究遂行
を目指した事務を担う立場にあるとの認識を機関内に浸透させる。
3 研究者及び事務職員の行動規範を策定する。
(実施上の留意事項)
ア 不正発生の背景には個人のモラルの問題だけでなく、組織による取り組みの不十分さ
という問題があるという認識を徹底させる。
イ 不正発生を根絶するには、研究者、研究者コミュニティの自己決定によるルールと体
制作りが前提であり、それに従うことが研究者倫理であるという意識を浸透させる。
ウ 不正の問題は、研究機関全体、さらには広く研究活動に携わるすべての者に深刻な影
響を及ぼすものであることを、研究者に十分に認識させなければならない。
エ 事務職員に、研究活動の特性を十分理解させる。
オ 事務職員に、研究を行う上で必要な事柄については、ルールに照らし実現可能である
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か柔軟に検討させるとともに、検討結果につきできるだけ早く研究者に適切な説明を行
わせることが求められる。なお、柔軟な検討については、前(1)に記したことに充分留
意することが必要である。
カ 部局責任者等、研究現場における組織風土の形成に直接責任のある者に、会議等の運
営に当たり、研究者と事務職員の相互理解を促進させるよう配慮させる。
キ 事務職員のキャリアパスが、専門性を高められるものとなるよう配慮する。また、研
究機関として、専門性の高い人材の育成に取り組む。
ク 研究機関の行動規範の内容は、
研究者や事務職員の問題意識を反映させたものとする。
研究者や事務職員の意識向上のため、現場で問題となりうる具体的な事項や実務上必
要な内容については優先順位を付けて記載し、個々の事象への対応ではなく、研究機関
の職員としての取り組みの指針を明記するものとする。
(4)調査及び懲戒に関する規程の整備及び運用の透明化
(研究機関に実施を要請する事項)
1 不正に係る調査の手続き等を明確に示した規程等を定める。
2 不正に係る調査に関する規程等の運用については、公正であり、かつ透明性の高い仕組み
を構築する。
3 不正に係る懲戒の種類及びその適用に必要な手続き等を明確に示した規程等を定める。
(実施上の留意事項)
ア 不正に係る調査や懲戒に関する規程等については、不公平な取扱いがなされたり、そ
の疑いを抱かれたりすることのないように、明確な規程とするとともに適用手続きの透
明性を確保する。
イ 懲戒規程等は、不正の背景、動機等を総合的に判断し、悪質性に応じて処分がなされ
るよう、適切に整備する。
ウ 調査の結果、不正が確認された場合は事案を公表する。また、公表に関する手続きを
予め定める。
3 不正を発生させる要因の把握と不正防止計画の策定・実施
不正を発生させる要因を把握し、具体的な不正防止対応計画を策定・実施することにより、
関係者の自主的な取り組みを喚起し、不正の発生を防止することが必要である。
(1)不正を発生させる要因の把握と不正防止計画の策定
(研究機関に実施を要請する事項)
1 不正を発生させる要因がどこにあるのか、
研究機関全体の状況を体系的に整理し評価する。
2 不正を発生させる要因に対応する具体的な不正防止計画を策定する。
(実施上の留意事項)
ア 不正を発生させる要因の把握に当たっては、一般的に次のような点に注意が必要であ
る。
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(ア)ルールと実態が乖離していないか。
(イ)決裁手続きが複雑で責任の所在が不明確になっていないか。
(ウ)取引に対するチェックが不十分になっていないか。例えば、研究者と事務職員の間
の意思疎通が円滑でないことなどにより、事務職員から研究者に取引状況の確認が行
いにくい状況がないか。又は、研究者と取引業者の間が密接になり過ぎており、チェ
ックを行いにくい状況になっていないか。
(エ)予算執行が特定の時期に偏っていないか。
(オ)過去に業者に対する未払い問題が生じていないか。
(カ)競争的資金が集中している部局・研究室はないか。
(キ)非常勤雇用者の管理が研究室まかせになっていないか。
イ 不正には複数の要因が関わる可能性があることに留意する。
ウ 具体的な要因を把握するに当たっては、組織全体の幅広い関係者の協力を求め、実際
に不正が発生する危険性が常にどこにでもあることを認識させ、自発的な改善の取組み
を促す。
エ 不正を発生させる要因に対する不正防止計画は、
優先的に取り組むべき事項を中心に、
明確なものとするとともに、定期的に見直しを行うことが必要である。
オ 不正防止計画の策定に当たっては、経理的な側面のみならず、ルール違反防止のため
のシステムや業務の有効性、効率性といった側面についても検討する。
カ 不正防止計画への取組みに部局等によるばらつきが生じないよう研究機関全体の観点
からのモニタリングを行う。
(2)不正防止計画の実施
(研究機関に実施を要請する事項)
1 研究機関全体の観点から不正防止計画の推進を担当する者又は部署(以下「防止計画推進
部署」という。)を置く。
2 最高管理責任者が率先して対応することを研究機関内外に表明するとともに、自ら不正防
止計画の進捗管理に努めるものとする。
(実施上の留意事項)
ア 防止計画推進部署は、最高管理責任者の直属として設置するなどにより、研究機関全
体を取りまとめることができるものとする。なお、研究機関の規模によっては既存の部
署を充て、又は既存の部署の職員が兼務することとしても差し支えない。
イ 防止計画推進部署には、研究経験を有する者を含むことが望ましい。
ウ 防止計画推進部署は、研究機関の内部監査部門とは別に設置し、密接な連絡を保ちつ
つも内部監査部門からのチェックが働くようにすることが望ましい。
エ 不正防止計画の着実な実施は、最高管理責任者の責任であり、実際に不正が発生した
場合には、最高管理責任者の対応及び責任が問われることとなることを最高管理責任者
は意識する必要がある。
オ 部局等が、
研究機関全体で不正が生じにくいように、
防止計画推進部署と協力しつつ、
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主体的に不正防止計画を実施する体制としなければならない。
4 研究費の適正な運営・管理活動
前3で策定した不正防止計画を踏まえ、適正な予算の執行を行う。業者との癒着の発生を防
止するとともに、不正につながりうる問題が捉えられるよう、他者からの実効性のあるチェッ
クが効くシステムを作って管理することが必要である。
(研究機関に実施を要請する事項)
1 予算の執行状況を検証し、当初の計画と乖離していないかを確認する。予算執行が当初計
画に比較して著しく遅れている場合は、研究計画の遂行に問題がないか確認し、問題があれ
ば改善策を講じる。
2 発注段階で支出財源の特定を行い、予算執行の状況を遅滞なく把握できるようにする。
3 不正な取引は、研究者と業者の関係が緊密な状況で発生しがちであることにかんがみ、癒
着を防止する対策を講じる。
4 発注・検収業務について、当事者以外によるチェックが有効に機能するシステムを構築・
運用する。
5 納品検収及び非常勤雇用者の勤務状況確認等の研究費管理体制の整備について、研究機関
の取り組み方針として明確に定める。
6 不正な取引に関与した業者への取引停止等の処分方針を研究機関として定める。
7 研究者の出張計画の実行状況等を部局等の事務で把握できる体制とする。
(実施上の留意事項)
ア 予算執行が年度末に集中するような場合は、執行に何らかの問題がある可能性がある
ことに留意し、事務職員に必要に応じて研究者に対して執行の遅れの理由を確認させる
とともに必要な場合は改善を求める。
イ 物品調達に係るチェックシステムは、不正の防止と研究の円滑かつ効率的な遂行を両
立させるよう配慮し、調達業務全体の枠組みの中で検討する。
ウ 書面によるチェックを行う場合であっても、形式的な書類の照合ではなく、業務の実
態を把握するように実施する。
エ 発注業務を柔軟にすることを目的として一定金額以下のものについて研究者による直
接の発注を認める場合であっても、
発注の記録方法や発注可能な金額の範囲等について、
研究機関として可能な限り統一を図る。
オ 納品伝票は、納品された現物と照合した上で保存する。
カ 物品調達について事務部門による検収を実施することが実務上困難な場合においても、
発注者の影響を排除した実質的なチェックが行われるようにしなければならない。
キ 研究費の執行が当初計画より遅れる場合等においては、
繰越明許制度の積極的活用等、
弾力的に対応を行う。
5 情報の伝達を確保する体制の確立
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ルールに関する理解を研究機関内の関係者に浸透させること、研究機関の内外からの情報が
適切に伝達される体制を構築することが、競争的資金の運用・管理を適切に行うための重要な
前提条件となる。
(研究機関に実施を要請する事項)
1 競争的資金の使用に関するルール等について、研究機関内外からの相談を受け付ける窓口
を設置する。
2 研究機関内外からの通報(告発)の窓口を設置する。
3 不正に係る情報が、最高管理責任者に適切に伝わる体制を構築する。
4 研究者及び事務職員が研究機関の定めている行動規範や競争的資金等のルールをどの程度
理解しているか確認する。
5 競争的資金の不正への取組みに関する研究機関の方針及び意思決定手続きを外部に公表す
る。
(実施上の留意事項)
ア 研究機関内部及び取引業者等、外部からの通報の取扱いに関し、通報者の保護を徹底
するとともに、保護の内容を通報者に周知する。
イ 誹謗中傷等から被告発者を保護する方策を講じる。
ウ 顕名による通報の場合、
原則として、
受け付けた通報に基づき実施する措置の内容を、
通報者に通知する。
エ 研究機関内外からの相談窓口及び通報窓口の仕組みについて、ホームページ等で積極
的に公表する。
オ 行動規範や競争的資金のルールの理解度の調査においては、ルールの形骸化やルール
を遵守できない事情等がないか把握するよう努め、問題点が発見された場合には、最高
管理責任者のリーダーシップの下、適切な部門(コンプライアンス室、監査室等)が問
題の解決に当たる。
カ 民間企業等において、
企業活動上、
社内規程等を外部に公表することが困難な場合は、
総務省消防庁への報告をもって公表に代えることができる。
6 モニタリングの在り方
不正の発生の可能性を最小にすることを目指し、研究機関全体の視点から実効性のあるモニ
タリング体制を整備することが重要である。
(研究機関に実施を要請する事項)
1 競争的資金の適正な管理のため、研究機関全体の視点からモニタリング及び監査制度を整
備する。
2 内部監査部門は、会計書類の形式的要件等の財務情報に対するチェックのほか、体制の不
備の検証も行う。
3 内部監査部門は3(2)の防止計画推進部署との連携を強化し、不正発生要因に応じた内部監
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査を実施する。
4 内部監査部門を最高管理責任者の直轄的な組織として位置付け、必要な権限を付与する。
5 内部監査部門と監事及び会計監査人との連携を強化する。
(実施上の留意事項)
ア 内部監査部門を強化するため、高い専門性を備え、機関の運営を全体的な視点から考
察できる人材を配置する。
イ 内部監査は、研究機関全体のモニタリングが有効に機能する体制となっているか否か
を確認・検証するなど、研究機関全体の見地に立った検証機能を果たすことが重要であ
る。調達業務を例にとると、発注・検収・支払いの現場におけるチェック及び防止計画
推進部署によるそれらのモニタリングがともに機能しているか否かを内部監査により確
認する。また、内部監査には、ルールそのものにも改善すべきことがないか検証するこ
とが期待されている。
ウ 監事及び会計監査人と内部監査部門が、それぞれの意見形成に相互に影響を及ぼすこ
とを避けつつ、研究機関内の不正発生要因や監査の重点項目について情報や意見の交換
を行い、効率的・効果的かつ多角的な監査を実施できるようにする。
エ 内部監査部門が、コンプライアンス委員会や外部からの相談窓口等、研究機関内のあ
らゆる組織と連携し、監査の効果を発揮できるようにする。
オ 内部監査の実施に当たっては、把握された不正発生要因に応じて、監査計画を随時見
直し効率化・適正化を図る。
7 総務省消防庁による研究機関に対するモニタリング、指導及び是正措置
総務省消防庁は、研究機関が前1から前6に記載した課題を実施する状況について、次のよ
うに確認、評価及び対応を行うものとする。
(1)基本的な考え方
総務省消防庁は、資金配分先の研究機関においても研究費が適切に使用・管理されるよう
所要の対応を行うこととする。
また、
総務省消防庁は、
研究機関における管理体制について、
指針の実施状況を把握し、所要の改善を促すものとする。
(実施する事項)
1 有識者による検討の場を設け、指針の実施等に関してフォローアップするとともに、必要
に応じて指針の見直し等を行う。
2 研究機関側の自発的な対応を促す形で指導等を行うものとする。管理体制の改善に向けた
指導や是正措置については、緊急の措置が必要な場合等を除き、研究活動の遂行に及ぼす影
響を勘案した上で、段階的に実施する。
(実施上の留意事項)
ア 現地調査やその他の確認等の手段を有効に組み合わせて、研究者及び研究機関の負担
を可能な限り増やさず効率的・効果的な検証に努める。
イ 研究機関が不正を抑止するために、
合理的かつ十分な体制整備を図っている場合には、
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構成員個人による意図的かつ計画的な不正が発生したことをもって、直ちに研究機関の
責任を問うとは限らない。
ウ 研究機関の問題に係る責任は、個別の部局にある場合もあるが、部局も含めた体制整
備の責任は、研究機関の長にある。したがって、体制整備の問題に関する評価、及び評
価結果に基づき行われる是正措置の対象は、原則として研究機関全体とする。
(2)具体的な進め方
(総務省消防庁が実施する事項)
1 研究機関に対し、指針に基づく体制整備等の実施状況について、年に1回程度、書面によ
る報告を求める。
2 1の報告書を基に指針の「研究機関に実施を要請する事項」の内容との整合性について確
認を行う。
3 2の報告書に基づく確認以外に、競争的資金配分額の多い機関を中心に対象を選定して現
地調査を行い、体制整備等の実態把握を行う。
4 2の確認や3の調査の結果、研究機関の体制整備等の状況について問題があると認める場
合には、当該研究機関に対して問題点を指摘するとともに、当該問題点を事例として当該研
究機関名を伏して各研究機関に通知し、注意を促す。
5 問題を指摘した研究機関に対しては、指摘した問題点に関する改善計画を作成、提出を求
め、同計画に基づく改善を実施させる。
6 改善計画を履行していないなど、
体制整備等の問題点が解消されないと判断した場合には、
有識者による検討の結果を踏まえて、当研究該機関に対して必要に応じて次のいずれかの措
置を講じるものとする。なお、当該措置の検討、実施にあたっては、研究機関からの弁明の
機会を設けるものとする。
(ア)管理条件の付与
管理強化措置等を講じることを資金交付継続の条件として課す。
(イ)研究機関名の公表
体制整備等が不十分であることを公表する。
(ウ)一部経費の制限
間接経費の削減等、交付する経費を一部減額する。
(エ)配分の停止
当該研究機関及び当該研究機関に所属する研究者に対する資金の配分を一定期間停止す
る。
7 6の措置は、改善の確認をもって解除する。
(実施上の留意事項)
ア 改善項目の指摘に関する判断基準(チェックリスト)については、対象となる機関の
多様性を踏まえつつ作成し、公表ことが望ましい。
イ 研究機関に対して、指針に基づく体制整備等に速やかに着手させ、実現可能なものか
ら実施するよう要請する。さらに、次年度の競争的資金に係る申請時点において取り組
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み状況について報告を求めるものとする。
ウ 評価、
改善指導や是正措置は、
基本的に研究機関全体に対して行われるべきであるが、
具体的な問題点を把握するため、
研究機関のいくつかの部局を選び、
現地調査を実施し、
研究機関全体の体制整備等の状況について評価する際の判断材料とする。
エ 不正事案が発生した場合、当該研究機関から追加の情報提供を求め、現地調査を実施
するなどにより、不正に関与した者の責任とは別に、体制整備等の問題について調査を
行い、その結果に基づき、前5から7までの対応を行う。
8 不正経理及び不正受給への対応
研究者及び研究機関(以下本節中「研究者等」という。)が競争的資金の不正経理又は不正
受給を行った場合、当該研究者等に対し、次の措置を講ずるものとする。ただし、故意による
ものではないことが根拠をもって明らかにされたものは、不正経理又は不正受給には当たらな
いものとする。
(総務省消防庁が実施する事項)
1 不正経理を行った研究者等及びそれに共謀した研究者等に対し、当該競争的資金への応募資
格を制限することのほか、他府省を含む他の競争的研究資金制度担当課に当該不正経理の概要
(不正経理をした研究者等名、制度名、所属機関、研究課題、予算額、研究年度、不正内容等)
を提供する。また、不正経理を行った研究者等及びそれに共謀した研究者等に対する応募の制
限の期間は、不正の程度により、原則、競争的資金を返還した年度の翌年度以降2から5年間
とする。
2 偽りその他不正の手段により、競争的資金を受給した研究者等及びそれに共謀した研究者等
に対し、当該競争的資金への応募資格を制限することのほか、他府省を含む他の競争的研究資
金制度担当課に当該不正受給の概要(不正受給をした研究者等名、制度名、所属機関、研究課
題、予算額、研究年度、不正内容等)を提供する。また、不正受給を行った研究者等及びそれ
に共謀した研究者等に対する応募の制限の期間は、原則、競争的資金を返還した年度の翌年度
以降5年間とする。
(実施上の留意事項)
1 研究機関が不正を抑止するために合理的に見て、十分な体制整備を図っている場合に
は、構成員個人による意図的かつ計画的な不正が発生した時は、十分な調査等を行った
上で、当該研究機関の責任を問うものとする。
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別添
実施事項の例
ここに示す事例は、各研究機関が指針に示された事項を実施する際の参考として示すものであ
り、このとおりに実施することが求められるものではない。これらにとらわれることなく、各研
究機関の実情を踏まえた多様な方法が試みられることが期待される。
なお、本例の1から6は指針第2、1から6に対応している。
1 研究機関内の責任体系の明確化
1 競争的資金の取扱いに関する規程において、最高管理責任者、統括管理責任者、部局責
任者に相当する者の職名を特定し、それぞれの責任範囲・権限を規定するとともに相互の
関係を明記する。
2 1の内容をホームページ等で公表する。
2 適正な運営・管理の基盤となる環境の整備
(1)ルールの明確化・統一化
1 競争的資金の執行に関する各種ルール及び運営方法の全体像を、研究機関内外に対して
ホームページ等により公表する。
部局によって異なるルールがある場合はそれらを含める。
2 よく尋ねられる質問については、FAQ等で統一見解を明確に示す。
(2)職務権限の明確化
競争的資金の執行に関して決裁権限規程を見直す。研究機関全体について一覧できる権限
規程とし、責任と権限を明確にする。
(3)関係者の意識向上
1 研究者や事務職員に対する研修を行い、行動規範や各種ルールの周知・徹底を図る。研
修は、対象者本人の出席を義務付ける形で実施し、具体的な事例を紹介するなどの方法が
有効である。なお、最高管理責任者及び統括管理責任者はそれらの周知に当たり、自ら繰
返し徹底して伝達することが肝要である。
2 体制整備に向けた研究者と事務職員の間のコミュニケーション強化を目的として、退職
した研究者(同一研究機関退職者を避けることが望ましい。)の再雇用(臨時雇用等)や
外部人材の活用を図る。これらの者からのアドバイスを受けて、事務職員が研究者の意識
や立場をより深く理解することにより、
研究費の運営・管理が円滑に行われるようにする。
3 事務職員の専門性を向上させる施策を講じる。また、必要に応じ、特定の高い専門性を
有する事務職員を採用する。事務職員に期待される専門性としては、関連法令、会計制度
等に関する広範な知識に加え、研究の内容や動向、研究遂行に必要な機器・環境等につい
ての理解が挙げられる。
4 競争的資金に採択された研究者から、
関係ルールを遵守する旨の誓約書の提出を求める。
(4)調査及び懲戒に関する規程の整備及び運用の透明化
1 不正事案の調査を担当する組織として、事案が発生した部局から独立した第三者(本部
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事務局の職員あるいは外部の弁護士、公認会計士等)を加えた組織を設置する。事実の認
定を受けて処分を検討する組織が事案発生部局である場合には、判断基準を明確化・透明
化することで、判断の公正性と客観性を確保することに特に留意する。
2 懲戒に関しては、研究機関全体として取り組む。具体的には、懲戒事案の審議の開始を
決定する段階から本部の役員等が関与し、審議過程に本部の役員等や外部有識者を参画さ
せるなどの方法をとる。
3 懲戒に関する委員会の運営については、内部通報制度との連携を図るとともに、外部有
識者によるモニタリングを行う。
3 不正を発生させる要因の把握と不正防止計画の策定・実施
(1)不正を発生させる要因の把握と不正防止計画の策定
1 部局ごとに問題となりうる具体的な事項を洗い出し、一覧表を作成する。その際には、
規程と運用が乖離している事務処理手続き等、現場で実際に問題となっている事項を具体
的に把握する。
2 1の一覧表をもとに、個々の要因ごとに定量的な評価を行う。定量的な評価とは、発生
可能性と影響度をそれぞれ段階的に評価したものを組み合わせて評価することなどをいう。
この評価結果をもとに、個々の要因への対応の優先度を決定する。
3 不正を発生させる要因を機関全体に起因するものと個別部局ごとに特有のものとに分類
した上で、両者に対する具体的な不正防止計画を策定する。
4 不正防止計画を確実に遂行していくため、
職員に最高管理責任者の対応姿勢を明示する。
その際には、各種媒体を活用することなどが有効である。
5 統括管理責任者が不正防止計画の実施状況を各部局ごとにモニタリングし、必要に応じ
て部局に対して改善を指示する。
6 最高管理責任者、統括管理責任者及び部局責任者について、不正防止計画に関する実施
責任及び権限を明確にする。
(2)不正防止計画の実施
1 防止計画推進部署として、競争的資金に関するコンプライアンス室を設置する。コンプ
ライアンス室は、研究機関全体の観点から実態を把握・検証し、関係部局と協力して、不
正発生要因に対する改善策を講じる。次のような業務も実施することが望ましい。
(ア)適切なチェック体制の構築や研究機関内のルールの統一について提言する。
(イ)行動規範案を作成する。
(ウ)行動規範の浸透を図るための方策を推進する。
2 コンプライアンス室には、会計・法務の専門的な知識を有する者のほか、退職した研究
者等で、研究経験に基づき関係者に助言ができる人材を確保する。
3 不正防止計画を具体的に実行するための運用指針を策定する。
4 研究費の適正な運営・管理活動
1 年度開始後、競争的資金が交付されるまでの間、研究機関内での立替払い制度等の代替
策を講じる。
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2 予算執行を適切かつ効率的に管理することができるよう、
財務会計システムを構築する。
3 研究者による発注を認める場合は、チェック機能が十分発揮されるよう、次のような対
応を適宜組み合わせる。
(ア)研究者が有する発注権限の範囲を研究機関の外部に対して明示する。
(イ)発注様式を統一あるいは電子化することで、発注記録が必ず残るようにする。
(ウ)検収センターを設置するなどにより、発注者以外の者による検収を検収者の責任を明
確にした上で厳格に実施する。
(エ)納品と同時に請求書を業者から研究機関事務局に直接送付する仕組みとする。
(オ)納品の事実確認を抜打ちで実施する。
(カ)業者の原伝票との照合等、発注・検収に関する事後的な検証を厳格に行う。
4 研究の円滑な遂行の観点から、可能な限り柔軟な運用を図る一方、発注者と業者の間に
事務局が介在して実態的なチェックがなされる仕組みを導入する。例えば、総務省消防庁
が認める場合は、事務局と業者が包括契約(業者等に一括契約しておき、その都度物品の
納品の確認等を行って年度内に全体を精算する方式。限度枠及び業者の選定方法に留意が
必要。)を行い、請求書は事務局に直接送付させる。
5 発注書に支出財源を明示させ、それらを財務会計システムに入力できるようにする。
6 旅費については、宿泊費等について、
一定の上限を設定し、
実費精算方式とする。
また、
航空賃や新幹線の運賃等についても領収書等を添付する。
7 非常勤雇用者の採用や契約更新に当たって、事務局側で非常勤雇用者との面談を行い、
勤務実態等を確認する。また、採用後も、日常的に非常勤雇用者と事務職員が面談をする
など勤務実態について事務局側で把握できるような体制を構築することが望ましい。
8 一定期間継続して雇用する非常勤雇用者の管理については部局事務で一元化して行い、
事務職員が非常勤雇用者と接触する機会を持ち、実態を把握する。
5 情報の伝達を確保する体制の確立
1 通報者の保護のため、利害関係のない弁護士事務所等を通報窓口とする。
2 外部有識者からなるコンプライアンス委員会を設置し、通報された事項が適切に処理さ
れているかどうか検証する。
3 行動規範や各種ルール等について、研究者及び事務職員のコンプライアンス意識の浸透
度調査を定期的に(2〜3年に1度程度)行う。調査を行うに当たっては、機関全体の状
況を反映し、研究者や事務職員のありのままの意識を把握するため、できるだけ全職員を
対象とし、外部を活用するなどの配慮を行う。
4 競争的資金に関する管理・監査状況に関する報告書を作成し、ホームページ等により公
表する。
5 USR(大学の社会的責任)報告書等において、競争的資金に係る不正への取り組みに
関する機関内の責任体制や運営・管理の仕組み、コンプライアンスへの取り組み等につい
て積極的に公表する。
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6 モニタリングの在り方
1 内部監査部門には、会計・法務等の専門的な知識を有する者のほか、研究活動の実情に
精通した者を配置する。
2 納品書について、業者発行の原伝票を確認し、伝票の連番等を通して取引時期を特定す
る。
3 研究者の一部を対象に、当該研究者の旅費を一定期間分抽出して検証し、出勤簿に照ら
し合わせるほか、出張の目的や概要を抜打ちでヒアリングするなど、実効性のある監査を
行う。
4 非常勤雇用者の一部を対象に勤務実態についてヒアリングを行う。その際、謝金等の振
込口座のある支店所在地と居住地の違い等、実態的な側面に注意する。
5 監査の質を一定に保つため、監査手順を示したマニュアルを作成し、随時更新しながら
関係者間で活用する。
6 財政上の制約から独立した専属の内部監査部門を設置することが困難な場合、以下のよ
うな対応を行うことも考えられる。
(ア)経理的な側面に対する内部監査は、担当者を指定し、その取りまとめ責任の下に、複
数の組織から人員を確保してチームとして対応する。
(イ)ルール違反防止のためのシステムや業務の有効性、効率性といった側面に対する内部
監査は、防止計画推進部署等が兼務して実施する。
7 防止計画推進部署から不正発生要因の情報を入手した上で、
監査計画を適切に立案する。
8 監事及び会計監査人と内部監査部門が定期的に相互の情報交換を行う場を設ける。
9 監査報告の取りまとめ結果について、研究機関内で周知を図り、類似事例の再発防止を
徹底する。
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