府 政 防 第 6 0 号

消 防 災 第 4 8 号
平成 19 年1月 30 日
各都道府県防災担当主管部(局)長 様
内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(災害応急対策担当)
総務省消防庁国民保護・防災部防災課長
千島列島を震源とする地震による津波避難の状況と今後の対応について
平成 18 年 11 月 15 日と平成 19 年1月 13 日に千島列島を震源とする大規模な地震が発生し、
北海道のオホーツク海沿岸から釧路支庁までの太平洋沿岸に津波警報が、それ以外の北海道
太平洋沿岸から東日本の太平洋沿岸及び伊豆諸島、小笠原諸島に津波注意報が発表されまし
たが、その際、住民の避難率が低かったなどの課題が指摘されたところです。
このため、避難指示・勧告が発令された市町村を対象に、市町村の防災対策、住民の避難
状況等を調査の上、別添の「千島列島を震源とする地震による津波に対する地方公共団体の
対応状況及び今後の対応」をまとめましたので、津波対応上の課題として十分ご留意の上、
「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」
(平成 17 年3月中央防災会議報告)
をはじめ、
「津波対策推進マニュアル検討報告書」
(平成 14 年3月消防庁検討委員会報告)、「沿岸地域における津波避難対策の徹底について」
(平成 15 年9月 30 日付け消防災第 187
号)及び「平成 15 年(2003 年)十勝沖地震に関する津波避難の状況と今後の対策について」
(平成 15 年 10 月9日付け消防災第 190 号)の主旨を再確認いただき、沿岸市町村の津波対
策の一層の推進に向け、適切な対応をお願いします。
なお、貴職管内の沿岸市町村への周知方よろしくお願いします。
担 当 消防庁国民保護・防災部防災課
震災対策専門官 藤田
震災対策係 鈴木
E-mail;fujita-k@soumu.go.jp
suzuki-ky@soumu.go.jp
電 話 03-5253-7525
FAX 03-5253-7535
千島列島を震源とする地震による津波に対する地方公共団体の対応状況及び今後の対応
総務省消防庁
1 避難指示・勧告の実施状況
表1 近年の津波警報に対する避難指示・勧告の状況
津 波 警 報 の
対象市町村数
避 難 指 示
発令市町村数
避 難 勧 告
発令市町村数
未 実 施
市町村数
千島列島東方沖を震源とする地震
(2007 年1月 13 日) 22 0 22 0
千島列島東方沖を震源とする地震
(2006 年 11 月 15 日) 22 2 20 0
紀伊半島沖を震源とする地震
(2004 年9月5日) 42 0 12 30
平成 15 年(2003 年)十勝沖地震
(2003 年9月 26 日) 21 0 14 7
2 津波警報等に対する住民避難状況
表2 11 月 15 日の津波警報等に対する住民の避難所への避難状況
種 別
市町
村数
対象者数(A)避難者数(B)避難率(%)
(B/A)
避難指示 2 1,723 1,278 74.2
避難勧告 20 129,081 16,524 12.8
津波警報
小 計 22 130,804 17,802 13.6
避難指示 1 17,636 74 0.4
避難勧告 4 15,894 794 5.0
津波注意報
小 計 5 33,530 868 2.6
合 計 26 164,334 18,670 11.4
(注) 本調査での避難率は、避難所等に避難した避難者数を避難勧告等の対象地域人口で除した割
合である。したがって、避難勧告対象者数には避難勧告等が発令された時点で在宅していなか
った住民も含まれ、避難所以外の場所(親戚や知人宅等)に避難した住民は避難者数には含ま
れていない。その結果、避難率は実際に避難した人の割合よりも低くなっている。
(注記) 同一市町村内で避難指示と避難勧告を発令しているところがあり合計市町村数が合わない。
しろまる 今回の津波警報に対しては、
該当する全ての市町村で避難指示・勧告が発令され、
平成 15 年(2003 年)十勝沖地震等従来の対応と比べ改善された。
しろまる 11 月 15 日に津波警報が発表された地域の避難率(注)は、避難指示地区で
74.2%、避難勧告地区で 12.8%であった。
しろまる 11 月 15日に津波注意報が発表された地域の避難率は、
避難指示地区で 0.4%、
避難勧告地区で 5.0%と低率にとどまった。
表3 1 月 13 日の津波警報等に対する住民の避難所への避難状況
種 別
市町
村数
対象者数(A)避難者数(B)避難率(%)
(B/A)
津波警報 避難勧告 22 98,606 8,553 8.7
津波注意報 避難勧告 3 15,313 448 2.9
合 計 25 113,919 9,001 7.9
3 市町村の防災対策と住民の避難率との関係
(1)適切な避難対象地区の選別
表4 11 月 15 日における避難地象地区の選別と避難所への避難率の関係
避難対象地区の選別
区 分 市町村数
全 域 選 別
50%以上 5 0 5
25〜50% 4 0 4
10〜25% 10 3 7
10%未満 7 4 3避難率計 26 7 19
(2)住民への情報伝達手段
しろまる 1月 13 日に津波警報が発表された地域の避難率は 8.7%、津波注意報が発表さ
れた地域の避難率は 2.9%と、11 月 15 日以上に低率となった。
しろまる 11 月 15 日の避難率が 25%以上の市町村は、全て避難対象地区を選別して避
難指示・勧告を発令しており、避難率が 25%未満の市町村の中には、全域に避難
勧告を発令した7市町村が全て含まれていた。
しろまる 津波の浸水する危険性がある地域を的確に選定し、避難指示・勧告を発令した市
町村で避難の実効性が上がっている。
しろまる 避難率の高い市町村(避難率 50%以上)は、避難指示・勧告の伝達に多くの手
段を用いており、同報無線や車両による巡回広報に加え、消防団員等による戸別訪
問や自治会・町内会等への電話連絡など、きめ細かな情報伝達手段も用いていた。
しろまる 避難率の低い市町村(避難率 10%未満)は、伝達手段数が少なく、消防団員等
による戸別訪問や自治会・町内会への電話連絡の実施率が低くなっている。
表5 11 月 15 日の住民への情報伝達手段と避難所への避難率の関係
同報無線 消防車両広報
消防団員等に
よる戸別訪問
自治会・町内会
への電話連絡
広報車両広報
区 分
( )内は市町村数
平 均
手段数 実施実施率実施
実施率実施
実施率実施
実施率実施
実施率
50%以上(5) 3.4 1 20.0 4 80.0 3 60.0 3 60.0 4 80.0
25〜50%(4) 3.0 2 50.0 4 100.0 1 25.0 1 25.0 3 75.0
10〜25%(10) 3.3 7 100.0 9 90.0 5 50.0 4 40.0 6 60.0
10%未満(7) 2.7 5 83.3 6 85.7 0 0.0 2 28.6 4 57.1避難率計 (26) - 15 57.7 23 88.5 9 34.6 10 38.5 17 65.4
(注記) 避難率の高い市町村の特徴的な情報伝達手段には、全戸配布されている戸別受信機による伝達
(猿払村、
避難率 64.5%)、
町職員による独居老人宅の戸別確認(浜頓別町、
避難率 100.0%)がある。
(3)災害時要援護者対策
表6 災害時要援護者対策の実施状況と避難所への避難率の関係
対策の実施状況 実施した災害時要援護者対策の内容(複数回答)
区 分
( )内は市町村数 実施 未実施 実施率
要援護者へ
の情報伝達
要援護者施設
への情報伝達
要援護者の
避難支援
避難所運営
での配慮
50%以上(5) 5 0 100.0 3 3
25〜50%(4) 3 1 75.0 1 1 3 1
10〜25%(10) 10 0 100.0 5 5 2
10%未満(7) 3 4 42.9 3 1避難率計 (26) 21 5 80.8 12 1 12 3
(4)1月 13 日の避難所への避難率について
11 月 15 日の津波警報等の発表時と比べ、津波警報等の発表が土曜日の昼過ぎで、
仕事や買い物等で自宅を離れていた住民や避難所以外の場所に避難した住民が多か
ったと推測されることから、避難所への避難率は、11 月 15 日以上に実際の避難率と
の乖離が大きくなっているものと思われる。
しろまる 避難率の高い市町村では、住民等の避難と併せ、災害時要援護者対策の実施率も
高かった。
しろまる 行政側がどこまできめ細かな住民対応をとったかが対策の実施率に表れている。
しろまる 11 月 15 日と比べ避難率と情報伝達手段との関係は、はっきりと表れていない
が、消防団員等による戸別訪問や自治会・町内会への電話連絡など、きめ細かな情
報伝達手段を用いた市町村の避難率が高くなる傾向にあるのは同様である。
表7 1月 13 日における避難地象地区の選別と避難所への避難率の関係
避難対象地区の選別
区 分 市町村数
全 域 選 別
50%以上 2 0 2
25〜50% 3 0 3
10〜25% 7 0 7
10%未満 13 2 11避難率計 25 2 23
表8 1月 13 日の住民への情報伝達手段と避難所への避難率の関係
同報無線 消防車両広報
消防団員等に
よる戸別訪問
自治会・町内会
への電話連絡
広報車両広報
区 分
( )内は市町村数
平 均
手段数 実施実施率実施
実施率実施
実施率実施
実施率実施
実施率
50%以上(2) 3.0 0 0.0 1 50.0 2 100.0 1 50.0 1 50.0
25〜50%(3) 3.3 1 33.3 2 66.7 2 66.7 2 66.7 2 66.7
10〜25%(7) 2.4 4 57.1 5 71.4 1 14.3 1 14.3 4 57.1
10%未満(13) 2.9 10 76.9 11 86.6 3 23.1 3 23.1 8 61.5避難率計 (25) - 15 60.0 19 76.0 8 32.0 7 38.5 15 60.0
(5)その他の項目
住民等の避難行動を促進するためには、住民等があらかじめ浸水予測地域、避難
対象地区、避難地、避難路などを把握し、いざという時にどうやって避難すればよ
いのかを津波避難訓練等を通じて体得していることが重要であり、津波ハザードマ
ップや津波避難計画の作成等、事前の取組こそが肝要であるが、今回の調査結果か
らは、避難勧告・指示の基準、津波避難計画、避難地・避難路の指定、津波知識の
啓発・教育、津波避難訓練と避難率との間には相関関係が見られなかった。
これは、日本から約 390km も離れた場所で地震が発生したため、津波が到達する
までに1〜2時間程度以上の時間的な猶予があり、住民が津波警報を覚知後、瞬時
に自らの判断で避難行動をとる必要がなかった結果、行政側がどれだけきめ細かく
住民対応したかという部分で、避難率に大きな差が出たものと推測される。
しろまる 11 月 15 日と比べ、避難対象地区を選別して避難勧告を発令した市町村が増加
し、全域に避難勧告を発令した市町村は2団体まで減少したが、避難所への避難者
数が低下し、避難率の向上には結びついていない。
表9 津波知識の啓発・教育の実施状況と 11 月 15 日の避難率との相関性
啓発・教育の実施 啓発・教育の内容(複数回答)
区 分
( )内は市町村数 実施 未実施 実施率 学校教育
研修・
防災講座
シンポ・
講演会
マスコミによ
る広報他50%以上(5) 2 3 40.0 1 1
25〜50%(4) 3 1 75.0 2 1 2
10〜25%(10) 5 5 50.0 1 2 3
10%未満(7) 6 1 85.7 1 6 2 2 2避難率計 (26) 16 10 61.5 2 11 3 8 2
4 今後の対応
(1)津波ハザードマップと津波避難計画の作成及び避難対象地区の指定
津波が浸水する危険がある地域を的確に選定し、避難指示・勧告を発令した市町村
の方が、
地域を選別せずに避難勧告を発令した市町村よりも避難の実効性が上がって
いることから、あらかじめ津波ハザードマップ及び津波避難計画を作成し、住民等に
周知するとともに、津波警報が発表された際には、速やかに避難対象地区を指定でき
るようにしておく必要がある。
避難対象地区を限定することにより、避難対象地区に行政側の人的・物的資源を集
中的に投入することができ、住民へのきめ細かな情報伝達を行うことが可能となる。
今回は日本沿岸から離れた場所で地震が発生したため、
事前の津波対策が明確に避
難率の向上に結びつくという結果は得られなかったが、
「避難勧告等の判断・伝達マ
ニュアル作成ガイドライン」
(平成 17 年3月中央防災会議報告)をはじめ、
「津波対
策推進マニュアル検討報告書」
(平成 14 年3月消防庁検討委員会報告)、「沿岸地域に
おける津波避難対策の徹底について」
(平成 15 年9月 30 日付け消防災第 187 号)及び「平成 15 年
(2003 年)
十勝沖地震に関する津波避難の状況と今後の対策について」
(平成 15 年 10 月9日付け消防災第 190 号)の主旨を再確認するとともに、地域ごと
の津波避難計画の策定に向け、
沿岸市町村においては津波避難の必要な地域の状況を
十分に把握した上で津波ハザードマップの作成を、
関係都道府県においては津波浸水
予測図の作成を、強力に推進することが必要である。
(2)防災教育の徹底
今回の調査では、津波知識の教育・啓発活動が避難率に結びついたという結果は得
られていないが、沿岸近くで発生する地震による津波のように、到達時間が極めて短
い場合はもとより、今回のように津波到達までの時間に猶予がある場合でも、住民が
自らの判断で避難行動を行うことは極めて重要である。
このため、津波ハザードマップや津波避難計画の情報、津波は海底・海岸の地形に
より予測以上の被害をもたらす場合や、
第一波が必ずしも最大とはならないなどの津
波に関する基礎的な情報や津波の危険性については、折に触れて、住民に分かりやす
く提供するとともに、気象庁等の関係機関とも連携し、防災教育の一層の徹底を図る
必要がある。
(3)住民等へのきめ細かな情報伝達及び避難行動の促進
今回は、津波警報の発表から津波到達までに時間的余裕があったことから、同報無
線や消防車両等による避難の呼びかけに加え、
消防団や自主防災組織による戸別訪問
や電話連絡などきめ細かな情報伝達も行われ、
それが住民の避難行動に結びついてい
ることが明らかになった。
特に、今回のように津波の到達までに時間的な余裕がある場合においては、津波
到達予想時刻を見極めた上で、きめ細かな情報伝達や避難行動の促進を行うことは
避難率向上のために極めて有効な手段であることから、平常時より、様々な情報伝
達手段について検討・確保しておくことが望まれる。その中でも、消防団や自主防
災組織を活用した情報伝達は有効であることから、消防団や自主防災組織の活動を
強化する必要がある。
なお、沿岸近くで発生する地震による津波は到達時間が極めて短いことから、強
い揺れを感じたときや津波警報を覚知した場合には、直ちに海浜から待避し、急い
で安全な場所に避難することが最優先であり、消防団や自主防災組織を活用した情
報伝達は、安全が確保される範囲内において、津波到達予想時刻を見極めた上で活
用されるべきものであることはいうまでもない。

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