PCB廃棄物処理事業評価検討会〜中間とりまとめ〜


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3. PCB廃棄物処理事業の評価について
3.1 本章の構成
しろまる 検討会の3月中間取りまとめにおいては、効率性の観点からの評価に関する事
項を中心としつつ、あわせて、必要性、有効性、公平性、優先性などの多角的な
視点からの評価に関する基本的な考え方及び今後検討を深めることが必要な課題
を整理する。このような様々な評価の視点について、3.2節において、その考え
方を整理する。検討フローを図3‐1に示す。
しろまる 事業の必要性や有効性については、第2章にも述べたように、事業を行わず引
き続き保管を継続することが、PCBによる環境汚染や保管継続に伴う費用を将
来世代につけ回すことになる等の観点から、定性的には明らかと言える。本章で
は、効率性の評価の前提となる効果について、現段階で得られている知見から定
量化を行い、効果と費用の関係を分析することで効率性の評価を行うことが中心
的な課題である。また、効果の定量化は、必要性を定量的に説明できることにつ
ながると考えられる。そして、この効果の定量化と効率性の評価については、3.
3節において、いくつかの段階に分けてとらえることを試みる。
しろまる つまり、PCB廃棄物処理事業の効果について、事業を行った場合と事業を行
わない(引き続き保管を継続する)場合を比較して、存在するPCBがどれほど
削減されるか、環境中に放出されるPCBがどれほど低減されるか、人へ暴露さ
れるPCBがどれほど低減されるかということ等のいくつかの段階で算出するこ
とによって定量化ができる。こうした削減効果あるいは低減効果について、3.3
節で存在、排出、暴露の段階に分けて効果を算出し、検討する。
しろまる そして、効率性の評価は、3月中間取りまとめでは、PCB廃棄物を処理する
という事業の効率性が、これまでなされてきた比較可能な類似の事業であるごみ
焼却施設のダイオキシン対策と比較して十分であるかどうかに着目して行うもの
とする。どのような方法で処理するか、例えば、焼却処理か、化学処理かという
観点から処理方法間の効率性を比較し評価することは、これまでに見てきたよう
に化学処理が実現性の観点から事実上唯一の手法として選択されたという事実を
ふまえ、処理方法間の効率性の比較評価については、今回の取りまとめにおいて
は、定量的な検討の対象とはしない。もちろん、このような観点からの評価は重
要であり、社会状況等の変化を踏まえつつ、今後の課題として検討すべきもので
ある。
しろまる また、本とりまとめでは、まず、利用可能な数値を用いながら一定の試算がで
きる範囲について具体的な数値を示すものとし、試算の仮定について検討、議論
の余地が残るものについては、評価の方向性、課題を示すことにとどめるものと
する。
しろまる 3.3節では、PCB廃棄物処理事業のダイオキシン類(コプラナPCB)削減
・低減効果に着目し、ごみ焼却施設のダイオキシン対策事業と比較することによ
り、費用効果分析(事業による効果を費用と比較して投資効果を評価する方法)
を行う。これにより、現段階での効率性評価の到達点を明らかにするとともに、
今後さらに進めるべき方向性とその課題を整理する。また、3.4節では効率性の
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評価手法のうち、代替的費用での比較等による評価の方向性と課題を示し、3.5
節ではその他の視点(緊急性等、負担の公平性)からの評価の考え方・方向性・
課題を整理する 。。本章の構成(3.1節)
評価の基本的考え方(3.2節)特措法等
事業の効率性の評価と今後の課題に( )
ダイオキシン対策としてのごみ焼却施設対策事業との比較よ(3.3節)る事業の
その他の方法による事業効率性の評価の方向性と課題枠(3.4節)組その他の視点からの評価の方向性と課題(3.5節)
図3‐1 検討のフロー
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3.2 評価の基本的考え方
(1)事業の必要性
しろまる 第2章までに整理したように、PCB廃棄物の早期処理とそのための広域的な
処理体制の整備、すなわちPCB廃棄物処理事業については、保管継続のリスク
を解消するなどの目的をふまえ、また、国際的な約束にも照らして制度化された
PCB特別措置法等の制度及びその制定プロセスにおいてその必要性が示され、
また、確認されている。
しろまる さらに、PCB廃棄物処理事業を実施する場合の効果を計算することで、その
必要性を定量的に明らかにすることができる。すなわち、存在しているPCBを
分解して消滅させることができるという効果(存在量の削減=放出可能性量の削
減 、消滅させることによって保管を継続する場合に環境中に放出されるであろ)うPCBの量を低減させることができるという効果(放出量の低減 、それによ)って環境中のPCBの濃度を低減させることができるという効果(環境中の濃度
の低減 、その結果人のPCB暴露量を低減させることができるという効果(暴)露量の低減=摂取量の低減 そして最終的にPCBによる人の健康への影響 健)、 (
康リスク)を低減させることができるという効果(健康影響の低減)を示すこと
で、PCB廃棄物処理事業の必要性を明らかにすることができる。
しろまる このように事業の必要性を定量的に示すということのほか、今後は、PCB廃
棄物の確実かつ適正な処理を促進するために必要な施策、つまり、PCB廃棄物
処理事業を実施する上で、所期の期間内に処理完了が達成できるようにする等の
ために必要な施策、例えば、インセンティブの付与や規制的誘導等について、必
要性の評価を行うべきである。
(2)事業の効果と効率性
しろまる 事業の効果は、(1)で述べたように定量的には事業実施による、1存在量の削
減、2放出量の低減、3環境中の濃度の低減、4人への暴露量(人の摂取量)の
低減、5人の健康影響の低減という各段階で示すことができる。そして、事業評
価の主目的の一つである、事業の効率性は、投入された費用に見合った効果が得
られているかとの観点から定量化される。
しろまる 効率性の定量化の方法としては、得られる効果当たりの投資額(事業実施の費
用)を示す(例えば、PCBを1kg消滅させるのに要する費用)という費用効果
分析による方法で行う。
しろまる 多くの場合、効率性の評価は、事業の方法等に複数の選択肢があって、その選
択肢の間で効率性を比較して、もっとも効率的な方法を選択するという形で行わ
れることになる。PCB廃棄物処理事業の場合、高温焼却など化学的な処理方法
以外の処理方法と化学的な処理方法を比較することが考えられるが、2章で述べ
たように現在の5つの地域の事業(表2‐3)について化学的な処理方法以外の選
択肢が存在しない。このため、現段階での検討では、PCB廃棄物処理事業のダ
イオキシン類(コプラナPCB)削減・低減効果に着目して、既に実施されたご
み焼却施設のダイオキシン対策事業との比較をもって、効率性の評価を行う。
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しろまる このように、効果の算出をいくつかの段階で行い、効率性の定量化を費用効果
分析により行い、効率性の評価はダイオキシン対策という観点でごみ焼却施設の
ダイオキシン対策事業との比較をもって行う。
しろまる 図3‐2に示すように効果の算出の段階を健康影響の低減の段階までもっていく
ことができれば、PCBのなかのダイオキシン類であるコプラナPCBによる発
がん件数の減少や、余命の延長ということで効果を算出することができる。その
ようにすると、比較対象となる事業や対策が、ダイオキシン対策以外の他の発が
ん物質対策や有害物質対策全般にまで広げることができるようになると期待され
る。
しろまる 効果の算出の段階を存在量の削減→放出量の低減・・・・・→人の健康影響の低減
というように進めていくことは、なるべく多くの手法により効率性を評価すると
いう観点から意義があるが、妥当性を検証しながら様々な仮定やモデルを設定し
て計算をすることは、それだけ複雑で高度になり現段階では困難であるため、今
回の中間とりまとめでは検討の対象としない。このように効果の算出を進めてい
くことは、今後検討しなければならない課題である。
しろまる また、暴露量の低減から健康影響の低減量を求め、これの貨幣化(確率的生命
の価値)ができれば、上述のように本事業そのものの費用便益が求められるが、
貨幣化は、仮定に関する多くの議論を待たずには困難であり、今後の検討課題と
する。
しろまる 中間とりまとめでは、比較対象事業としてダイオキシン対策としての効果をと
らえるためごみ焼却施設のダイオキシン対策を選定し、今後の検討課題としてそ
の他の有害物質対策事業全般を考えることとするが、比較対象事業の選定には別
のアプローチの仕方も考えられる。そこで、PCB廃棄物対策としての代替的な
手段を設定し、その費用と比較するという方法(代替的費用での比較)が考えら
れるので、現段階では考えられる代替的な手段や、その方向性を整理する。
しろまる また、保管を継続する場合には海外で見られるように大規模なPCB漏出事例
もあり、評価に際して、このような大規模漏出事例の被害費用を考慮することも
考えられるが、これは、すべての状況下において異常事態として付随するリスク
であり、このような異常事態を評価の範囲とするかどうかの問題である。
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(3)公共関与・公費投入の評価
しろまる PCB特別措置法等に基づくPCB廃棄物処理事業では、環境事業団を事業の
実施主体として国の公共関与による事業が行われるとともに、中小企業者等の処
理費用の低減を行い、それらの適正かつ確実な処理を推進するため、公費が投入
される。
しろまる このようなことを踏まえ、環境事業団の活用利点や、公費投入の有効性につい
て評価することが重要であり、今後の検討課題とすべきである。
(4)その他の視点での評価の考え方
しろまる 前掲した事業評価の主目的である効率性の評価や、事業の前提とも言える必要
性や効果の他に、評価の視点として、事業を『今』実施することの裏付けとなる
緊急性や、地域や世代間の公平性等が挙げられる。また、国民の理解とりわけ立
地地域の住民の理解を得ていくことが事業の円滑な推進に必要不可欠であり、国
民に対する行政の説明責任(アカウンタビリティ 、リスクコミュニケーション)の視点も本事業の重要な評価視点である。
保管
環境人環境への
放出可能性
環境への放出
人への暴露
人の摂取
発がん
放出可能性量の削減
放出量の低減
状態 事業の効果
暴露・
摂取量の低減
人の健康影響の低減(発がん件数の減少)
余命の延長
確率的生命の価値リスク評価
図3-2
事業評価方法の考え方、
全体像
放出
環境動態
暴露経路
環境中での
移動等
比較対象事業
ごみ焼却
ダイオキシン対策
厳重保管
土壌汚染修復
発がん物質対策
人の健康に有害な
物質対策
漏出事例[費用効果分析][費用便益分析]
被害費用(通常)(
異常):中間取り
まとめ検討対象
環境中濃度の低減
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3.3 ダイオキシン対策としての既存事業との比較による効率性の評価
(1)効率性評価の基本的な考え方
しろまる PCB中には、ダイオキシン類として毒性等価係数が定められているコプラナP
CBが含まれており、PCB廃棄物処理事業により、現に存在しているPCBを分
解することはコプラナPCBを分解することとなるため、PCB廃棄物処理事業の
効果をダイオキシン対策として定量化することができる。
しろまる 既に実施されたダイオキシン対策として、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業が
あり、その効果とそれに要した費用を算出することができ、ダイオキシン対策とし
てのPCB廃棄物処理事業とごみ焼却施設ダイオキシン対策事業を比較することで
効率性の評価を定量的に行うことができる。
しろまる そこで、ここでは、1現に存在しているPCBの削減という段階での効率性の定
量化をまず行い、さらに、2環境への放出量の低減という段階、及び3人への暴露
量の低減という段階での定量化を試みることにする。
しろまる 1の現に存在しているPCBの削減という段階を考える意味は、人の健康影響や
生物への影響といったリスクを削減するという観点からは、環境への放出可能性量
(潜在的に環境中に放出されうる量)を低減するということである。これを毎年の
環境への放出量が一定量低減されるという効果としてとらえた場合には、2の環境
への放出量の低減という段階での定量化と基本的に同じことになる。しかし、主に
現在の世代において製造・使用し、それに伴う恩恵は現在の世代が受けたというこ
とや、できる限り早期に現に存在しているPCBを削減しようとすることが国際的
、 、
なコンセンサスとなっていることを考慮し 毎年の環境への放出量の低減とは別に
存在量の削減をそのまま効果としてとらえることも必要である。前者の考え方は、
他の有害物質対策、リスク削減対策と比較することができるため、普遍性をもった
評価の考え方である。一方、後者の考え方は、現在の世代において大量にストック
され、現在の世代において消滅させなければならないという意志決定が国際的にも
されているPCBのような有害物質対策の場合には、効果を直接的に表現すること
ができ、したがってわかりやすいことから、有意義な考え方である。
しろまる 2の段階を考える意味は、環境中の濃度が高くならないようにするため放出量が
コントロールされるということがあるため、極めて重要である。したがって、実際
にモニタリングされている濃度との比較を通じた検証を行いつつ、環境への放出量
の低減を定量化することが必要である。さらに3の段階で考える意味は、環境へ放
出されたPCBが大気、水、土壌といった環境媒体を経て、食品の摂取、呼吸、水
の摂取等を通じて人に暴露されることを考慮して、人の健康影響の低減を効果とし
てとらえるということである。2の段階から3の段階での効果の定量化に当たって
は、PCBが大気、水、土壌といったどの媒体にどれくらい排出され、環境中にお
いてPCBがどのような挙動を示すのかといったことなどの不確実性があるもの
の、他の有害物質対策、リスク低減対策と比較することができ、普遍性を有するだ
けでなく、人の健康影響の低減ということで効果を表現することができるため、理
解が容易であることから、3の段階で考えることは重要である。
しろまる このような基本的な考え方に沿って、以下(2)において、1の段階でのPCB廃
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棄物処理事業の効果を定量化し、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業と比較して、
効率性を評価する。そして、(3)において、2及び3の段階での効果の定量化と効
率性の評価のために、PCB廃棄物処理事業による環境への放出量の低減効果の定
量化及び人への暴露量の低減効果を定量化した既往の研究(平井ら(2003 ))の成果を紹介する。さらに、(4)では、2及び3の段階での効果の定量化と効率性
の評価を行う。そして、(5)において、これらに関する課題を整理する。
しろまる なお、PCB廃棄物処理事業の効果は、事業を実施した場合とそうでない場合を
比較して求められるものであることから、それぞれの場合のPCB保管量(存在し
ているPCB)及びPCBの環境への放出量について時間的推移のイメージを図3
−2に示す。また、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業の効果は、事業を実施した
場合とそうでない場合を比較して求められるものであることから、それぞれの場合
のダイオキシンの環境への放出量についても時間的推移のイメージをあわせて示
す。基本的に、これらの図において、対策実施と対策不実施の差の部分がそれぞれ
の事業の効果となる。
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1995 2005 2015 2025 2035 2045 年PCB保管量
保管継続
処理実施a) PCB保管量の推移
1995 2005 2015 2025 2035 2045 PCB放出量
保管継続
処理実施PCB放出削減量年b) PC
B放出量の推移
1995 2005 2015 2025 2035 2045 年
ダイオキシン放出量
事業不実施
事業実施
ダイ
オキシン放出削減量c) ダイ
オキシン放出削減量の推移
図3‐3
対策の有無による保管量、
放出量の時間的推移
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(2)PCB廃棄物処理事業におけるダイオキシン削減効果の定量化と効率性の検討
1PCB中のダイオキシン類含有量
しろまる PCB中の異性体分布を代表的なPCB製品であるKC300、KC400、KC500及びK
C600の等量混合標準品(KC‐MIX)の異性体分布に等しいとする。
しろまる KC‐MIXの異性体(コプラナPCB)分布は、表3‐1のとおりであり、ダイオキ
シン類であるコプラナPCBの存在割合(重量%)は、4.6%とされる。毒性
等価係数TEF(1997)に基づき、PCB単位量当たりのダイオキシン類の毒性等
量を求めると、21ppmと算出される。なお、KC‐300、KC‐400、KC‐500、KC‐600
のPCB単位重量当たりのダイオキシン類(コプラナPCB)の毒性等量は1.
5ppmから53ppmであり、概ね同じオーダーである。
表3‐1 KC−MIX中のコプラナPCBの存在割合コプラナPC
B TEF(1997) KC‐MIX TEQ(%) (ppm)
3,4,4',5‐TeCB(#81) 0.0001 0.058 0.1
3,3',4,4'‐TeCB(#77) 0.0001 0.197 0.2
3,3',4,4',5‐PeCB(#126) 0.1 0.015 15.0
3,3',4,4',5,5'‐HxCB(#169) 0.01 0.002 0.2
2',3,4,4',5‐PeCB(#123) 0.0001 0.144 0.1
2,3',4,4',5‐PeCB(#118) 0.0001 2.260 2.3
2,3,3',4,4'‐PeCB(#105) 0.0001 0.907 0.9
2,3,4,4',5‐PeCB(#114) 0.0005 0.104 0.5
2,3',4,4',5,5'‐HxCB(#167) 0.00001 0.428 0.0
2,3,3',4,4',5‐HxCB(#156) 0.0005 0.346 1.7
2,3,3',4,4',5'‐HxCB(#157) 0.0005 0.064 0.3
2,3,3',4,4',5,5'‐HpCB(#189) 0.0001 0.039 0.0
合 計 4.564 21.4
高菅卓三ら:各種クリーンアップ法とHRGC/HRMSを用いたポリ塩化ビフェニル(PCBs)の
全異性体詳細分析方法、環境化学,5,657‐675(1995)をもとに作成
2PCB廃棄物処理事業によるダイオキシン類の削減可能量
しろまる 既に事業認可を行っている5事業(北九州、豊田、東京、大阪、北海道)のP
CB処理対象量は、表3‐2第2欄のとおりであり、1により、それぞれの処理対
象量中に含まれるダイオキシン類を求めると、表3‐2第3欄のとおりとなる。5
事業全体のPCB処理対象量は14,500t、処理対象のダイオキシン類は、310kg‐
TEQと求められる。
しろまる ここで、北九州事業以外の事業については、事業の認可を行う時点で算出され
た事業実施計画に基づく数値であり、北九州事業については、既に契約された第
1期事業分の処理施設能力(0.5t/日)に基づいて算出したものである。
しろまる ここでは、処理対象規模を確定して試算をするため、北九州第2期事業分、立
地の具体化に至っていない北陸、北関東、甲信越及び東北の15県分、さらに、
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未届出分や使用中の未確認分の把握確認の進行を考慮せず、5事業分だけで算出
する。
表3‐2 PCB廃棄物処理事業によるダイオキシン類の削減可能量
事業名 PCB ダイオキシン類
(t‐PCB) (kg‐TEQ)
北九州I 1,400 30.0
豊 田 3,900 83.5
東 京 4,400 94.2
大 阪 4,300 92.0
北海道 500 10.7
合 計 14,500 310
3PCB廃棄物処理事業の費用
しろまる本事業の施設整備費は、各事業毎に、表3‐3のとおりである。5事業全体では、
約1,500億円となる。
しろまる北九州事業以外の事業については、事業の認可を行う時点で算出された事業実施
計画上の施設整備費(ただし、用地費を含まない)を用いているが、これは、北
九州事業第1期の施設と同じ設備構成(抜油、粗洗浄、粗解体、1次洗浄、解体
・分別、2次洗浄及び真空加熱分離より構成される前処理及び脱塩素化分解によ
る液処理)を想定し、その応札額に基づいて算出したものであり、今後行われる
各事業ごとの入札における技術提案の内容により変わりうるものである。
しろまる北九州事業については、第1期事業分の応札額であるが、第2期事業を見通した
整備計画を作成しており、第2期事業と按分することが適当な費用も含まれるこ
とに留意が必要である。
しろまるなお、施設の稼働に伴う維持管理費等の経費については、施設整備費と同程度に
確度を持って算出することが現段階では困難であるため、ここでは含めない。
表3‐3 施設整備費
事業名 施設整備費
(億円)
北九州I 156
豊 田 336
東 京 464
大 阪 435
北海道 141
合 計 1,532
4PCB廃棄物処理事業のダイオキシン類1kg削減可能量当たりの費用
しろまる 3及び4により、各事業毎にダイオキシン類1kg‐TEQの削減可能量当たりの施
設整備費(費用)を求めると、表3‐4のとおりとなる。5事業全体で、4.9億円/k
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g‐TEQと求められた。
表3‐4 ダイオキシン1kg削減可能量当たりの費用
事業名 削減可能量当
たりの費用( )億円/kg‐TEQ
北九州I 5.2
豊 田 4.0
東 京 4.9
大 阪 4.7
北海道 13.2
合 計 4.9
5ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業におけるダイオキシン類の削減可能量
しろまる 我が国の一般廃棄物焼却施設から大気へ排出されるダイオキシン類の排出量
は、ダイオキシン類対策特別措置法に基づき定められた「我が国における事業活
動に伴い排出されるダイオキシン類の量を削減するための計画」に基づき毎年整
備される排出インベントリー(排出量の目録)として発生源別に明らかにされて
おり、一般廃棄物(ごみ)焼却施設については、表3‐5のとおりと推定されてい
る。ただし、平成14年度の数値は、この計画の目標値を掲げている。
しろまる ダイオキシン類の法律に基づく排出規制は、廃棄物処理法に基づき、既に設置
されている施設を含め、平成9年12月から実施され、既に設置されている施設に
ついては、10年12月から達成しなければならない排ガス中のダイオキシン類濃度
の基準80ng‐TEQ/m 、14年12月から達成しなければならない基準1ng‐TEQ、5ng‐3TEQ、10ng‐TEQ/m(炉の規模に応じて適用)が設定されており、規制開始の9年
、 。
12月から10年12月までと 14年12月までに分けて段階的に規制が実施されている
また、ダイオキシン類対策特別措置法に基づく計画において平成14年末において
9年の概ね9割削減という目標を設定している。こうしたことから、平成9年を
基準年として、9年の排出量と比べ、年間で、10年は3.45kg‐TEQ、11年は3.65kg
‐TEQ、12年は3.98kg‐TEQ、13年は4.19kg‐TEQ、それぞれ削減され、14年は4.69kg
‐TEQの削減が達成されることになる。
しろまる ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業は、平成10年12月の基準及び14年12月の基
準が遵守できるよう、9年から14年の間に、既存の施設の改造や廃止・建て替え
等を内容として実施された対策である。この対策によって、焼却施設の通常の建
て替え時まで待つことなくダイオキシン類の排出が平成14年末までに削減される
ことになる。このため、対策が実施されなかった場合には、対策実施前の時点で
ごみ焼却施設が排出していた量のダイオキシン類が、通常の焼却炉の建て替え時
までの間排出されつづけたことになるが、この排出されつづけたであろうダイオ
キシン類が対策によって排出されなくなる。したがって、対策が実施されなかっ
た場合に焼却炉の建て替え時点までの間排出されつづけたであろうダイオキシン
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類の量を、対策によって削減できた量としてとらえることができる。
しろまる このように、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業の効果を、排出されたであろ
うダイオキシン類の削減可能量として考えれば、PCB廃棄物処理事業によるダ
イオキシン類の削減可能量と比較することは十分な意義がある。すなわち、既に
存在しているPCB中のコプラナPCBとしてのダイオキシン類を削減する(消
滅させる)という効果と、環境中に存在することとなったであろうダイオキシン
類を削減する(存在させないようにする)という効果は、比較しうると考えられ
る。
表3‐5 一般廃棄物焼却施設からのダイオキシン類の排出量
年 度 平成9年 平成10年 平成11年
排出量 g‐TEQ/年) 5,000 1,550 1,350(年 度 平成12年 平成13年 平成14年
排出量 g‐TEQ/年) 1,019 812 310(6ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業の費用
しろまる ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業の費用は、当該事業のために計上された環
境省の補助金額に基づき、表3‐6のように求められる。具体的には、主としてダ
イオキシン対策のための設備改修として行われたものと考えられる排ガス高度処
理施設の施設整備費用を計上した。また、ダイオキシン対策による焼却施設の稼
働に伴う維持管理費等の経費の増加分については、現段階では算出が困難である
ため、PCB廃棄物処理事業の場合と同様にここでは対象としない。このほか、
ごみ処理施設整備費、ごみ燃料化施設整備費に計上されている費用の一部も、ダ
イオキシン対策に資する施設整備(改良)として計上できるが、ダイオキシン対
策の費用を按分するなどして取り出すことが困難なためここでは計上しない。
、 、 。
しろまる 以上から 平成9年度から13年度までの5年間の総費用は 7,436億円となる
表3‐6 ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業の費用
年 度 平成9年 平成10年 平成11年
ダイオキシン対策費用(億円) 198 1,541 1,827
年 度 平成12年 平成13年
ダイオキシン対策費用(億円) 1,893 1,977
7ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業のダイオキシン1kg削減量当たりの費用
しろまる 通常の焼却炉の耐用年数は、概ね20年間程度であるが、設置された年が施設
ごとに異なり、平成9年の時点で耐用年数に近い焼却炉もあれば、耐用年数まで
十分な期間がある焼却炉もあることを考慮し、効果を算定する期間として平成9
年から10年間、20年間及び30年間という期間を設定する。このように期間
に幅を持たせることによって、一つ一つの焼却施設の耐用年数までの期間をおさ
えなくても、幅をもった値として効果や1kg削減量当たりの費用を算出できる。
しろまる 対策事業が行われなかった場合には、平成9年から10年後、20年後、30
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年後に全ての焼却炉が一度に建て替えられるとし、その間に排出されたであろう
ダイオキシン類を対策事業によって削減することができたものとして、ダイオキ
シン量の削減可能量を求める。ここで、平成14年度及び14年度以降のダイオキシ
ン排出量は、14年度の計画目標値である310g‐TEQ/年とする。また、対策事業が
行われなかった場合には、14年末の規制が建て替え時までは猶予され建て替え時
にはじめて適用されると想定して、建て替え後の排出量は310g‐TEQ/年となるも
のとする。
しろまる こうした前提のもとでごみ焼却施設ダイオキシン対策事業によるダイオキシン
の削減可能量及びダイオキシン1kg削減可能量当たりの費用を算出すると表3‐7
のとおりとなる。
しろまる 別に、Kishimoto et al.(2001)は、上記のようにダイオキシンの削減可能量
を効果としてとらえるのではなく、環境への排出量の削減効果、それによる人へ
の暴露量の削減効果、損失余命として効果をとらえたものであるが、ごみ焼却施
設ダイオキシン対策事業について、ダイオキシン1kg‐TEQ当たりの削減費用を維
持管理費を含め186億円としている。維持管理費を除くと78億円と求められる。
表3‐7の値は、Kishimoto et al.(2001)の数値とほぼ同程度と考えられる。
表3‐7 ダイオキシン1kg削減可能量当たりの費用
算定期間 10年間 20年間 30年間
ダイオキシン削減可能量 43.4 90.3 137
(kg‐TEQ)
削減費用(億円/kg‐TEQ) 171 82.3 54.2
Kishimoto et al.(2001)は、平成10年12月から既存施設に適用された
しろまる また、
80ng‐TEQ/mの基準に適合していない114施設に対して施された、いわゆるダ
イオキシン緊急対策(10年12月からの規制を達成する対策)について、ダイオキ
シン1kg‐TEQ当たりの削減費用を16億円(維持管理費を含む)と算出している。
このため このKishimoto et al.(2001)
維持管理費を除くと8億円と求められる。 、
を参考として、同様に緊急対策の効果をここでも算出することを試みる。
、平成9年度のダイオキシン対策事業費が、いわゆる緊急対策事業と
しろまる おおむね
して支出されたものと考えることができる。これにより、年間3.45kg‐TEQの削減
効果(平成10年度の削減量)が得られたと考え、その10年間、20年間及び3
0年間分を緊急対策事業によるダイオキシン類の削減可能量とすれば、当該事業
のダイオキシン1kg‐TEQ削減可能量当たりの費用は、それぞれ6、3及び2億円/
kg‐TEQと求められる。これは、Kishimoto et al.(2001)の数字とオーダーとして
同程度となっている。
8ダイオキシン削減対策としてのPCB廃棄物処理事業の効率性評価
しろまる 1から7により算出されたPCB廃棄物処理事業及びごみ焼却施設ダイオキシ
ン対策事業の効果と1kg削減可能量当たりの費用についての結果の比較を通じ、
ダイオキシン対策としてのPCB廃棄物処理事業の効率性を評価する。表3‐8の
‐ 35 ‐
ように、北九州事業をベースとした費用を設定したPCB廃棄物処理事業の効率
性は、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業と比較して高く、ダイオキシンの緊急
対策と同程度であると考えられる。
しろまる なお、北九州事業の化学的な処理方法は、抜油、粗洗浄、粗解体、1次洗浄、
解体・分別、2次洗浄及び真空加熱分離より構成される前処理及び脱塩素化分解
による液処理により構成されるものであるが、これ以外の化学的な処理方法との
比較については、この段階では、費用の不確実性が高く行うことができない。し
かしながら、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業と比較して効率性が高いことは
十分予想できる。
表3‐8 各事業のダイオキシン1kg削減費用
削減費用(億円/kg‐TEQ)
(注記)
PCB廃棄物処理事業 4.9
(注記)(注記)
ダイオキシン対策 54〜171
(注記)(注記)(注記)
ダイオキシン対策(緊急対策) 2〜 6
(注記)5事業全体で4.9億円、個々の事業は表3−4のとおり4〜13.2億円
(注記)(注記)Kishimoto et al.(2001)によると78億円と計算される
(注記)(注記)(注記)Kishimoto et al.(2001)によると8億円と計算される
しろまる 以上の結果は、PCB廃棄物処理事業によって既に存在しているPCBを削減
、 ( )
し PCB中のコプラナPCBとしてのダイオキシン類を削減する 消滅させる
ことと、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業によって環境中に存在することとな
ったであろうダイオキシン類を削減する(存在させないようにする)ことを比較
したものである。存在するPCBがすべて、結局は環境中に放出されると見なせ
ば、PCB存在量の削減効果から、放出量の削減に関する効率性を計算すること
もできる。それについては、環境中への放出量の段階での効果等について述べる
(4)1に示す。
しろまる 上記のようにPCB廃棄物処理事業とごみ焼却施設ダイオキシン対策事業を比
較することについては、留意すべき事項がいくつかある。PCB廃棄物処理事業
については、既に存在しているPCBに含まれているダイオキシン類としてのコ
プラナPCBを削減できるという効果以外に、PCBは、コプラナPCBに由来
する以外の毒性を有しており、PCB存在量自体の削減効果というものがある。
また、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業については、ダイオキシン対策という
目的であるが、対策の副次的な効果として例えば排ガス中の水銀等を低減させる
対策としての効果もある。このように比較した二つの事業には性格の違いがある
ことに留意する必要がある。また、PCB廃棄物処理事業の場合には、事業によ
る処理が行われるまでの間、PCB廃棄物は保管され、したがって、この間の保
管中の不明・紛失など環境中へのPCBの漏洩が発生すると考えられ、ここでは
こうした保管中の漏洩により削減可能量が減少することを考慮には入れていない
が、PCB廃棄物処理事業を実施する段階などPCB廃棄物対策を進める上では
定量化することが必要である。
‐ 36 ‐
(3)PCB廃棄物処理事業による環境への放出量の低減効果及び人への暴露量の低減
効果の定量化の試算
1環境放出量の低減効果
しろまる PCBの処理促進によるリスク低減に関し、その大枠、すなわち環境への放出
量については当時の環境庁が行ったPCB混入機器等処理推進調査検討委員会(1
997)によって整理されている。この文献では、これまでのPCB廃棄物の管理状
況をふまえ、PCB廃棄物による環境中へのPCB放出量について保管継続の場
合14,000〜140,000kg/年という推定が行われている。
しろまる 平井ら(2003)は、これをPCB放出量推定値の基礎として放出後の環境動態の
モデル化を行った上で、モデルによる試算結果とモニタリングデータとを比較し
ているが、その結果は、次のように要約される。PCB紛失量の1/10〜1/100が
大気や水系へ放出されると仮定した場合、大気中や水中のPCB濃度の推定値は
実測濃度とほぼ同程度となった。また、PCB紛失量の全量が土壌系へ放出され
ると仮定した場合、現状の大気や水中のPCB実測濃度が説明できる。以上の比
、 、 、
較を踏まえ 保管継続に伴うPCB放出量の上限を 土壌排出で140,000kg/年
大気及び水系排出で14,000kg/年と推定している。ここで「上限」としているの
は、PCBの発生源として過去に放出されたPCBの環境中での再循環や焼却プ
ロセスからの非意図的生成もあることによる。このように、PCB放出量推定と
モデル解析について一定の検証がなされている。
しろまる こうしたことから、保管継続の場合の環境へのPCB放出量として14,000〜14
、 、
0,000kg/年という値を用いて PCB廃棄物処理事業を実施した場合の効果を
放出量が低減される量として定量化の試算をすることができるものと考えられ
る。そして、(2)の場合と同様に、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業とPCB
廃棄物処理事業とで、環境へのダイオキシン放出量の低減効果と費用を比較する
ことで、効率性をある程度評価することができるものと考えられる。このため、
こうした考え方に基づく効率性を(4)1において試算することとする。
しろまる この場合、環境中への放出量は、様々な仮定をおいて計算されるものであり、
その放出量を検証するためには、平井ら(2003)等のようなアプローチを行うこ
とが必要である。むしろ、実際に目に見えた数値として得られるのは、環境中の
濃度であることから、本質的には環境中の濃度がどれくらい低減されるかという
ことで効果をとらえることが重要であり、またわかりやすいと考えられる。PC
Bは難分解性であり、環境中での残留性が高いため、土壌や底質などの濃度はP
CB放出量の変化を直ちに反映するわけではないが、環境中濃度の低減傾向をつ
かむという点については、今後の検討課題である。なお、環境中濃度の低減傾向
をつかむには長期的なモニタリングが必要であること、及びすでに環境中に存在
するPCBや、保管PCB以外の汚染源があることに留意が必要である。
2人への曝露量の低減効果
しろまる 前掲した平井ら(2003)においては、PCB放出量推定値やそれをふまえ構築さ
れたモデルを通じ、PCBをコプラナPCBとしてとらえたダイオキシン類の人
への曝露量の推定を行っている。環境中から人への暴露量を推定するに当たって
‐ 37 ‐
は、図3‐4に示した暴露経路を考慮している。
しろまる この結果によれば、日本全体でのコプラナPCBの全人口の集団曝露量は、保
管継続の場合に86〜280mg‐TEQ/年であるのに対し、処理促進の場合には0.0011
、 。 、
〜0.079mg‐TEQ/年であり 両者は10 〜10 程度異なることが示されている また3 6処理施設周辺を10km四方とし人口を16,700人と仮定した施設周辺の人口の集団暴
露量は、保管継続の場合に0.011〜0.037mg‐TEQ/年であるのに対し、処理促進の
場合には0.00067〜0.0044mg‐TEQ/年であり、両者は10 〜10 程度異なることが1 2示されている。さらに、日本を除く北半球の居住人口の集団暴露量については、
保管継続の場合に100〜400mg‐TEQ/年、処理促進の場合に0.0022〜0.12mg‐TEQで
あり、両者は10 〜10 程度異なることが示されている。この推計では、評価対象3 6期間を現在から10年間とし、保管継続の場合には10年後以降の保管継続によ
るリスクや、処理促進の場合の輸送過程での事故リスクなどは未検討とされてい
るほか、地理条件、環境動態モデル、PCB放出量設定に起因する不確実性が存
在しているとされている。こうした未検討事項や不確実性を前提とした上で、P
CB廃棄物処理事業実施による人への健康影響リスクの削減効果が定量的に示さ
れているといえる。
しろまる こうしたことから、保管継続の場合の日本の全人口に対するコプラナPCBの
集団暴露量として86〜280mg‐TEQ/年という値を用いてPCB廃棄物処理事業の
効果を、日本の全人口に対する集団暴露量が低減される量として定量化すること
ができるものと考えられる。そして、(2)の場合と同様に、ごみ焼却施設ダイオ
キシン対策事業とPCB廃棄物処理事業とで、集団暴露量の低減効果と費用を比
較することで、効率性をある程度評価することができるものと考えられる。この
ため、こうした考え方に基づく効率性を(4)2において試算することとする。
‐ 38 ‐PCB処理促進シナリ
オ PCB
保管継続シナリオ施設周辺
日本国内
北半球
呼吸
葉物野菜
牧草 家畜 乳製品肉類
淡水
淡水
大気
土壌(農業用)
土壌(農業用)
土壌(その他)
土壌(その他)
底質
底質
海水
底質
底質
淡水
淡水
大気
土壌(農業用)
土壌(農業用)
土壌(その他)
土壌(その他)
底質
底質
海水
底質
底質
大気
土壌
土壌
海水
底質
底質
施設周辺
日本国内
北半球
大気
土壌
水系
間隙水中濃度
飲料水
魚介類
生物濃縮
溶存態濃度
土壌摂食
移行係数
移行係数
飼料-乳製品間移行係数
図3-4
環境中から人への暴露経路(
平井ら(2003)
をもと
に作成)
‐ 39 ‐
(4)PCB廃棄物処理事業による環境へのダイオキシン放出量の低減効果及び人への
暴露量の低減効果に基づく効率性の評価
1環境へのダイオキシン放出量の低減効果による評価
a)放出量の低減効果による評価
しろまる (3)の1に述べたようにPCBの環境への放出量は、保管継続の場合に、土壌
排出時で140,000kg/年、大気あるいは水系排出時で14,000kg/年が上限であるこ
とから、土壌、大気、水系を含めた全体の環境への放出量の低減効果の上限は、
140,000kg/年とする。ここでは、媒体毎の環境への放出量の低減効果ではなく、
環境全体への放出量の低減効果によって評価を行うが、媒体毎の放出量は2の暴
露量段階での評価を行う場合に必要となる。平井ら(2003)では、処理対象PC
B量を40,199tと推定しているのに対し、ここでは、(2)に述べた5事業の処理
対象PCB量が14,500tであることから、環境への放出量の低減量が処理対象量
に比例的であると仮定して、PCBの放出量の低減量を50,500kg/年とする。こ
れをダイオキシン類(コプラナPCB)に換算すると、1.1kg‐TEQ/年となる。
しろまる (2)7で、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業の効果を算出したのと同じ期間
を対策効果を見込む期間として設定すると、PCB廃棄物処理事業によるダイオ
キシン放出量の低減効果及びダイオキシン放出量1kg低減費用は、表3‐9のとお
りである。ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業によるダイオキシン放出量1kg低
減費用は表3‐7と同じであるが、表3‐9に再掲する。
しろまる この結果から、環境へのダイオキシン放出量の低減効果で効率性を評価した場
合には、PCB廃棄物処理事業はごみ焼却施設ダイオキシン対策事業と同程度で
あると考えられる。なお、PCB廃棄物処理事業の効果は、b)に示すように長
期間に及ぶものであるが、対策効果を見込む期間をここ10年から30年間とし
効率性を評価することは、本事業が基本的に現世代で費用負担するものであるこ
、 。
とから 費用負担者にとっての効率性の評価という点で意味があると考えられる
表3‐9 PCB廃棄物処理事業によるダイオキシン放出量1kg低減可能量当たり費用
算定期間 10年間 20年間 30年間
ダイオキシン低減可能量 11 22 33
(kg‐TEQ)
低減費用(億円/kg‐TEQ) 140 70 46
( . ) ( . )
(171) 82 3 54 2
注:低減費用の欄のかっこ内の数値は、ごみ焼却施設ダイオキシン対策事業の
場合の低減費用である
b)PCB存在量の全部が環境中に放出されることを考慮した評価
、 。
しろまる 次に (1)で述べた存在量=放出量ととらえた場合の効果と効率性を計算する
しろまる a)の評価では、処理対象量14,500tのPCBに対応する環境中へのダイオキ
シン類放出量が1.1kg‐TEQ/年であるから、対策期間を10年間〜30年間とし
て、環境中への放出量の低減可能量を効果として計算したものであるが、(1)に
‐ 40 ‐
述べたようにPCB廃棄物処理事業の実施によって、PCBの存在そのものをな
くしてしまうということは、全部環境中へ放出されたであろう量を減らすことと
してととらえることができる。つまり、14,500tのPCBは、a)に述べたよう
に50,500kg/年=50.5t/年で環境中に放出されるので、約290年間で全部が環境
中に放出されるとみることができる。
しろまる そして、PCBの存在そのものをなくすということは、毎年 1.1kg‐TEQずつ
環境中に約290年間放出されたであろうダイオキシン類の放出を低減するという
効果と等しくなると考えることができる。PCB廃棄物処理事業の費用1532
億円を割引率4%で約290年間に配分して、1年間当たりの費用を計算すると、
1年間当たりの費用は61億円(×ばつ4%)となる。
しろまる ダイオキシン放出量1kg低減可能量当たりの費用は、55億円となり、ごみ焼
却施設ダイオキシン対策事業と同程度である。
しろまる なお、放出量の段階でPCB廃棄物処理事業とごみ焼却施設ダイオキシン対策
事業とを比較することは、排出先の環境媒体の違いや異性体毎の生物濃縮性の違
いを考慮しておらずこうした点を反映した評価ではないことに留意が必要であ
り、次に示す暴露量段階での評価をできるようにすることが重要である。
2人へのダイオキシン暴露量の低減効果による評価
しろまる (3)2に述べたようにPCBに含まれているコプラナPCBの日本の全人口に
対する集団暴露量は、保管継続の場合の上限が280mg‐TEQ/年であり、これがPC
B廃棄物処理事業によって、280mg‐TEQ/年と比較して無視し得るほど小さい値に
まで低減される。平井ら(2003)では、処理対象量を40,199tと推定してい
るのに対し、ここでは5事業の処理対象PCB量が14,500tであることから、暴
露量の低減量が処理対象量に比例的であると仮定して、ダイオキシン類の暴露量
の低減量の上限を100mg‐TEQ/年とする。
しろまる 一方、Kishimoto et al(2001)の結果等から、ごみ焼却施設ダイオキシン対策
、 。
事業による全人口に対する集団暴露量の低減量は 約530mg‐TEQ/年と算出される
なお、PCBの場合の暴露量を推定しているモデルとごみ焼却施設ダイオキシン
対策事業の暴露量を推定しているモデルは異なっているため、両者を単純に比較
することはできない。このため、参考的に暴露量削減量当たりの費用の試算を行
うこととする。対策効果を見込む期間を30年間とすれば、PCB廃棄物処理事
業の場合の暴露量低減量当たりの費用は、0.5億円/mg‐TEQとなり、ごみ焼却施設
ダイオキシン対策事業の場合の暴露量低減量当たりの費用は、0.46億円/mg‐TEQ
となる。前述のとおり、暴露量推定の前提となるモデルが異なるなどから、両者
の大小を比較することは適切ではないものと考えられる。
‐ 41 ‐
(5)ダイオキシン対策としての既存事業との比較による効率性評価の課題
1現に存在しているPCBの削減という段階での評価
しろまる 今回の評価では未算定の事項があり、施設整備費用分だけを増加費用として考
慮しているところであるが、今後は、施設稼働時の維持管理費用などの経費を算
定する必要がある。
しろまる また、増加費用は、対策事業の費用から保管費用を差し引いて計算されるもの
であるため、保管費用を算定することも必要である。費用以外の事項としては、
コプラナPCB以外のダイオキシン類であるPCDFについても検討することが
重要であると考えられる。
2環境中への放出量の低減という段階での評価
しろまる 人の健康影響や生物への影響といったリスクを減らすという観点からは、環境
中への放出量の低減を効果としてとらえることが必要である。今回の評価では放
出量推定と環境動態のモデル解析について、実際の環境中のモニタリングデータ
によって検証している平井ら(2003)の研究を前提として、過去の環境庁の環境
放出量推定を用いたが、今後、より信頼性の高い放出量推定を行う必要がある。
しろまる また、環境中への放出量の低減は、様々な仮定のもとで計算される量であり、
直接計測されるのは環境中の濃度である。そして、環境中への放出量の低減とい
うことの本質的な意味は、環境中の濃度がどの程度低減されるかということであ
るから、効果を環境中の濃度でとらえることが重要である。また、国民に対して
は、放出量のように目に見えない間接的な数値ではなくわかりやすいこと、実際
の環境中の濃度のモニタリングによって将来において検証も可能でもあることか
ら、濃度で効果をとらえるようにすることは、今後の検討課題である。
3人への暴露量の低減という段階での評価
しろまる この段階での評価が可能となることによって、ダイオキシン対策以外の有害物
質対策やリスク削減際策と比較することができると考えられるため、複数の方法
によって効果や効率性を評価するという観点からは、重要な評価の方法である。
しろまる ダイオキシン類の暴露量の低減から発がんリスクをの減少を推定すれば、他の
発がん物質対策との比較が可能となり、さらに、発がんリスクの減少から余命の
延長を推定すれば、発がん物質以外の有害物質対策との比較が可能となり、環境
分野では汎用性が高く、本検討においてもできるかぎり具体化を図ることが必要
である。
しろまる 今後は、2で指摘した課題に加え、環境動態のモデルの用い方(同じモデルで
暴露量を推定すること等)や、より実際に近い動態を表現できるようにモデルを
改善することを検討することが適切である。また、暴露量、発がんリスク、余命
の延長などの推定の各段階における不確実性をどのように評価するか等が課題で
ある。
‐ 42 ‐
3.4 その他の方法による効率性の評価の方向性と課題
(1)生命の価値による費用便益分析
しろまる 3.3節の評価に係る検討を進め、PCB廃棄物処理事業による健康影響の低減
を余命の延長として定量化し、さらに、生命の価値(確率的生命の価値)を貨
、 。
幣化することができれば PCB廃棄物処理事業そのものの便益が求められる
このようにすれば、費用便益分析が可能となる。しかし、確率的生命の価値に
ついては、多くの議論が必要であり、不確実性等が課題となると考えられる。
(2)代替的費用との比較による効率性の評価
しろまる 代替的費用での比較による効率性の評価として、1高水準の保管(紛失等が
生じない保管)を想定した費用で検討することが考えられる。また、これまで
と同様の保管が継続されることを前提とするという点において、1とは異なる
方法であるが、2不明・紛失等が一定の割合で発生することによって生ずる土
壌汚染の修復費用で検討することも考えられる。
1高水準の保管費用
代替的な手段として、保管の水準を高め、厳重な保管を行い、PCBは残
るが、環境中に放出されないようにすることを想定し、その場合の保管コス
トを便益として費用と比較することが考えられる。この場合の保管コストは
。 、
様々な推定や他の保管コストを参考として推定することが必要となる また
PCBが処理されずに残るということをどのようにとらえるかが課題である
と考えられる。
2不明・紛失等による土壌汚染の修復費用
代替的な手段として、保管を継続するが、紛失等によって土壌汚染が起き
た場合に汚染修復することを想定し、その場合の修復コストを便益として費
用と比較することが考えられる。紛失等がどれくらい土壌汚染につながるか
の推定や、汚染修復コストがどれくらいになるかを推定する必要がある。ま
た、土壌汚染以外には、現実的に修復対策が困難であるため、環境汚染の修
復コストの一部のみを見込むものであるということが課題であると考えられ
る。
しろまる また、PCB廃棄物をどのような方法で処理するか、例えば、化学的な処理
か高温焼却を含む他の処理かという観点から処理方法間の効率性を評価するこ
とは、化学処理が実現性の観点からは事実上唯一の手法として選択されたとい
う事実を踏まえる必要があるが、こうした観点からの評価は、以下に述べる点
からも重要であり、今後の検討課題である。
しろまる 化学的な処理方法は、PCBを分解するということが中心であるが、PCB
廃棄物には、PCBが付着したものや、しみこんだものがあり、このような形
態の廃棄物からPCBを分離、除去することが化学処理の前提となる。こうし
た分離、除去の過程は、それ自体相当の費用を要するものである。
しろまる そして、PCB廃棄物の中には、高濃度の液状のPCBを相当量含んでいる
‐ 43 ‐
高圧トランス、高圧コンデンサ及びこれらと同じ程度の大きさの電機機器以外
に、かつて家電製品に使用された低圧コンデンサなどの小型の電機機器、感圧
複写紙、PCBをふき取ったウエス(布 、PCBを含有する汚泥など多様な廃)棄物がある。これらの小型の電機機器等の多様なPCB廃棄物については、高
温焼却を含め、より効率的な処理技術の適用が考えられる。
しろまる このようなことからも、化学的な処理方法と高温焼却を含む他の処理方法に
ついて、効率性の比較を客観的に行うことが重要である。
(3)保管継続による環境中への漏洩等による被害額での評価
しろまる 保管を継続した場合の火災などの緊急事象により生じた環境中への漏洩等の
被害額を推定することができる。そして処理を行うということはこうした被害
を防ぐことになるので、被害額を便益として費用と比較することができる。
しろまる どのような緊急事象を想定するかについては、カナダの火災事故の事例のよ
うに海外の事故事例などを参考とすることが具体的でわかりやすいと考えられ
るが、事故の発生確率を適切に設定できるかが課題である。また、様々な仮定
をおくことも必要になると考えられる。
しろまる なお、ベルギーの食肉汚染の事例(直接的なもので約10億ユーロ、間接的な
ものまで含めると約30億ユーロと推定されている)などもあるが、これは緊急
事象とはいえ極めて特異な例であるから、こうしたケースを評価を行う際に想
定することは、慎重に考えるべきである。
しろまる また、保管を継続する場合にこうした緊急事象の評価とあわせて、PCB廃
棄物の処理を前提とした場合の処理施設操業中の緊急事象やPCB廃棄物の運
搬中の緊急事象を評価し、緊急事象という観点で両者を比較することが適切で
あると考えられる。こうした評価に当たっては、保管継続の場合、処理を前提
とした場合のどちの場合においても、発生確率などが通常想定しうるような性
質の緊急事象であるかどうかを吟味して行うことが重要であると考えられる。
‐ 44 ‐
3.5 その他の視点からの評価に関する課題
(1)緊急性又は計画的な処理に関する検討
しろまる 今後、3.3節(2)の場合の効果をもとにして、事業の遅延に伴い、PCB廃棄
物処理事業の効果、費用がどのように変化するかについて、割引率の概念を用
いて解析を行うことが有意義であると考えられる。
しろまる この場合、事業の遅延に伴い、PCBの処理期限も遅延すると設定して計算
する方法と、事業の開始は遅延するが処理期限は遅延することはできないもの
として計算する方法が考えられる。前者は、事業を先送りすることの影響を評
価することになり、緊急性の評価になる。一方、後者は、先送りはしないが開
始を遅延することによる影響を評価することになり、計画的な処理の意義を評
価することになる。
(2)公平性の評価
しろまる 事業を実施する際には、費用やリスクの負担に関し、世代公平性や地域公平
性等のいわゆる公平性の評価が重要である。
、 、 、
しろまる ここでいう世代公平性とは 事業による費用や便益 あるいは両者の関係が
世代によって異ならない、という公平性とする。負の遺産を所与のものとして
将来世代に負荷することの是非といった視点も重要であるが、そもそも本事業
はPCB廃棄物の処理を先送りしてこのまま長期にわたって保管を継続するこ
とを選択するのではなく、期限を切ってPCB処理を行い、次世代への付け回
しを回避することが出来る。その意味で、次世代への公平性は自明であると言
える。そして、ここまでに整理したように、数十年といった現世代を対象とし
た分析において、既に行われている事業と比較して十分な効率性を有すること
が確認されていることから、現世代で過大な負担をするということにはならな
いものと考えられる。
しろまる 処理施設立地地域とそれ以外の地域との地域間の公平性の評価については、
平井ら(2003)の研究によって試算が行われており、処理施設周辺でのPCB廃
棄物に由来する個人曝露量は、保管継続時の同地域の個人曝露量に比べ一桁程
度減少する(1.9〜6.1pg‐TEQ/人/日→0.11〜0.72pg‐TEQ/人/日)ことが示され
ており、処理施設周辺においても事業の効果があることを明らかにしている。
しろまる また、同研究では処理施設周辺以外(≒立地しない他地域)でのPCB廃棄
物に由来する個人曝露量も評価し、その結果から、PCB処理促進によるPC
B廃棄物に由来する個人暴露量の削減量は、処理施設周辺、処理施設周辺以外
とも同程度であるが、処理施設周辺以外の処理促進時のPCB廃棄物に由来す
る個人暴露量は、保管継続時の同地域の個人暴露量に比べ三から五桁程度減少
する(1.9〜6.1pg‐TEQ/人/日→0.0017〜0.000023pg‐TEQ/人/日)ことが示され
ており、処理施設周辺に比べ、さらに小さい値となっている。この結果は 『ど、この地域にとっても効果はあるが、効果の多寡は地域によって異なる』という
、 、
ことになると考えられるが この点を公平性という視点からどのように評価し
国民に説明し、理解を得ていくかということは、重要な課題である。

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