PCB廃棄物処理事業評価検討会〜中間とりまとめ〜


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2.PCB廃棄物処理の経緯と課題
2.1 PCB廃棄物問題の現状
(1)PCB問題の経緯
しろまる PCBは、ビフェニルの水素が塩素に置換した化合物の総称で、水に不溶、化
学的に安定、熱により分解しにくい、絶縁性が良い、沸点が高い、不燃性などの
性質を有し、その用途は多岐にわたっていた。最大の用途は、コンデンサやトラ
、 、 、 。
ンス用の絶縁油であり また 熱交換器等の熱媒体 感圧複写紙等に用いられた
我が国においてPCBの生産が開始されたのは昭和29年であり、45年には年
産11,000トン程度になったが、環境汚染問題が表面化した46年には6,
800トン程度になり、47年には生産が中止され、この間累計で約59,00
0トンが生産された。同期間の輸出入を考慮すると約54,000トンが国内で
使用された(図2‐1 。WHOの資科では、全世界で100万トン以上が生産され)たと推定されている。
しろまる PCBは、その有用性から広く使用されていたが、1966年(昭和41年)以
降、スウェーデン各地の魚類やワシを始め、世界各地の魚類や鳥類の体内からP
CBが検出され、PCBが地球全体を汚染していることが明らかになってきた。
我が国においても、昭和43年に食用油の製造過程において熱媒体として使用さ
れたPCBが混入し、健康被害を発生させたカネミ油症事件が起き、PCBの毒
。 、 、 、 、 、 、
性が社会問題となった その後 昭和46年になって 魚類 鳥類 土壌 底質
水中、さらには母乳等からもPCBが検出され、PCBによる汚染が問題となっ
た。
しろまる このような状況に対応し、政府は、昭和47年に関係省庁からなる「PCB汚
染対策推進会議」を設置し、生産・使用規制、回収・処理対策、環境基準等の設
定、汚染土壌・汚泥対策等を進めることとした。具体的には、関係省庁の行政指
導によりPCBの製造中止 回収等の指示がなされるとともに 昭和48年に 化
、 、 「
学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」が制定され、PCBは同法に基づ
く特定化学物質(61年の法改正により、現在は第一種特定化学物質)に指定され
て、事実上製造等が禁止された。
しろまる また、既に生産されたPCBやそれを含む製品については、回収・保管される
こととなった。まず、液状PCBについては、製造業者に回収・保管、重電用変
圧器等のPCB使用電気機器については、使用者において保管されることとされ
た。PCBを含む感圧複写紙については、メーカー、官公庁において回収・保管
されたほか、処理体制が整うまでの間、それを保有する事業者において保管する
よう指導がなされた。PCBを含むコンデンサーが部品として使用されている家
庭電気製品については、自治体が廃棄物を収集する際に家電メーカーが部品を取
り外して保管することとされた。
しろまる さらに、PCBやPCBを含む製品の排出・処分に関しては、高温焼却による
熱分解や、除去が義務付けられ、排ガスについての暫定排出許容限界、排水につ
いての水質汚濁防止法に基づく排水基準が定められ、PCBを含む汚泥について
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は遮断型埋立処分を行うことなどが定められた。
しろまる その後、この高温焼却処理によるPCB廃棄物処理の体制づくりについては、
当時の通商産業省の指導のもと(財)電機ピーシービー処理協会(その後(財)
電気絶縁物処理協会、平成14年に解散)が設立され、この団体が中心となって
回収・処理体制が構築されるべく努力がなされてきたが、処理施設建設候補地の
地方公共団体、住民の理解が得られないなどの理由で処理体制の構築はできず、
現在に至るまで長期にわたって処理の目途無く保管が続いてきた。この間、後述
する鐘淵化学工業高砂事業所における液状PCB廃棄物の高温焼却による熱分解
を除き、高温焼却処理に対する住民の不安を払拭することができなかったことも
あり、それ以外にほとんどPCB廃棄物の処理は実現できなかった。
、 、 。
しろまる 一方 長期にわたるPCB廃棄物の保管は その不明・紛失をもたらしている
平成4年度及び10年度に当時の厚生省が行ったPCB廃棄物の保管状況(一部
使用中を含む)の調査結果によれば、特にPCB含有量が大きい高圧トランス・
コンデンサについて、4年度に保管されていることが確認されたものの約4.1
%に当たる4,942台が、4年度から10年度の間に不明・紛失し、4年度調
査における不明・紛失台数6,474台と合わせるとこれまでの不明・紛失総数
は約1万1,000台に上っている。また、このほかに未報告・未確認のものも
多数(保管中で未報告14,900台、使用中で未確認94,051台)あり、
約39万台使用された高圧トランス・コンデンサのうち、平成10年度において
, 。
保管中又は使用中で所在が確認できている台数は264 904台となっている
平成13年7月のPCB特別措置法に基づく届出によっても、保管中又は使用中
で所在が確認できている台数は269,032台となっている。これまで都道府
県において把握してきた情報をもとにした未届出の事業者の把握を進めるととも
に、PCB特別措置法の届出情報と電気事業法電気関係報告規則に基づくPCB
電気工作物の設置の状況に関する報告情報の共有化を図ることで保管中及び使用
中の高圧トランス・コンデンサの所在の確認を進めていくことが必要である。
しろまる 環境中のPCBについては、我が国では水質、魚類、貝類、鳥類など継続的に
モニタリングが実施されており、その結果によれば、昭和47年までに製造、輸
入及び開放系用途の使用が中止されているにもかかわらず、依然として広範な地
点の環境中に存在している(図2‐2 。PCBは、1環境中で分解しにくい(難分)解性 、2食物連鎖などで生物の体内に濃縮し易い(高蓄積性 、3大気流、海流) )などにより長距離を移動して、極地などに蓄積しやすい(長距離移動性 、4人)の健康や生態系に対し有害性がある(毒性 、といった性質を持つ残留性有機汚)染物質(Persistent Organic Pollutants:POPs)の代表例であり、国際的に
も1992年(平成4年)の地球サミットで採択されたアジェンダ21でとりあ
げられ、1995年(平成7年)秋のUNEP主催の政府間会合において、12
種類のPOPsについて、国際的に排出の低減を図るための法的拘束力のある文
書の策定を行うことが合意された。
しろまる こうしたPOPsは、大気から海水に活発に移行し、海棲哺乳動物に蓄積して
いることが明らかにされており、PCBについても同様である。海棲哺乳動物中
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のPCB汚染は、ヒトの10倍〜100倍に及ぶ高濃度に汚染されており(図2‐
3 、また、授乳により世代を越えて汚染が引き継がれることが明らかになってい)る。このような海洋及び海棲哺乳動物のPCB汚染は、先進工業国の地域だけで
はなく、地球環境全体をPCBが汚染していることを示している。また、極地に
在住するイヌイット族と他地域の女性の母乳中のコプラナPCB濃度を比較する
と、魚介類の摂取の多いイヌイット族の方が約3倍高いことが判明している(図
2‐4 。低中緯度地域の工業国で使われたPCBが大気循環や海流により極地に移)動し、そこに住むヒトや動物の体内に濃縮されていることを示しており、PCB
による環境汚染は地球規模の問題となっている。
しろまる そしてPOPsについて、平成13年5月にストックホルムで開催された外交
会議において 「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条、約 」が採択された。PCBについては、その製造、使用及び輸出入を原則禁止)する一方で、各国でPCBが幅広く使用されている現状を踏まえ、現在使用され
ているPCBについては平成37年までの使用中止、40年までにPCB廃棄物
の環境上適正な管理を行うことが義務付けられた。我が国では、平成14年7月
に同条約の締結が国会で承認され、翌8月に加入している。
しろまる POPs条約の発効は、50カ国の締結により発効することとされているが、
平成15年3月24日現在で30カ国が締結済みである。条約では、POPs
の製造、使用の原則禁止、非意図的生成物質の排出の削減、POPsを含有す
る廃棄物等の適正管理及び処理並びにこれらの義務を履行するための実施計画
を策定すること等が条約締結国である各国が講ずべき施策とされている。この
ようなことから、我が国においても、関係省庁で連携して実施計画を策定する
ための取組が行われている。なお、PCB廃棄物については、PCB特別措置
法に基づく施策がこの実施計画にも位置づけられ、条約に対応した国内制度に
なるものとされている。
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図2‐2
魚類(
スズキ)
に含まれるPCB
濃度の推移の例(平成13年度版「
化学物質と
環境」)00.511.553年度55年度57年度59年度61年度63年度2年度4年度6年度8年度10年度12年度年度μg/g 湿重当たり
東京湾
大阪湾
瀬戸内海
国内使用量 54,001t
感圧紙用 5,350t 熱媒体用 8,585t その他 2,910t
電気機器用 37,156t図図22--1
1 PCB廃棄物の種類と数量(試算)
PCB廃棄物の種類と数量(試算)
(注記)国内生産58,787t−輸出5,318t+輸入1,048t
しろまる高圧トランス・コンデンサ 工場・ビルの受電設備等で使用 一般的なトランスで全重量約400kg
約39万台:PCB量約30,000t
保管 約23.7万台
使用中 約 3.2万台
しろまる安定器 大型の蛍光灯・
水銀灯の部品と
して使用PCB含有量は数十g
生産量約2,000万個:
PCB量約600t
保管 約240万個
使用中 約87万個
しろまるその他機器
(低圧トランス、コンデンサ、
リアクトル、開閉器等)
保管量 約3.3万個
しろまる感圧紙
約688t:PCB量約28t
保管 約679t
不明紛失約9t その他のPCB廃棄物(PCBが混入しているもの)
しろまる柱上トランス (
電柱に取り
付けら
れた配電用変圧器、PCB含有量は数十ppm以下)
約381万台:PCB量極小
保管 約182万台(絶縁油抜取り後のガラのみを含む)
使用中 約199万台
しろまるウエス(PCBをふき取ったぼろ布)
保管量約215t:PCB量不明
しろまる汚泥 保管量約17,700t:PCB量不明
しろまる廃PCB等
保管量約3,000t:PCB量不明
(注記)1 PCB
含有割合がまちまちなため、PCB
量の推定は
不可能。
(注記)2
鐘淵化学工業が5,500t
処理済み(S62〜H元)
(注記)3 「その他」
は塗料等開放系用途であり、一部を除き環
境中に放出さ
れたも
のと
推定さ
れる。(注記)4
三菱化学で約1,000tを自社処理する
予定。
(注記)1 PCB特別措置法による平成13年7月15日現在の届出による。
(注記)2 各廃棄物ごとのPCB量は、それぞれの単位あたり推定PCB含有量より、環境省が試算。
環境事業団の当面の中心的
な処理対象
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(2)PCB廃棄物の保管等の現状
しろまる PCB特別措置法に基づき、平成13年7月現在のPCB廃棄物の保管量等の
状況について、事業者から都道府県・保健所設置市に届出が行われている。PC
B廃棄物は、高濃度のPCBを絶縁油に使用した高圧トランス、高圧コンデンサ
等の大型のものから安定器等の小型のものなど様々な電機機器のほか、PCBを
低濃度に含む絶縁油を使用した電力会社の柱上トランス、廃PCB及びPCBを
含む廃油、感圧複写紙、その他PCBに汚染されたウエス等の汚染物がある。P
CB廃棄物の大部分を占める高圧トランス、高圧コンデンサは、保管中のものが
あわせて236,841台、使用中のものが32,191台、保管中・使用中の
合計で269,032台となっている(表2‐1 。未届出事業者の把握を進めると)ともに、PCB特別措置法に基づく届出情報及び使用中の電機機器に関する情報
をもとに保管中及び使用中のものの所在確認を進めることが必要である。
しろまる 高圧トランス、高圧コンデンサ等のPCB廃棄物は、主に京浜、京阪神等の工
業地帯を中心に分布しているが、47都道府県のすべての区域において保管され
ている(図2‐5 。そして、より詳細にみると、高圧トランス、高圧コンデンサ等)は、数多くの事業所に散在している(図2‐6 。) ‐ 9 ‐
表2−1 PCB廃棄物の保管量及び使用量について
廃 棄 物 の 種 類 保 管 量 使 用 量
高圧トランス 16,496台 1,689台
高圧コンデンサ 220,345台 30,502台
低圧トランス 30,412台 616台
低圧コンデンサ 1,146,383台 17,510台
柱上トランス 1,818,058台 1,992,000台
(油の量) 173,857トン 104,000トン
安定器 4,170,839個 868,256個
廃PCB 1,114トン 55kg
PCBを含む廃油 1,998トン 3kg
感圧複写紙 679トン
ウエス 215トン
汚泥 17,698トン
その他の機器等 199,873台 42,067台
高圧トラコン事業所数/可住地面積(10km2)
〜 1
1 〜 1.5
1.5 〜 2
2 〜 2.5
2.5 〜 3
3 〜 3.5
3.5 〜
図2-5
可住地面積10km2あたり
高圧ト
ランス、
コンデンサ保有事業所数

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