第4節 国際的なエネルギーコストの比較

    1.原油輸入価格の国際比較

    国際石油市場は、大きく北米、欧州、アジアの三大市場に分けられます。そして、それぞれの市場において、価格の基準となる指標原油を持っています。すなわち、北米市場における代表的な指標原油は、ニューヨーク商業取引所(New YorkMercantile Exchange)等で取引されるWTI(WestTexas Intermediate、及びそれとほぼ等質の軽質低硫黄原油)であり、欧州市場での指標原油はインターコンチネンタル取引所(ICE Futures Europe)等にて取引の行われているブレント原油となっています。また、アジア市場においては、ドバイ原油等が指標となっています。世界では数百種類にものぼる原油が生産されていますが、各国が産油国から原油を購入する際の価格は、例えばサウジアラビア等においては指標原油価格に一定の値を加減する形(市場連動方式)で決まるのが通例となっています。その際の加減、及びその値に関しては、指標原油との性状格差がベースになっています。各国における輸入原油価格は、輸入する原油の種類やその構成、運賃や保険料等で異なってきます(第224-1-1)。日本の輸入原油価格は欧米に比べて若干高い水準にありますが、これは日本が輸入する原油の多くが日本から離れた中東地域から輸入されているためです。

    【第224-1-1】原油輸入価格の国際比較(2014年)

    原油輸入価格の国際比較(2014年)

    出典:
    IEA「Oil Information 2015」を基に作成

    2.石油製品価格の国際比較

    日本、米国、英国、フランスの4か国全ての国でデータ入手が可能なガソリン、自動車用軽油の製品小売価格(税込み、ドル建て価格、2015年12月時点)を比較すると、ガソリン及び軽油の価格水準は高い順番で英国、ドイツ、フランス、日本、米国の順番でした。小売価格(税込み)を見ると、ガソリンでは最高値の英国(1.56ドル/l)と最安値の米国(0.54ドル/l)との間で、1.02ドル/lもの違いがありましたが、ガソリン本体価格(税抜き)では、大きな違いがありませんでした。また、自動車用軽油の小売価格(税込み)でも最高値の英国(1.62ドル/l)と最安値の米国(0.61ドル/l)の間で1.01ドル/lの違いがありましたが、自動車用軽油の本体価格(税抜き)ではガソリンと同様に大きな差はありませんでした。灯油の小売価格も、本体価格(税抜き)で比べると国別に大きな差がありませんでした(第224-2-1)。

    【第224-2-1】石油製品価格の国際比較(固有単位)(2015年12月時点)

    石油製品価格の国際比較(固有単位)(2015年12月時点)

    【第224-2-1】石油製品価格の国際比較(固有単位)(2015年12月時点)(xls/xlsx形式:78KB)

    (注)
    米国の灯油価格はデータなし。
    出典:
    IEA「Oil Market Report(2016年1月号)」を基に作成

    3.石炭価格の国際比較

    石炭の価格は市場における需給状況を反映するものですが、石炭の性質の違いより価格に差が生じます。賦存量の少ない原料炭の方が一般炭より高値で取引されます(第224-3-1)。

    なお、通常、一般炭であれば発熱量が高いほど価格が高く、原料炭であれば粘結性が高いほどまた揮発分が少ないほど価格が高くなります。また、石炭の輸入価格(CIF価格)は、石炭の輸出国におけるFOB価格と輸出国から輸入国までの輸送費(保険を含む)で構成され、FOB価格が同じであれば、輸送距離の短い方がCIF価格は安価なものとなります。

    一般炭については日本、韓国が主にオーストラリア、インドネシアといった環太平洋の石炭輸出国から輸入しており、米国は主にコロンビアから輸入しています。韓国の一般炭輸入価格は輸送距離が同等な日本よりも低くなっていますが、これは韓国が輸入する一般炭の平均発熱量が日本よりも低く、安価なためと考えられます。また、米国の一般炭が日本、韓国より低くなっていますが、これは輸送距離の短いコロンビアから安価な一般炭を輸入しているためと考えられます。

    【第224-3-1】石炭輸入価格の国際比較

    石炭輸入価格の国際比較

    【第224-3-1】石炭輸入価格の国際比較(xls/xlsx形式:19KB)

    (注)
    各国の平均石炭輸入価格(CIF価格)
    出典:
    「TEX Report」掲載データを基に作成

    一方、原料炭については日本、韓国が主にオーストラリアから輸入し、米国は主にカナダから輸入しています。原料炭については各国が輸入する原料炭の品質の違いが、輸入価格の相違の最大の要因と考えられます。

    4.LNG価格の国際比較

    天然ガスの主要市場は石油と同じく北米、欧州、アジアですが、価格決定方式は地域ごとに異なっており、石油のように指標となるガスが存在しているわけではありません。アジアにおけるLNG輸入価格は、一般的にJCC(Japan Crude Cocktail)と呼称される日本向け原油の平均CIF価格にリンクしています。大陸欧州でのパイプラインガスやLNG輸入価格は主として石油製品やブレント原油価格にリンクしていましたが、近年では各国の天然ガス需給によって決定されることも多くなっています。ガス市場の自由化が進んでいる米国や英国では、Henry HubやNBP(NationalBalancing Point)といった国内の天然ガス取引地点での需給によって価格が決定されています。そのため、各国における輸入LNG価格は、原油や石油製品価格の動向、それぞれの市場でのガスの需給ひっ迫状況等によって異なったものとなります(第224-4-1)。国際原油価格が2014年後半から大きく下落したことを受け、原油価格に連動する価格フォーミュラを採用しているアジア諸国のLNG輸入価格も下がり、LNG価格の地域間価格差(アジアプレミアム)が縮小傾向にあります。しかし、いずれ原油価格が上がれば地域間価格差が再び拡大する可能性もあり、原油価格リンクの非合理性が指摘されています。

    【第224-4-1】LNG輸入平均価格の国際比較(2014年平均)

    LNG輸入平均価格の国際比較(2014年平均)

    出典:
    IEA「Natural Gas Information 2015」を基に作成

    5.ガス料金の国際比較

    我が国のガス事業については、事業の効率化によるガス料金の低減を目的の一つとした規制改革が推進されてきました。1995年、1999年、2003年、2007年にそれぞれ段階的な小売自由化範囲を拡大し、ネットワーク部門の公平性や透明性向上等の制度整備が図られてきました。2000年代初頭までは、LNG価格が安定していたこともあり、これらガス事業の制度改革と事業者の努力とがあいまって、これまで都市ガス料金は下降する傾向にありました。2000年半ば以降にLNG価格が上昇し、都市ガス価格も値上げされましたが、2014年後半以降の国際原油価格下落を受け、再び都市ガス料金が下降する傾向にあります。また、米国では、非在来型天然ガスの生産拡大等によって天然ガス価格が低下しています。

    ガス料金の原価は様々な要素で構成されており、またその比較には多様な方法があるため単純な対比は困難ですが、日本のガス料金は他国と比べて高位にあります(第224-5-1)

    【第224-5-1】ガス料金の国際比較(2014年)

    ガス料金の国際比較(2014年)

    【第224-5-1】ガス料金の国際比較(2014年)(xls/xlsx形式:61KB)

    (注)
    米国は本体価格と税額の内訳不明。
    出典:
    IEA「Energy Prices and Taxes 4th Quarter 2015」を基に作成

    6.電気料金の国際比較

    様々な方法があるため単純な比較は困難ですが、OECD/IEAの資料を基に各国の産業用と家庭用の電気料金を比較した結果は、次の図のとおりです(第224-6-1)。日本の電気料金は、家庭用、産業用ともに高い水準となっていましたが、為替や各国での課税・再生可能エネルギー導入促進政策の負担増で格差は縮小してきています。

    内外価格差は燃料・原料の調達方法や、消費量の多寡、国内の輸送インフラの普及状況、人口密度、あるいは為替レート等といった様々な要因によって生じるため、内外価格差のみを取り上げて論じるのは現実的ではありません。電気事業の効率的な運営と、電気料金の低下に向けた努力を怠ってはなりませんが、その際には我が国固有の事情、すなわち、燃料・原料の大部分を輸入に依存しておりその安定供給が不可欠なこと等、供給面での課題に配慮しておく必要があります。

    【第224-6-1】電気料金の国際比較(2014年)

    電気料金の国際比較(2014年)

    【第224-6-1】電気料金の国際比較(2014年)(xls/xlsx形式:31KB)

    (注)
    米国は本体価格と税額の内訳不明。
    出典:
    IEA「Energy Prices and Taxes 4th Quarter 2015」を基に作成

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