閉鎖性海域の環境の保全と適正な利用をめざして 公益財団法人 国際エメックスセンター

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若手研究者活動支援制度

目的

公益財団法人国際エメックスセンターは調査・研究体制の強化を図るため、様々な取り組みをしています。その一環として、令和2年度より若手研究者活動支援制度を設置し、閉鎖性海域の環境保全に資する研究に取り組む優れた若手研究者を育成支援することとしました。 この制度を通じて、優秀な若手研究者を発掘して若手研究者間及びエメックスセンター研究員会議等とのネットワークを構築し、閉鎖性海域に関係する研究者の国際的な研究の発展をめざします。

若手研究者活動支援について

令和7年度若手研究者活動支援制度 助成対象者6名決定!

この制度を始めて今年で6年目になりました。 おかげさまで12件の申請があり、6月6日(金)EMECS研究員会議において厳正な選考が行われ、助成対象研究者として、昨年からの継続3名を含む6名が決定しました。

助成対象者情報

氏名 研究課題名 所属
中村 隆志 陸域―海域―生態系統合モデルを用いた宮城県志津川湾デジタルツインの開発(その3)詳しくはこちら 東京科学大学 環境・社会理工学院
小林 英貴 炭素収支の解明を主とした沿岸域の炭素・栄養塩の動態把握:富山湾をモデルケースとして詳しくはこちら 富山大学 学術研究部 理学系
尾崎 竜也 潮汐と海底湧水を反映した干潟の基礎生産過程の解明(その2)詳しくはこちら 熊本県立大学大学院 環境共生学研究科環境共生学専攻
藤林 恵 干潟の底生珪藻の増殖およびEPA生産に与える溶存態ケイ素の影響詳しくはこちら 九州大学大学院工学研究院 環境社会部門
伊佐田 智規 アマモ場における透明細胞外重合物質粒子の起源と組成の解明詳しくはこちら 北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所
曽根 亮太 栄養塩管理によるアサリを中心とした干潟生態系の再生-メソコズムによる生態系応答の検証と機能評価-詳しくはこちら 愛知県水産試験場 漁場環境研究部

陸域―海域―生態系統合モデルを用いた
宮城県志津川湾デジタルツインの開発(その3)

東京科学大学 環境・社会理工学院

准教授中村 隆志

昨年度、一昨年度に続きEMECS令和7年度若手研究者活動支援制度助成金に採択を頂き、誠にありがとうございます。EMECSのご支援の基、引き続き宮城県南三陸町志津川湾を対象とした本研究を続けられることを嬉しく思っています。3年目ということでしっかり成果を出せるように頑張っていきたいと思います。 一般的に、志津川湾のような半閉鎖性内湾は、陸域からの淡水の流入や、栄養塩や有機物、土砂等の流入、湾内での生化学反応、外洋水の差し込みなど様々な影響を受け、複雑な流動環境・水質環境となっていることが知られています。持続可能な水産資源の利用や養殖業を営むためには、これらのプロセスを理解し、湾内環境を精度良く把握することが不可欠です。さらには、近年の人為起源の大気CO2濃度の増加に伴う地球温暖化や海洋酸性化は、特に夏場の湾内水塊の成層化を深刻化させ、底層での貧酸素化および酸性化を深刻化させる恐れがあります。そして、その酸性化の進行は、カキなど炭酸カルシウムの殻を持つ水産資源に深刻な影響を及ぼす可能性が示唆されています。そのような問題意識から、本研究では、陸域―海域―生態系統合モデルを用いた志津川湾デジタルツインの開発を行うことをで、数値シミュレーションによって水産資源の動態も含めた湾内環境や生態系を完全再現し、現在および気候変動下の将来において持続可能な最適な水産資源の利用や養殖の在り方を探索することを目指しています。
志津川湾で興味深いことの一つとして、震災後に、漁港の方々の英断でカキの養殖筏の数を減らすことで、逆にカキ一個体あたりの成長速度が上がり、全体として水揚げ量を上げることに成功した事例が挙げられます。これは、震災前は過密養殖であったことを示しており、また、最適な養殖密度に保つことが如何に重要性であるか示しています。最適な養殖密度の推定のためには、過密養殖による負の影響を適切かつ定量的に評価することが非常に重要です。過密養殖の影響としては、カキの餌資源である植物プランクトンの奪い合いという生物学的な側面と、カキ筏による形状抵抗の増加によって海水交換が滞りやすくなることで、餌資源の枯渇や環境悪化を招くという物理学的な側面の両方の影響が考えられます。また、ワカメ養殖とカキの餌となる植物プランクトンとの栄養塩を巡る競争関係も考慮する必要があります。これらの生物学的プロセスと物理学的プロセスの両面をモデル化することで、最適で持続可能な養殖密度を明らかにしていきたいと思います。

炭素収支の解明を主とした沿岸域の
炭素・栄養塩の動態把握:富山湾をモデルケースとして

富山大学 学術研究部 理学系

特命助教小林 英貴

若手研究者活動支援制度助成金に採択いただき、心より感謝申し上げます。本制度によるご支援は、研究資金としてだけでなく、先生方との議論や成果報告を通じて研究を深化させる大きな契機となっています。
海洋は地球システムの大きな炭素貯蔵庫であり、人間活動に伴って排出される二酸化炭素の約3割を吸収しています。その変動メカニズムを理解することは、大気中二酸化炭素濃度の将来予測に直結します。とりわけ沿岸域は、陸域からの栄養塩が豊富に供給され、植物プランクトンの基礎生産が活発に行われる場であり、二酸化炭素吸収源として大きな役割を担います。私は富山湾を対象に、炭素を中心とした物質循環の形成と変動を、観測と数値モデルの両面から解明することを目指しています。
これまでの研究期間で、河川水や地下水、湾内海水の観測データの蓄積に注力しました。富山県内の主要河川での流量や水質、湾内での溶存無機炭素・栄養塩濃度・クロロフィル量などを複数地点で継続的に測定し、経年変動や季節変動を整理しています。既往研究では、湾内プランクトンの繁茂の最大20%が陸域由来栄養塩に依存しているとされますが、その寄与は季節や年ごとに大きく変動する可能性があります。長期的な観測データを蓄積することで、こうした不確実性の幅を絞り込める可能性があります。
さらに、湾内のCTD観測や衛星データとの比較も進め、空間的なスケールを跨いだ物質循環の把握を試みています。観測データはモデルの基盤であり、河川水・海底地下水湧出といった陸域からの入力を制約することで、湾内の基礎生産や二酸化炭素フラックスの再現性を高めます。現時点ではモデル整備は途上ですが、観測結果を段階的に反映させることで、富山湾に特有の物質循環構造を描き出そうとしています。
今後は、観測とモデルを相補的に活用し、陸域から沿岸への栄養塩・炭素フラックスと海洋応答の因果関係を定量化する予定です。得られる成果は、沿岸域における炭素循環理解の深化に加え、地球規模の気候変動予測の精緻化にも貢献し得ます。また、漁業資源の維持や沿岸環境保全の基盤情報としても活用可能であり、地域と地球双方への貢献を目指して研究を進めていきます。

潮汐と海底湧水を反映した
干潟の基礎生産過程の解明(その2)

熊本県立大学大学院
環境共生学研究科環境共生学専攻博士後期課程

大学院生尾崎 竜也

この度は、昨年度に引き続きEMECS令和7年度若手研究者活動支援制度助成金にご採用を頂き大変ありがとうございます。私は、熊本県立大学大学院の環境共生学研究科の博士後期課程に所属し、日本最大の干潟面積を誇る有明海の緑川河口干潟を対象に、干潟の基礎生産者の定量に取り組んでいます。
干潟は二枚貝を主な漁獲対象生物とすることで、高い漁業生産力を誇ります。こうした二枚貝の生育は、干潟内の基礎生産者の水平的な輸送により支えられています。二枚貝の生息地は基礎生産者を消費する「シンク」として機能し、二枚貝がいない泥干潟や海底湧水の湧出域が基礎生産者を供給する「ソース」として機能します。近年、栄養塩に富む海底湧水は地下河口に近い岸側で基礎生産を促進し、基礎生産の空間分布に強く寄与する可能性が提唱されています。干潟生態系の保全には二枚貝の生息地に加え、食物源のソースの保全も不可欠です。しかし、ソースは多くが陸に近いことから、沿岸開発のため世界的に消失の危機に晒されています。また、干潟の基礎生産量の定量化や海底湧水との関連については、科学的評価が十分に進んでいません。干潟におけるシンクとソースの基礎生産量の定量は喫緊の課題です。
私が調査対象とする有明海には日本の干潟の約40%が分布しています。かつては二枚貝の主要な漁場でありましたが、近年その漁獲量は激減しています。有明海の干潟は砂質と泥質に大別され、前者は二枚貝の生息地、すなわち基礎生産者のシンク、後者は基礎生産者のソースとして考えられています。昨年度、私は有明海の砂質干潟で長期間の基礎生産量を定量化することに成功しました。その結果、同地点のアサリの二次生産量と比較すると、基礎生産量はアサリの二次生産量を大きく下回り、生息地外からの基礎生産者の供給が不可欠であることを明らかにしました。これまでの現地調査を通して、有明海の南部では栄養塩に富む海底湧水が確認されており、「海底湧水域は泥質干潟とともに基礎生産者のソースになる」と着想を得ました。そこで本研究では、こうしたソース域における基礎生産量を定量し、有明海全体の基礎生産量を広域的に評価することで、干潟生態系の維持機構の解明に資することを目指します。

干潟の底生珪藻の増殖および
EPA生産に与える溶存態ケイ素の影響

九州大学大学院工学研究院
環境社会部門

准教授藤林 恵

この度、令和7年度若手研究者活動支援制度に採択いただきました。研究を行う機会を賜り、厚く御礼申し上げます。
私は水圏生態系における脂肪酸の動態や役割に関心があり、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸といった高度不飽和脂肪酸に注目した研究を進めてきました。様々な水生動物にとって高度不飽和脂肪酸は不可欠な栄養素ですが、動物自身では合成できない、あるいは要求量を自身の合成能ではまかなえないために、餌から獲得する必要があるとされています。例えば、EPAは主に珪藻によって合成され、食物連鎖を介して生態系に供給されますが、餌から十分量のEPAが供給されると水生動物の適応度が高まり、水生動物群集としての多様性も高まる可能性が見えてきました。そこで、EPAの生産者である珪藻にとって不可欠な栄養素である溶存態ケイ素(DSi)が、珪藻の増殖やEPA生産に与える影響について本研究課題で明らかにしたいと考えております。
EPAの主要な生産者である珪藻は、ガラス質の殻を形成するためにケイ素を吸収する必要がありますが、国内河川では窒素やリンと比較して相対的にケイ素の含有量が多く、実際の水環境における珪藻増殖の制限因子としてDSiが注目されることはほとんどありませんでした。ここで言う「窒素やリンと比較して相対的にケイ素が多い」の意味はレッドフィールド比を基準としております。レッドフィールド比によると、モル比で珪藻はN:P:Siを16:1:15の比で要求していると推定されるので、リービッヒの最小律を踏まえると最も不足している元素(多くの場合リンあるいは窒素)が増殖を律速すると予測されます。しかし近年、このレッドフィールド比の要求性と整合しない培養実験結果や、multiple-nutrient limitationといったリービッヒの最小律とは異なる概念が提唱され始めており、干潟沿岸域の食物網を支えそしてEPAの供給者である底生珪藻の栄養要求についても詳細に調べる必要性があると考えるようになりました。
本研究では、九州地方を中心として、野外調査によって栄養塩濃度(窒素、リン、ケイ素)の実態を調べつつ、室内培養実験によって干潟底生珪藻の栄養要求について明らかにすることが目的です。研究計画についてはすでにアドバイザーの先生からたいへん有益な助言をいただいており、鋭意調査・実験を進めているところです。

アマモ場における透明細胞外
重合物質粒子の起源と組成の解明

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
厚岸臨海実験所

准教授伊佐田 智規

この度は、EMECS令和7年度若手研究者活動支援制度助成金に採択いただき有難うございます。私は、北海道東部にある厚岸湖・厚岸湾の植物プランクトンやアマモを対象に、沿岸域の炭素循環過程を明らかにする研究を行なっています。近年、沿岸浅海域におけるアマモやコンブといった海草・海藻藻場の光合成により吸収・貯蔵される炭素「ブルーカーボン」は、気候変動を緩和する機能として注目されています。日本は海岸線が世界第6位の長さを誇り、世界的にも主要なブルーカーボン貯蔵国である可能性が高いと考えられています。
本研究では、透明細胞外重合物質粒子(TEPs)と呼ばれるネバネバ物質に注目しています。0.4μm以上の酸性の粘性多糖類で、水中に漂う粒状有機物を凝集させる接着剤として機能します。マリンスノーの様な大型の凝集体を形成する場合もあり、海の中に炭素を閉じこめる重要な役割を果たすと考えられています。 TEPsの起源は生物が細胞外へ排出した溶存有機炭素(DOC)であると言われ、外洋域では植物プランクトンを始めとして多く知見が蓄積されてきました。一方で、アマモ場での有機炭素の主要な埋没・貯蔵過程は、アマモの地下茎や葉などの海底への堆積と考えられているため、TEP動態研究は極めて少ない状況です。アマモ場でもTEPの前駆体であるDOCが多く生成されることが知られているため、TEPも多く生成されると考えられます。これまで調査で、厚岸湖・厚岸湾のアマモ場におけるTEP濃度は夏季に最も高く、それはアマモの成長と葉上に生息する付着珪藻類によるTEP生成の寄与が大きいことがわかってきました。また、アマモ場での粒子の沈降過程についても、TEPsが粒子の沈降に寄与していることもわかってきました。今後は、アマモ場で生成されるTEPの起源と組成の解明を進め、アマモ場の炭素循環過程の正確な理解を通して、ブルーカーボン生態系の保全へ貢献することを目指します。

栄養塩管理によるアサリを中心とした干潟生態系の再生
―メソコズムによる生態系応答の検証と機能評価―

愛知県水産試験場
海上環境研究部

主任研究員曽根 亮太

水産重要種であるアサリの資源量は大きく減少しており、沿岸漁業や潮干狩りなどのレクリエーションに大きな影響を及ぼしています。また、アサリは沿岸域の炭素循環で重要な役割を担っているため、ブルーカーボン生態系の一つである干潟・藻場の機能劣化につながっていることも危惧されています。アサリ資源の主な減少要因として栄養塩類の低下に伴う餌料不足の影響が指摘されています。このことから伊勢・三河湾の下水処理施設では窒素やリンの増加運転が実施されており、アサリの餌料環境の改善が進められています。これらの取組はアサリ等の生物生産にとって重要なだけでなく、生態系機能の回復による健全な物質循環にも寄与することが期待されます。また、基礎生産の増大は大気-海面のCO2吸収量を増加させることや、底生生物の増加による底泥への炭素貯留量を増加させるなど、脱炭素に貢献することも考えられます。しかし、このように栄養塩供給量や餌料環境の違いが干潟生態系の生物生産とその機能にどのように影響を及ぼし、その結果、物質循環がどのように変化していくか、その知見は十分ではありません。また、実海域での調査では気象海況変動や漁獲などの大きな攪乱が生じるため、これらのことを評価することが難しい状況にあります。愛知県水産試験場では大型の干潟実験水槽(メソコズム)を有しており、これらを使用して、これまで干潟への生物加入や生態系の発達過程、また物質循環の解析などが行われてきました。そこで、本研究では実海域における攪乱を排除できる干潟実験水槽を用いることで、栄養塩や基礎生産を制御した試験を行い、アサリを中心とした干潟生態系の応答と機能を評価していきたいと思っています。試験では栄養塩や餌料供給量の条件を変えた試験区を設定し、アサリを含めた底生生物の種構成や現存量の変化を明らかにします。これと同時に形態別の炭素・窒素等の水底質変化をモニタリングし、生態系機能による物質循環の変化を評価していく予定です。さらに、大気-海面のCO2フラックスの実測なども行い、大気も含めた炭素収支についても検討を進めたいと考えています。この研究により栄養塩管理等による豊かな海の実現と健全な物質循環や脱炭素など環境課題との結びつきを評価して、水産・環境の両施策の推進に貢献できればと考えています。

事務局・連絡先

(公財)国際エメックスセンター
担当:大輪
〒651-0073
神戸市中央区脇浜海岸通1丁目5番2号
TEL 078-252-0234 FAX 078-252-0404
E-mail owa @emecs.or.jp

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