622.5 積雪量の変動
しろまる 北半球では 1 月と 9〜12 月に、ユーラシア大陸では 1〜3 月、6 月と 9〜12 月に、積雪域面積
の減少傾向が明瞭に現れている。
しろまる 2022/2023 年冬の積雪日数は、平年と比べて、米国西部で多く、東アジア北部で少なかった。
しろまる 北日本、東日本、西日本の日本海側で、積雪量は減少しているとみられる。
2.5.1 北半球の積雪域の変動39
気象庁は、北半球の積雪域の変動を監視するため、独自に開発した解析手法(気象庁, 2011)に基
づいて人工衛星に搭載されたマイクロ波放射計による観測値を解析し、1988 年以降の積雪域を求
めている。解析には、米国国防気象衛星プログラム(DMSP)衛星に搭載されたマイクロ波放射計
(SSM/I 及び SSMIS)及び宇宙航空研究開発機構(JAXA)の地球環境変動観測ミッション水循環
変動観測衛星(GCOM-W)に搭載されたマイクロ波放射計(AMSR2)の観測値を用いている。
北半球の積雪域面積には、平年では 10 月頃から拡大し始め、1、2 月に最も大きくなり、春にか
けて縮小するという季節変動が見られる。積雪域面積の 1988〜2023 年の過去 36 年間の経年変化
は、北半球(北緯 30 度以北)では 1 月と 9〜12 月に減少傾向が現れている(信頼度水準 95%で統
計的に有意、以下同様)一方、2〜8 月には変化傾向は見られない(極大期と拡大期の代表として 2
月、11 月のみ図 2.5-1 の(a)と(c)に示し、他は図略)
。同じくユーラシア大陸(北緯 30 度以北、東経
0 度〜東経 180 度)の積雪域面積の経年変化は、1〜3 月、6 月と 9〜12 月に減少傾向が現れている
一方、4〜5 月と 7〜8 月には変化傾向は見られない(北半球と同様、2 月、11 月のみ図 2.5-1 の(b)
と(d)に示し、他は図略)
。2022/2023 年冬(2022 年 12 月〜2023 年 2 月)の積雪日数は、平年と比
べて、米国西部で多く、東アジア北部で少なかった(2 月の分布図のみ図 2.5-1 (e)に示し、他は図略)。2023 年 11 月の積雪日数は、中国北東部で多く、ロシア西部〜中央アジア、カナダ北部では少
なかった(図 2.5-1 (f))。積雪に覆われた地表面は、覆われていないところと比べて太陽放射を反射する割合(アルベド)
が高い。このため、積雪域の変動は、地表面のエネルギー収支や地球の放射平衡に影響を与え、そ
の結果、気候に影響を及ぼす。また、融雪に伴い、周辺の熱が奪われたり、土壌水分量が変化する
ことなどによっても、結果として気候に影響を及ぼす。一方、大気の流れや海況の変動は、積雪分
布に影響を及ぼすなど、気候と積雪域は相互に密接な関連がある。北半球やユーラシア大陸の積雪
域の変動が日本の天候にも影響を与えている可能性があるが、その具体的なメカニズムについての
評価は定まっていない。長期変化傾向やその影響を確実に捉えるためには、今後のデータの蓄積や
研究が必要である。
39 気象庁ホームページでは、衛星観測による積雪日数及び平年偏差を公表している。
https://www.data.jma.go.jp/cpd/db/diag/db_hist_mon.html (北半球)
(第 2 章 気候変動)63(a) 2 月(北半球)
(e) 2 月
(b) 2 月(ユーラシア大陸)
(c) 11 月(北半球)
(f) 11 月
(d) 11 月(ユーラシア大陸)
図 2.5-1 北半球(北緯 30 度以北)
((a):2 月、(c):11 月)及びユーラシア大陸(北緯 30 度以北、東経 0 度〜
東経 180 度)
((b):2 月、(d):11 月)の積雪域面積の経年変化(1988〜2023 年)と 2023 年(e)2 月及び(f)11 月
の月積雪日数平年偏差図
(a)〜(d)の直線(黒色)は、積雪域面積の信頼水準 95%で統計的に有意な変化傾向を示す。(e)(f)の暖色(寒
色)域は、平年と比べて積雪日数が少ない(多い)ところを示す。平年値は 1991〜2020 年の平均値。 642.5.2 日本の積雪量及び降雪量40
(1)年最深積雪の変化
日本の積雪量の変化傾向を見るため、気象庁の日本海側の観測地点(表 2.5-1)について、1962
〜2023 年41の年最深積雪の基準値(1991〜2020 年の 30 年平均値)に対する比42を用いて解析し
た。
2023 年の年最深積雪の基準値に対する比は、北日本日本海側で 100%、東日本日本海側で
124%、西日本日本海側で 99%であった。年最深積雪の基準値に対する比は、各地域とも減少し
ているとみられる(北日本日本海側で信頼水準 90%、東日本及び西日本日本海側でそれぞれ信頼
水準 95%で統計的に有意)
(図 2.5-2)。(2)極端な降雪の日数の変化
(1)と同じ気象庁の日本海側の観測地点(表 2.5-1)について、降雪量43のデータを基に日降雪量
20cm 以上及び 50cm 以上の年間日数の経年変化を示す(図 2.5-3)。北日本日本海側では日降雪量 20cm 以上の年間日数には統計的に有意な変化傾向は確認できない
一方、東日本日本海側及び西日本日本海側では減少傾向が現れている(東日本日本海側では信頼水
準 95%、西日本日本海側では信頼水準 99%で統計的に有意)
。また、最近 10 年間(2014〜2023
年)の平均年間日数と、統計期間の最初の 10 年間(1962〜1971 年)の平均年間日数を比べる
と、日降雪量 20cm 以上の日数はいずれの地域でも減少している(表 2.5-2)。なお、日降雪量 50cm 以上の降雪は、北日本日本海側や西日本日本海側では、統計的に有意な変
化傾向はみられないが、1 地点あたり数年に 1 度程度しか発生していないため、事例数の不足によ
り傾向を十分にとらえきれていない可能性がある。その一方で、東日本日本海側では、統計的に有
意な減少傾向が現れている(信頼水準 95%で統計的に有意)。積雪及び降雪は年ごとの変動が大きく、それに対して統計期間は比較的短いことから、長期変化
傾向を確実に捉えるためには今後のデータの蓄積が必要である。
40 気象庁ホームページでは、日本の年最深積雪の変化及び極端な降雪の日数の変化を公表している。
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html (大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化)41
第 2.5.2 項では、寒候年(前年 8 月から当年 7 月までの 1 年間)の統計を行っている。例えば、2021 年 8 月〜
2022 年 7 月の 1 年間を 2022 寒候年といい、本項において 2022 年の値は 2022 寒候年の期間の値を意味する。42年最深積雪の値は場所による差が大きいため、偏差ではなく比を用いることで、各観測点の変動を適切に反映さ
せることができる。各地点の基準値となる 1991〜2020 年の 30 年平均値(平年値)は以下の気象庁ホームページ
から公表されている。
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/mdrr/normal/index.html (平年値ダウンロード)43降雪量データでは、統計期間中の観測方法の変更等による影響を補正している。このため、公開されている観測
値と本要素の基データは値が異なる。
(第 2 章 気候変動)65表 2.5-1 日本の年最深積雪の基準値に対する比及び極端な降雪の年間日数の計算対象地点
地域 観測地点
北日本日本海側 稚内、留萌、旭川、札幌、岩見沢、寿都、江差、倶知安、若松、青森、秋田、山形
東日本日本海側 輪島、相川、新潟、富山、高田、福井、敦賀
西日本日本海側 西郷、松江、米子、鳥取、豊岡、彦根、下関、福岡、大分、長崎、熊本
図 2.5-2 日本の年最深積雪の基準値に対する比の経年
変化(1962〜2023 年)
左上図は北日本日本海側、
右上図は東日本日本海側、
左下
図は西日本日本海側。棒グラフは各地域の観測地点(表
2.5-1 参照)
での各年の年最深積雪の基準値に対する比を
平均した値を示す。緑(黄)
の棒グラフは基準値と比べて
多い(少ない)ことを表す。折れ線(青)は比の 5 年移動
平均値、直線(赤)は長期変化傾向(この期間の平均的な
変化傾向)を示す。基準値は 1991〜2020 年の 30 年平均
値。
表 2.5-2 日本海側各地域で見た極端な降雪の変化(1962〜2023 年)
各地域の日降雪量 20cm 以上の年間日数の変化傾向及び統計期間の最初の 10 年間(1962〜1971 年)と最近 10 年
間(2014〜2023 年)の変化の倍率(平均年間日数の比)。要素
日降雪量 20cm 以上の
年間日数の変化傾向
(信頼水準)
変化の倍率
(最初の 10 年間と最近 10 年間の比)
北日本日本海側
有意な変化傾向は見られ
ない
約 0.8 倍(約 4.3 回→約 3.4 回)
東日本日本海側
減少傾向が現れている
(信頼水準 95%以上)
約 0.5 倍(約 3.9 回→約 1.9 回)
西日本日本海側
減少している
(信頼水準 99%以上)
約 0.5 倍(約 1.1 日→約 0.5 日) 66図 2.5-3 日本海側の各地域における日降雪量 20cm 以上、50cm 以上の年間日数の経年変化(1962〜2023 年)
上段から順に、北日本、東日本、西日本各地域の日本海側について、左列が日降雪量 20cm 以上、右列が同 50cm 以
上の日数。棒グラフは各地域の観測地点(表 2.5-1 参照)での各年の日数を平均した値を示す。折れ線(青)は 5 年
移動平均値、直線(赤)は長期変化傾向(この期間の平均的な変化傾向、信頼水準 90%以上)を示す。

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