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添付6
東京電力株式会社「福島第一原子力発電所
第1〜4号機に対する「中期的安全確保の考え方」に
基づく施設運営計画に係る報告書(その1)」の評価
添付6-1
平成23年12月12日
東京電力株式会社「福島第一原子力発電所第1〜4号機に対する「中期的安全
確保の考え方」に基づく施設運営計画に係る報告書(その1)
」の評価
経済産業省 原子力安全・保安院
1.経緯
東京電力株式会社福島第一原子力発電所では、
「東京電力福島第一原子力発電
所・事故の収束に向けた道筋」のステップ1の目標である「放射線量が着実に
減少傾向となっている」状態が達成され、現在、ステップ2の目標である「放
射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」状態を達成す
べく、事故の収束に取り組んでいる。
原子力安全・保安院(以下「当院」という。
)は、ステップ2終了から原子炉
の廃止に向けての作業開始までの期間(中期:3年間程度以内)における公衆
及び作業員の安全を確保するため、安全確保の基本目標及び要件を定めた。ま
た、併せて東京電力株式会社(以下「東京電力」という。
)が事故収束に向け行
う応急の措置が、当該安全確保の基本目標及び要件に適合していることを確認
するため、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原
子炉等規制法」という。
)第 67 条第 1 項に基づき報告徴収を行った。
2.評価方針及び結果
東京電力から提出された報告書(その1)について、当院が定めた安全確保
の基本目標及び要件に基づき「原子炉圧力容器・格納容器注水設備」、「原子炉
格納容器」
のうち水素爆発を防止することができる機能、
「使用済燃料プール等」、「原子炉圧力容器・格納容器ホウ酸水注入設備」、「高レベル放射性汚染水処理
設備、貯蔵設備(タンク等)
、廃スラッジ貯蔵施設、使用済セシウム吸着塔保管
施設及び関連施設(移送配管、移送ポンプ等)」、
「高レベル放射性汚染水を貯留
している(滞留している場合も含む)建屋」及び「電気設備」に係る施設運営
計画を原子炉等規制法第 64 条に基づく応急の措置として実施することの妥当性
について評価した。また、原子炉圧力容器・格納容器内での異常事象に関する
確率論的安全評価についても、その妥当性について評価した。
評価の結果、東京電力の施設運営計画については、下記の基本目標を達成す
る上で必要な措置であり、応急の措置として実施することについて、公衆及び
作業員の安全を確保する上で妥当なものであると判断する。
添付6-2
1 放射性物質の放出源を特定し、適切な放出抑制策を講じ、モニタリング
を行う(放出抑制・管理機能)
2 原子炉圧力容器・格納容器及び使用済燃料プール内での崩壊熱を適切に
除去する(冷却機能)
3 原子炉圧力容器・格納容器及び使用済燃料プール内での臨界を防止する
(臨界防止機能)
4 可燃性ガスの検出、管理及び処理を適切に行う(水素爆発防止機能)
今後、当院は東京電力が報告した内容について、定期的な報告を求めるとと
もに、現地において直接運営状況等の確認を行う。
3.評価内容
(1) 原子炉圧力容器・格納容器注水設備
原子炉圧力容器・格納容器注水設備(以下「原子炉注水設備」という。)は、
原子炉建屋等に滞留している高レベルの汚染水を処理した水等を処理水
バッファタンク、
ろ過水タンク等から常用高台炉注水ポンプ等により給水系
配管、炉心スプレイ系配管(1 号機については 12 月中旬運用開始予定)を
通じ原子炉圧力容器に注水し、
事故により損傷した炉心の崩壊熱を除去する
ための系統である。本系統の機能が喪失すると、原子炉圧力容器内等の燃料
温度が上昇し原子炉格納容器から放射性物質が環境中へ放出されることと
なる。このような事態に至らないよう、その設備の冷却能力、信頼性、機能
が喪失した場合の代替措置等が適切に確保されているか、
また中期的な見通
しを踏まえ適切な計画がなされているかという観点から評価を行った。
1 原子炉圧力容器・格納容器内の崩壊熱の除去機能
原子炉注水設備の冷却能力については、1 号機から 3 号機の原子炉に装
荷されている燃料について、設置許可等で用いられている計算コードを用
い平成 23 年 10 月 17 日現在及び今後 3 年後までの崩壊熱が評価され、そ
れを上回る注水を行う能力の設備が設置されていることから、必要な崩壊
熱の除去機能を有していると評価した。
また、原子炉圧力容器等の各部の温度計の指示値及び推移並びに特性評
価を踏まえ温度計の指示値は 20°C程度の不確かさを見込み、
これを考慮し
て原子炉圧力容器底部温度について約 80°C以下に維持することを目標に
注水量を管理していくとしている。この注水量の管理方針により原子炉圧
力容器底部の温度は概ね 100°C以下が維持されると評価した。なお、原子
炉格納容器に燃料等が漏えいしている場合においても、原子炉格納容器内
雰囲気温度等により当該燃料等の冷却状態の管理は可能と判断する。
ただし、原子炉圧力容器底部等の温度管理については、原子炉格納容器
内の水素濃度評価及び環境影響評価として実施するダストサンプリングの
分析の結果を踏まえ管理温度を設定することが必要である。
添付6-3
2 設備の信頼性
原子炉注水設備は、水源となるタンク、水を移送するためのポンプ、配
管、弁等により構成されている。タンクについては、処理水バッファタン
ク、ろ過水タンク、純水タンクが用意されている。ポンプについては、常
用高台炉注水ポンプ 3 台(設置場所:OP. 35,000)
、非常用高台炉注水ポン
プ 3 台(設置場所:OP. 35,000)
、純水タンク脇炉注水ポンプに加え、万一
に備え消防車が高台に6台用意されている。ポンプの電源について、常用
高台炉注水ポンプ及び純水タンク脇炉注水ポンプは別の M/C から受電し
ている。それらの M/C はそれぞれ外部電源 2 回線以上から受電できる他、
非常用ディーゼル発電機、電源車から受電が可能となっている。また、非
常用高台炉注水ポンプ及び純水脇炉注水ポンプはそれぞれ単独のディーゼ
ル発電機を有している。配管については、常用高台炉注水ポンプ及び非常
用高台炉注水ポンプからの注水ライン、純水タンク脇炉注水ポンプからの
注水ラインで構成されている。
原子炉圧力容器への注水口は 2 箇所以上(1号機:給水系 2 箇所、炉心スプレイ系 1 箇所(12 月中旬運用開始予定)、2号機及び 3 号機:給水系、炉心スプレイ系、残留熱除去系合計 3 箇所)確
保されている。これらのことから当該設備は必要な多重性又は多様性及び
独立性を有していると評価した。
設備の構造強度については、応急の措置として準備した設備であること
から材料証明がない等、必ずしも設計・建設規格等における要求を満足し
ないが、運用していく上で必要な強度は有しており、4に示すように異常
時の対応機能が準備されていることから妥当なものと評価した。
設備の耐震性については、耐震設計指針で要求されている基準を満足し
ないが、上記と同様に異常時の対応機能が用意されていること、また、原
子炉への注水ラインに使用している本設配管のうち 1 系統については、基
準地震動 Ss に対する耐震評価を行い配管については評価基準を満足する
こと、満足しない支持構造物については、厳しい評価結果となるタービン
建屋内の支持構造物を確認し、機能を阻害するような損傷が確認されない
ことから耐震性は確保されると評価した。
3 冷却状態の監視機能
原子炉の冷却状態の監視については、原子炉注水設備の運転状態の確認
及び原子炉各部の温度、圧力の監視により行われる。監視パラメータにつ
いては、免震重要棟内で監視することが可能であり、注水流量の低下又は
注水ポンプの電源喪失等の異常を検知した際は警報が発報される。また、
原子炉注水設備からの漏えいについて、配管は信頼性の高いポリエチレン
管への交換を計画的に実施しているとともに、原子炉の冷却状態及び注水
添付6-4
状態を監視することで冷却状態に影響するような有意な漏えいの検出は可
能であり、注水ラインの切替等により対応が可能であるとしている。これ
らにより原子炉の冷却状態を監視し、必要な措置を取ることは可能であり
必要な監視機能を有すると評価した。
4 異常時の対応機能
異常時の措置については、原子炉注水設備の機能が喪失した場合を想定
し、電源、水源、原子炉注水ラインの多重化が実施されており、機能喪失
後 1 時間程度で注水再開が可能としている。地震・津波等により複数の設
備が同時に機能喪失した場合についても新たな消防車の配備や注水ライン
の再敷設等を行うことにより、作業開始から 3 時間程度で注水が再開でき
るとしている。また、これらの異常時に対しての訓練を定期的し実施する
としている。
これらのことから、
原子炉の注水に係る巡視点検、
監視等の設備の運転、
保守管理を適切に行うことにより異常時の対応は可能と評価した。
5 安全評価
a. 異常時の評価
・過渡相当
原子炉注水設備の単一の故障(ポンプの故障、電源喪失、水源喪失、給
水ラインの損傷等)を想定し、ポンプの切替、電源の切替等に要する時間
に余裕をもった注水停止時間として 1 時間を想定し評価がなされている。
その結果、敷地境界での実効線量は十分小さく、有意な放射性物質の追加
放出はないとしている。
・事故相当
原子炉注水設備の複数の設備が同時に機能喪失した場合、及び監視機能
で検知できない異常を想定し原子炉圧力容器胴部が 100°C上昇した場合に
おける厳しい条件である注水停止時間 7 時間を想定し評価がなされている。
その結果、敷地境界での実効線量は約 ×ばつ10-3mSv としている。
・シビアアクシデント相当
シビアアクシデント相当として、何らかの原因によって原子炉注水が長
時間停止する場合として、注水停止時間 12 時間を想定した評価がなされ
ている。この 12 時間の想定については、今回の事故時における消火ポン
プの停止確認から、消防車による注水開始に要した時間(7 時間)並びに
当時と比較して手順書が整備され定期的な訓練も実施されていることを踏
まえ設定している。その結果、敷地境界での実効線量は 3 プラント分の放
添付6-5
射性物質の放出を想定しても約 11.1mSv としている。
これらの異常時の評価のうち過渡相当及び事故相当について、原子炉へ
の注水停止の時間を注水再開可能時間に余裕を取った時間を想定しており、
評価方法、評価条件についても保守的な条件が設定されており妥当なもの
と評価した。また、評価結果は、過渡相当では有意な追加放出はなく、事
故相当では周辺の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えること
はないことを確認した。異常時の評価のうちシビアアクシデント相当につ
いては、東京電力が消防車による注水温度を 100°Cと設定していること、
原子炉圧力容器内を平行平板で模擬していることなど、評価の保守性が大
きいことから、別途(独)原子力安全基盤機構(JNES)に、適切な保守
性を有した評価を依頼した。その結果、敷地境界での実効線量は 3 プラン
トからの放射性物質の放出を想定しても年間 1mSv を下回っており、周辺
の公衆に対し、著しい放射線被ばくのリスクを与えることはないことを確
認した。これらのことから、原子炉注水設備の異常時の対応機能は確保さ
れると評価した。
表 JNES 及び東京電力におけるシビアアクシント相当の比較
JNES 解析 1 JNES 解析 2 東京電力の解析
解析条件・想定
崩壊熱
水位
初期温度
0.88MW(2011年10月17日)
停止時に瞬時に水位 0mm
100°C(構造材)、150°C(燃料)
再注水流量
再注水温度
発生蒸気量(キャリア蒸気)
20m3/h
50°C
RELAP 評価値
20m3/h
100°C
0.652m3/s
(崩壊熱÷蒸発潜熱÷密度)
20m3/h
100°C
(8.9m3/s 蒸気:注水流量相当)
解析コード RELAP5MOD3.3 報告書参照
輻射モデル 3 体間輻射
・溶融燃料形状 :円盤
・上部構造材平板:円盤
・側部構造材 :中空円柱
平行平板相当
2 体間輻射
実効線量 約 ×ばつ10-3mSv 約 ×ばつ10-1mSv 約 3.7mSv
添付6-6
b. 確率論的安全評価
原子炉注水設備の機能が喪失した場合の設備の相対的な脆弱性を把握
することは、安全性をより一層向上させる上で有用であるとの観点から、
原子炉圧力容器・原子炉格納容器内の燃料の再損傷に至る頻度が評価され
ている。
評価では、注水システム機能喪失に至る起因事象の選定を行い、成功基
準を決定し、事象の進展を考慮してイベントツリーを作成し、システムを
モデル化し、従属故障及び人間信頼性の解析を行うとともに、事故シーケ
ンスを定量化し燃料の再損傷頻度を評価している。
その結果、
1 号機から 3 号機のうち 1 基の燃料が再損傷する頻度は約 ×ばつ10-4/年としている。なお、炉注水ポンプの距離が近いことを考慮した
感度解析を行い、評価結果への影響は小さいとしている。
これらの評価について、起因事象の選定は系統構成を基に適切に設定さ
れているとともに、起因事象の発生頻度は文献を参考にするとともに、仮
設ポンプについては、事故以降の設備の運用等を基に適切に設定されてい
ると評価した。
また、
この評価結果のうち寄与割合の大きい大津波事象(約60%)及び注水ライン機能喪失(約 40%)に対する改善策として、既に用
意されている消防車の配備及び注水ラインの再敷設に係る作業の明文化及
び定期的訓練並びに 2 ラインを併用した炉注水による信頼性の向上を実施
するとしていることは安全性を向上させる上で適切と評価した。
また、今後実施するとしている重要度評価及び不確実性評価を踏まえ、
対応策を検討し着実に実施することは、さらなる安全性の向上を図る上で
有効である。
(2) 原子炉格納容器内窒素封入設備
原子炉格納容器に係る設備のうち水素爆発を防止する機能は、原子炉格
納容器及び原子炉圧力容器に窒素を封入し、
不活性雰囲気に維持するための
窒素ガス分離装置、配管、弁等で構成される。本機能が喪失すると、原子炉
格納容器及び原子炉圧力容器内における水の放射線分解により発生した水
素の濃度が高まり可燃限界に達する懸念がある。
このようなことのないよう
原子炉格納容器内窒素封入設備が原子炉格納容器及び原子炉圧力容器内を
不活性雰囲気に維持するための能力を有し、
機能が喪失した場合においても、
対応機能を有しているかという観点から評価を行った。
1 原子炉格納容器内の不活性雰囲気の維持
原子炉に装荷されていた燃料の崩壊熱及び炉心状態の解析結果を評価
条件として、蒸気の発生がないとした場合の水素発生量を算出し、平成 23
年 12 月 6 日現在及びその後 3 年後までの間の水素濃度 4%以下を維持する
添付6-7
ために必要な窒素量が評価されている。また、2 号機に原子炉格納容器ガ
ス管理設備導入した際に実測した水素濃度が 2.9%まで上昇した事象を踏
まえ、1号機から 3 号機の原子炉格納容器及び原子炉圧力容器内の水素の
滞留状況を評価し、その評価に基づき原子炉格納容器及び原子炉圧力容器
内を不活性雰囲気に維持するために必要な窒素注入量を、原子炉格納容器
及び原子炉圧力容器それぞれに封入している。これらのことから窒素封入
設備は、原子炉格納容器及び原子炉圧力容器を不活性雰囲気に維持するた
めに必要な能力を有していると評価した。
今後、原子炉格納容器ガス管理設備が設置されているプラントについて
は、
原子炉格納容器の水素濃度を直接監視することが可能であることから、
測定された水素濃度に応じて、窒素封入量及び抽気量を変更するとしてい
ることは異常時の時間的余裕を確保した上で最適な運用を行うために必要
な措置であると評価した。
2 設備の信頼性
原子炉格納容器内窒素封入設備の電源については、外部電源が供給され
る窒素ガス分離装置 2 台の他に、専用のディーゼル発電機を有する高台窒
素ガス分離装置 1 台、膜式窒素分離装置 3 台等が配備されており、原子炉
格納容器内窒素封入設備の動的機器及び電源は多重性又は多様性及び独立
性を有していると評価した。なお、1 号機の窒素封入ラインについて、ラ
インを構成する空気作動弁用電磁弁の設置環境の湿分による影響が懸念さ
れることから、信頼性向上のためドライウェル酸素濃度計装ラックを経由
したラインを敷設している。
構造強度及び耐震性について、1 号機から 3 号機の原子炉圧力容器への
注入に使用している既設系統及び 2 号機及び 3 号機の原子炉格納容器への
注入に使用している既設系統は耐震 S クラスとなっている。なお、1号機
の原子炉格納容器への注入に使用している既設系統は耐震 C クラスである
が、原子炉圧力容器に窒素を注入することで原子炉格納容器についても対
応が可能である。一方、窒素ガス分離装置、配管、弁等はクラス 3 機器で
あり、耐震クラスとしては C クラスの設計であるが3に示すように異常時
の対応機能が準備されている。
これらのことから、原子炉格納容器内窒素封入設備は、不活性雰囲気の
維持のために必要な信頼性を有するものと評価した。
3 異常時の対応機能
異常時の対応機能について、窒素ガス分離装置等の故障、外部電源の喪
失等により窒素封入が停止した場合においても、水素の可燃限界にいたる
までの時間的余裕は、最も厳しくなる 3 号機の原子炉圧力容器においても
添付6-8
約 30 時間(窒素封入量 15m3/h の場合)であり、高台に用意しているディ
ーゼル発電機駆動の高台窒素ガス分離装置と予備のホース等により窒素封
入を再開することは可能であるとしている。また、2 号機における原子炉
格納容器ガス管理設備による水素濃度の監視や、これにより得られた知見
を基に 1 号機から 3 号機の窒素封入量を管理することによって原子炉格納
容器窒素封入設備が停止した場合の時間的余裕を確保できるようにしてお
り異常時の対応は適切であると評価した。
(3) 使用済燃料プール等
使用済燃料プール及び使用済燃料プール冷却系は、使用済燃料の崩壊熱
を1次系の熱交換器を介して2次系に移動させ冷却塔から大気に放出する
ための系統である。本系統の機能が喪失すると、使用済燃料プール水の温度
が上昇し、使用済燃料の崩壊熱の除去に支障をきたすこととなる。このよう
なことのないよう、必要な設備が信頼性、冷却能力及び浄化機能を有してい
るか、
冷却状態の監視が適切に行われ冷却機能が喪失した場合の代替措置等
が用意されているかという観点から評価を行った。なお、評価においては、
冷却機能が喪失してから、
安全上の問題となるまで時間的余裕を有している
ことを考慮した。
また、使用済燃料プ-ルにおける、臨界防止について評価を行った。
1 使用済燃料からの崩壊熱の除去
使用済燃料プール循環冷却系については、1 号機から 4 号機に貯蔵され
ている使用済燃料の崩壊熱を設置許可等で用いられている計算コードによ
り平成 23 年 10 月 17 日現在から 3 年後までを評価し、それを上回る冷却
能力を有する熱交換器等の設備で構成されていると評価した。また、必要
に応じて冷却水の補給ができる機能を有することを確認した。
なお、
現在、
使用済燃料プール水の温度は 25°C程度以下に維持されてお
り、崩壊熱は今後減少する方向であることから、将来においても必要な冷
却能力を有していると評価した。
2 設備の信頼性
使用済燃料プール循環冷却系の動的機器であるポンプ及び当該系統に
電源を供給する外部電源については多重化が図られていると評価した。所
内高圧母線については現在単一の仮設 M/C からの受電となっているが、今後、異なる所内高圧母線からも受電できる多重性を備えた構成に変更する
としていることは設備の信頼性を向上する上で有効な措置であると評価し
た。
使用済燃料プール循環冷却設備の構造強度については、必要な構造強度
を有するものと、耐震性については厳密な適合性の確認が困難なものがあ
添付6-9
るが、5に示すように異常時の対応機能が準備されていることから妥当な
ものと評価した。
使用済燃料プールの耐震性について、1 号機から 4 号機について時刻歴
応答解析、それに加え 3 号機及び 4 号機については事故による損傷が不規
則なため FEM 解析を行い、
基準地震動 Ss に対して耐震安全性が確保され
るとしている。この解析について、解析手法は既往の耐震安全性評価にお
いて実績のある手法であり、解析の結果、せん断ひずみの最大値は十分小
さいことから使用済燃料プールの耐震性は確保されているものと評価した。
なお、今後は、使用済燃料の冷却を確実にするとの観点から、使用済燃
料の取り出しまでを見通した設備の保守、管理を行うことが必要である。
3 冷却水の浄化機能
使用済燃料プール水の浄化については、燃料被覆管及び使用済燃料プー
ルのライニングの腐食等による外部への放射性物質の漏えい及び使用済燃
料プールの水位の維持のために必要となる。2 号機から 4 号機については
応急的な措置として海水を注入していたことから、4 号機については塩分
の除去装置を接続し水質改善を行っているところであり、2 号機及び 3 号
機に対しても同様に水質改善を図る計画としている。
このように、2 号機から 4 号機については、使用済燃料プール水の浄化
が可能となっていることから必要な浄化機能を有していると評価した。ま
た、1 号機については、水質測定を行うことが可能であり、必要に応じ水
質改善のための措置をとるとしており、その方針は妥当と評価した。
4 冷却状態の監視機能
使用済燃料プールの冷却状態について、使用済燃料プールの保有水量を
スキマサージタンクの水位、燃料プール水温度は循環冷却系の入口側温度
計により監視し、循環冷却系の運転状態は温度、圧力、流量により監視し
ている。また、これらの情報については重要免震棟のモニタで確認可能で
あり、運転管理に必要な冷却状態の監視機能を有していると評価した。
5 異常時の対応機能
異常時の対応機能について、使用済燃料プール循環冷却系のポンプの故
障、外部電源の喪失を想定し、有効燃料頂部+2m に至るまでの時間が評
価されている。その結果、もっとも厳しい 4 号機においても約 16 日程度
の時間的余裕があり、その間にポンプや電源の切替等による使用済燃料プ
ールの循環冷却の再開又は消防車等を用いたプールへの注水の開始により、
使用済燃料の冷却が可能としている。
異常時の対応機能については、使用済燃料プールに貯蔵されている燃料
添付6-10
の崩壊熱を基にプール表面及びプール壁面からの放熱を考慮しないなどの
保守的な評価により時間的余裕を算出し、また、必要な措置に要する時間
について余裕をもって設定していることから適切であると評価した。
なお、冷却水の漏えいについては、漏えい検知器、熱交換器出入口流量
差大等により検知し、
ポンプの自動停止、
バルブの自動閉止等が行われる。
また、循環冷却系の一次冷却水の漏えいについては堰等により建屋外への
漏えいは防止される。
6 臨界の防止
使用済燃料プールにおける臨界防止については、使用済燃料貯蔵ラック
の健全性が維持されている必要がある。現在は、使用済燃料プール水温及
び水位、モニタリングポストの値に有意な変動がないことから、燃料は臨
界に至っていないと考えられる。また、使用済燃料を取り出すまでの間に
おける臨界の防止については、使用済燃料ラックの健全性が確保され、燃
料が適切な位置に保たれている必要がある。このため、使用済燃料プール
水の水質管理による使用済燃料ラックの腐食防止や、使用済燃料プール上
での作業における異物落下対策が講じられることから、臨界防止策が図ら
れると評価した。
(4) 原子炉圧力容器・格納容器ホウ酸水注入設備
原子炉圧力容器・格納容器ホウ酸水注入設備(以下「ホウ酸水注入設備」
という。
)は、原子炉圧力容器内あるいは原子炉格納容器内に存在する核燃
料物質等が再臨界に至った場合、
または再臨界の可能性がある場合において、
未臨界にするまたは再臨界を防止するために中性子吸収物質であるホウ酸
を原子炉圧力容器等に注入し、
再臨界による出力上昇に伴う放射性物質の大
幅な放出を抑制するための設備である。当該設備は、ホウ酸水を準備してお
くためのホウ酸水タンク、原子炉注水設備に接続する配管等で構成され、原
子炉圧力容器への注水ラインについては原子炉注水設備と共用されている。
評価は、当該設備が原子炉圧力容器内等における再臨界の防止のために、必
要な信頼性を有し有効に機能するかという観点から行った。また、設備に異
常が発生した場合の安全評価を確認し、
必要な再臨界の防止機能を有してい
ることの確認を行った。
1 原子炉圧力容器・格納容器内での再臨界の防止
原子炉圧力容器等における再臨界の防止については、1 号機から 3 号機
の原子炉に装荷されていた燃料の組成をもとに平成23年3月11日時点
の炉心平均燃焼度より低い燃焼度を想定し、核燃料物質等を含む物質の組
成(制御棒及び構造材のとけ込み量)
、形状(粒径等)及び減速材体積割合
添付6-11
の様々な状態(12 ケース)を想定した解析により再臨界の防止に必要なホ
ウ素濃度(510ppm)を設定している。また、この解析に用いているコー
ドについては信頼性のあるものを使用し、コードの不確実性を適切に考慮
しており、この評価に基づき準備したホウ酸を必要な場合に原子炉圧力容
器に注入することにより再臨界を防止することは可能と評価した。
また、原子炉圧力容器等における再臨界の発生のリスクが高まる原子炉
圧力容器への注水量の増加操作に関しては、これまでの炉注水の実績を超
える流量の増加を行わないことで再臨界の発生の可能性を最小限にすると
していることについては、再臨界を防止するとの観点から適切であると評
価した。なお、大幅な注水量の増加を行う場合においては、事前にホウ酸
水を投入するとしている。
2 設備の信頼性
ホウ酸水注入設備の構造強度及び耐震性については、安全審査指針類の
要求事項を満足するものではないが、動的機器及び駆動電源については、
原子炉注水設備と共用の設備であり(1)2に示すとおり多重性又は多様
性及び独立性を有している。また、ホウ酸水を注入するためのタンクにつ
いては、常設の 2 基のうち 1 基については地震による影響を低減するため
に水を入れずに空で運用するとともに、組み立て式の仮設プールを準備す
るとしていることから本設備に要求される信頼性は備えていると評価した。
3 原子炉圧力容器・格納容器内での再臨界の検知
原子炉圧力容器内等での再臨界の検知については、原子炉圧力容器内等
において再臨界が発生した場合における、核分裂による原子炉格納容器内
の温度上昇及び核分裂生成物の放出によるモニタリングポストの空間線量
率の上昇により再臨界を検知するとしている。また、これらに加え 2 号機
においては、原子炉格納容器ガス管理設備が導入されていることから、排
ガスをサンプリングし短半減期核種の測定により再臨界を検知するとして
いる。これらの再臨界の検知手段は応急の措置として妥当なものであり、
さらに本設備に異常が発生しホウ酸水の注入が遅れたとしても4安全評価
に示すように事故相当においても、1mSv を下回ること等から、必要な検
知機能を有していると評価した。
原子炉格納容器ガス管理設備において核分裂時に生成される揮発性の
短半減期核種を連続的に監視する機能が付加された後は、当該機能により
再臨界を検知するとしている。これにより再臨界の検知性能の向上が見込
まれることから、その方針は妥当と評価した。
なお、再臨界の判断基準については、原子炉圧力容器内の冷却が進むこ
とによる原子炉格納容器内の温度の低下、環境改善によるモニタリングポ
添付6-12
ストの指示値の低下、原子炉格納容器ガス管理設備導入による知見を踏ま
え適切に設定することが必要である。
4 安全評価
・過渡相当
原子炉圧力容器内等において再臨界が発生し、ホウ酸水タンクのホウ酸
水を注入しようとしたところ、何らかの原因で注入ができなかったことを
想定し、空にしていた残り 1 基のホウ酸水タンクにホウ酸水を準備し注水
した場合の影響評価が行われている。これにより、再臨界発生後 14 時間
後にホウ酸水が注入されるまでの間、再臨界が継続し放射性物質が放出さ
れることとなるが、その影響は、敷地境界で約 0.34mSv としている。
・事故相当
原子炉圧力容器内等において再臨界が発生し、何らかの原因でホウ酸水
タンクの 2 基ともからホウ酸水が注入できなかったことを想定し、仮設プ
ールを設置した後ホウ酸水を準備し注水した場合の影響評価が行われてい
る。これにより、再臨界発生後 22 時間後にホウ酸水が注入されるまでの
間、再臨界が継続し放射性物質が放出されることとなるが、その影響は、
敷地境界で約 0.54mSv としている。
これらの異常時の評価について、原子炉圧力容器へのホウ酸水の注水ま
での時間は余裕をもった想定としており、評価方法、評価条件についても
保守的な条件が設定されており妥当なものと評価した。
また、
評価結果は、
周辺公衆に対し、
著しい放射線被ばくのリスクを与えないことを確認した。
これらのことから、原子炉圧力容器・格納容器ホウ酸水注入設備の異常時
の対応機能は確保されていると評価した。
(5)高レベル放射性汚染水処理設備、貯留設備(タンク等)
、廃スラッジ貯蔵
施設、使用済セシウム吸着塔保管施設及び関連設備(移送配管、移送ポン
プ等)
高レベル放射性汚染水処理設備(以下「汚染水処理設備」という。
)は、
原子炉冷却等により発生した高レベル放射性汚染水(以下「汚染水」とい
う。)から放射性物質を除去し、
放射性物質を環境中に移行しがたい性状と
すること、及び放射性物質等を除去した水を原子炉冷却用として再利用し
汚染水の発生量を抑制することを目的として設置された設備である。
汚染水処理設備が長期間停止すると、タービン建屋等に滞留する汚染水
が増加し、敷地外に漏えいする恐れがあるため、設備の能力、多重性、停
止した場合の代替移送先等が適切に確保されているか、中期的な見通しを
添付6-13
踏まえた適切な計画がなされているかという観点から評価を行った。
また、汚染水処理設備の運転に伴い発生する使用済セシウム吸着塔及び
廃スラッジについて、発生量に対する貯蔵容量、保管方法等が適切に確保
されているか、中期的な見通しを踏まえた適切な計画がなされているかと
いう観点から評価を行った。
1 発生する汚染水量(地下水、雨水の流入による増量分を含む)を上回る
処理能力
原子炉注水、雨水、地下水がタービン建屋等に流入して発生する汚染水
の量は、過去の実績から1日あたり約 800 m3 から約 1,100 m3 と見積もら
れている。一方、汚染水処理設備は、1日あたり 1,200 m3 の処理能力を有
している上に、汚染水処理設備を構成する処理装置(セシウム吸着装置、
第二セシウム吸着装置、除染装置)を並列運転すれば、さらに処理能力を
拡大することもできるとしている。
(1日に 1,680 m3 処理した実績もあ
る。
)タービン建屋等からの汚染水移送設備については、1・2号機から1
日当たり 1,630 m3、3・4号機から1日当たり 580 m3 移送できる容量を
有している。
以上のことから、現時点において汚染水処理設備及びその関連施設は、
発生する汚染水量を上回る処理能力を有していると評価した。
ただし、度々ポンプ等の不具合が発生すれば高線量下の作業が伴うため
修理が容易でない状況にあることを踏まえると、今後設備の保守性、信頼
性を向上させることが必要である。
2 使用済セシウム吸着塔及び廃スラッジの貯蔵容量
使用済セシウム吸着塔一時保管施設は、セシウム吸着装置吸着塔を 544
体、第二セシウム吸着装置吸着塔を 200 体保管できる。今後 1 年間の発生
量は最大でそれぞれ 300 体と 130 体と予測され、
1年間は十分な保管容量
を確保していると評価した。なお、保管設備は必要に応じて増設するとし
ている。
廃スラッジ一時貯蔵施設は、廃スラッジを 630 m3 貯蔵することができ
る設計としている。現時点での廃スラッジ貯蔵量は 581 m3 であるが、今
後上澄み液を分離し減容できること、及び除染装置を待機運用としている
ことを踏まえると、十分な貯蔵容量を確保していると評価した。
3 放射性物質、塩素等の濃度及び量の低減能力
汚染水の放射性物質濃度は、9 月 27 日時点において、長半減期核種で
あるセシウム 134 及びセシウム 137 で 106Bq/cm3 程度であった。処理装
置は、下流の淡水化装置にてメンテナンス作業ができるよう、汚染水の
放射性物質濃度を 102 Bq/cm3
(水表面で約 0.1mSv/h)以下に低減するこ
添付6-14
とが目標とされている。これに対し、サンプリング結果が概ね上記基準
を下回っていること、及び淡水化装置のメンテナンス時において計画外
のγ線被ばくが発生していないことから、必要な放射性物質濃度の低減
能力を有していると評価した。
なお、サンプリング結果から、淡水化装置入口水と出口の濃縮塩水は
β核種の放射性物質濃度が高いことが分かっている。β核種から放出さ
れるβ線は淡水化装置、タンク等で容易に遮へいされるが、淡水化装置
のメンテナンス等によりβ核種を含む水に直接触れる場合には、所要の
防護措置を講じることが重要である。
また、汚染水には海水が含まれているが、淡水化装置により塩素濃度
を 50ppm 以下まで低減していることから、必要な塩素濃度の低減能力を
有していると評価した。
4 汚染水処理設備の長期停止に備えた複数系統構成及び貯留設備
汚染水処理設備は、セシウム吸着装置、第二セシウム吸着装置及び除
染装置の3つの処理装置から成り、これらの処理装置は並列運転が可能
となるよう系統が構成されている。また、汚染水処理設備が長期停止し
た場合、仮設の汚染水処理設備を設置して対応するとしている。仮設の
汚染水処理設備は、
約1ヶ月以内に設置、
稼働できると見込まれており、
この間に発生すると予想される汚染水(約 25,000 m3)は、タービン建屋等
の空き容量(OP.3,000 から OP.4,000 までの約 23,000 m3)
、高濃度滞留水
受タンク(約 2,800 m3)、復水器(約 3,000 m3)等で回収できるとしてい
る。
以上のとおり、汚染水処理設備は複数系統で構成され、貯留設備は十
分な容量が確保されていることから、汚染水処理設備が長期間停止しな
いよう措置されており、万一長期停止した場合でも汚染水の建屋外への
漏えいは防止できると評価した。
5 設備の信頼性
汚染水処理設備、貯留設備、廃スラッジ貯蔵施設及び関連設備は、動
的機器を原則多重化し、故障した場合にも残りの機器を用いて運転を継
続することが可能である。電源設備については、異なる2系統以上の電
源と接続されているとともに、非常用所内電源とも接続されていること
から、外部電源喪失時においても必要に応じて水処理が可能な電源構成
としている。
設備の構造強度については、応急の措置として準備した設備であるこ
とから材料証明等がない等、必ずしも設計・建設規格における要求を満
足しないが、外観点検、漏えい試験等を実施し、有意な変形や漏えい、
添付6-15
運転状態に異常がないことが確認されている。
耐震性については、放射性物質を内包するものは、耐震設計審査指針
上の耐震 B クラスの施設と位置づけて評価を行っている。その結果、セ
シウム吸着装置の処理水タンクについては転倒の可能性があるものの、
当該タンクは建屋内に設置されていることから汚染水が建屋外に漏えい
することはなく、周辺公衆に放射線被ばくのリスクを与えることはない。
貯留設備及び廃スラッジ一時保管施設については、高レベルの放射性
物質を貯蔵するため、基準地震動 Ss に対する評価を行いその健全性が確
認されている。
以上のことから、汚染水処理に必要な設備の信頼性を有するものと評
価するが、地震により転倒する可能性のあるタンクについて、転倒防止
対策を講じるなど、今後長期間これらの設備を継続使用するに当っては、
信頼性を向上させることが必要である。
6 遮へい機能
汚染水処理設備については、極力遠隔操作が実施できるよう考慮され
ている。セシウム吸着塔、第二セシウム吸着塔は運転に伴って随時交換
する必要があるため遮へい設備を内蔵し、交換管理の基準線量をスキッ
ド表面で最大 4mSv/h に設定している。汚染水処理設備の配管について
は、人が近づく可能性のある箇所を対象に空間線量当量率が数 mSv/h と
なるように遮蔽を設置している。
また、廃スラッジ一時保管施設については、建屋外壁で線量率が
1mSv/h となるように貯槽周囲の壁厚や建屋の壁厚が設定されている。
以上のことから、放射線業務従事者の被ばく線量を低減する観点から
必要な遮へい機能を有していると評価した。
7 汚染水処理設備、貯留設備、廃スラッジ貯蔵施設、使用済みセシウム吸
着塔保管施設及び関連設備の漏えい防止、漏えい検知等
汚染水の移送設備については、移送ラインを可能な限り建屋内に敷設
することとし、
必要な箇所は鋼材等で保護し、
漏えい防止を図っている。
また、移送時にはプロセス主建屋及び高温焼却炉建屋に設置の水位計を
監視することで、適切に汚染水が移送されていることを確認し、万一、
漏えいが確認された場合は、移送を停止し必要な措置をとることとして
いる。
淡水化装置を除く汚染水処理設備については、耐食性に優れた材料が
使用されており、塗装による防錆処理が施されている。また、運転開始
前に水張り状態(静水頭)及び運転確認試験により漏えいのないことが
確認されている。万一、漏えいした場合においては、漏えい検知器や ITV
添付6-16
による監視により漏えいを検出でき、堰等により漏えい箇所を隔離する
ことができる。
淡水化装置(逆浸透膜装置、蒸発濃縮缶装置)については、仮設ハウ
ス内に設置することから、鋼材による堰を設け漏えい拡大防止を図ると
ともに巡視点検等で漏えいがないことを確認するとしていた。しかし、
12月4日に蒸発濃縮缶装置から漏えいした水が堰の内側のコンクリー
ト製床の継ぎ目の一部等から施設外へ漏えいしたことから、直ちに類似
の堰の点検、修理を実施し、早期検知のための漏えい検知器等を設置す
るとしている。また、それまでの間、巡視点検頻度を上げて監視強化を
実施するとしている。
貯留設備については、海水による腐食を考慮した材料が使用され、腐
食速度を考慮し余裕のあるタンク板厚が確保されている。また、繊維強
化プラスチック塗装による防錆処理が施されている。万一、汚染水が漏
えいした場合、汚染水はタンクエリア周囲に設置した観測側溝に至る設
計としていることから側溝のサンプリングを行うことで漏えいの有無を
確認することができる。また、各タンクにはレベルスイッチが設けられ
ており、水位低警報の発報により、漏えいしているタンクを特定でき、
内包している汚染水をプロセス主建屋へ排出することで当該タンクの隔
離を行うとしている。
屋外の濃縮塩水を貯蔵するタンク等については、静的な状態であり、
巡視点検で定期的に監視し、漏えいがあった場合には、堰等を設置し漏
えい拡大を防止するとしている。
使用済セシウム吸着塔を保管する施設においては、吸着塔内部の水を
排出して保管されるため、漏えいの可能性はない。廃スラッジ貯蔵施設
のうち造粒固化体貯槽(D)については、
建屋内に設置されていることから、
建屋外への漏えいの可能性は低いが、漏えい防止対策としてコンクリー
ト保護材を塗布している。貯蔵状況は液位を確認することで監視してい
る。また、廃スラッジ一時保管施設のスラッジ貯槽は、腐食速度を考慮
し余裕のある容器厚さを確保する設計としている。万一、漏えいした場
合、ドリップトレイで受け、ドリップトレイに設置した検知器で漏えい
を検知し、漏えいした廃スラッジを予備のスラッジ貯槽へ移送すること
としている。
以上のことから、設備毎に漏えい防止、漏えい検知等の対策が実施さ
れているものと評価するが、蒸発濃縮缶装置から施設外への漏えい事象
が発生したことを鑑みれば、より信頼性の高い漏えい防止のための措置
を講じることが必要である。
8気体状の放射性物質及び可燃性ガスの検出、管理及び処理
添付6-17
セシウム吸着塔及び第二セシウム吸着塔は、通水停止時に吸着塔内に
水素が滞留する恐れがあるため、吸着塔附属のベント弁を開操作するこ
とにより吸着塔外に水素を排出し、建屋に設置された局所排風機により
さらに建屋外に放出される。吸着塔に取り込まれた放射性物質は、吸着
剤に固定化され安定した状態となっているため、吸着塔外に放出するこ
とはない。建屋内に滞留する気体状の放射性物質については、その放出
抑制を図るため、フィルタを介して屋外に放出される。
廃スラッジが生成される除染装置及び廃スラッジを貯蔵する造粒固化
体貯槽(D)については、水素が滞留しないよう、内部の気体が排風機によ
り大気放出される。廃スラッジ一時保管施設については、水素が滞留し
ないよう、内部の気体がオフガス処理系により大気放出される設計とし
ている。これらの装置、貯槽、施設から内部の気体を大気放出する際に
は、気体状の放射性物質の放出抑制を図るため、フィルタを介して放出
するとともに、ダスト放射線モニタを設置し異常の有無を監視すること
としている。
以上のことから、装置内及び施設内に可燃性ガスが滞留することを防
止するための機能及び気体状の放射性物質の放出を抑制するための機能
を有していると評価した。
(6)高レベル放射性汚染水を貯留している(滞留している場合も含む)建屋等1〜4号機の原子炉建屋、タービン建屋等には、高レベル放射性汚染水
が滞留している。この汚染水は、集中廃棄物処理建屋のうちのプロセス主
建屋と雑固体廃棄物減容処理建屋(以下、高温焼却炉建屋という)に移送さ
れ、汚染水処理設備にて放射性物質の除去処理が行われるまでの間、同建
屋にて貯留されている。
汚染水が滞留、貯留しているこれらの建屋等について、汚染水の外部へ
の漏えい防止、気体状放射性物質の放出抑制、可燃性ガスの管理等が適切
か、中期的な見通しを踏まえて適切な計画がなされているかという観点か
ら、評価を行った。
1建屋内貯留水(又は滞留水)の監視及び建屋外への漏えい防止
汚染水は、各建屋の基礎盤を含む床や外壁で保持されている。汚染水
がこの床、壁(鉄筋コンクリート製)の内部を拡散し、漏えいする可能
性があるが、床、壁の外表面に達するためには、原子炉建屋で 200 年、
タービン建屋で 20 年、トレンチで 13 年の期間を要すると評価されてい
る。また、床、壁に亀裂ができた場合に備え、建屋内の汚染水の水位を
建屋外の地下水の水位より低く保つ管理がなされている。このことによ
り、水圧で勝る地下水が亀裂部分から建屋内に流入しても汚染水が建屋
添付6-18
外に流出することがないようにしている。この他、プロセス主建屋及び
高温焼却炉建屋については、汚染水を貯留するに当たり建屋外壁の止水
工事が実施されている。
上述のとおり、汚染水の建屋外への漏えいを防止するため汚染水の水
位管理を行う必要があることから、各建屋の汚染水の水位を常時監視す
るとともに、建屋周辺の地下水の水位を把握するためサブドレン(井戸)
の水位を定期的に測定、監視するとしている。
以上のとおり、汚染水の水位管理等の汚染水を建屋外に漏えいさせな
いための措置が講じられ、そのために必要な監視がなされることから、
建屋内に滞留、貯留する汚染水の漏えい防止対策は適切であると評価し
た。なお、万一汚染水が建屋外に漏えいした場合も考慮し、1〜4号機
の既設護岸の前面に遮水壁を設置する計画であり、これにより海洋汚染
を防止するとしている。
2 汚染水処理設備の長期間停止及び豪雨時の建屋外漏えい防止
これまでにタービン建屋等に滞留している汚染水の処理が進み、一時、
漏えいが懸念される OP.4,000 近くにあった汚染水の水位が現在では
OP.3,000 前後まで低下している。今後、海洋への漏えいリスクの高まる
OP.4,000 までの余裕確保及び地下水の流入量を抑制する観点から、ター
ビン建屋等の水位を OP.3,000 前後で管理するとしている。
(a) 長期間停止
汚染水処理設備については、長期間停止することがないよう複数系統
で構成する等の措置が講じられるが、それでも長期間停止するような場
合には、緊急に仮設の汚染水処理設備を設置して対応するとしている。
仮設の汚染水処理設備は、約 1 ヶ月以内に設置、稼働できると見込まれ
ており、この間に発生すると予想される汚染水(約 25,000 m3)は、ター
ビン建屋等の空き容量(OP.3,000 から OP.4,000 までの約 23,000 m3)、高濃度滞留水受タンク(約 2,800 m3)
、復水器(3,000 m3)等で回収できる
としている。従って、汚染水処理設備が長期停止する場合でも汚染水の
建屋外の漏えいは防止できるとしている。
(b) 豪雨時
豪雨時にはタービン建屋に流れ込む水の量が一時的に増加する。福島
県浪江町の直近での 1 ヶ月当たりの降雨量は最大で 634 mm(2006 年)の実
績がある。一方、汚染水処理設備は1日当たり 1,680 m3 処理した実績が
あり、
840 mmの降雨量までタービン建屋の水位を上昇させずに処理可能と
している。仮に一時的に水位が上昇したとしても、タービン建屋等の
添付6-19
OP.4,000 までの空き容量の使用、高濃度滞留水受タンクへの移送や炉心
注水量の削減等の措置をとるとしているので、豪雨時でも汚染水の建屋
外への漏えいを防止できるとしている。
以上のとおり、汚染水処理装置が長期間停止する場合でも、この間に
滞留する量を上回る貯蔵容量を確保していること、また豪雨による一時
的な汚染水の増加があっても、それを上回る移送、処理能力を有してい
ることから、長期停止及び豪雨時でも建屋外への漏えい防止対策は適切
であると評価した。
3気体状の放射性物質の放出抑制と管理
タービン建屋等の地下階に汚染水が滞留、貯留しているため、建屋地
下階の開口部を通じて、ダスト等の気体状の放射性物質が放出される恐
れがある。このため、地下階開口部は可能な限り閉塞して気体状放射性
物質の放出を抑制し、さらに放出量を監視するため、定期的にダストサ
ンプリングを実施し放射性物質の濃度を測定するとしている。
なお、1 号機の原子炉建屋については、原子炉建屋カバーを設置し、排
気設備により放射性物質除去フィルタを通して排気することで、3号機
及び4号機の原子炉建屋については、建屋上部の瓦礫を早期に撤去する
ことで、それぞれ建屋外への気体状放射性物質の放出を効果的に抑制す
るとしている。プロセス主建屋及び高温焼却炉建屋については、局所排
風機を設置し、放射性物質除去フィルタを通して屋外に排気できるとし
ている。
以上のとおり、可能な限り建屋地下階開口部を閉塞するとともに、気
体状の放射性物質の定期的なサンプリングを実施する等の措置を講じる
としていることから、気体状放射性物質の放出抑制とその管理は適切で
あると評価した。
4 地下水の放射性物質濃度監視
汚染水の建屋外への漏えい監視は、地下水の放射性物質の検知により
行う。そのために建屋周りのサブドレン水のサンプリングを定期的に実
施し、放射性物質の濃度を監視するとしている。汚染水が滞留する原子
炉建屋やタービン建屋の周辺にあるサブドレンについては、現状、瓦礫
等の影響でサンプリングできるサブドレンが限定されているが、今後の
状況を考慮して復旧させるとしている。
以上のとおり、建屋周りのサブドレン水を定期的にサンプリングする
こと、また、現状使用できないサブドレンは、今後計画的に復旧させる
としていることから、地下水の放射性物質濃度の監視は適切であると評
添付6-20
価した。
5 汚染水から発生する可燃性ガスの検出・管理及び処理
汚染水を滞留、貯留している建屋では、水の放射線分解で発生する水
素が建屋内に滞留する恐れがあり注意が必要である。これまでタービン
建屋等では水素が滞留していないことが確認されていたが、今回、地下
階の開口部を可能な限り閉塞することから、改めて地下階の水素の滞留
の有無を定期的に確認し、必要に応じて排気する等の措置を講ずるとし
ている。
以上のとおり、地下階閉塞部付近でサンプリングを実施し、水素が検
出された場合には必要な対策を講じるとしていることから、可燃性ガス
の検出と管理は適切であると評価した。
(7)電気系統
電気系統については、設備の重要度に応じて、その機能を達成するため
に必要な電源を供給するための機能が要求される。このため、原子炉施設に
必要な電源容量を有しているか、万一の場合においても、電源の多重化及び
多様化により必要な機能が維持できるかの観点から評価を行った。
1 外部電源
外部電源は、275kV 送電線 1 回線(大熊線 2 号線)
、66kV 送電線 4 回
線(大熊線 3 号線、夜の森線 1 号線及び 2 号線、東北電力(株)東電原子力
線)から受電可能であり、2 ルート以上の送電線により電力系統に接続で
きる設計とされていることから外部電源の信頼性は確保されると評価した。
2 所内電源
所内電源は、供給する所内負荷の重要度に応じて、実現可能な範囲で多
重性又は多様性を備え、相互に分離した設計とするとしており、3に示す
ように異常時の対応機能を有することから、必要な信頼性は確保されると
評価した。また、今後更なる信頼性向上を目的に以下の改善を行っていく
こととしておりその方針は妥当なものと評価した。
・受電設備の信頼性向上対策(66kV 開閉設備の新設)
・所内高圧母線の構成変更(所内高圧母線の新設等による構成変更)
・ケーブル、電線路の信頼性向上対策(連系線の新設等による信頼性向上)・非常用ディーゼル発電機 2 台の復旧
・電気系統の監視の機能強化(免震重要棟における送電線及び所内高圧
母線の監視)
・所内設置網の拡充(耐雷対策)
添付6-21
所内電源については、さらなる信頼性の向上策を検討し、着実に進めて
いく必要がある。
3 異常時の対応機能
送電線の故障時には、
外部電源合計 4 回線
(大熊 2 号線、
大熊線 3 号線、
夜の森線 1 号線及び 2 号線)から所内電力が供給されていることから、切
り替えることで対応可能であり、これら全ての回線が停止した場合におい
ても、東北電力東電原子力線から必要な電力が供給可能となっている。ま
た、全ての外部電源が停電した場合においても、所内の非常用ディーゼル
発電機 4 台及び電源車 2 台から必要な設備の電力を供給できることから異
常時の対応機能は確保されていると評価した。なお、津波の発生時には、
高台に準備した電源車 2 台又は今回の津波により被害を受けなかった非常
用ディーゼル発電機(6B)により対応するとしている。
4.確認経過
本評価書は、東京電力が事故収束に向け行う措置について、東京電力株式会
社福島第一原子力発電所 1 から4号機に係る「中期的安全確保の考え方」への
適合性について、同社が提出した報告書(その 1)に基づき確認を行った結果を
とりまとめたものである。
確認の過程において、現地調査を実施したほか、専門家の意見を聴取した。
主な経過及び意見聴取を行った専門家は以下のとおりである。
しろまる平成 23 年 10 月 3 日 中期的安全確保の考え方とりまとめ
報告徴収命令
しろまる平成 23 年 10 月 17 日 東京電力株式会社が報告書を提出
しろまる平成 23 年 10 月 22 日 意見聴取会(第 1 回)
しろまる平成 23 年 10 月 23 日 現地調査
しろまる平成 23 年 11 月 9 日 東京電力株式会社が報告書改訂
しろまる平成 23 年 11 月 11 日 意見聴取会(第 2 回)
しろまる平成 23 年 12 月 6 日 東京電力株式会社が報告書再改訂
しろまる平成 23 年 12 月 9 日 意見聴取会(第 3 回)
添付6-22
平成 23 年 12 月現在
氏 名 所 属
井口 哲夫 名古屋大学 教 授
片岡 勲 大阪大学 教 授
工藤 和彦 九州大学 特任教授
東 邦夫 京都大学 名誉教授
東 之弘 いわき明星大学 教 授
平野 雅司 原子力安全基盤機構 総括参事
本間 俊充 日本原子力研究開発機構 安全研究センター副センター長
山口 彰 大阪大学 教 授
山本 章夫 名古屋大学 教 授
渡邊 明 福島大学 副学長
(敬称略、五十音順)

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