「とにかく逃げるが勝ち」

南海地震(昭和21年12月)

とにかく逃げるが勝ち
〜強欲な人みな流れ、欲を捨てた人逃げおおせたり〜

(徳島県海部郡 80代 男性)

[画像:東由岐当屋帳(ひがしゆきとうやちょう)]

津波の高さは、最高のときで、畳から上へ80cm。土間へ立ったら120cm、外へ出たら150cmぐらいありました。

とにかく、逃げるときは、ハダシでは絶対にだめなんですよ。それに、津波はすぐにやってきますからね。いつでもさっと履けるように、身近なところにハキモノを置いておかないかんのです。

ヒモ靴は履くのに時間がかかるし、つっかけはすぐに外れるからね。普通のビーチサンダルみたいな、足の指でぎゅっとしめられるやつなら水の中でも脱げないからね。私はそれを使いました。

私はずっと、この地域の集落に関する記録を調べているんですが、安政南海地震(1854年)で、大津波が起きた時のようすが書かれている帳面(東由岐当屋帳(ひがしゆきとうやちょう) (注記) )を見つけたんです。そこには、「うろたえて、ナべ、カマを運ぶ者あり、役にも立たぬモノを持ち、大事な金銀を忘れて逃げる者もあり」と書いてありました。

その最後に、「この時 強欲な人みな流れ、欲を捨てた人逃げおおせたり」という文章があります。昔から、「津波が来たらとにかく逃げること」、「命が一番大事なんだ」と言われていたわけですよね。

(注記)「東由岐当屋帳(ひがしゆきわとうやちょう)」とは、寛政元年(1789)以降の徳島県東由岐浦の祭礼を中心とし、地域の行事や異変などを詳しく記録したもの。お役人が書いたものでなく、すべて地域の住民によるもので、庶民の生活を知ることのできる貴重な史料となっています。

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