II 一時滞在施設の確保


首都直下地震帰宅困難者等対策
連絡調整会議
一時滞在施設の確保及び運営のガイドライン
平成27年2月20日
首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議
目次
はじめに P1
第1章 基本的な考え方 P2
1.背景 P2
2.用語の定義 P2
3.対象施設 P3
4.開設基準 P3
5.施設管理者の役割 P4
6.要配慮者への対応 P4
7.一時滞在施設、災害時帰宅支援ステーション及び避難所の区分 P5
第2章 一時滞在施設の確保 P6
1.都県、市区町村、国及び事業者の役割分担 P6
2.一時滞在施設の情報 P6
第3章 一時滞在施設の運営の準備(平常時) P7
1.運営計画の作成 P7
2.運営体制の取決め P7
3.受入のための環境整備 P8
4.訓練等による定期的な手順の確認 P13
第4章 一時滞在施設の運営(発災時) P14
1.開設の判断 P14
2.開設できない場合の対応 P14
3.開設・運営の流れ(総括) P14
4.発災直後から一時滞在施設開設まで(発災直後から概ね 6 時間後まで)P175.帰宅困難者の受入等(概ね12時間後まで) P17
6.運営体制の強化等(適宜、実施する) P18
7.一時滞在施設の閉設(概ね4日後以降) P18
第5章 一時滞在施設の確保・運営に関する行政の支援策 P19
1.平常時の支援策 P19
2.災害時の支援策 P19
3.その他 P20
参考1 一時滞在施設開設訓練 P21
参考2 一時滞在施設への帰宅困難者の受入に関する協定の基本事項 P23
別添参考資料 施設管理者の損害賠償責任について P27
はじめに
本ガイドラインは、一時滞在施設の確保に係る国、都県、市区町村及び事業
者の役割分担を明確化し、連携を図るとともに、平常時、発災時等の各段階に
おける一時滞在施設の運営の参考となる手順等を示すことにより、発災後の迅
速な一時滞在施設の開設と円滑な運営を実現することを目的とする。
なお、膨大な数の帰宅困難者等への対応は、これまでも中央防災会議等にお
いて指摘され、国や地方公共団体等においても対策を進めてきたが、大規模地
震による多数の死傷者・避難者が想定される中では、行政機関による「公助」
に限界があることから、可能な限り「自助」を前提としつつ「共助」も含めた
総合的な対応が不可欠である。したがって、これらへの対応は、国、地方公共
団体、民間企業等による個別の取組だけでなく、各機関が連携・協働した取組
みが重要であり、更に、国民一人ひとりの取組につなげていくことが極めて重
要である。
(注記)本ガイドラインにおいて想定する首都直下地震は、中央防災会議において被害が大
きく首都中枢機能への影響が大きいと考えられる都区部直下の都心南部直下地震
(Mw7.3)とし、発生時刻は、帰宅困難者等が最も多く発生すると想定される
平日昼12時とする。ただし、M7クラスの首都直下地震はいつどこで発生しても
おかしくないことから、本想定に限らないことに留意する必要がある。1 第1章 基本的な考え方
1.背景
首都直下地震発生時において、駅周辺の滞留者や路上等の屋外で被災した外
出者等については、帰宅が可能となるまでの間、待機する場所がないことが想
定される。
このような帰宅困難者等を一時的に受け入れるための一時滞在施設を可能な
限り多く確保するとともに、災害時における運営方法をあらかじめ明確にして
いく必要がある。また、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが
開催されることから、国内外の観光客や外国人を想定した対策が急務である。
2.用語の定義
(1)帰宅困難者
大規模地震の発生により、公共交通機関が広範囲に運行を停止し、当分の
間、復旧の見通しがない場合において、徒歩で帰宅することが困難な者をい
う。具体的には、地震発生時に外出している者のうち、近距離徒歩帰宅者(近
距離を徒歩で帰宅する人)を除いた帰宅断念者(自宅が遠距離にあること等
により帰宅できない人)と遠距離徒歩帰宅者(遠距離を徒歩で帰宅する人)
をいう。
(2)一時滞在施設
帰宅が可能になるまで待機する場所がない帰宅困難者を一時的に受け入れ
る施設をいう。あらかじめ公表するものと、あらかじめ公表しないものとに
分けられる。
(注記)あらかじめ公表するか、公表しないかは、各施設で選択する。
(あらかじめ公表することによって、社会貢献としてのPR等が期待できる。)(3)災害時帰宅支援ステーション
災害時、救急・救助活動が落ち着いた後に帰宅困難者の徒歩帰宅を支援す
るため、可能な範囲で水道水、トイレ、地図等による道路情報、ラジオ等で
知り得た通行可能な道路に関する情報等を提供する施設をいう。2 (4)避難所
地震による家屋の倒壊、焼失等で被害を受けた者又は被害を受けるおそれ
のある者を一時的に受け入れ、保護するため、市区町村又は民間事業者等が
開設する施設をいう。
(5)施設管理者
一時滞在施設として提供する施設を管理する事業者等をいう。施設の特性
によって、施設の所有者、占有者、管理者のいずれか又は複数が該当する。
(6)施設滞在者
一時滞在施設内に滞在している帰宅困難者等をいう。
3.対象施設
一時滞在施設の対象となる施設は、都県や市区町村から帰宅困難者等を一時
的に受け入れることについての指定を受けるか、又は協定を締結した施設の全
部又は一部の区域を基本とする。
例えば、集会場、庁舎やオフィスビル、ホテル、学校等に加え、地下道等も
想定される。
一時滞在施設として使用する施設については、当該施設が発災時において担
うべき役割、立地条件や施設ごとの特徴を踏まえるとともに、施設の安全性の
観点から、耐震性(昭和56年に導入された新耐震基準)を有した建物(耐震
改修により同基準を満たした建物を含む)であることが必要である。
また、平成26年4月1日に施行された建築基準法施行令において、特定天
井(脱落によって重大な危害を生ずるおそれがあるものとして国土交通大臣が
定める天井をいう。
)の脱落防止措置が定められており、改正規定が適用される
天井は脱落防止措置を講じる必要がある。
4.開設基準
1 受け入れた帰宅困難者が安全に帰宅開始できるまでの間、
原則として発災後
3日間の運営を標準とする。
2 帰宅困難者の受入は、床面積3.3m2当たり2人の収容(必要な通路の面積
は算入しない)を目安とする(
「避難所管理運営の指針」
(東京都)を参考)。3
5.施設管理者の役割
施設管理者は、
災害発生時の状況に応じて、
可能な範囲で以下の支援を行う。
また、必要に応じ、受入者へ施設運営の協力を要請する。
1 施設の安全を確認した後、
受入スペースに帰宅困難者を速やかに受け入れ
る。
2 水や食料、毛布等の支援物資を配布する。
3 トイレやごみの処理等の施設の衛生管理を行う。
4 周辺の被害状況や道路、
鉄道の運行状況等の情報収集及び施設滞在者に対
する情報提供を行う。
6.要配慮者への対応
施設管理者は、市区町村や関係機関とも連携し、要配慮者に特に配慮する。
(1)高齢者、障がい者、乳幼児、妊婦、遠距離通学の小中学生等
待機スペースの一部をこれらの者への優先スペースにすることや、一時滞
在施設から緊急に避難が必要となった場合の具体的な避難誘導方法を検討
する。
あわせて、障がい者については、必要な支援や配慮を受けるため障がい者
が他者に支援を求めるカード(例:ヘルプカード(東京都)
)の活用やユニ
バーサルデザイン(注記)の案内板(例:大きくはっきりとしたピクトグラム(図
記号)
(東京都)
)の活用等が考えられ、今後、関係機関とも連携しながら検
討する。
(注記)ユニバーサルデザインについては、
「店舗等内部のユニバーサルデザイン整備ガイ
ドライン」
(東京都)等参照
(2)外国人
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックをふまえ、誘
導の案内や情報提供などについては、外国人でも分かりやすいピクトグラム
等の活用や、
英語、
中国語等の外国語の誘導案内板等による対応も検討する。4 7.一時滞在施設、災害時帰宅支援ステーション及び避難所の区分
本ガイドラインにおいて使用する施設等の区分は以下のとおりである。
区分 一時滞在施設
災害時帰宅支援
ステーション
避難所
設置時期
(注記)1
発災から72時間(原
則3日間)程度まで
発災後、協定を結ん
だ 地 方 公 共 団 体 か
ら要請を受けた時
発 災 か ら 2 週 間
程度まで(復旧・
復 興 の 状 況 に よ
ってはそれ以上)
目的 帰宅困難者等の受入 徒歩帰宅者の支援
地 域 の 避 難 住 民
の受入
支援事項
食料、水、毛布又はブ
ランケット(注記) 2 、トイ
レ、休憩場所、情報等
水道水、トイレ、帰
宅支援情報等
食料、水、毛布、
ト イ レ 、 休 憩 場
所、情報等
対象施設
(注記)3
集会場、庁舎やオフィ
スビル、ホテル、学校等コ ン ビ ニ エ ン ス ス
トア、ファミリーレ
ストラン、ガソリン
スタンド、都立学校等学校、公民館等の
公共施設、指定さ
れた民間施設
(注記)1 設置時期はあくまで目安であり、発災時の対応は施設や周辺の状況、協定の内
容等によって異なることに留意が必要である。
(注記)2 ブランケット:アルミ等の極薄素材で作られた防風・防寒・防水シート
(注記)3 対象施設はあくまで例示であり、全ての施設で上記の支援が行われるわけでは
ないことに留意が必要である。5 第2章 一時滞在施設の確保
1.都県、市区町村、国及び事業者の役割分担
(1)都県
都県が所有・管理する施設を一時滞在施設として指定する。
また、広域的な立場から、事業者団体に対して、一時滞在施設の提供につ
いて協力を求める。
(2)市区町村
市区町村が所有・管理する施設を一時滞在施設として指定する。
また、地元の事業者等に協力を求め、民間施設に対して一時滞在施設の提
供に関する協定を締結するよう要請する。
(3)国
国が所有・管理する施設について、受入可能な場合は、市区町村又は都県
からの要請を受け、又は自主的に一時滞在施設として帰宅困難者等を受け入
れる。
(4)事業者等
事業者や学校等は、市区町村や都県の要請に応じて、管理する施設を一時
滞在施設として提供することを検討し、受入可能な場合は、市区町村と協定
を締結する。
事業者団体は、加盟事業者に対して、それぞれが管理する施設を一時滞在
施設として提供することについて協力依頼を行う。
2.一時滞在施設の情報
一時滞在施設として確保した施設の名称や所在地等は、原則として公表する
が、
民間施設等の施設管理者が希望する場合には、
非公表とすることができる。
ただし、民間施設等で施設管理者が非公表を希望した場合でも、発災時は施
設への誘導のために公表を前提とし、その際、行政機関や駅前滞留者対策協議
会等の関係機関において情報共有を行う。6 第3章 一時滞在施設の運営の準備(平常時)
1.運営計画の作成
施設管理者は、帰宅困難者等の受入に係る運営計画又はこの受入を含む防災
計画をあらかじめ作成しておく。運営に関しては、第4章で示す内容を手順と
して記載する。
その際、可能であれば、他の一時滞在施設等との連携や行政機関との連携、
地域における帰宅困難者対策の取組への参加等についても運営計画又は防災計
画に明記する。その際、その地域がビジネス街なのか、繁華街なのか、商業地
域と住宅街との混在地域なのかなど、地域の特性を反映した計画とすることも
重要である。
施設管理者は、運営計画又は防災計画を冊子等にまとめ、自らの従業員等に
周知する。
テナントビルの場合や事業者が複数存在する複合ビルの場合、施設管理者は
他の事業者等と連携し、建物ごとの個別の事情に応じて、あらかじめ役割分担
を取り決める。
2.運営体制の取決め
施設管理者は、一時滞在施設が発災時に機能するよう、運営計画又は防災計
画に、運営体制に関する次の点を定めておくことが必要である。
(1)施設内における受入場所
受入場所の選定に際しては、余震等の可能性を考慮して、天井部等から物
が落下するおそれのある場所を避けることが重要である。
また、受入場所については、暗がりの部屋、入り組んだ場所のように管理
が行き届かない場所を避け、防犯面についても配慮しておくことが重要であ
る。
(2)受入定員
約3.3m2当たり2人を目安とする。ただし、実際の定員の算出に当たっ
ては、施設の状況や特性を考慮する。
また、通路として使用する部分等については定員の算出から除外する。7 (3)運営要員の確保
自社ビルの施設管理者は、一時滞在施設の運営に係る要員を自社内から確
保するように努める。テナントビルの場合や事業者が複数存在する複合ビル
の場合の施設所有者は、当該ビルの管理者及び占有者等と連携し、建物ごと
の個別の事情に応じて、所有者・テナント・自治体の3者間による協定を結
ぶなどして、一時滞在施設の運営に係る要員の確保に努める。この場合、運
営に係る役割分担と責任についてもあらかじめ決めておくことがのぞまし
い。
なお、運営要員の確保にあたっては、施設滞在者やその他のボランティア
の活用等も検討する。
(4)関係機関との連絡の手順
施設管理者は、一時滞在施設の円滑な運営を図るため、行政機関や関係機
関、地元の駅前滞留者対策協議会等への連絡手段の確保についてあらかじめ
定めておく。
(5)帰宅困難者の受入の手順
(6)施設滞在者への情報提供の手順
(7)備蓄品の配布手順
(8)要配慮者への対応
(9)セキュリティ・警備体制の構築
施設管理者は、
施設内・事務所内にある商品・物品や重要情報等について、
受け入れた帰宅困難者による盗難等のトラブル防止体制の整備を行う。
3.受入のための環境整備
(1)平時からの施設の安全確保
一時滞在施設として確保された施設については、災害時に帰宅困難者等を
安全に受け入れられるよう日頃からオフィス家具類の転倒・落下・移動防止
対策、事務所内ガラス飛散防止対策等に努める。
また、
災害発生時の建物内の点検箇所(受入のための安全確保という観点か
ら、建物の構造部だけでなく、天井や天井設置設備等も重要となる。)をあら
かじめ定めておくとともに、安全点検のためのチェックシートを作成する。
(チェックシートは、
「大規模地震発生直後における施設管理者等による建物
の緊急点検に係る指針(平成27年2月内閣府(防災担当))」を参考とする
とよい。)8
なお、従業員等で設備等の応急復旧に対応する場合には、工具類の備えに
ついても検討する。
また、
停電時等に一時滞在施設として運営すべきか否か、
運営する場合には建物及び施設滞在者の安全確認の方針等を一時滞在施設の
運営計画又は防災計画で定めておく。9 鉄筋コンクリート造用チェックシート(低層・壁式構造) 第一次調査の例(「大規模地震発生直後における施設管理者等による建物の緊急点検に係る指針」
(平成27年内閣府(防災担当))10
(2)書類・帳票の整備
受入者に対し、受入時に受入条件を承諾のうえ利用してもらうため、受入
条件の掲示や、受入条件に承諾したことを示す署名が出来るよう、書面・帳
票を準備しておく。
【受入条件の内容】
i.共助の観点から施設管理者が善意で施設を提供・開設しているこ
とや停電の中で運営せざるを得ない場合があること等を理解して
いること。
ii.施設滞在者は施設管理者の指示に従うこと、また指示に従わない
場合には一時滞在施設からの退去を要求する場合があること。
iii.一時滞在施設は、災害時に共助の観点から善意で開設されたもの
であるため、施設管理者は施設内における事故等(建物・施設の瑕
疵による事故を含む)については、故意又は重過失がない限り責任
を負わないこと。
iv.施設滞在者が自らの体調を崩したり、インフルエンザ等の感染症
に感染する場合についても、施設管理者は故意又は重過失がない限
り責任を負わないこと。
v.施設滞在者の所持する物品は基本的に預からないこと。また、や
むを得ず預かる場合でも、故意又は重過失がある場合を除き、破損
や紛失の責任を負わないこと。
vi.余震、延焼、電力途絶等の影響で建物の安全性や周辺状況に変化
が生じた場合、施設管理者の判断により、急きょ閉鎖する可能性が
あること。
vii.施設を閉鎖する場合等において、施設管理者又は行政から全員又
は一部の施設滞在者へ移動の指示があった場合には、その指示に従
うこと。
viii.負傷者の治療はできないことや、備蓄品に限りがあり食料等の配
布ができない場合があることなど、施設において対応できない事
項があることを理解していること。 等
また、施設管理者は、事後に災害救助法による費用の支弁を地元自治体に
求めることを考慮し、
地元自治体における避難所運営基準等に準じて、
書類・11 帳票等を一時滞在施設に整備し、保存しておくことが望ましい。具体的な書
類・帳票等については、
施設管理者が、
それぞれの実情を踏まえて作成する。
以下に必要と考えられる書類・帳票等を例示する。
1受入者名簿
2受入記録日計表
3一時滞在施設運営及び収容状況記録票
4一時滞在施設設置及び運営に要した物品受払証拠書類
(3)情報入手手段及び施設滞在者への情報提供体制の準備
施設には、テレビ、ラジオ、インターネットと接続できるパソコン等を備
えておく。また、その他の災害に強い通信手段の確保に努める。
入手した情報を施設滞在者に提供できるよう、ホワイトボード等の掲示板
や周辺の地図を準備しておくとともに、可能であれば、館内放送等で伝達す
る。
(4)安否確認のための体制整備(特設公衆電話、Wi-Fi など)
帰宅困難者が家族等と安否確認を行えるよう、特設公衆電話やWi-Fi
等の通信手段を整備しておくよう努める。
災害用伝言板サービス等の使い方を説明できる体制を整えておく。
(5)備蓄品、非常用電源設備等の確保
施設管理者は、帰宅困難者の受入に必要な水、食料、毛布、ブランケット、
簡易トイレ等の物資の備蓄に努める。提供する備蓄食料については賞味期限
等の一般的な衛生管理に留意することが重要である。
施設管理者は、施設内に必要な物資の備蓄が困難な場合においては、行政
や関係機関との連携により、災害時に利用可能な備蓄手段及び輸送手段等の
確保について検討する。
また、非常用電源設備や電池等の確保を行うなど、可能な範囲で災害時の
停電時等に備えておくことが望ましい。
(注記)非常用電源設備等が確保できない場合の消防用設備等の機能に関しては、
災害対策基本法第 86 条の2第2項において、
事前に都県や市区町村と締結
した協定に基づき開設された一時滞在施設など、地方公共団体の長が設置
する避難所等について、消防用設備等の設置、維持に関する規定(消防法
第 17 条)を適用しない旨の特例が定められている。
(6)防災関係者連絡体制の整備
施設管理者は、災害時の都県及び市区町村の連絡先を把握するほか、近隣12 の警察、消防及び他の一時滞在施設等の防災関係者連絡先一覧を事前に作成
し、配備する。
4.訓練等による定期的な手順の確認
施設管理者は、地震を想定した自衛消防訓練等にあわせて一時滞在施設の開
設に関する訓練を年1回以上定期的に実施し、帰宅困難者等の受入の手順等に
ついて確認し、必要な場合は手順の改善を行う。
また、施設管理者は当該訓練の結果について検証し、必要に応じて計画等に
反映させる。13 第4章 一時滞在施設の運営(発災時)
1.開設の判断
施設管理者は、
発災時の国や都県、
政令指定都市の一斉帰宅抑制の呼びかけ、
あるいは所在地の市区町村からの要請等により、当該施設の待機場所や入口等
の安全確認及び行政機関やその他関係機関から提供される災害関連情報等によ
る周辺状況を確認の上、一時滞在施設を開設する。一時滞在施設として開設し
た場合(一部スペースの開設も含む)
、また、一時滞在施設として開設後収容可
能人員に達した場合には、新たな受入を停止するとともに、速やかにその旨の
掲示及び協定締結先の都県や市区町村に報告を行う。
なお、行政からの要請等がなくとも、又は、あらかじめ指定されていなくて
も、施設の安全性を確認した上で施設管理者の自主的な判断による開設を妨げ
るものではない。
2.開設できない場合の対応
施設管理者は、建物の安全や周辺状況を確認した結果、一時滞在施設として
開設できないと判断した場合、速やかに協定締結先の都県や市区町村にその旨
を報告する。
また、施設管理者は、当該施設が一時滞在施設としてあらかじめ公表されて
いる場合においては、帰宅困難者等による混乱を回避するためにも、施設の入
口やその他の目に触れやすい場所に、一時滞在施設として開設できない旨の掲
示を行う。
3.開設・運営の流れ(総括)
災害発生からの経過時間に応じて、
目標とする一時滞在施設の運営の流れは、
概ね次のとおりである。なお、フロー図は標準的な例を示したものであり、災
害の規模、各施設の実情等により適宜柔軟に対応することが必要である。14 (注記)一旦帰宅困難者を受け入れた後、余震等により受入が困難となった場合は、関係機関と
連携し、周辺の一時滞在施設への移動を検討する。
(注記)大規模な集客施設や駅等が一時滞在施設の指定を受けている場合は、
「首都直下地震帰
宅困難者等対策協議会 大規模な集客施設及び駅等の利用者保護ガイドライン」
もあわ
せて参考とする。15 一時滞在施設運営チェックリストの例(時系列)16 4.
発災直後から一時滞在施設開設まで(発災直後から概ね6時間後まで)
(1)建物内の被害状況の把握や施設の安全性の確認
(2)施設内の受入スペース、女性専用スペース、要配慮者スペース、運営要
員専用スペース及び立入禁止区域(危険箇所や事務室等)等の設定
(注記)要配慮者スペースについては別室を確保することがのぞましい。
(3)受入場所の選定に際しては、余震等の可能性を考慮して、滞在者が負傷
しないよう、天井部等から物が落下するおそれのある場所を避けることが
重要である。
また、受入場所については、暗がりの部屋、入り組んだ場所のように管
理が行き届かない場所を避け、防犯面についても配慮しておくことが重要
である。
(4)従業員等による運営組織の編成、備蓄や設備の確認などの運営準備
(5)一時滞在施設であることの表示
(6)受入条件の掲示、書類・帳票の準備等
施設の入口や施設内の目に触れる所に受入条件を掲示する。また、受入条
件を承諾したことを示す署名等ができるよう、書類・帳票を準備する。
(7)電話、特設公衆電話、FAX、無線機、Wi-Fi等の通信手段の確保
(8)市区町村等への一時滞在施設の開設報告
5.帰宅困難者の受入等(概ね12時間後まで)
(1)帰宅困難者の受入開始、受入者の留意事項への署名
(注記)受入にあたり署名を拒否する者は、受入を拒否しても良い。
(2)簡易トイレ使用区域の設定等の保健衛生活動
(3)計画的な備蓄の配布など、水、食料等の供給
備蓄食料の提供については、賞味期限を確認するとともに、賞味期限切れ
の備蓄食料の提供については慎重に検討し、提供する場合には、その旨の事
実を告げることが重要である。
(4)し尿処理・ごみ処理のルールの確立・周知
(5)テレビ、ラジオ、インターネット等での情報の収集及び受入者への伝達
(6)受入可能人数に達した場合の新たな受入の停止、都県・市区町村等への
報告17 6.運営体制の強化等(適宜、実施する。)
(1)受入者も含めた施設の運営
一時滞在施設の運営にあたり、受入者(施設滞在者)に協力してもらう
場合には、施設管理者は安全配慮義務を果たすため、従業員と同様に適切
な指揮監督を行い、危険業務の禁止等を徹底することが重要である。
(2)公共交通機関の運行再開や、搬送手段等に関する帰宅支援情報の提供
(3)近隣の一時滞在施設や避難所との情報交換
7.一時滞在施設の閉設(概ね4日後以降)
(1)帰宅支援情報の提供
(2)一時滞在施設閉設の判断
(3)受入者の帰宅誘導
(4)他の避難所への要配慮者の誘導18 第5章 一時滞在施設の確保・運営に関する行政の支援策
1.平常時の支援策
(1)一時滞在施設に関する普及啓発
都県及び市区町村は、地域内の従業者及び住民に対して一時滞在施設の役
割や利用方法、所在地について普及啓発に努める。また、一時滞在施設は施
設管理者の善意に基づく共助の観点から運営されることから、一時滞在者は
自己の判断で利用するものであること、一時滞在施設を利用する際には、施
設の運営に可能な範囲で協力すること、施設管理者は故意又は重過失がない
限り責任を負わないといった受入条件を承諾し、署名した者を受け入れるこ
とについてもあわせて普及啓発に努める。
そのほか、
余震等の影響で建物の安全性や周辺状況に変化が生じた場合等、
施設の管理者の判断により、急きょ閉鎖する可能性があること、受入定員に
達した場合には新たな受入を断ること、また、負傷者の治療や、備蓄品に限
りがあり食料等の配布ができない場合があること等、施設において対応でき
ない事項についても普及啓発することが重要である。
(2)防災関係機関への周知
都県及び市区町村は、一時滞在施設の名称や所在地等を、警察、消防へ周
知し、災害時における連携に努める。
(3)民間一時滞在施設の確保に関する支援策
民間施設の協力を得るために、国、都県、市区町村は、災害救助基金の活
用等の必要な仕組みや補助等の支援策について検討し、地域の実情に応じて
支援策を具体化していく。
(4)ガイドラインに基づくマニュアル等の整備
都県及び市区町村は、本ガイドラインを参考に、各地域の実情に応じた具
体的な一時滞在施設の運営マニュアル等を整備する。
2.災害時の支援策
(1)一時滞在施設への情報提供
国、都県及び市区町村は、交通機関の復旧情報や道路の被災・復旧に関す19 る情報等、帰宅が可能かどうかの判断が可能な情報を適宜提供する。
(2)一時滞在施設間の調整
都県及び市区町村は、一時滞在施設からの報告をもとに受入人数や各種物
資の過不足を把握し、施設間の調整を行う。
都県及び市区町村は、受入者の帰宅等により施設の滞在人数が少数となっ
たときは、他の一時滞在施設に移動させるなど、一時滞在施設の早期閉設を
支援する。
(3)施設滞在者への退去要請
一時滞在施設の開設期間は、原則として3日間としていることから、都県
及び市区町村は、施設管理者の要請に基づき、一定期間を超えてなお滞在す
る施設滞在者等に対する退去要請等の対応を実施する。
(4)損害等への対応
国、都県、市区町村は、一時滞在施設の運営に関して施設管理者に損害等
が発生した場合又は発生するおそれがある場合には、積極的に協力して対応
する。
なお、施設管理者の損害賠償責任の範囲について、内閣府(防災担当)が考
え方を整理しているので、別添参考資料に示す。
3.その他
災害救助法が適用された区域については、食品の給与、飲料水の供給等が
国庫負担の対象となる可能性がある。20 <参考1>一時滞在施設開設訓練
【訓練概要】
平成 24 年2月3日に実施された帰宅困難者対策訓練では、
ターミナル駅の
周辺に一時滞在施設を開設する訓練を実施しました。
訓練会場となった各施設は、公立施設や民間施設など多岐にわたり、管理
者は首都直下型地震が発生したとの想定で、東京都からの要請に基づく施設
の開設、3日間の施設の運営を訓練しました。
各施設では、
発災時に備え開設の準備、
帰宅困難者の誘導、
備蓄品の配布、
情報の提供などの施設運営の手順などを確認し、アンケート(注記)により今後の
検討課題を整理しました。
(注記)平成 24 年3月9日公表「平成23年度東京都帰宅困難者対策訓練結果」
(平成 24
年2月3日実施)21 【訓練の様子】
(四谷区民センター:公共施設) (東京都第一本庁舎:公共施設)
(ホテルメトロポリタン:民間施設) (東京国際フォーラム:民間施設)22 <参考2>一時滞在施設への帰宅困難者の受入に関する協定の基本条項(ひな形)
(注記)このひな形は、
一時滞在施設への帰宅困難者の受入に関する基本的な条項を記載したも
のであり、実際の協定を作成するに当たっては、個々の一時滞在施設の状況に応じて、
必要な条項を適宜追加及び削除することを妨げるものではない。
くろまるくろまる区(市町村)
(以下「甲」という。
)とくろまるくろまる株式会社(以下「乙」という。
)は、くろまる
くろまる都県帰宅困難者対策条例(平成くろまるくろまるくろまるくろまるくろまるくろまる都県条例第くろまる号)第くろまる条第くろまる項の規
定に基づき、乙の管理する施設への帰宅困難者の一時的な受入について、次の通り協定を
締結する。
(目的)
第 1 条 この協定は大規模地震等の発生時に、
甲の区域内の帰宅困難者に対して乙が行う
協力に関し、必要な事項を定めることを目的とする。
(定義)
第 2 条 この協定において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定める
ところによる。
一 帰宅困難者 大規模地震等の発生により、公共交通機関が広範囲に運行を停止し、
当分の間、
復旧の見通しがない場合において、
徒歩で帰宅することが困難な者をいう。
二 一時滞在施設 帰宅困難者を一時的に受け入れる施設をいう。
三 施設管理者 一時滞在施設を管理する事業者等をいう。
(一時滞在施設の提供と公表又は非公表)
第 3 条 乙は、甲の要請に応じ、乙の管理する施設のうち別表に定める区域について、一
時滞在施設として提供することに合意する。
2 甲は、前項の合意に基づき乙から提供される一時滞在施設の名称や位置を、あらかじ
め公表するものとする。
(公表しないものとする。)(開設の要請)
第 4 条 甲は、帰宅困難者の一時滞在施設の開設が必要となった場合には、乙に対して、
前条第1項の区域について、その全部又は一部を一時滞在施設として開設し、運営する
ことを要請するものとする。
(公表しないものとする。)23
(帰宅困難者の受入)
第 5 条 乙は、前条の要請があった場合には、施設内の安全点検を実施し、当該施設への
帰宅困難者の受入が可能と判断したときは、
当該要請を受諾しその旨を甲に連絡するも
のとする。
2 乙は、前条の要請に応じられない事由があるときは、その旨を甲に連絡するものとす
る。
3 乙は、前条の要請がない場合においても、乙の判断により帰宅困難者を受け入れるこ
とができる。この場合には、受入を行う旨を遅滞なく甲に連絡するものとする。
4 受入期間は、原則として3日間とする。
(支援内容)
第 6 条 乙が一時滞在施設に帰宅困難者を受け入れる場合には、
次に掲げる事項の全部又
は一部を行うものとする。
一 帰宅困難者に対し、第5条第1項の受諾をした区域について、一時滞在施設として
開設し、運営すること。
二 帰宅困難者に対し、乙が備蓄する飲料水、食料、毛布等を提供すること。
三 トイレやごみの処理などの施設の衛生管理を行うこと。
三 帰宅困難者に対し、一時滞在施設として開設している旨の表示をすること。
五 前各号に関して必要な人員を確保すること。
六 その他乙が帰宅困難者の受入等に関し協力できる事項
(施設の運営)
第 7 条 乙は、この協定に定める事項以外の事項については、
「大規模地震の発生に伴う
帰宅困難者対策のガイドライン(内閣府(防災担当))」に沿って、運営を行うものとす
る。
(受入の解除)
第 8 条 乙は、次の各号に該当する場合、一時滞在施設を閉鎖し、かつ、帰宅困難者の退
去を求めることができるものとする。
一 甲が、公共交通機関の運行再開等により、一時滞在施設の必要がなくなったと判断
し、乙に連絡した場合
二 乙の施設が非常用電源の燃料枯渇等により、当分の間停電することとなり、乙が、
一時滞在施設としての運用が困難と判断し、甲に連絡して了承された場合24 三 乙の施設管理者が一時滞在施設の安全点検を実施した結果、
一時滞在施設としての
安全を確保できないと判断し、甲に連絡して了承された場合
四 その他、甲及び乙が双方協議の上、一時滞在施設を閉鎖する必要があると認めた
場合
(費用負担)
第 9 条 乙は第 6 条に基づき実施した帰宅困難者の支援に要した費用について、
甲に報告
するものとする。
2 甲は、前項の費用について、甲乙協議の上、乙に支払うものとする。
(損害)
第 10 条 乙が第5条第1項の受諾をした場合、又は同条第3項の連絡を行い甲に承諾さ
れた場合において、乙又は乙が受け入れた帰宅困難者に損害が発生したとき、又は発生
するおそれがあるときは、甲乙協議の上対応を検討するものとする。
(定期的な訓練)
第 11 条 乙は、少なくとも 1 年に 1 回、一時滞在施設の開設に係る訓練を行い、開設に
必要な手順や体制を確認するものとする。
(支援)
第 12 条 甲は、乙が一時滞在施設への帰宅困難者の受入のため、平時から、物資の配備、
訓練の実施等を行う場合において、その支援体制を確立するよう努めるものとする。
(有効期限と見直し)
第 13 条 この協定の有効期限は協定締結の日からくろまる年を経過する日までとし、有効期限
の2ヶ月前までに甲乙いずれからもこの協定廃止又は見直しの意思表示がない場合に
は、引き続きくろまる年間更新されたものと見なし、以後も同様とする。
(協議)
第 14 条 この協定に定めのない事項及びこの協定に関する疑義については、甲乙協議の
上定めるものとする。
(その他)
第 15 条 乙はこの協定により指定された一時滞在施設の受入想定人数及び算出根拠を甲25 へ提出するものとする。
2 甲は前項の規定により乙から提出された情報について、
外部への公表をしないもの
とする。
この協定の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙双方記名押印の上、各1通を保有
する。
平成くろまるくろまるくろまる日甲乙26 【別添参考資料】
施設管理者の損害賠償責任について
一時滞在施設の運営は、大規模地震等の発生時に共助の観点から施設管理者が
善意で行うものであるが、運営に関する損害賠償責任の範囲については、考え方
が示されていなかったことから、内閣府(防災担当)において次のように整理を
行うこととした。
1.基本的な考え方
一時滞在施設において、例えば余震により天井が崩落するなど、建物に起因
して帰宅困難者が損害を受けた場合、施設管理者に賠償責任が生じる場合も考
えられるが、これを法制度で一律に免責とすることは現状では民法上の被災者
保護の観点から困難である。しかし、施設管理者の責任の範囲について、より
明確にする必要があるため、法制度上の担保も含め、引き続き検討を進めるこ
とが重要である。また、一時滞在施設の確保を今後さらに促進するためには、
災害時の一時滞在施設の運営に関して、当面行うべき対策を講じ、施設管理者
が損害賠償責任を問われることのないようにしていく必要がある。
加えて、施設管理者が帰宅困難者の受入を行った際に、帰宅困難者に損害が
生じるなど、何らかの問題が発生し、又は発生する可能性がある場合には、国、
都県及び市区町村は施設管理者に積極的に協力して対応することが必要であ
る。
2.施設管理者の善管注意義務
施設管理者が一時滞在施設として自社ビル等を提供し、帰宅困難者を受け入
れる場合、施設管理者は、善良な管理者として通常期待されるレベルの注意義
務(以下「善管注意義務((注記)1)」という)をもって、受け入れた後の対応をする
必要があるということになる。この善管注意義務を果たすため、施設管理者は
下記の事項に対応するよう努めることが重要である。
(1)平常時の対応
1帰宅困難者の受入に係る運営計画又はそれを含む防災計画をあらかじめ
作成しておくこと。27 2過剰な人数の受入は、収容した滞在者すべてを危険にさらすことになるこ
とから、受入可能人数をあらかじめ定めておくこと。
3オフィス家具類の転倒・落下・移動防止措置、事務所内ガラス飛散防止措
置等に努めること。
4災害発生時の建物内の点検箇所(受入のための安全確保という観点から、
建物の構造部だけでなく天井や天井設置設備等も重要となる。また、災害
時に利用する予定のトイレの点検も重要である。
)をあらかじめ定めてお
くとともに、安全点検のためのチェックシートを作成すること。
5提供する備蓄食料については賞味期限等の一般的な衛生管理に留意する
こと。なお、無償譲渡である場合には、免責される可能性がある(民法第
551 条)。(2)発災時の対応
1チェックシートに基づき建物内の被害状況の把握や施設の安全性を確認す
ること。
2施設内の立入禁止区域(危険箇所や事務室等)を設定すること。
3一時滞在施設の運営にあたり、施設滞在者に協力してもらう場合には、施
設管理者は安全配慮義務を果たすため、従業員と同様に適切な指揮監督を
行い、危険業務の禁止等を徹底すること。
4備蓄食料の提供については、賞味期限を確認するとともに、賞味期限切れ
の備蓄食料の提供については慎重に検討し、提供する場合には、その旨の
事実を告げること。
5余震、延焼、電力途絶等の影響で退去しなければならない状況になった場
合には、他の施設や避難場所への案内や誘導を実施すること。
3.施設管理者と受入希望者との受入条件の合意(受入希望者の承諾)
施設管理者が善管注意義務を果たしても、施設滞在者に何らかの損害が生じ
た場合、施設管理者は損害賠償責任を問われる可能性がある((注記)2)
。この場合
には、国、都県及び市区町村に積極的な協力を要請することと併せて、事前の
備えとして、施設管理者と受入希望者とが受入条件(建物・施設の瑕疵に基づ
く損害賠償責任の免責特約等を含む。)について合意した上で利用してもらうと
いう契約行為が有効となる。このため施設管理者は、書面・帳票を準備し、受
入条件を承諾する旨の署名をした受入希望者のみを受け入れるという対応も、
建物・施設の状況によってはあり得る。28 【受入条件の内容】
i.共助の観点から管理者が善意で施設を開設・運営していることや、帰宅
困難者を屋外に滞在させるよりはよいなどの理由で、停電で消防用設備が
機能しない中で運営する場合があること等を理解していること。
ii.施設滞在者は施設管理者の指示に従うこと、また指示に従わない場合に
は一時滞在施設からの退去を要求する場合があること。
iii.一時滞在施設は、災害時に共助の観点から善意で開設・運営されるため、
施設管理者は施設内における事故等(建物・施設の瑕疵による事故を含
む。
)については、故意又は重過失がない限り責任を負わないこと。
iv.施設滞在者が自らの体調を崩したり、インフルエンザ等の感染症に感染
する場合についても、施設管理者は故意又は重過失がない限り責任を負わ
ないこと。
v.施設滞在者の所持する物品は、基本的に預からないこと、やむを得ず預
かる場合でも、故意又は重過失がある場合を除き、破損や紛失の場合は責
任を負わないこと。
vi.余震、延焼、電力途絶等の影響で建物の安全性や周辺状況に変化が生じ
た場合、施設管理者の判断により、急きょ閉鎖する可能性があること。
vii.施設を閉鎖する場合等において、施設管理者又は行政から全員又は一部
の施設滞在者へ移動の指示があった場合には、その指示に従うこと。
viii.負傷者の治療はできないことや、備蓄品に限りがあり食料等の配布がで
きない場合があること等、施設において対応できない事項があることを理
解していること 等
4.停電時のための事前の協定の締結
大規模地震の発生により広域的な停電となることも想定されるが、このよう
な中で一時滞在施設を運営していくことも考慮しておく必要がある。
消防法では、誘導灯など、消防用設備等の設置及び維持について規定されて
おり(消防法第 17 条)
、施設管理者はこの規定に従う必要がある。ただし、大
規模地震が発生した非常時において、
地方公共団体が設置した一時滞在施設
((注記)
3)については、災害対策基本法により、消防法第 17 条の規定は適用されない
こととなる(災害対策基本法第 86 条の 2 第 2 項)。このため、一時滞在施設を提供する施設管理者は、広域的な停電が発生する29 中で一時滞在施設を運営することも考慮し、地方公共団体と一時滞在施設の提
供に関する協定を締結しておくことが望ましい。
(注記)1 善管注意義務
業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位等から考えて
通常期待されるレベルの注意義務をいう。
(注記)2 不可抗力
極めて大きな余震等が発生した場合には、施設管理者は不可抗力による免
責が認められる場合もあると考えられる。
(注記)3 地方公共団体が設置した一時滞在施設
「地方公共団体が設置」とは、地方公共団体が自ら設置する場合のほか、例
えば、事前に都県や市区町村と締結した協定に基づき、施設管理者たる民間
事業者が開設する場合も含まれる。
なお、民間事業者が開設する場合は、当然ながら、地方公共団体は当該施
設の占有者・所有者とはならない。
【参考条文】
民法(明治二十九年四月二十七日法律第八十九号)抄
第三編 債権
第二章 契約
第二節 贈与
(贈与者の担保責任)
第五百五十一条 贈与者は、贈与の目的である者又は権利の瑕疵又は不
存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵又は
不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。
第十節 委任
(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に
委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
(準委任)
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準
用する。30 第三章 事務管理
(事務管理)
第六百九十七条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この
章において「管理者」という。
)は、その事務の性質に従い、最も本人
の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」と
いう。
)をしなければならない。
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することが
できるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
第五章 不法行為
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利
益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって
他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してそ
の損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止する
のに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければなら
ない。
消防法(昭和二十三年七月二十四日法律第百八十六号)抄
第四章 消防の設備等
第十七条 学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、
地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの
関係者は、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動
上必要な施設(以下「消防用設備等」という。
)について消火、避難そ
の他の消防の活動のために必要とされる性能を有するように、政令で定
める技術上の基準に従つて、設置し、及び維持しなければならない。
災害対策基本法(昭和三十六年十一月十五日法律第二百二十三号)抄
(指定避難所の指定)
第四十九条の七 市町村長は、想定される災害の状況、人口の状況その
他の状況を勘案し、災害が発生した場合における適切な避難所(避難の
ための立退きを行つた居住者、滞在者その他の者(以下「居住者等」と31 いう。
)を避難のために必要な間滞在させ、又は自ら居住の場所を確保
することが困難な被災した住民(以下「被災住民」という。
)その他の
被災者を一時的に滞在させるための施設をいう。以下同じ。
)の確保を
図るため、政令で定める基準に適合する公共施設その他の施設を指定避
難所として指定しなければならない。
(避難所等に関する特例)
第八十六条の二 著しく異常かつ激甚な非常災害であつて、当該災害に係
る避難所又は応急仮設住宅(以下この条において「避難所等」という。)が著しく不足し、被災者に対して住居を迅速に提供することが特に必要
と認められるものが発生した場合には、当該災害を政令で指定するもの
とする。
2 前項の規定による指定があつたときは、政令で定める区域及び期間に
おいて地方公共団体の長が設置する避難所等については、消防法(昭和
二十三年法律第百八十六号)第十七条の規定は、適用しない。32

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