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雪国の情報革命 〜雪おろシグナル〜

屋根雪事故の軽減にむけた積雪重量分布情報の発信

毎年多数の犠牲者を出す屋根雪処理中の事故を軽減するため、屋根雪おろしの判断材料に用いる「雪おろシグナル」を開発した。地理院地図上に積雪重量の分布を表示する雪おろシグナルは、昨冬に新潟県を対象に公開を開始して以降、ひと冬で56,000 以上のアクセスを記録した。今冬は山形県及び富山県で公開を開始し、今後も順次拡大を進める。

雪おろシグナルとは

雪氷災害は毎年100名前後の犠牲者を出していますが、そのうちの約半数が屋根雪処理中の滑落等、除雪中の事故になります。また、過疎高齢化が進行する中山間地域では人手不足により雪おろしが困難になり、雪の重みによる空き家の倒壊も起きています。これらの事故を軽減するためには、安全対策のほか、適切なタイミングで雪おろしをする判断材料が必要となります。
屋根に積もった雪の量を判断する際に、積雪深の情報が重要ですが、雪は時々刻々と密度が変化するため、積雪深が同じでも積もったばかりの雪としまって重くなった雪では、それによる荷重や倒壊リスクが異なります。そのため、雪おろしの判断の際には、深さだけではなく密度まで考慮した重さの情報が必要となります。雪おろシグナルは、そのような雪おろしの判断材料として利用してもらうために開発された、密度まで考慮した積雪重量の分布情報です。

雪おろシグナルの仕組み

雪おろシグナルはweb上で公開されている積雪深の情報を収集するために新潟大学が開発した「準リアルタイム積雪分布監視システム」と、積雪深の情報を重さに変換する積雪変質モデル「SNOWPACK」の2つのシステムから構成されています。SNOWPACKは雪が積もり始めてから現在までの気象データを入力して、大気と雪表面間の水や熱の交換や、積雪内部における雪の性質の変化を計算し、雪質、温度、密度、粒径、含水率等、積雪の細かい層構造の情報を出力します。積雪の物理過程を細かく計算するモデルで、主に雪崩の発生予測等に使われていますが、積雪重量の見積もりにも応用でき、積雪深の観測された場所では10%前後の誤差で推定することができます。このようにして各積雪深観測点で計算された積雪重量を地理院地図上に重ね、観測地点間を内挿して積雪重量分布の情報を作成します。この積雪重量分布情報の愛称を「雪おろシグナル」と名付けました。

使用方法

雪おろシグナルの操作画面を図1に示します。雪おろシグナルで検索するか、図に示されたQRコードを読み取ると、地理院地図上に積雪重量の分布が重ねられた雪おろシグナルが表示されます。緑色の部分は倒壊リスクが少ない場所を示し、屋根雪おろしの喚起を促す注意の色として300kg/m2以上の場所を黄色で示し、家屋倒壊の恐れがある700kg/m2以上を赤で示しています。+と-のボタンで拡大、縮小し、知りたい場所をクリックするとその地点の積雪重量の推定値が表示されます。また、雪おろしを行った後に積もった雪の量を知りたい時は、右上にある「積雪荷重計算サイトへ」をクリックすると図2の積雪荷重計算サイトの画面が表示されます。ここで、自分の居住地から最も近いところを選び、雪おろし実施日を入力して積雪荷重計算ボタンをクリックすると、雪おろし後に積もった雪の量が表示されます。雪おろしは危険を伴う作業となるため、安全対策について確認してもらうために、雪おろシグナルのサイトには自治体等が公開している安全対策を紹介したリンク集も含まれています。安全対策のタブをクリックすると、屋根雪おろしを行う際の注意点を簡潔に示したサイトや、命綱の取り付け方などを詳しく説明したサイト等で情報を確認することができます。

図1 雪おろシグナルの画面。右下はスマートフォンでこのサイトのURLを読み取るためのQRコード。
図2 積雪荷重計算サイト

社会実装

雪おろシグナルは2018年1月9日に新潟県庁にてプレスリリースを行うとともに新潟県で公開を開始しました。大雪が続いた2月8日にはアクセスが集中し、1日で6,000以上のページビューを記録しています。また、今冬は新たに山形県及び富山県に対象範囲を拡大しました。アクセス数は雪の多かった昨年は1月から3月の間に56,000のページビューを記録し、少雪年だった今年は2月20日時点で23,500のページビューを記録しています。今後は、豪雪地帯にある自治体と連携して公共施設における屋根雪の管理に応用してもらうため、施設の位置情報や雪おろし実施日を入力しておくことで各建造物の屋根雪荷重を一括で確認し、自治体が雪おろしを行うか、またどこを優先的に行うかといった判断材料として役立てられるようにしていく予定です。

雪氷防災研究部門 主任研究員
平島 寛行(ひらしま・ひろゆき)
2004 年北海道大学 博士(地球環境科学)
2004 年防災科学技術研究所入所。
雪氷災害発生予測システムにおける積雪変質モデルSNOWPACKの改良、雪崩発生予測及び道路雪氷予測に関するモデルの開発、3 次元水分移動モデル等、湿雪に関するモデルの開発、雪おろシグナルのシステム開発等に従事。2011 年より現職。

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