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国際決済銀行(BIS)金融経済局 国際銀行金融統計 ヴィジティングスタティスティカルアナリスト (現 金融市場局 総務課 市場統計グループ 企画役補佐)
入行以来、統計一筋で17年が過ぎました。現在は、スイス・国際決済銀行(BIS)に出向し、48カ国・地域の中央銀行と協働しながら国際銀行統計の集計作業を担当しています。
日本銀行で配属された物価統計課では、企業間取引を対象とした「企業物価指数」と「企業向けサービス価格指数」の作成を15年間担当しました。ある部品メーカーの社長さんと現場でお会いしたことがあります。1ミクロンの精度向上、1銭のコスト削減のための血と汗の滲むような努力の中で、「俺はこの部品で世界のトップになる。君は物価統計で世界と戦え」との激励を頂きました。この言葉は鮮烈な記憶となり、統計作成者としての私の人生の礎となりました。
現在担当している国際銀行統計は、グローバルでの資金の流れを捉えるもので、個別の商品の価格を調査する物価統計とは扱う対象が大きく異なります。しかし、統計作成の基本であるデータ受領、データ検証、報告者とのやり取り、システム処理、公表作業といった一連の流れは本質的に同じです。そのため、日本銀行での経験と技術を活かして、BISでも貢献することができています。今では、通常の統計公表作業に加え、各国・地域の統計作成の相談窓口、システム対応のサポート等、任せて頂ける仕事も増えています。職場は、様々な国から統計作成のエキスパートが集まっています。部下の適性に応じて仕事を任せ笑顔で組織を引っ張る上司(米国)、一から丁寧に指導してくれた面倒見のよい師匠(マレーシア)、明るく冗談を言いながら緊張を解してくれる同僚(スペイン等)のおかげで刺激に溢れる日々を送っています。
国際銀行統計は、世界でBISのみが作成する統計であり、BISのガイドラインに沿ったデータの報告が求められます。国際的な統計マニュアルの整備は物価統計でも経験がありましたが、こちらに来て、合意したガイドラインを参加国・地域に実行してもらうためにどれほどの根気が必要であるかを改めて痛感しました。先進国・途上国を問わず調査環境、職員数、法律の壁、システムの対応度の違い等、それぞれに事情が異なる中で、いかに足並みを揃えてデータ報告へ協力して頂くか。コロナ禍にあっても、メール・電話・オンライン会議など使える手段を駆使して、協力を促してきました。文化・言葉は違えど、ともに統計を作りたいという思いを伝え協働できています。相手の事情も慮りながら目的に向かう姿勢は、物価統計時代に鍛えて頂いたものであり、より多くの国・地域の協力が必要な統計作成において強みであると感じます。
統計が社会を適切に映し出せれば、政策担当者はよりよい政策をよりよい時機によりよい方法で実行できる。企業もより有利な条件でビジネスを進めることができ、世界はきっとよくなっていく。日本銀行の経験を糧にBISでの統計作成業務を通じて、自分のこの信念はより強いものになりました。
私も含め家族にとって初めての海外生活であり、コロナ禍も相まって不安に思う点もありましたが、BISの皆様に温かく迎えて頂いたうえ、スイスにいる日銀関係者や他の日本人コミュニティーにも公私にわたり支えて頂き、充実の一年を過ごすことができました。夫に支えられながら、子供達もスイスの穏やかで多文化の環境で成長してくれています。 日本にいる家族や友人、同僚の応援も心強く感じます。
歴史に残る世界的苦境の中でも、経済活動を止めるわけにはいきません。今後もその一役を担う自覚のもと、貴重な機会で得た経験を世界に還元できるよう努めて参ります。