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金融機構局 考査運営課 経営・収益関連考査グループ 企画役
私は、これまで経済調査、統計作成、市場分析、金融機関モニタリング、国会、支店総務課長など多岐に亘る仕事を経験し、その中で自分を成長させてくれる数多くの出会いや機会に巡り合いました。以下では、これまでのキャリアの中から、特に印象に残っている2つの言葉を紹介します。
まずは、最初に配属された岡山支店でのエピソードです。当時私は、岡山県内の景気判断のために、企業へのヒアリングを日常的に行っていましたが、「こんな若手が聞いていいものか」、「何の得にもならないのに時間を割いてもらうのが申し訳ない」といつも悩んでいました。そんな私に対して、ある時、企業の担当の方から、「日銀さんのヒアリングに率直に答えることが、わが国の経済のためになることだと思っています」との言葉を頂き、日本銀行の使命という原点に立ち返ることが出来ました。
2つ目は、東日本大震災直後の経験です。国際局で国際金融市場の分析を担当していた私は、震災発生直後に、ある市場関係者から「日銀が大変な混乱の中でも通常どおり市場のモニタリングを行っていることに、市場関係者としてとても勇気づけられています」と、今思い出しても胸が熱くなる言葉を頂きました。日本銀行の有事対応において重要な要素を端的に表しているようにも思われ、この経験は大阪支店等での有事の対応力強化に取り組む原点になりました。
二つの言葉を思い出すたびに、関係者への感謝の念とともに日銀に対する信頼の高さを感じ、その責任に身が引き締まる思いがしています。日銀と、企業や金融機関等との間には、140年余りの長い歴史の中で培われてきた、強い信頼関係があります。こうした土台の上で、様々な期待を肌で感じながら公平・中立な立場で世の中に貢献することが日銀で仕事をする魅力であり、自分自身を成長させてくれる源泉だと感じています。
現在、私は、金融機構局考査運営課経営・収益関連考査グループに所属し、主に地域金融機関の考査に参加し、金融機関の収益や経営体力に関する調査に従事しています。考査とは、日本銀行が金融システムの安定という目標達成のために、一定期間、10名前後のチームで金融機関に立ち入り調査等を行い、経営実態を把握する金融機関モニタリングのアプローチのことを指します。
金融機関の収益・経営体力の調査では、経営方針や外部環境を踏まえたシミュレーションを行い、将来の収益性や健全性を評価することが求められています。もしかしたら、ボタン一つで機械的に数字を計算するイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、実際は、システムでの計算はごく一部に過ぎず、むしろ地域経済動向などの外部環境から、金融機関のセグメント毎の戦略や、業務改革に至るまで、一つ一つ丁寧に金融機関やチーム内で議論を積み重ねて、金融機関の将来像を描くことが求められます。
この過程でチーム内や金融機関とオープンに議論することが繰り返されるため、高度な専門知識のほかに、論理的思考、チームワーク、対話やコミュニケーションに関するスキルなども自然と磨かれているように感じています。
そして、金融機関の将来像は、金融システムの未来の一部であることから、考査でのシミュレーションは「金融の未来を描く仕事」とも解釈できそうです。現在、金融機関を取り巻く環境は、過去に例を見ないほど大きく変貌しつつあります。人口減少・少子高齢化、FinTech、経済のデジタル化、気候変動や自然災害への対応など、これらの事象の多くは金融機関経営にとってのリスクといえますが、見方を変えれば、今は大きな転換期にあって、様々な課題に前向きにチャレンジしている金融機関が数多くあります。今後、金融機関や金融システムの在り方がどう変化していくのかといった問いを中心に、考査は、かつてないほどダイナミックで面白い仕事になりつつあります。