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国際決済銀行(BIS) 金融経済局 シニアファイナンシャルマーケットアナリスト
2021年8月より、国際決済銀行(BIS)金融経済局に所属しつつ、金融安定理事会(FSB)での調査・分析業務に携わっています。FSBは金融危機後の2009年に設立された組織であり、金融システムの脆弱性への対応や、金融システム安定に関する各国当局間の協調促進を図る活動を行っています。国際機関の中では設立されてから比較的日が浅く、職員は全体でも数十名と小所帯であるため、BISがその活動をサポートしています。実務は多岐に亘りますが、私は主に、脆弱性評価に係る常設委員会(SCAV)の業務に携わり、国際金融市場に潜むリスク、例えばドルの調達コストや企業債務の高まりなどについて調査・分析を行っています。以下では、入行以降の約10年間を振り返り、これまでのキャリアの変遷をご紹介できればと思います。
入行後6年目までは、本支店において主に日本経済の分析に携わりました。調査統計局の景気動向グループでは、国内の経済・物価動向の現状評価と中長期的な先行き見通しを作成する業務に携わり、GDPなどの経済指標といった日々公表されるマクロ情報を分析しました。もっとも、経済指標は、実際の経済活動からある程度遅れて公表されるため、特に経済環境が大きく変化している際に経済指標だけに頼って景気判断を行うことは「バックミラーを見ながら車を運転する」状況になりかねません。翌年配属された企業調査グループでは、この点を補うべく、企業へのヒアリングを通して、経済指標だけでは捉えきれない「足もと」の経済動向の把握に努めました。また、ヒアリングを通して、企業行動の背景にある考え方や、先行きの見通しに関して、経営者の生の声を聞くことができたことは貴重な経験だったと感じています。支店においても、経済指標と企業ヒアリングをもとに地域経済の調査を行いました。また、支店では、その地域独自の特色にも注目することになります。例えば、私が配属された金沢支店では北陸新幹線の開業、大阪支店ではインバウンド客の増加などが地域経済に与える影響を分析しました。こうした仕事に携わる中で、同僚の助けもあり、日銀のエコノミストとしてマクロ・ミクロの情報を合わせて実体経済を分析できるようになり、その後のキャリアに繋がっています。
1年間の米国への海外留学を経て配属された国際局国際調査課では、海外経済・金融市場の現状評価と先行き見通しの作成に携わりました。米国経済の取り纏めを担当していた際には、米中の貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症の拡大といった事態に見舞われました。通常は四半期毎に経済見通しを見直すのですが、感染症が拡大し始めた際には、刻々と変わる経済情勢に直面したため、予測の前提となるシナリオを変更しつつ、毎月のように経済見通しを修正しました。この際、誰も正解が分からない状況でも情報を集め、ある仮定のもとに見通しを立てるといった業務は非常に貴重な経験となりました。その後、国際金融市場を担当した際には、感染症拡大以降の企業債務の高まりや、新興国への資本フローに関するリスク分析を行い、対外的にレポートを公表する機会にも恵まれました。こうした国際金融市場の脆弱性に関する分析を通して得た知識・経験は、現在のBIS・FSBでの仕事にも直結しています。
BIS・FSBで働くなかで、各国の中央銀行や金融監督当局、国際機関など様々なバックグラウンドを持つ同僚とともに、日々の業務や議論を通して多くのことを学んでいます。また、国際会議の傍聴や、同僚の日本に関する何気ない一言などから、必然的に日本及び日本銀行を客観視することができ、「世界の中の日本」を意識することが多いです。こうした経験を活かして、今後とも中央銀行員として一層成長し日本社会に貢献するとともに、国際社会における日本及び日本銀行の地位向上にも貢献していきたいと思います。