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4 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
特集
原子力分野におけるコミュニケーション
〜ステークホルダー・インボルブメント〜
1. はじめに
東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以
下「東電福島第一原発」という。
)事故は、福
島県民をはじめ多くの国民に多大な被害を及
ぼしました。事故から既に 7 年が経過した現在
でも、依然として国民の原子力への不信・不安
が根強く残っています。さらに、
事故を契機に、
我が国における原子力利用は、原発立地地域に
限らず、電力供給の恩恵を受けてきた国民全
体の問題として捉えられるようになりました。
一方で、
我が国では、
国民生活や経済への影響、
気候変動対策の観点を踏まえ、安全を大前提と
して、原子力規制委員会により新規制基準に適
合すると認められた場合には、その判断を尊重
し原発の再稼働が行われています。
こうした状況を踏まえ、原発立地地域をは
じめとして国民の不信・不安に対して真摯に向
き合い、また、関心に応えていくために、双方
向の対話や広聴といったコミュニケーション活
動を強化していくことが必要です。ただし、ス
テークホルダーに対するコミュニケーションの
活動のみで国民の信頼構築が達成できるもので
はなく、これと併せて、コミュニケーション活
動のインフラとして、国民が疑問に思ったとき
に、インターネット等を活用して、自ら調べ、
疑問を解決し、理解を深められるような、科学
的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づ
図 1 原子力関連の理解の深化の取組
(出典)原子力委員会「理解の深化 〜根拠に基づく情報体系の整備について〜(見解)」 5
特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
く情報体系を整えていくことや、その他様々な
取組を実施していくことも重要です(図 1)。我が国の原子力分野におけるコミュニケー
ション活動では、情報や既に決定したことを一
方的に提供し、それを理解・支持してもらうこ
とが主眼とされてきました。現代は、そのよう
な枠組みが有効であった時代とは異なり、個々
人が様々な情報に容易にアクセスすることが可
能になり、多様な関係者が、社会課題に参画す
ることが容易となりました。今後、我が国のコ
ミュニケーション活動を考える上で、今までは
見落としがちであった、以下のような視点が必
要と考えられます。
• どのような者が政策や事業の影響を受けるか
を把握する
(様々なステークホルダーの特定)
• ステークホルダーが何を知りたいかを把握する
• ステークホルダーの関心やニーズを踏まえた
コミュニケーション活動を行う
欧米では、ステークホルダーとのコミュニ
ケーションの本質は信頼の構築にあると捉え、
研究成果等による根拠情報や政策情報などの情
報体系の整備やステークホルダーとの双方向の
コミュニケーション活動に積極的に取り組んで
います。そのような事例も参考にしつつ、我が
国のコミュニケーション活動の在り方につい
て、国も含めて原子力関連機関は考えていく必
要があります。
2. ステークホルダー・インボルブ
メントの基本的な考え方
2.1 国際的背景
科学技術の発展や公害問題・環境問題の発
生等により、社会やそこに暮らす人々の生活に
大きな影響が及ぶ場合に、情報を知りたい、自
分たちの意思を表明したい、意思決定プロセス
に関わりたいといった要望が高まってきまし
た。このように、国際的にも情報公開や意思決
定への一般国民や市民(パブリック)
、一定の
状況において関心又は利害関係がある者(ス
テークホルダー)の参画等への意識が高まった
こと等を受け、2001 年に「環境に関する、情
報へのアクセス、意思決定における市民参画、
司法へのアクセス条約」
(オーフス条約)が発
効されました [1]。
このような国際的潮流の下、諸外国では、
原子力も含めて、環境に大きな影響を及ぼしう
る事案、科学技術的な専門性が高く、不確実性
を伴う事案について、意思決定の過程でパブ
リックやステークホルダーの意見を聴取する等
の取組が積極的に進められています。
例えば、フランスでは 2005 年に、環境に関
する情報にアクセスする権利、環境に影響を与
えうる公的な意思決定プロセスに参加する権利
が、憲法に新たに規定され [2]、原子力政策や
事業に関する意思決定に際しては、パブリック
やステークホルダーの意見を聴取する取組が
強化されています [3]。また、このような法的
義務によらない取組も見られます。英国やス
ウェーデンでは、
「パブリックやステークホル
ダーの意見を意思決定に反映することによって
決定内容そのものを改善していく」との認識を
通じて、意思決定の影響を受ける人々と信頼を
構築する取組を進めています。特に、原子力利
用に伴い発生する放射性廃棄物の処分場のサイ
ト選定プロセスにおいては、立地候補自治体関
係者や住民等の関心や懸念に応え、信頼関係を
構築していくことが必須となります。
また、英国では、王立協会より科学コミュ
ニケーションの重要性に関する文書が 1985 年
に発表され、パブリックに向けた科学コミュニ
ケーション活動が積極的に推進されてきまし
た。しかし、牛海綿状脳症(BSE)の感染問題
の影響等で、科学技術や科学技術的な政策決定
を行う政府に対する不信が高まり、これを契機
に、パブリックとのコミュニケーションの在り
方が見直され、双方向の対話や政策への参画
といった取組が強化されてきました [4]。また、
放射性廃棄物の地層処分施設の立地に関して
も、パブリックやステークホルダーの関与、公
衆対話などの取組が実施されています。
米国においても、核兵器開発施設の廃止措
置と環境回復の活動が 1989 年に開始され、既
に多くのサイトでクリーンアップ作業を完了し
ています。作業を進めていく経験から、成功に
6 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
導くためには、ステークホルダーとのコミュニ
ケーションが必要との教訓が得られています。
2.2 ステークホルダー・インボルブ
メントの在り方
欧米の取組等を踏まえると、パブリックや
ステークホルダーとの関わりには、
「情報環境
の整備」、「双方向の対話」及び政策や事業に係
るプロセスにステークホルダーが参画する「ス
テークホルダー・エンゲージメント」の大きく
三段階があり、この順でステークホルダーの意
思決定プロセスへの参加の度合いが高まると整
理でき、取組全体を「ステークホルダー・イン
ボルブメント」
と捉えることができます
(図 2)1。
活動や状況に応じて、ステークホルダーは
変わります。また、ステークホルダーは一様で
はなく、それぞれの関心によって地域のコミュ
ニティ等のグループに分かれる場合があること
を認識することが重要です。このため、ステー
クホルダー・インボルブメントに際して、
グルー
プごとにアプローチを考えることが必要になり
ます。
1 原子力以外の分野においては、ステークホルダーの参画度合いの高低に応じた言葉の使い方が、この定義と異な
る場合もあります。あらゆる分野に共通する言葉の定義はなく、原子力分野におけるステークホルダーと意思決定
者との関わり方に関する諸外国の事例を調査した結果、原子力委員会として整理したものです。
図 2 ステークホルダー・インボルブメントの全体像
(出典)第 9 回原子力委員会定例会議資料 1-1 号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメ
ントに関する取組について」
(2018 年)に基づき作成
原子力分野のステークホルダー ・ インボルブ
メントにおける 3 種類の取組の目的は以下のよ
うに整理されます。状況やテーマに応じて、最
適な取組を選択・組み合わせることが必要です。
• 情報環境の整備:
ステークホルダーの関心を踏まえて、原
子力発電、放射性廃棄物管理等の原子力利
用やそれに対する安全規制について、科学
的に正確な情報や客観的な事実 ( 根拠 ) に基
づく情報 ( 政策情報を含む ) をステークホル
ダー自らが入手できる環境を構築
• 双方向の対話:
ステークホルダーとの双方向なやり取り
を通じ相互理解を実現
• ステークホルダー・エンゲージメント ( 参画 ):ステークホルダーが、社会やステークホ
ルダーに影響を及ぼす政策や事業に係るプ
ロセスに参画
また、これらの取組を行うに当たっては、
共通事項として、以下の点について十分に考慮
する必要があります。
• テーマや状況に応じて、どのような目的で行
うかを明確に設定すること
• 関心や目的、テーマに応じて、アプローチする
( ステークホルダーを関心によって見付け出す ) 7特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
• ステークホルダーの関心や懸念を把握する
• ステークホルダーと協働する
• 相手に対する尊敬、透明性、公開性、専門性
を担保すること
• 社会は絶えず移り変わるので、方法を常に変
化・改善すること
これらの点に十分に留意した上で、それぞ
れの取組では、以下のような方法が具体的に考
えられます(図 3)。• 情報環境の整備:
・理解してほしいことを一方的に発信や広
報する「Push 型」から、自ら調べ、疑問
を解決し、
理解を深められるような「Pull
型」へ移行する
・対話や調査、SNS の定点観測等を活用し
て、ステークホルダーの関心や期待を把
握し、それに応える対応を行う
・共通理解を図るために、広範な意味を持
つ言葉、曖昧な意味を持つ言葉等につい
て、その定義を明確にする
・シンプルで明確な言葉を使う
・科学の不確実性やリスクに十分留意する
・安全性を強調するとかえって不安になる
人間心理に配慮する
• 双方向の対話:
・ステークホルダーの関心や期待を聞くこ
とから始め、それに応える対応を行う
・情報を押し付けるのではなく、誰が事実
を確認するか、どうそれを見付けるかに
ついて、まず合意するなど、協働して事
実を見付ける
・対話のためにファシリテーション(対話
の舵取り)のスキルを身に着ける
・対面(Face to Face)の対話や、個人の
参画、地域の巻き込みを行う
• ステークホルダー・エンゲージメント ( 参画 ):・意思決定・規制のプロセスの早い段階で
ステークホルダーが参画する
・画一的なアプローチは存在せず、個別の
課題ごとにふさわしい在り方を検討する
・将来的な観点から、若い世代を巻き込む
・プロジェクトに対する反論や反発によく
耳を傾け、その根拠を把握する
・後戻りを許容し、失敗しても、そこから
得た教訓を次の取組に活かす。そのため
にも、検討、議論された内容を記録とし
て残す
・時間の経過によってもステークホルダー
は変わることから、同じ議論を極力繰り
返さないためにも結論に至った議論、争
点などの記録を次の世代への資産として
残す
ステークホルダーは一様ではないため、ス
テークホルダー・インボルブメントには、どの
ような問題にも当てはまる画一的な方法はあり
ません。このため、まず、関心や意見に耳を傾
け、それに丁寧に対応することからステークホ
ルダー・インボルブメントの活動を始めること
が重要です。その上で、社会情勢や、各原子力
関連機関のミッションとそれを遂行する上での
課題に応じて、ステークホルダーと真摯に向き
合い、時間をかけて取り組むことで信頼関係の
構築につなげていくことが必要です(図 4)。 また、国民への根拠に基づく情報の提供は、
双方向の対話やステークホルダー・エンゲージ
メントの基盤として必須であり、原子力関係機
関の責任(アカウンタビリティ)として、その
適切な実施が不可欠です。
8 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
図 3 ステークホルダー・インボルブメントの要点
(出典)第 9 回原子力委員会定例会議資料 1-1 号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメントに関する
取組について」
(2018 年)
図 4 社会全体で見たステークホルダー・インボルブメント
(出典)各種情報より内閣府作成(2018 年) 9特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
〜ステークホルダー対話の 5 つの落とし穴〜
コラム
日・英ステークスホルダー対話と関与に関するワークショップ(2014 年 2 月 5-6 日、在日
英国大使館)において、英国のコンサルタントは、ステークホルダー対話の 5 つの落とし穴
をその方策とともに次のようにまとめています。
落とし穴 1:ステークホルダーのリストを使う 方策:興味によって見付け出せ
落とし穴 2:まちがった方法(書類の山)
方策:作業の道具を選べ
落とし穴 3:会合の場を限定すること 方策:数に応じて設計せよ
落とし穴 4:まちがったスタッフを送ること 方策:責任あるスタッフを送れ
落とし穴 5:事実を一方的に伝えること 方策:共同 で事実を見付け確認せよ
「事実を一方的に伝えること」は落とし穴です。信頼構築がコミュニケーションの目的なの
で「誰が事実を確認するか、どうそれを見付けるかについて、まず合意せよ」と述べられて
います。
原子力専門家はコミュニケーションにおいて知っていること、知ってほしいことを伝えよ
うとしますが、これは落とし穴であることに注意する必要があります。根拠情報を見付けや
すく分かりやすい形で作成し提供することの重要性がこのことからも理解できます。
ステークホルダー対話のスキルはファシリテーション訓練で習得することができます。
ファ
シリテーションは、対話の場において発言や参加者の参画を促し、話の流れを整理するなど、
合意形成や相互理解をサポートすることにより、組織や参加者の活性化・協働を促進させる
能力です。ファシリテーション協会がビジネススキルの訓練としてファシリテーション訓練
を提供しています。
コミュニケーションやステークホルダー対話の経験は、それに関与したコミュニケーター
やコンサルタントが持っていますが、文書化されたものは少ないので、ファシリテーション
訓練によってスキルを習得した人材を育成する必要があります。
さらに、ステークホルダー対話においては、政府や事業者の意図するように理解が得られ
るとは限らないので、失敗を許容し、その教訓を活かす心構えが必要です。
10 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
3. 諸外国におけるステークホルダー ・
インボルブメントの個別事例
ステークホルダー・インボルブメントの在
り方を考えていく上で参考となる、諸外国の事
例の紹介を行います。
特に、
先進的な取組を行っ
ていると考えられる英国と米国の事例を詳しく
紹介します。
3-1 英国におけるステークホルダー・
インボルブメントの考え方と現状
(1)背景と全体像
英国では、1980 年代から科学技術と社会へ
の関与について理解が進んでいますが、1990
年代後半に発覚した BSE の感染問題の影響で、
急速に発展する科学技術やそれに関わる政府や
産業界に対する不信が高まり、これを契機とし
て、パブリックとの関わり方が大きく見直され
ました。例えば、議会上院科学技術委員会が
2000 年 2 月に取りまとめた報告書では、パブ
リックが科学技術に対する不信を募らせている
状況のままでは、科学技術やその政策決定に対
して社会的受容を得るのは難しく、信頼を回復
するための方策として、これまでの理解増進を
目的とした一方向の情報提供ではなく、意思決
定に係るプロセスにおいて、双方向の対話やス
テークホルダー・エンゲージメントをはじめと
したステークホルダーとの協働に取り組むこと
の重要性が強調されました [4]。また、2000 年
10 月に公表された英国政府の BSE 調査委員会
の報告書では、
科学技術に関する問題で、
特に、
不確実性をはらむものについて公開性や透明性
を確保し、信頼の回復につなげていくことの必
要性が指摘されました [5]。このような指摘等
を踏まえ、政府による危機管理対策の強化が図
られるとともに、双方向の対話や意思決定プロ
セスへの参画といった取組が強化されてきまし
た。
このような背景の下で、英国の原子力分野
においても、原子力関連機関によるステークホ
ルダー・インボルブメントに関する多様な取組
が行われるとともに、科学コミュニケーション
でも原子力が扱われ、裾野の広い活動が展開さ
れています(表 1)。 11
特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
表 1 英国で実施されているステークホルダー・インボルブメントの取組事例
主体 内容
情報環境の整備
<政府>
・首相や大臣に科学的な助言を行う政府主席科学顧問が、東電福島第一原発事故のよ
うな緊急事態において、緊急時科学助言グループを招集し、政府や一般の人々に
向けて科学的根拠に基づいた適切な助言を与える活動の取組を実施。
<事業者、民間、学協会、アカデミア等>
・EDF エナジー社が各原子力発電所のウェブサイトで、政府や規制機関の政策文書へ
のリンクも含めて、ステークホルダーが情報にアクセスできる環境を整備。
・サイエンスメディアセンター(SMC)が、議論を呼び、誤報の可能性があるような
複雑な問題について、明確で根拠に基づく情報提供を行うため、科学技術分野の
ニュースに関して、専門家とメディアをつなぐ等の取組を実施。
・英国学術協会(BSA)が開催する非専門家向けの科学技術紹介イベントであるサイ
エンス・フェスティバルで、原子力分野の博士課程の学生が展示を企画・実施。
・科学技術に対する誤解を解くことを目的に設置された Sense about Science が、大
学の研究者の協力を得て、気候変動対策を行う上で有効な選択肢の 1 つである
原子力利用について客観的な最新の情報を提供し、誤解を解くことを目的として
「Making Sense of Nuclear」と題したガイドを取りまとめ。
双方向の対話
<政府>
・公衆対話センターは、科学技術に関わる政策立案における国の公衆対話を支援する
「Sciencewise」プログラムを実施。高レベル放射性廃棄物の地層処分場の問題、新
型炉の設計評価の問題について、パブリックやステークホルダーとの対話等を実
施。
<事業者>
・地域社会と原子力関係者間の橋渡しを行う目的で、地域連絡委員会(LLC)
、サイ
トステークホルダーグループ
(SSG)、地域社会連絡委員会
(LCLC)
と呼ばれるステー
クホルダーが参画する組織を設置し、原子力施設の許認可を有する事業者により
運営。地域の行政機関や労働組合、立地地域住民等が参加。
・原子力業界と政府の協議体である原子力産業協議会(NIC)が、原子力に対する信
頼を維持することを念頭に、パブリックとのコミュニケーションの在り方や方策
を取りまとめ(In the Public Eye)、4 つのベストプラクティス原則(透明性、
尊敬・開示性・透明性に基づく信頼、対話、相談・対話の促進)を採用。これらを含め
た戦略に基づき、NIC に参加する原子力企業は、2015 年にパブリック・エンゲー
ジメントに関する協約に署名。
<科学者・大学教員等>
・実践的な研究活動のために、対話活動を行う自発的なグループが多数存在し、それ
ぞれが活動している。
ステーク
ホルダー・
エンゲージメント
<政府>
・政策担当部署は、パブリックに影響する大規模なプロジェクトや施策、法案等につ
いて、広く意見を求めるプロセスであるコンサルテーションを実施。
(出典)第 9 回原子力委員会定例会議資料 1-1 号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメントに関する
取組について」
(2018 年)に基づき作成
12 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
2 事業者やアカデミアによる情報
環境の整備
事業者やアカデミア等がそれぞれのウェ
ブサイト等を通じ、ステークホルダーに対
して積極的に情報を提供する、100 を超え
るウェブサイトが運営されています。また、
ウェブサイトには情報に関連したリンクを
張るなどステークホルダーが自らの関心に
沿って情報にアクセスできるような環境が
整備されています。例えば、英国内で原子
力発電所を運転している EDF エナジー社で
は、同社が運転するヒンクリーポイント B
原子力発電所に関する安全・報告のページ
を設け、緊急時対応における EDF エナジー
社の基本方針を簡潔にまとめたものを掲載
するとともに、政府や ONR の関連情報への
リンクも掲載しています(図 6)。図 5 エネルギーセキュリティに関する英政府ウェブサイト
(出典)BEIS ウェブサイト4(2)情報環境の整備
1 政府による情報環境の整備
英国では、BSE 感染問題を契機として、
ステークホルダーに対して、意思決定に関
する透明性を高める取組を行ってきました。
また、2012 年に公表したデジタル戦略 [6] に
より、それまで省庁が個別に運営していた
サイトは、英国政府の総合サイト GOV.UK
サイト上に集約されました。省庁の管轄に
よらず、政策テーマごとに情報が整理され
ており、あるテーマに関するウェブページ
から、リンクを経由して関連情報を探すこ
とができます。例えば、エネルギーセキュ
リティのテーマでは、エネルギー政策を管
轄するビジネス・エネルギー・産業戦略省
(BEIS2)と労働活動における安全衛生上の
規制を行う安全衛生庁(HSE3)のそれぞれ
の関連文書が掲載されています(図 5)。また、原子力規制局(ONR5)は、四半期
に一度の頻度で、原子力施設に対して実施
した検査結果等について、ステークホルダー
向けに簡潔にまとめた報告書を一覧にして
ウェブサイトで公開しています [7]。
このように、ステークホルダーを意識し
た簡潔で分かりやすい情報を整備し、公開
していることで、関心を持っているステー
クホルダーが情報にアクセスできる環境が
整備されています。
2 Department for Business, Energy & Industrial Strategy
3 Health and Safety Executive
4 https://www.gov.uk/guidance/2050-pathways-analysis
5 Office for Nuclear Regulation 13
特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
図 6 EDF エナジー社
ヒンクリーポイント B 原子力発電所の安全や事象報告に関するウェブサイト [8]
(出典)EDF エナジー社6(3)双方向の対話
1 政府による双方向の対話
英国政府は科学技術に関する政策立案に
際して、早い段階からパブリックやステー
クホルダーとの対話を行い、その成果や提
示された意見を政策立案に活用しています。
特に特徴的な取組として、2004 年に英国政
府が開始した Sciencewise プログラムが挙
げられます。同プログラムは政府が政策決
定をより良いものとしていく上で、パブリッ
クやステークホルダーと対話を実施するた
めの支援を行っています。原子力分野にお
いても、放射性廃棄物管理に関する公衆対
話や、新型原子炉の一般設計評価に際して、
双方向の対話が実施されています。
放射性廃棄物管理に関する対話
英国における放射性廃棄物の地層処分場
選定手続では、これまでに、英国政府は何
度もパブリックやステークホルダーの意見
を聴取し、改善を図っています(図 7)。<地層処分場選定プロセスの頓挫を受けた
対話活動>
英国政府は、2008 年 6 月に公表した白書
「放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実
施に向けた枠組み」に基づき、地層処分場
の選定手続を進めましたが、立地に関心を
示した自治体が全て撤退したことを受け、
手続の見直しに着手しました。2013 年 9 〜
12 月にかけて新たなサイト選定手続に関す
るパブリックコンサルテーション(パブリッ
クに影響する大規模なプロジェクトや施策、
法案等について、広く意見を求めること)
を実施するとともに、
2013 年 11 月〜 12 月に、
パブリックコンサルテーションでの意見提
出を促すことを目的として、Sciencewise の
枠組みを活用したパブリックやステークホ
ルダーとの対話活動としてワークショップ
を実施しました。
6 https://www.edfenergy.com/energy/safety-reporting/protecting-public
14 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
これらのワークショップでは、選定手続
の透明性、公平性の重要性等に関する意見
が参加者から出されました
(図 8)。また、
ワー
クショップ後に実施されたアンケートでは
(図 9)
、参加したパブリック、ステークホル
ダー等の約 60%が、政府が新たな政策決定
を行う上で、自分たちの意見が考慮された
と回答しています。また、参加したパブリッ
クの約 50%がワークショップに参加したこ
とは、地層処分場のサイト選定に関する自
分自身の見解に影響を与えたと回答してい
ます [9]。
図 8 Sciencewise の枠組みを活用した対話で参加者から示された意見
(出典)Icarus Collective Ltd.「Evaluation of the engagement events during the geological disposal facility siting
review consultation」
(2015 年)に基づき作成
図 7 英国の放射性廃棄物地層処分場サイト選定プロセスの経緯
(出典)第 9 回原子力委員会定例会議資料 1-1 号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメントに関する
取組について」
(2018 年) 15特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
<対話結果を踏まえた新たな白書の策定と
更なる対話活動>
英国政府は 2014 年 7 月に白書「地層処分
の実施 ‐ 高レベル放射性廃棄物等の長期管
理に向けた枠組み」を公表しました [11]。こ
の中で英国政府は、今後、地質学的スクリー
ニング調査を実施し、地層処分施設の設置
に関心を示した自治体を含む地域が協働す
る手続を策定した後、英国の高レベル放射
性廃棄物等の地層処分の実施主体である放
射性廃棄物管理会社(RWM 社)が処分場設
置に関心を示した地域と正式な協議を行う
という方針を示しました。
白書では、対話等で示されたパブリック
やステークホルダーの関心が反映されると
ともに、シンプルな表現で、また、視覚的
に分かりやすくなるように工夫する等、専
門知識を持たない人にも分かりやすいもの
となっています(図 10)。また、この白書では、パブリックコンサ
ルテーションや対話活動で提起された課題
で、簡単に解決できない事項については、
継続的に協議を行う方針も示されています。
例えば、地域との協働手続に関して、コミュ
ニティの代表の定義等、課題が残されてい
ました。このため、英国政府は、再度、Sci-
encewise の枠組みを活用し、2015 年 12 月
〜 2016 年 3 月に、パブリックやステークホ
ルダーとの対話を行い、
「コミュニティの代
表の定義」、「処分場選定手続への参加可否
に対する住民の支持を確認する方法」、「手
続から撤退する権利」、「手続に参加した地
域に対する投資」という 4 つのテーマに関
して、議論を行いました。その結果、住民
投票によって住民の支持を最終確認するこ
とや、選定プロセスの透明性を確保するこ
図 9 Sciencewise での対話後に参加者に対して実施されたアンケート結果
(出典)Icarus Collective Ltd.「Evaluation of the engagement events during the geological disposal facility siting
review consultation」
(2015 年)に基づき作成 [10]
16 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
と及び、政府や RWM 社と地域住民との間
の緊密なコミュニケーションを行うことに
ついて合意に至りました。一方、コミュニ
ティの代表の定義に自治体を含めるか否か
の判断や、
住民投票の対象となる範囲(年齢、
人数、居住地域等)については、意見集約
が進みませんでした。
<地層処分場選定プロセスの詳細検討のため
のパブリックコンサルテーションの開始>
このパブリックやステークホルダーとの
対話の結果を踏まえて、英国政府は 2018 年
1 月に、地域との協議手続案を公開し、新た
なパブリックコンサルテーションを開始し
ました。この中で、英国政府は、地層処分
場の立地を希望するコミュニティを特定す
るために、関心を持つ複数のコミュニティ
の代表者(市議会や州議会等の地方自治組
織や地元企業等)との協議を行いながら、
地域住民の同意も得ながら、手続を進める
ことを提案しています。このため、関心を
持った自治体等がプロセスへの参加検討を
支援するための関与形成チームを組織する
ことも提案しています。このチームには独
立したチーム長やファシリテーターが置か
れ、RWM 社の職員や調査エリアに含まれ
る市議会や州議会等の地方自治組織や、地
元企業等が参加し、選定プロセスへの参加
に当たっての関心や懸念に答え、信頼を構
築することを目的としています。今後政府
は、
2018 年 4 月まで実施されたコンサルテー
ションの結果を踏まえて、地域との協議プ
ロセスを最終決定する予定です [12]。
<新型原子炉の一般設計評価でのステーク
ホルダーとの対話の活用>
英国政府は 2008 年 1 月に公表した原子力
発電に関する白書において、原子力発電所
を新規建設する方針を打ち出しました。こ
れに関して、規制機関(ONR)による炉型
の評価である包括的設計審査(GDA)に対
して、ONR、環境庁、ウェールズ自然保護
機関(NRW7)は、ステークホルダーの参
加をどのようにするかを検討するために、
2014 年 11 月〜 2015 年 8 月の 10 か月間にわ
たって、パブリックとの対話活動を実施し
図 10 英国政府の 2014 年白書に盛り込まれた視覚的に分かりやすい図の例
(出典)英国政府白書「地層処分の実施 ‐ 高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み」
(2014 年)[11]
7 Natural Resources Wales 17特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
ました。まず、パブリックの関心等を把握
するために、401 名8を対象にオンライン調
査を実施し、その後、第 1 ラウンドのワー
クショップを 2015 年 1 月に 2 か所で 41 名
を対象に実施して9、GDA に関するトピッ
クや背景について、オンライン調査で把握
した関心等に応える形で紹介を行いました。
その後、同参加者を対象として、2015 年 3
月に第 2 ラウンドのワークショップを開催
し、GDA についての理解を深めるための議
論が行われ(図 11)
、以下のように総括され
ました(図 12)[13]。
GDA に関する Sciencewise の枠組みを活
用した対話の経験を踏まえ、規制当局は、
GDA に関する総合的な情報をグラフィック
も活用して整備する等、ウェブサイトやコ
ミュニケーションツールの内容を工夫して
います。また、信頼構築していく上で、対
面(Face to Face)での対話の重要性を確認
できたと、対話の成果を評価しています。
図 11 GDA に関する Sciencewise の枠組みを活用した対話活動の流れ
(出典)Sciencewise「Case Study New nuclear power stations – improving public
involvement in reactor design assessments」
(2016 年)に基づき作成 [14]
8 居住地、年齢、性別の構成が 2011 年の英国国勢調査結果と同じ比率となり、全国民の意見が反映されるように選
択されています。ただし、原子力に対して明確な意見を表明している原子力業界関係者や NGO メンバーは除かれ
ています。
9 第 1 ラウンドのワークショップ参加者は、複数の性別、年齢、社会階層で構成される者を選択。ただし、原子力業界関
係者や、原子力に賛成・反対等の活動を行っている者は除かれています。第 2 ラウンドのワークショップ参加者は、
第 1 ラウンドのワークショップの参加者のうち、第 2 ラウンドへの参加関心を表明した者から選定されています。
18 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
2 事業者等による双方向の対話
1)業界での取組
英国の原子力産業界と政府との協議体で
あり、原子力産業界を主導する役割を果た
す原子力産業協議会(NIC10)は、2014 年
に、原子力業界の社会に対するコミュニケー
ション活動に関する"In the Public Eye"と
題した文書を取りまとめました [15]。同文書
では、ステークホルダー・インボルブメント11
に関するベストプラクティスから導出
された原子力に対するパブリックの態度を
高める以下の 4 つの原則を採用する方針が
示されています。
•「透明性」
(clarity)
• 相互尊敬に基づく「信頼」
(trust)
• 国民が気にしている問題を聞き、対応す
る機会としての「対話」
(dialog)
• 原子力に関する政府の政策の実際的な作
業としての地域のステークホルダーとの
「相談」
(consultation)
の促進
(facilitation)
このような方針に基づく取組を、原子力
業界横断的・協調的に実践していくために、
NIC に参加する原子力企業は、
2015 年 12 月に、
ステークホルダー・エンゲージメントに関す
る協約に署名しました [16]。この協約では、
以下の 4 つの原則が示されています(図 13)。2)各事業者による地域のステーク
ホルダー組織
各事業者は、特に原子力施設の立地地
域住民を対象とした双方向の対話を行っ
ています。例えば、地域社会と原子力関
係者間の橋渡しを行う目的で、地域連絡
委 員 会(LLC12)
、 サ イ ト ス テ ー ク ホ ル
図 12 GDA に関する Sciencewise の枠組みで実施された対話での議論の総括
(出典)3KQ「GDA public dialogue report」
(2015 年)に基づき作成
10 Nuclear Industry Council
11 原語ではパブリックインボルブメントとされていますが、前述のとおり、ステークホルダーは状況に応じて変わ
り、場合によっては、国民全体もステークホルダーになりえるので、本特集記事においては、ステークホルダー・
インボルブメントと読み替えて記載しています。
12 Local Liaison Committees 19特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
図 13 協約に示されたステークホルダー ・ エンゲージメントの 4 つの原則
(出典)NIC「Concordat for Public Engagement」
(2015 年)
ダ ー グ ル ー プ(SSG13)
、 地 域 社 会 連 絡 委
員会(LCLC14)と呼ばれるステークホル
ダーの会が、原子力発電所が立地する地
域等に設置され、原子力施設の許認可を
有する事業者によって運営されています15[17]。
SSG の設置は、法令等で事業者に義務付
けられているわけではないものの、原子力
廃止措置機関(NDA16)が所有する原子力
サイトに設置されている SSG17については、
NDA が SSG の組織構成等を示した包括的
なガイダンス文書を作成しています。同ガ
イダンス文書では、SSG の活動内容が以下
のように説明されています [18]。
• 地 域 社 会 を 代 表 し て、 サ イ ト 操 業 者18、
NDA、規制機関からの情報提供を受け、質
問する。
• サイト操業者等の事業計画や進捗についてコ
メントするとともに、関心のある情報に対
する最新情報を要求する。
• NDA やサイト操業者、規制機関に対して適
時の助言(SSG 会合での発言、NDA のコン
サルテーションへの回答等)を行うことを
通じて地域社会の見解を表明する。
EDF エナジー社の原子力発電所に設置さ
れている LLC や LCLC についても同様の活
動が実施されています。ヘイシャム原子力
発電所の LCLC については、地元住民、メ
ディア、消防や救急機関、地元代議士等の
ステークホルダーが参加しています。定期
会合では、一般公衆が傍聴することも可能
であり、会合の最後には質問も受け付けら
れています [19]。
13 Site Stakeholder Group
14 Local Community Liaison Councils
15 SSG:バークレー、
チャペルクロス、
ドーンレイ、
ダンジネス、
ヒンクリーポイント、
ハーウェル、
ハンターストン、
オールドベリー、
サイズウェル、
スプリングフィールズ、
西カンブリア 、
トロースフィニッド、
ウィンフリス、
ウィ
ルファ、LCLC:ハートルプール、ヘイシャム、ブラッドウェル、LLC:カーペンハースト、トーネス
16 Nuclear Decommissioning Authority
17 NDA サイトのうち、ブラッドウェルのみ LCLC が設置され、残りは SSG が設置されています。
18 NDA が所有する原子力サイトの実際の事業運営は、サイト操業者(多くは民間企業)に委託されています。
20 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
(4)政府によるステークホルダー・
エンゲージメント
英 国 政 府 に よ る ス テ ー ク ホ ル ダ ー・ エ
ン ゲ ー ジ メ ン ト の 取 組 と し て は、 政 策 文
書等に関するパブリックコンサルテーショ
ン が 挙 げ ら れ ま す。 例 え ば、 原 子 力 発 電
所 の 新 設 に 関 す る 国 家 政 策 文 書(NPS19)
について、政府は 2017 年 12 月から 2018 年 3
月まで、ウェブサイト上でパブリックコンサル
テーションを行いました。NPS では、2026 年
以降に新たに原子力発電所を建設するのに適し
たサイトの候補が記載され、政府はコンサル
テーションで寄せられる意見を踏まえて、NPS
を最終決定し、議会での承認を得る計画です。
なお、現在作成されている NPS は 2 度目で、
初回の NPS は 2009 年に案が公表され、今回と
同様にパブリックコンサルテーションが実施さ
れました。最初の結果を踏まえて政府は NPS
案を変更し、さらに、その変更が環境・社会・
経済面での影響評価に係る部分であったことか
ら、
2010 〜 2011 年にかけて、
再度コンサルテー
ションを実施し、2011 年に最終決定されまし
た。
また、
英国政府はコンサルテーションを行っ
た後、NPS のような政策文書を最終決定する
際には、コンサルテーション中に寄せられた意
見等の内容を分析・整理し、その内容をどのよ
うに最終決定された文書に反映したのかについ
て総括した報告書を公表しています [20]。この
ような例は、英国政府がステークホルダー・エ
ンゲージメントを行い、政策に係るプロセスへ
のパブリックやステークホルダーの参画を実現
している例といえます。
19 原子力発電所を含めた国家的に重要なインフラ・プロジェクト(NSIP)の許認可に際して、迅速に判断を下すた
めに策定される政府の戦略的方針です。 21特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
〜コミュニケーションに用いられる心理面の考察〜
コラム
英国では多くの科学者が科学コミュニケーションに関わっています。コミュニケーション
に用いられるメッセージの心理面について次のような考察が発表されています。
英国王立大学の M. グリムストンは「世論は、科学に根ざして議論されるわけではない。
例えば、英国では、はしか、おたふく風邪、風疹のワクチン接種、携帯電話のアンテナ支
柱、狂牛病、遺伝子組み換え作物、低レベル放射線などが、同じ道をたどっている」として、
その原因を考察し、
「コミュニケーション問題では、
「公衆」
(メディアを含む)に合理性があ
り、産業界は不合理であることがよくある」、「人間的・心理的に捉えられる合理性は、技術
的な合理性よりも「下位」なのではなく、
別のものである。あらゆるコミュニケーションでは、
心理的な合理性を第一に考えなければならないと述べています。
グリムストンは著書で、
"放射線恐怖症"の原因を考察し、原子力特有の表現に問題がある
と述べています。例えば、
「二度と東電福島原発のような事故を起こしてはいけないと直接的
に述べるのは、原子力特有で、絶対安全が可能で、必要だと話しているのと同じである。原
子力産業ではこのような言い方をすることが多いが、他の産業ではこういう言い方はしない。
石油業界は原油漏れによる海洋汚染について、今回の教訓を活かして今後はよりよく対応で
きると述べる」としています。
グリムストンは「安全であることを一生懸命説明すればするほど、逆に危険であると不安
を与えることになる。これは世界中の原子力産業界にいえることで、ぜひとも原子力産業界
には普通になってもらいたい。原子力が非常に危険と考えずに、科学・工学に基づいて実施
している安全対策を実直に説明することが重要である。国民の理解のためには正直で一貫性
のある説明、知らないことを認めること、他の観点を受け入れること、原子力反対派も含む
利害関係者と信頼関係を築くこと、正確な事実を伝えること、メディアの不正確な情報に異
議を唱えること、長期的なプロセスが必要である。
」と 2014 年の日本原子力産業協会の年次
大会で講演しています。
英国ではこうした心理面の考察結果が、産業界の行う原子力コミュニケーションにおいて
参考にされています。英国や米国ではリスクコミュニケーションがコミュニケーションその
ものとは考えられていません。日本の原子力コミュニケーションではリスクコミュニケーショ
ンに重点が置かれてきましたが、今後はメッセージの心理面を理解して、ステークホルダー
の関心に応じて、コミュニケーションする必要があります。
22 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
3-2 米国におけるステークホルダー・
インボルブメントの考え方と現状
(1)背景と全体像
米国では、
1979 年に発生したスリー・マイル・アイランド(TMI20)原子力発電所事故の発生
後に、事故に関して発する情報の質やその発信
の仕方に問題があり、事業者と原子力規制委員
会(NRC21)に対する不信感を大きくした反省22から、ステークホルダー・インボルブメント
の必要性や重要性が認識されるようになりまし
た。
NRC は、放射性物質の利用等の監督とそれ
による公衆や環境の保護というミッション達成
には、
「開示(openness)
」と「パブリックの
参加(public participation)」、
「協働(collabora-
tion)」が必要不可欠と考えるとともに、
パブリッ
クやステークホルダーの信頼を醸成しながら規
制活動を実施しなければならないという基本姿
勢を表明し、これを NRC ウェブサイト上で公
開しています。また、NRC は、ステークホル
ダーとして以下の 7 類型を示しています(図
14)[21]。
NRC はこうした基本姿勢を示し、ステーク
ホルダーを特定した上で、安全規制に関する説
明責任を果たすために、様々なステークホル
ダー・インボルブメントの取組を行っています
(図 15)[22]。
図 14 NRC のステークホルダー
(出典)NRC「Citizen's Guide to U.S. Nuclear Regulatory Commission
Information」
(2003 年)[21]
図 15 NRC のステークホルダー・インボルブメントに関する取組のポイント
(出典)NRC「Remarks by Chairman Stephen G. Burns Nuclear Energy Agency Workshop on
Stakeholder Involvement in Nuclear Decision Making Keynote Speech January 17, 2017
Paris, France」
(2016 年)に基づき作成
20 Three Mile Island
21 Nuclear Regulatory Commission
22 事故後に大統領の指示により設置されたいわゆる「ケメニー委員会」の報告書で指摘がなされています。 23特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
また、エネルギー省(DOE23)は、全米に国
立研究所や、過去の核兵器の開発・製造によっ
て汚染され、DOE にクリーンアップの責任が
あるサイト等を多数有しており、それらの活動
状況をまとめて、ウェブサイトや報告書で公開
しています。さらに、これらの情報から、各地
の国立研究所のより詳しい活動状況も検索でき
るようになっており、このような情報環境の整
備が、ステークホルダーの廃止措置・環境回復
活動に対する理解増進に役立っていると考えら
れます。さらに、ワシントン州ハンフォードサ
イトにおけるクリーンアップ活動への新技術の
適用や公衆の健康と安全などのテーマに関し、
公衆、先住民など関係するステークホルダーと
の協議を行ってきている例 [23] のように、ス
テークホルダー・インボルブメントの活動が積
極的に進められました。
一方で、事業者は地元住民を対象として、
緊急時の対応等に関する実践的な情報に関する
情報環境の整備等のステークホルダー・インボ
ルブメントの取組を行っています。また、電気
事業者が加盟する業界団体である原子力協会(NEI24
)は、
原子力産業界の代表という立場で、
原子力発電の価値を訴求すべく連邦議会や中央
メディアなどのステークホルダーへ働きかけを
行っています。
(2)情報環境の整備
米国では、科学振興協会(AAAS25)が意思
決定や政策決定のあらゆる局面で科学的根拠の
適切な活用の促進をリードしています。その範
囲は、地域レベルから、州、国家更には国際的
な政策にまでわたります。英語の根拠情報が、
米国のみならず、世界の学協会、国際機関等で
作成され、インターネット検索を考慮して提供
されています。これらが、政策決定における科
学的根拠に基づくコミュニケーションの基盤を
形成しています [24]。
1 政府による情報環境の整備
1)DOE による取組
DOE における情報体系の整備の取組の
事例として、OpenNet データベースの構築
が挙げられます。OpenNet データベースは
約 50 万件の書誌情報や約 15 万件の機密扱
いを解除された文書(情報公開法(FOIA)
による情報公開請求に応じて機密解除され
たものを含む)にアクセスするためのデー
タベースです。OpenNet データベースは、
より多くの情報を提供できるようにするた
めに、定期的にアップデートされています
[25]。加えて、環境管理局(EM)では、核
兵器開発施設の廃止措置に係る政策情報が
作成され、HP で公開されているとともに、
各地域におけるステークホルダー関与の活
動が進められており、必要な情報や進捗状
況等が提供されています。また、原子力エ
ネルギー局(NE 局26)では、原子力エネ
ルギーの研究開発の政策が提供されていま
す。さらに、原子力エネルギー局のホーム
ページのメニューには「教育」の欄があり、
国家エネルギーのオプションや将来の選択
等について情報に基づく決定ができるよう
に、学生を対象にした事実情報の提供を行っ
ています [26]。
「原子力の利用(Harnessed
Atom)
」と題するカリキュラムには、学生
向けと教師向けの資料が作成されています
[27]。
2)NRC による取組
米国では、NRC のウェブサイトが、パブ
リックやステークホルダーに対する原子力
安全関係の情報源として主要な役割を果た
し、NRC の役割や予算、活動・意思決定、
規制原則・目標・規制方法、ステークホルダー
の認識・明示、NRC の存在価値を高める方
法等について、正しく、分かりやすい情報
23 Department of Energy
24 Nuclear Energy Institute
25 American Association for the Advancement of Science
26 Office of Nuclear Energy
24 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
を作成し、タイムリーに公開しています。
NRC では、情報公開のシステムとして以
下の 3 つの形態を有しています [21]。
イ)ADAMS27ADAMS には、NRC が作成・公表してい
る規制関連文書や原子力事業者が NRC に提
出した文書等に文書番号を割り当てられて
登録されており、関心のある情報を容易に
検索できるシステムです。また、NRC が開
催するパブリックミーティングで配布する
資料には、関連文書の ADAMS 番号が記載
され、詳しい情報を知りたい人は ADAMS
で容易に検索できるといった工夫もされて
います。
ロ)ウェブサイト
NRC のウェブサイトには、東電福島第一
原発事故から得られた教訓等、注目度の高
いトピックの情報へのリンクが置かれてい
ます。その他、委員会会合の予定や動画中
継へのリンク、委員のスピーチ等が閲覧・
視聴できます。また、学生・生徒や教師へ
の情報提供のコーナーも整備されるなど、
閲覧者のニーズを考慮した情報が整備され
ています。
ハ)NRC の政府情報探索サービス(GILS28)
GILS は連邦政府全体の中で、情報源を特
定し、示すためのシステムです。NRC は、
政府情報探索サービスに参加しており、関心
を持ったステークホルダーは同サービスを通
じて、NRC の情報を探すことが可能です。
27 Agencywide Documents Access and Management System、ADAMS https://adams.nrc.gov/wba/
28 Government Information Locator Service 25特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
〜 NRC による情報環境の整備を通じたコミュニケーション〜
コラム
NRC は「Regulator of Nuclear Safety」と題した基本文書 [28] において、原子力発電等の
事業に対する規制が必要な理由に始まり、その規制を行う NRC の組織、規制の内容(原子力
発電所に対する許認可発給、検査)
、規制に必要な研究開発等について説明しています。また
NRC の規制活動にとどまらず、核分裂反応の仕組み、原子炉の構造等の基本的な情報や、核
セキュリティ、放射性廃棄物管理等、原子力利用に関する広範な分野について、以下のよう
な図絵を用いて分かりやすく説明しています。さらに、同基本文書の末尾には、より詳細な
情報が知りたいと思ったパブリックやステークホルダーが情報を得られるように、関連する
ウェブサイトの URL も示されています。
NRC がこのような文書を作成して公開する背景には、情報環境の整備やステークホルダー・エンゲージメントの取組が、NRC の規制活動の基盤となると考えていることがあります。
NRC は 2014 〜 2018 年を対象とする戦略プランにおいて、規制の透明性を担保するため、パ
ブリックにとっての読みやすさを追求すること、技術的な情報についても、可能な限り平易
な言葉を用いて説明すること等の方針を掲げています [29]。
(出典)NRC「NRC–Independent Regulator of Nuclear Safety」
(2012 年)
26 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
2 事業者による情報環境の整備
1)NEI による取組
NEI は米国の原子力発電を行う電力会
社や原子炉メーカーなど原子力関係企業を
会員とする協会です。原子力発電所近隣に
居住する住民をはじめとしたステークホル
ダーの声や反応について、会員事業者とタ
イムリーに共有することで、ステークホル
ダーが何に関心を持っているかを把握し、
原子力産業界としての情報を発信していま
す。
NEI にはコミュニケーション部があり、
約 20 人、年間予算約 10 億円で以下の活動
を行っています。
(ア)会員優先のコミュニケーション
(イ)原子力エネルギーのブランド化
(ウ)メディア対応活動
(エ)支援支持活動(アウトリーチなど)
(オ)編集サービス
(カ)創造的サービス
(キ)世論調査等の研究
情報環境の整備に関して NEI は、ウェブ
サイトにおいて、以下の情報をはじめとし
て豊富な根拠情報を提供しています。さら
に、各情報が横断的につながり、根拠情報
までたどることが容易になっています。
• 統計
原子力発電のコスト
世界の原子力発電による発電量と設備容量• 米国の原子炉の地図
• ファクトシート(例えば、
「州ごとの原子
力利用ファクトシート」、「米国の原子炉
における安全性向上の歴史」、「東電福島
第一原発事故とチェルノブイリ事故の比
較」など)
• 報告書、概要資料
• NEI による議会証言や書簡等
例えば、
「東電福島第一原発事故とチェ
ルノブイリ事故の比較」をクリックすると、
図 -16 に示したページが開きます。
ここでは、
これらの事故の原因や影響などを分かりや
すく解説した「鍵となるファクト」が 7 点
の箇条書きでまとめられています。
さらに、ページの下までスクロールす
ると、
「関連情報」として、世界保健機関(WHO29
)が東電福島第一原発事故による
健康リスクを評価した 2013 年の報告書及
び、放射線の影響に関する国連科学委員会
(UNSCEAR30)の放射線影響に関する 2008
年の報告書と 2013 年の事故による放射線被
ばくのレベルと影響の報告書へのリンクが
設定されています。2)電気事業者
(デューク・エナジー社)
個別の電気事業者による情報環境の整備
の一例として、デューク・エナジー社のウェ
ブサイトにおける情報提供の状況を紹介し
ます。同社のウェブサイトでは、それぞれ
の原子力発電所に関して、事故発生時の緊
急放送の周波数帯、緊急時計画区域内にお
ける各学校の避難先となる学校や避難ルー
ト等を示した地図、安定ヨウ素剤に関する
問合せ先等の情報が整理されています [30]。
デューク・エナジー社の事例のように、米
国では原子力事業者はウェブサイトにおい
て、原子力発電所の近隣住民を主に対象と
して、緊急時対応等の具体的・実践的な情
報を提供しています。
(3)双方向の対話
1 政府による双方向の対話
1)DOE による双方向の対話
DOE はパブリックやステークホルダー
がどのように原子力に関する情報を認識し、
共有しているのかを知るための手段として
29 World Health Organization
30 United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation 27特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
SNS 等を活用しています。2014 年 2 月に
ニューメキシコ州にある国防活動起源の超
ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU32廃
棄物)の地層処分場である廃棄物隔離パイ
ロットプラント(WIPP33)で事象が発生し
た際には、SNS を活用して情報提供を行い
ました。さらに、オクラホマ大学に委託し、
「WIPP」という語が含まれた Twitter の書
き込みを分析し、ツイートの数や頻出して
いる用語などの分析を行いました。DOE の
現地事務所は、この事象を踏まえて SNS を
活用する際の留意点等として以下を挙げて
います [31]。
・訴求したいステークホルダーにフィットし
た SNS を特定する
・定期的に有益な情報や興味深いコンテンツ
図 16 NEI ウェブサイトにおける分かりやすい解説や、
国際機関が取りまとめた報告書へのリンクの設定の例

(出典)NEI ウェブサイト3131 https://nei.org/site-map, https://nei.org/resources/fact-sheets
32 transuranic
33 Waste Isolation Pilot Plant
28 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
を公開することで、フォロワーを獲得する
・地元又はオンラインで、コミュニティと関
係を構築する
・事象が発生する前に信頼を構築する-事象
の最中に信頼を構築しようとしても遅い
・情報は早期に、また頻繁に公表する
この WIPP の事例からは、DOE がステー
クホルダーに情報を伝えるに当たって、事
象がどのように捉えられているかをソー
シャルメディアも活用して把握し、その上
で情報を伝える手段やメッセージを決定し
ていることがうかがえます。
2)NRC による双方向の対話
<パブリックミーティング34>
NRC は年間を通じて、非常に多くのパブ
リックミーティングを開催しています。パ
ブリックミーティングでは、規制活動に関
心を持っているパブリックやステークホル
ダーに対し、対象 ( カテゴリー ) に応じて関
与の方法を選択し、規制活動に対する関心
や意見を聞き、対話を行っています。パブ
リックミーティングを通じたステークホル
ダーの関与増進を目指して策定されたポリ
シー・ステートメント「NRC のミーティン
グにおけるパブリックの参加の増進」では、
パブリックミーティングが表 2 のように、
目的によって 3 つのカテゴリーに区分され
ています [32]。
このように、カテゴリー 1 のパブリック
ミーティングでは、パブリックへの事実情
報の提供が中心的な目的となっていますが、
カテゴリー 2 ではパブリックからのフィー
ドバックが期待されており、より積極的な
役割が与えられています。さらにカテゴリー
3 では、様々な組織の代表者の議論が中心
とされます。こうしたカテゴリー設定から、
表 2 NRC が実施しているパブリックミーティングのカテゴリー別の目的とステークホルダーの関与
カテゴリー 目的 パブリックやステークホルダーの関与
カテゴリー 1
単一の事業者、特定の施設を対象とし
た特定の規制について、当該事業者等
と議論すること。
パブリックがオブザーバーとして参加する
が、質疑等を通じた NRC 職員との対話機会
はある。NRC は、パブリックが、規制上の論
点や NRC の規制行為について理解する助け
となる事実情報を入手できることを期待。
カテゴリー 2
複数の事業者に影響を及ぼしうる論点
について、当該規制の対象となる産業
界(発電事業者や原子炉メーカー等)
の代表、非政府組織等のグループから
のフィードバックを得ること。
パブリックは、NRC が特定したタイミングで
議論に参加できる。カテゴリー 1 のミーティ
ングよりもパブリックが意見を表明する機会
は多くなる。
カテゴリー 3
カテゴリー 2 の参加対象に限定されな
い非政府組織、産業界等との議論を通
じて、ステークホルダーが考える規制
上の論点や懸念を NRC が理解し、考慮
すること。
許認可に関わる問題、あるいは一般的な規制
上の論点について、幅広い情報、意見、見解、
懸念等の交換を行うこと。パブリックやス
テークホルダーはミーティング中、いつでも
意見を表明できる。
(出典)第 9 回原子力委員会定例会議資料 1-1 号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメントに関する
取組について」
(2018 年)に基づき作成
34 NRC の「パブリックミーティング」とは、NRC の職員と外部のステークホルダーが参加し、公開して開催され
る会合と定義されています。 29特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
NRC がミーティングの種類や目的により、
パブリックやステークホルダーの参加の在
り方についても細かく配慮していると考え
ることができます。
<年次評価会合(AAM35)>
AAM は、NRC 及 び プ ラ ン ト の 運 転 事
業者が年に 1 度、プラントの近郊で開催し
ています。AAM は、原子炉監視プロセス(ROP36
)と呼ばれる NRC によるプラントの
安全性の評価結果を地元住民等に伝えると
いう役割も担っています [33]。
AAM は、
過去 1 年間のプラントのパフォー
マンス、NRC の取組及び NRC が地元住民の
保護のためにプラントをどのように規制して
いるのかについて議論するための機会と位置
付けられています。AAM では、参加者に対
してプラントによる NRC の規制の遵守状況
や NRC の監督・検査活動に関する情報提供
が行われます [34]。AAM には NRC の地元の
検査官やその他の職員が参加します。AAM
は、地元住民を中心としたステークホルダー
への正確な情報提供を主な目的としたもので
はありますが、パブリックと NRC 職員等と
の対面でのコミュニケーションの機会が設け
られていることから、信頼構築にも貢献して
いると考えることができます。
AAM は、録画された画像の放映や書かれ
た原稿を読み上げる形でなく、実際に NRC
の職員が話をする形で進められます。形態
として、フォーマルなミーティング、オー
プンハウス、コミュニティアウトリーチの 3
つがあるとされています。
フォーマルなミーティングでは、NRC や
事業者からの説明が行われますが、参加者
には質問の機会が与えられます。オープン
ハウスでは、参加者は NRC の職員と一対一
で対話をすることができるようになってい
ます。コミュニティアウトリーチは、発電
所近郊等で開催されるイベント会場に NRC
のブースを設営するものであり、ここでも
参加者は NRC の職員と一対一で対話をする
ことができるようになっています [34]。
< SNS の活用>
NRC は、
ブログ、
Twitter、
YouTube、
フェ
イスブック、Flickr Photostream といった
SNS を積極的に活用しています [35]。SNS
を専門に扱うスタッフもおり [36]、ウェブサ
イトでの情報提供やプレスリリースの公表
のみならず、様々な SNS のプラットフォー
ムを活用し、ステークホルダーとの直接対
話を重視しています [22]。
2 事業者による双方向の対話
1)NEI による取組
NEI は、会員事業者から要請があった場
合には、事業者と原子力発電所が所在する
地元自治体との間で行われる双方向の対話
の場の調整を行っています。
また、Twitter、フェイスブック、Linke-
dIn、
YouTubeといったSNSを活用しており、
これらの SNS では、NEI の投稿に対してコ
メントすることもできるようになっていま
す [37]。NEI は、デジタルコミュニケーショ
ンの専門家等を起用して、定期的に NEI が
発信するメッセージによる原子力に対する
パブリックやステークホルダーの認知の変
化について調査しています。
2)電気事業者による情報提供・
対話イベント(エクセロン社)
米国では、電気事業者が原子力発電所の
立地サイトの周辺住民向けに、情報提供イ
ベントを開催しています。例えば、エクセ
ロン社の原子力発電所では、毎年「コミュ
ニティインフォメーションナイト」と題し
た情報提供・対話イベントが実施されてい
ます。
「コミュニティインフォメーションナ
35 Annual Assessment Meeting
36 Reactor Oversight Process
30 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
イト」では、原子力発電所の職員に直接質
問する機会が設けられるほか、運転員の訓
練のための模擬操作室の見学等も行われま
す [38]。こうした取組は、地元住民を中心と
したステークホルダーへの正確な情報提供
を主目的としたものではありますが、対面
でのコミュニケーションを通じて、事業者
と地元住民の間の信頼構築にも貢献してい
ると考えることができます。
(4)ステークホルダー・エンゲージ
メント
1 政府によるステークホルダー・
エンゲージメント
1)DOE によるステークホルダー・
エンゲージメント
DOE は、核兵器開発施設の廃止措置を全
米 107 サイトで進めてきています。多くのサ
イトでクリーンアップを完了していて、それ
らの経験から以下の教訓が得られています。
【得られた教訓】
・州、地域、部族長、地域の市民グループ
と協力するなどコミュニティの参画を求
める。
・国レベルの政府内組織や市民グループと
協力協定を結ぶ。
・できるだけ早い段階からコミュニケーショ
ン、規制機関との連携、リスクに基づく
透明性と信頼確保に努める。
・ステークホルダーと公衆の参画は、市民、
産業、
活動家団体、
業界などに意見を求め、
公衆意見聴取の民主的性格、政策の透明
性、政府の決定に影響を受ける市民の価
値に留意する。
・環境面での公平性:マイノリティが低所
得者や抑圧されたコミュニティに注目し、
プログラムや規定で差別を行わない。
・ステークホルダー参画と公衆参画の利点
は、より良い周知された決定、決定の理
解の促進、意思決定過程の手続化にある。
・早期、頻繁、公開に留意してコミュニケー
ションをとる。
また、高レベル放射性廃棄物の地層処分
場サイトとして、ユッカマウンテンが法律
で定められていますが、ネバダ州等地元の
反対もあり、処分場の建設には至っていま
せん。こうした中で、2009 年に成立したオ
バマ政権は、ユッカマウンテン計画を中止
し、代替策を策定することとしました。元
連邦議会議員や学識経験者などで構成され
る委員会の検討を経て、
2017 年 1 月には「使
用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の集中
貯蔵・処分施設のための同意に基づくサイ
ト選定プロセス案」
(以下「サイト選定プロ
セス案」という。
)が公表されました。サイ
ト選定プロセス案は、上記の委員会の検討
結果に加えて、全米 8 か所でのパブリック
ミーティングや意見募集で収集した意見も
反映して策定されました。サイト選定プロ
セス案では、安全性などに加えて、公正・
公平、十分な情報を得ながらの参加、立地
地域への便益、任意参加 / 撤退の権利、透
明性、段階的・協調的意思決定などの、サ
イト選定プロセスを設計する際の原則が示
されています [39]。
なお、トランプ現政権はユッカマウンテ
ン計画を復活させる意向を示しており、米
国の高レベル放射性廃棄物の地層処分場サ
イト選定が今後どのように進められるのか
は不透明な状況となっています。
2)NRC によるステークホルダー・
エンゲージメント
NRC による原子力安全規制に関する規則
の策定や、事業者に対する許認可の発給等
においては、NRC の規則に従ってパブリッ
クコメントの募集が行われるほか、策定し
ようとしている規則案について NRC がパブ
リックやステークホルダーと議論するため
のミーティングやワークショップが開催さ
れる場合もあります。これらのステークホ
ルダー・エンゲージメントに関する情報は、
連邦官報やインターネットを通じて公表さ
れています [40]。 31特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
また NRC は、1998 年と 2016 年に、原子
力関係事業者、産業界、州、先住民部族、
非政府組織(NGO37)
、学界等のステークホ
ルダーを一堂に集め、NRC 規制に対する忌
憚のない意見を求めるミーティング(ステー
クホルダー・ミーティング)を開催しました。
このミーティングでは、NRC による規制の
効率性、ステークホルダー・エンゲージメ
ントの有効性及び、規制や意思決定におけ
るリスク情報の活用等について議論されま
した。その後、NRC は、ステークホルダー
から提出された勧告や論点を整理し、それ
に対する NRC の対応を示した文書を作成
し、公表しています [41]。
2 事業者によるステークホルダー
・エンゲージメント
NEI は議会、
ホワイトハウス、
連邦規制庁、
及び州の政策フォーラム等に対し、正確でタ
イムリーな情報とともに、原子力エネルギー
及び原子力技術のグローバルな重要性に関す
る産業界の統一見解を提供しています。この
ような活動の一環として、
例えば、
ホームペー
ジ上で原子力発電所建設に関する市民の意見
を求める活動なども実施しています。特に近
年では、経済性を理由に閉鎖される原子力発
電所が相次いでいることから、気候変動対策
や雇用確保の観点から、原子力発電の必要性
をアピールする活動を行っています。NEI は
このような活動において、パブリックやス
テークホルダーの意見も活かそうとする取組
を行っています。NEI が開設した"Nuclear
Matters"と称するプラットフォームでは、
原子力発電の有効性をアピールする活動への
登録ページが設置されており、登録すると、
関連する情報が適時提供され、具体的な活動
に参加できるようになっています [42]。これ
は、原子力エネルギーの有効性を促進する
キャンペーンとして使われるものであり、原
子力エネルギー源をサポートする政策をオー
ガナイズし、促進するのに当たり普通の市民
を支援するものです。
"Nuclear Matters"の
説明には、
「Nuclear Matters によってあな
たも参加できます」とのメッセージが記され
ています。
NEI の ホ ー ム ペ ー ジ の"Nuclear Mat-
ters"のページには、
「原子力発電所をサポー
トするために行動を起こそう」とメッセー
ジが明記されていて、対象地域を選択した
上で、当該地域に対応した数項目が現れ、
それぞれについて市民が自らの考えを表明
できるように工夫されています。
例えば、
しろまるしろまる原子力発電所の建設をサ
ポートする」にある「Take action」のボ
タンをクリックすると、当該原子力発電所
の説明と地域への経済効果などの説明が現
れ、同じページの中に、建設をサポートす
る E-mail を簡単に送付できるような工夫が
なされています。
また、ステークホルダー・エンゲージメ
ントに関係して、産業界の活動の焦点を明
確にしたアウトリーチ活動や地域でメディ
アアウトリーチ活動などを行っています。
さらに、ポリシーを明確にしたブリーフィ
ングやリポーターのプラントツアーなども
行っています。
3-3 欧米諸外国における取組の概要
英国、米国を含め、諸外国のステークホル
ダー・インボルブメントの取組について表 3
に示します。これらは経済協力開発機構 / 原子
力機関(OECD/NEA38)や、国際原子力機関
(IAEA39)等で共有されている、ステークホル
ダーの意思決定への参画に関する諸外国の教
訓、共有されている事例を中心にまとめたもの
です。
37 non-governmental organization
38 Organisation for Economic Co-operation and Development / Nuclear Energy Agency
39 International Atomic Energy Agency
32 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
国名 組織 目的・考え方 取組英国[43]・ 英 国 原 子 力 廃 止 措 置 機 関
(NDA)
・ビジネス・エネルギー・産
業戦略省(BEIS)
(注記)パブリックとの協議は、政
府の Sciencewise の枠組みを
活用して実施
・ステークホルダーとのコ
ミュニケーションを利用し
て信頼関係を構築する
・ステークホルダーの参加に
より、政策や規制の決定プ
ロセスを改善する
・賛否が分かれるテーマに関
する意思決定の際に、公衆
の見解を反映することで、
戦略的かつ実態的に意思決
定を進め、こう着状態に陥
るリスクを低減する
・ステークホルダーの直接参
画により、民主的プロセス
を支援する
・地層処分場の立地サイト選定
プロセスの再検討についてス
テークホルダーとの対話を実
施する
・地層処分など、国民の関心が
特に高い政策課題について
「Sciencewise」を実施する
・新型原子炉の設計認証のプロ
セスについてオンラインでの
調査とステークホルダーとの
対話を実施する
・原子力規制局(ONR)
(注記)パブリックとの協議は、政
府の Sciencewise の枠組みを
活用して実施
・英国科学協会 [44] ・協会のミッションである科
学の多様性と包摂性の形成
を図る
・科学に積極的に携わる人々
を増やす
・より多くの人々が科学に従事
するよう、様々なプロジェク
トや計画をコーディネートし
運営する [44]
・協会の地域支部ネットワーク
を活用し、文化や社会の基本
的な一部である科学領域のビ
ジョンに関し、国家及び地域
組織とパートナーシップを構
築し、協会活動を実施する[44]・公衆と研究者が語り合う英国
科学フェスティバル(British
Science Festival) の よ う な
プラットフォームを提供する[45]・サイエンスコミュニケーター
が他のセクターから学ぶこと
を奨励する [46]
・英国の原子力に関連する公
衆関与等の活動をまとめる
(Making sense of nuclear,
What’s changed in the debate
2017)[47]表 3 諸外国におけるステークホルダー・インボルブメントの取組とその考え方 33特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
国名 組織 目的・考え方 取組英国[43]・サイエンスメディアセンター
(SMC)[48]・科学が見出しとして扱われ
る記事について、ニュース
媒体を通じて公衆が最良の
科学的根拠や専門的知見に
アクセスできるようにする
・公衆と政策決定者の利益の
ために、科学及び技術に関
わる正確で根拠に基づいた
情報をメディアを通して提
供する(特に、混乱や誤っ
た情報伝達が起こる争点に
関わるようなあるいは見出
しで扱われるニュースを扱う)・ジャーナリストに科学情報及
び関連する情報を提供する
・科学記事が見出しに扱われる
ような場合に、ジャーナリス
トに最良な科学的内容及び科
学者にコンタクトを可能にする・科学者、工学者、及びその他
の専門家と協働し、メディア
活動に従事するのを支援する
・プレス担当者が科学、健康及
び環境に係る複合的な課題に
関わる場合に、プレス担当者
をサポートする
・科学関連課題に関し、専門家
のアドバイスや根拠情報を提
供する
・原子力産業協会(NIC)
[49] ・原子力産業界と政府が協働
する場合の調整を行う
・産業界が直面する課題に取
り組み、戦略的意思決定を
行うことを通じて、将来の
機会を実現する手助けをする・原子力産業全般にわたる長期
的・戦略的課題に関する見解
について議論、意見交換を行
う場を提供する
・産業及び政府の長期ビジョン
を実現するために必要なアク
ションを特定するため、広く
産業界及びアカデミック / 研
究者コミュニティと協働する・「公衆の視点で 原子力エネル
ギーと社会」
(2014 年 7 月)
を発刊し、政府、産業界、他
のステークホルダーに対し原
子力エネルギーの利点等が認
識されるよう、高いレベルの
戦略を示している米国[50][51][52][53]
・エネルギー省(DOE) ・ステークホルダーの関心や
懸念を理解し考慮すること
で、一般国民との信頼関係
を構築する
・ステークホルダーの関心を
把握し、SNS により不正確
な情報の拡散を防ぐ
・使用済燃料及び高レベル放射
性廃棄物の集中貯蔵・処分施
設のための同意に基づくサイ
ト選定プロセスの設計に向け
たパブリックコメントの募
集、パブリックミーティング
を実施する
・SNS を活用して情報発信を行
い、また原子力に関してユー
ザーが発しているメッセージ
を把握する
34 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
国名 組織 目的・考え方 取組米国[50][51][52][53]・原子力エネルギー協会(NEI) ・原子力利用促進のポリシー
を実現する。
・重要決定に関わる正確かつ
タイムリーな情報の提供を
通じて、原子力政策におけ
る政策の意思決定の補助を
する [54]
・産業界のリーダー向けに重要
課題の要点を示す資料を作成
して配布する
・コミュニケーション訓練を行う・公衆意識調査や他産業のキャ
ンペーンを支える公衆意見の
研究を行う
・産業界の活動の焦点を明確に
したアウトリーチ活動を行う
・地域でメディアアウトリーチ
活動を行う
・ポリシーを明確にしたブリー
フィングやリポーターのプラ
ントツアーを実施する [55]
・原子力規制委員会(NRC) ・一般国民に向けた規制に対
する信頼の構築に役立てる
・地元住民の意見を規制の改
善に役立てる
・SNS により既存のメディア
による情報発信を補完する
とともに、パブリックやス
テークホルダーの関心や
ニーズを把握する
・NRC の規制活動を説明する基
本文書を作成・公開する
・パブリックコメントの募集、
パブリックミーティングや
ワークショップの開催、原子
力発電所の運転状況について
コミュニティセンター等で
NRC 職員が説明するオープン
ハウスを実施する
・SNS の活用とそれに必要な職
員等のリソースを手当てして
いるフランス[56][57][58]・フランス電力(EDF)
(注記)公開討論は、EDF が独立し
た第三者委員会である公開
討論委員会(CNDP40)に付
託して実施
・ステークホルダーからの信
頼を得る
・ステークホルダーの意見等
により意思決定内容を改善
する
・原子炉新設に関する公開討論
の場を設け、地域住民や環境
保護団体に対して情報提供や
疑問、意見に対する回答を行う40 Commission nationale du débat public
41 Autorité de sûreté nucléaire
42 Comité Local d'Information et de Suivi 35特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
国名 組織 目的・考え方 取組フランス[56][57][58]・ 放 射 性 廃 棄 物 管 理 機 関
(ANDRA)
・地域への情報発信や公開討
論会の開催による対話活動
を実施し、地域の振興・共
生に寄与する
・地元選出代議員、県会議員、
職能団体・医療団体の代表、
特定個人、地元市町村の長、
環境保護団体メンバー等で構
成され、アドバイザーとし
て ANDRA や原子力安全機関(ASN41
)代表が参加する地域
情報委員会(CLIS42)が年 2
回会合を開催し、高レベル放
射性廃棄物の管理・処分に関
する議論を行い、公衆に対す
る情報提供も行う国家評価委
員会(CNE43)
、原子力安全情
報と透明性に関する高等委員
会(HCTISN44)も活用する
・CLIS には地層処分の可逆性、
環境・健康、廃棄物処分、コ
ミュニケーション、公開討論
に関する専門部会が設置
・ANDRA は 2006 年 放 射 性 廃
棄物等管理計画法に基づき、
地層処分場の設置許可申請に
先立ち、公開討論会を開催す
るよう CNDP に付託した
・CNDP は、反対派の妨害のた
め、小規模な住民参加の会合、
特設ウェブサイトでの討論番
組の配信、インターネット会
議を開催した。また、締めく
くりとして全国から無作為に
選ばれた地元 8 名を含む 17
名の市民パネルによる市民会
議を開催し、総括報告書を公
表した
・公開討論会の結果を受けて
ANDRA は地層処分プロジェ
クトの継続に向けた改善案を
公表した。その内容は法律に
も規定された
43 Commission nationale d' Evaluation
44 Haut Comité pour la transparence et l'information sur la sécurité nucléaire
36 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
国名 組織 目的・考え方 取組フランス[56][57][58]・原子力安全機関(ASN) ・規制活動に対する信頼を構
築する(規制機関として実
態的な独立性の担保につな
がる)
・ターゲットごとに異なる対
象に、タイムリーに幅広く
情報を発信する
・原子力施設の許認可発給に際
して地域情報委員会(CLI45)
等に対する意見聴取を実施する・専門家、NGO 等のステークホ
ルダーが参加する内部諮問委
員会を設置し、ASN が規制関
連の決定を発出する際に事前
に意見を聴取する
・SNS 等を内容やターゲットに
合わせて活用するスイス[59][60]・連邦エネルギー庁(SFOE46)
・放射性廃棄物管理共同組合
(NAGRA47)
・ステークホルダーの参加に
より、放射性廃棄物の最終
処分という国が直面する課
題についての理解の深化を
促進する
・立地候補に挙がっている自
治体が地層処分場を最終的
に受け入れるために、情報
の透明性と公正性を確保する・立地サイトが最終決定する前
に、ステークホルダーを選定
プロセスに参画させるため、
地層処分場のサイト選定プロ
セスで、立地候補となってい
る 6 地域に設置された地域会
議において、処分場を立地し
た場合の地域の発展プロジェ
クト等について協議するカナダ[61]
・ 放 射 性 廃 棄 物 管 理 機 関
(NWMO48)
・地層処分場のサイト選定プ
ロジェクトを適切な方向に
進める
・より良い意思決定に寄与する・プロジェクトを地域のニー
ズに最大限沿ったものにする・プロジェクトの推進力を強
化する
・ステークホルダーの期待を聴
取し、理解するとともに、多
様な視点を得られる対話を実
施する。具体的には、情報提
供と議論の場の設定、市民と
の対話、先住民と対話、意見
調査等を実施する。
45 Commission Locale d'Information
46 Swiss Federal Office of Energy
47 Nationalen Genossenschaft für die Lagerung radioaktiver Abfälle
48 Nuclear Waste Management Organization 37特集 原子力分野におけるコミュニケーション〜ステークホルダー・インボルブメント〜第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
国名 組織 目的・考え方 取組[62]・Fennovoima 社 ・
地元の支持基盤とするため、
原子力発電所新設プロジェ
クトのステークホルダーに
よる受容を目指す
・ピュヘヨキサイトでの原子力
発電所新設プロジェクトに関
して定常的に地元に足を運
び、地元住民が情報を得たい
ときに提供する
・新設プロジェクトによる雇用
創出等の国や地域へのメリッ
トを発信する
・ポシバ社 ・環境に対する影響の評価を
深め、計画策定及び意思決
定における検討を促進し、
同時に市民が入手可能な情
報と参加する機会を増やす
(環境影響評価:EIA49手続)
・EIA 手続では、4 か所の候補
地点に関して EIA 計画書及び
EIA 報告書を公告、縦覧、新
聞掲載等により情報開示し、
市民の意見を聴取した。また、
地元住民向けの対話集会や
ワーキンググループ会合、地
元自治体の職員や自治体議会
の議員向けの
「協力 / フォロー
アップグループ」
、自治体を
運営する参事会向けの会議等
の地域コミュニケーションの
組織作りや、情報提供、会合
を実施した
・原則決定手続では、原則決定
の申請、安全性を含めた処分
場の建設・操業計画について
情報開示と意見聴取を行った
・スウェーデン核燃料・廃棄
物管理会社(SKB50)[63]・住民に対する放射性廃棄物
の理解深化を目的として、
情報伝達や対話の場の構築
などを実施する
・環境法典に基づく正式な EIA
協議は、エストハンマルでは
2002 年から開始
[エストハンマル自治体の場合]
・1995 年にフィージビリティ
調査が開始された時点で自治
体行政を統括する執行委員会
(議会議員の代表で構成)は、
準備グループとレファレンス
グループを設置
・レファレンスグループは、議
員に加え住民や隣接自治体か
らの代表者も参加するグルー
プで、住民への情報伝達活動
を行う役割も担った。レファ
レンスグループは定期会合の
ほかに、勉強会や意見交換会
を随時開催
49 Environmental Impact Assessment
50 Svensk Kärnbränslehanteringフィンランドスウェーデン
38 平成 29 年度版原子力白書第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章資料編特 集はじめに
国名 組織 目的・考え方 取組
・原子力廃棄物評議会 ・放射性廃棄物、原子力施設
の廃止措置等に関して政府
に十分な基盤に基づき助言
する
・SKB の 研 究 報 告 書 の レ
ビュー及び関心のある自治
体、地域評議会、環境団体、
政治家及び規制機関との対
話により、更に調査され特
定される必要のある課題を
特定する [64]
・SKB による放射性廃棄物の最
終処分に関する「研究開発実
証プログラム」
(RD&D プロ
グラム)報告書、申請書及び
その他の関連報告書の評価を
行う
・放射性廃棄物分野における最
新状況に関する評議会の独立
した評価を示した報告書を提
出する
・政府に十分な根拠を伴う勧告
を提出できるよう、公聴会及
びセミナーの開催により、放
射性廃棄物分野における重要
な問題の調査及び解明を行う[65]・放射線安全機関(SSM51) ・放射線及び原子力安全に関
する知識が構築されること
に貢献する
・公衆に対し、ラドンや太陽の
ような自然放射線源からの防
護に関するアドバイスや勧告
を提供する [66] [67]・ 原 子 力 科 学 技 術 機 構
(ANSTO52)
・活動に対して社会的な支持
を得る・レピュテーションリスク(否定的な評価に起因する組織
の信頼低下等のリスク)を
低減する
・フランスから返還される医療
関連の放射性廃棄物の管理に
ついて、ステークホルダーや
メディアの関心に答える
・ANSTO の医療関連の活動に
フォーカスして実績や利益を
示す
・返還される放射性廃棄物につ
いて明確な情報を豊富に提供
する
51 Strålsäkerhetsmyndigheten
52 Australian Nuclear Science and Technology Organisationスウェーデンオーストラリア

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