ケルン・サミットの直前まで、G8諸国は、コソボ紛争の収束に奔走していたため、政治問題では、和平合意後のコソボ復興及び難民帰還支援に議論の力点が置かれた。コソボ問題は欧州の安全保障が、いまだに米国に依存しているとの反省をヨーロッパ各国に迫った。半面、欧州独自の安全保障を考える際、経済的に遅れたロシアの役割をどう位置づけるのかという問題も突きつけた。このため、いかにG8としての和平履行体制を作り、ロシアの協力を取り付けるかが、サミットでの論点となった。
地域問題に関するG8声明では、緊急性の高いコソボ復興と中長期的な課題である南東欧の安定に、「二段階支援」方式で取り組むことを確認。また、ロシアを除く主要七カ国(G7)は、失業対策や健康管理、保健衛生面の改善など新たなロシア支援を行うことで合意し、ロシア経済を圧迫している巨額債務問題の解決にも、一定の道筋をつけた。日本は和平に果たしたG8の功績を評価しつつ、国連、とりわけ安保理の改革の重要性を強調。これを受けG8コミュニケでは国連の機能強化に積極的に取り組む決意が表明された。
このような議論の中、日本はアジア唯一の参加国として、南東欧地域に集まりがちな各国の目を、朝鮮半島を取り巻く北東アジア地域の安全保障問題へ振り向けることに努めた。小渕総理は会議で「北朝鮮が再びミサイルを発射することがないよう、G8各国が協調し、強い警告を発することが重要だ」と力説した。
その結果、北朝鮮の核・ミサイル開発について、G8コミュニケに「北朝鮮による行動のような最近のミサイル発射実験及びミサイル拡散を深く憂慮している。この問題に対処するための個別及び共同の追加的手段を検討する」との決意が明記された。北朝鮮のミサイル問題は、今や極東の地域問題にとどまらないとの国際認識が確立された。
会議は、世界経済や貿易、雇用、教育に関する討議にも精力を費やした。経済問題では、サミット入りする直前、日本の今年1〜3月期の国内総生産(GDP)が、実質成長率1・9%を記録。実に一年半ぶりのプラス成長だったため、小渕政権が発足以来打ち出してきた景気回復の成果として、各国首脳から賛辞が集まった。
米国は、自国の景気動向が日本の経済情勢に大きく左右されるため、特に関心が強かった。クリントン大統領は、サミット前の日米首脳会談で「成長率のプラス転換には驚嘆した。ビッグニュースだ」と賞賛したほか、その後のロシアを除く主要国(G7)会議でも、会議の冒頭から日本の経済情勢を話題に持ち出し、小渕総理の指導力を評価した。各国首脳も「小渕内閣は大変な任務を果たしている」と讃えた。ただし、各国は同時に、日本経済が本格的な回復軌道に乗ることにも強い期待を表明。引き続き必要な対策を実施するようクギを刺した。これに対し、小渕総理は「依然として厳しいが、明るい動きもある。この流れをさらに強く確実にするため、雇用対策と産業競争力強化対策をできるものから早期に実施し、1999年度のプラス成長に不退転の決意で臨む」と発言。通常国会を大幅に延長して、5千億円を超える補正予算編成を決断し、切れ目なく対策を継続していく考えを説明するとともに、年率0・5%成長の実現を、明確な国際公約として掲げた。
主要議題の一つだった重債務貧困国の債務問題については、「より深く、広く、早い債務救済の推進」で合意。小渕総理は今回の合意を契機に、援助にあたっては、個々の途上国の実情等に一層の配慮をし、適切な援助形態を検討していく考えを示した。また、次回のサミットを、来年7月21日から23日に、九州・沖縄で開くことも正式に決定された。
写真上から
記念撮影のためケルン大聖堂前に集まったG8首脳。左から2人目が小渕総理
ケルン市内のローマ・ゲルマン博物館で行われたワーキング・ディナーに臨むG8首脳。
ルードビッヒ美術館で行われた第3回目のG8ワーキング・セッションにはエリツィン露大統領(手前左)も参加した。
サミットの全日程を終了し、国際メディアセンターで内外記者会見に臨む小渕総理。
サミット会場で急きょ実現した日露首脳会談。