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「営業しか就職先がない」有象無象の私文大学は必要なのか...「高卒は恥ずかしい」という親が目を背けている現実 「スキルのない仕事」を大勢で奪い合っている
「擁護論」には無理がある
【じゅそうけん】一方で、「Fランク大学擁護論」として、高校の授業内容の復習を大学4年間かけてしているようなFラン大があることによって、国民の知的最低水準が上がっている、という意見もあります。そういう論については、どう思いますか。
【鈴木】いまご指摘のあった「擁護論」って、いろいろな要素をごちゃ混ぜにしたかなりいい加減なものだと思っています。
日本の知的水準と一口に言っても、教育水準とか識字率とかいろいろあると思います。これらを一緒くたにして「Fラン大が知的水準を底上げしている」言われても、無理がありますよね。
例えば、OECD(経済協力開発機構)の2013年の調査では、日本の中卒者の読解力はスペイン、イタリアの大卒者より上という結果が出ていますが、それとFラン大とはまったく関係がありません。
大学を名乗る以上は、大学レベルの教育・研究をするか、専門職大学のように大学でしかできない専門教育をしないと、大学である必然性はないのではないでしょうか。
「ホワイトカラーもどき」の末路
インタビューの最後で鈴木氏が述べた主張には私も完全同意である。
冒頭にあげた「ホワイトカラーもどき」であるが、この層が近年激増しており、その結果、地方のエッセンシャルワーカーの働き手がいなくなってきているというのは序盤にデータで示した通りだ。
事務職大余り時代のいまでさえ、Fランク大学卒業者が職にありつくのは難しいことではない。
ただ、早期から専門領域を絞り、工業高校や専門学校へ進学した人と比較すると、その後の人生は芳しくないように見受けられる。
私の出身である愛知県豊田市では、公立の小中でそれなりの成績をとっていた人でも、積極的に豊田高専やトヨタ工業学園に進学していた。彼らは大学卒ではないが10代のうちから実践的な技能を身につけ、トヨタ自動車やデンソーといった一流企業に就職する人も少なくない。県内の私大文系に進学した他の同級生たちと比較しても、確実にいい暮らしをしている。
反対に、Fラン大卒「ホワイトカラーもどき」組の"予後"は厳しい。中学時代に後の専門職組と同程度の成績をとっていた人の中にも、Fラン大への進学者は少なくない。彼ら(特に文系)は4年間のモラトリアム期間を謳歌し、何のスキルも持たないまま地元の中小企業の営業職(ウォーターサーバー、不動産が多い。いずれも過酷なノルマを課される)に就くことになる。
いわゆる「ノースキル文系」である彼らの中には、パワハラやセクハラが横行する労働環境に晒され、数年単位での転職を繰り返す者も少なくない。こうした「ソルジャー営業」が肌に合っている人であればいいのだが、多くの場合は経済的にも技術職組に劣後している。
やはり早期から専門性を身につける方向に舵を切った人のほうが、その後の人生は安定し充実している印象だ。
愛知が誇る「トヨタ経済圏」という特殊な産業構造があるが故にそれが成立しているのは理解しているが、首都圏や関西圏においても、「なんとなく」誰でも入れる大学を志向することのリスクは十分理解する必要があるのではないか。
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神戸学院大学現代社会学部 准教授1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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受験・学歴研究家、じゅそうけん代表1996年愛知県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、メガバンクに就職。2022年じゅそうけん合同会社を立ち上げ、X(旧Twitter)、InstagramなどのSNSコンサルティングサービスを展開する。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、XやYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。