金融政策の柔軟性を失った日銀
「裏金国家」日本は円安バブルだけでなく、円や長期金利でも、投機筋にもてあそばれる国になった。
経済衰退がじわじわ進んでいるが、GDP比2.5倍もの財政赤字を日銀の超低金利で支えないともたない。たしかに、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の利下げが予定されている。
他方、財務省は恒久的な税源がないまま防衛費倍増政策を続けており、この間、日銀はなかなか利上げもできず、7月31日に0.25%利上げするのが精一杯で、なおも日米金利差は5%近く開いている。日銀はなかなか金融緩和を止められずに金融政策の柔軟性を失っている。
この間の為替レートの推移を見ると、「投機筋」は政府や日銀の足下を見透かして動いていた。口先介入で利上げを打ち出すたびに、逆に円安に向かっているからだ。
実際、マイナス金利解除とともに1ドル=150円を突破し、植田和男日銀総裁が国会で「利上げがある」と口先介入発言をしたあと、岸田文雄首相が訪米したとたんに、円安は1ドル=154円まで進んだ。4月26日の日銀の金融政策決定会合では利上げはなく、金融緩和継続を決めたことが分かると、為替レートは1ドル=155円台を突破して円安が進行し、ついに4月29日には一時1ドル=160円台をつけた。わずか3日で5円も円安が進行し、1カ月で9円も円安になったのである。
財務省ももはや余力なし
このまま行けば、同じく金融緩和を進めたトルコと同じく、自国通貨が投げ売りされ、猛烈なインフレに陥ってしまう事態が発生しかねない。慌てた財務省が具体的目標も展望もないまま4月29日と5月2日の2回を含めておよそ9.7兆円規模とされる円買いドル売り介入を行ったとされる。
2022年9〜10月、神田前財務官は3回の為替介入を行った際、「介入原資は無限にある」という嘘をついたことも知られている。外国為替資金特別会計(外為特会)は9兆円を失ったうえに、元の木阿弥になった。今回も外為特会で使えるドル預金は24兆円。1回の介入が3兆円だとすると、8回分である。
さらに、外為特会から3.1兆円を防衛力強化資金に繰り入れることになっているので、もはや大規模な為替介入を行う余力を失っている。
もし、外為特会のアメリカ国債を売って為替介入すれば、アメリカ金融機関に損害を与え、アメリカの長期金利に影響を与えるので、アメリカとの摩擦は避けられない。財務省はもはや大規模な介入はできない。長期戦は難しく、一時しのぎにすぎないことは明らかである。
1952年東京都生まれ。経済学者。慶應義塾大学名誉教授、淑徳大学大学院客員教授。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手、法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て、立教大学経済学研究科特任教授を歴任。専門は財政学、地方財政論、制度経済学。著書に『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)、『人を救えない国 安倍・菅政権で失われた経済を取り戻す』(朝日新書)、『日本病 長期衰退のダイナミクス』『現代カタストロフ論 経済と生命の周期を解き明かす』(ともに共著、岩波新書)など多数。