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92歳現役映画監督が作品に込める思い「長女が生まれどん底に突き落とされた」50年前に知的障害のある娘を育てた母がミニスカートをはいた深い理由

分けることなく共に暮らせる世の中に

ただ、あからさまな差別に嫌な思いをすることも多かった。あるときは、自宅のまわりに「バカ、バカ、ゴレス」と書かれていた。美樹さんが「1+1は5れす(です)」「1+3は5れす(です)」と答えていたことをばかにされていたのだ。

黙っている山田さんではない。美樹さんのことをばかにしていた子どもの母親に話をしにいったが「うちの子じゃない」と否定され、小学校の校長に会いに行っても「学区域ではない」と言われた。養護学校の母親たちにこの話をすると、「私の子なんて、近所の公園に行くと中学生からも『おばけが来た』と言われるのよ」と聞かされた。

障害児と健常児、分けることなく共に暮らせる世の中になってほしい――。いくつもの経験と読書での学びを通して、障害児福祉についての考えを深めていった。

あるとき、宮城まり子さんが養護学校を講演で訪れた。歌手や俳優を経て肢体不自由児の養護施設「ねむの木学園」を設立した宮城さんの話を聞き、山田さんは「私も芸能界のはしくれで生きてきた人間。自分のできる方法で運動しよう」と考えた。

ただ、美樹さんと次女を育てながら仕事を続けるのは簡単ではなかった。上映会前に子ども2人を連れて電柱にポスターを張って歩いたり、広島ロケに子どもたちを連れていき、旅館で留守番をさせたり。

美樹さんはふらりといなくなってしまうことが多く、撮影用のトランシーバーを使って新宿の街中を探し回ったり、千葉まで夜中に迎えに行ったりもした。「稼ぐのに追われて、必死になって働かなきゃいけなかった」という日々だった。

障害のある俳優を積極的に起用

山田さんが60代で初めて監督をした作品は、娘たちと共に歩んだ半生を題材にしたアニメ映画『エンジェルがとんだ日』。その後の実写映画では、障害のある俳優を積極的に起用してきた。特にダウン症の子どもは「役者に生まれてきた」と思うほど自然な演技をしてくれる、と話す。

2024年2月に完成した『わたしのかあさん―天使の詩―』(出演=寺島しのぶ、常盤貴子ほか)は、美樹さんが通った大塚養護学校(現・筑波大学附属大塚特別支援学校)の教員だった菊地澄子さんの書籍を映画化した。知的障害のある両親の娘が葛藤しながら成長していく物語だ。この映画にも、障害のある人が多く出演している。

「わたしのかあさん―天使の詩―」のワンシーン。寺島しのぶさんと子どもたち
写真提供=現代ぷろだくしょん
わたしのかあさん―天使の詩―』のワンシーン。寺島しのぶさんと子どもたち

掲載: PRESIDENT WOMAN Online

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