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日本産業規格

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新JISマーク (2005年10月1日から付記され、2008年10月1日以降は旧JISマークは使えず、すべてこの新JISマークとなっている)
旧JISマーク (新旧の移行措置として2008年9月末日まで付記できた)

日本工業規格(にほんこうぎょうきかく、Japanese Industrial Standards [1] )は、工業標準化法に基づき、日本工業標準調査会の答申を受けて、主務大臣が制定する工業標準であり、日本の国家標準の一つである。JIS(ジス)またはJIS規格(ジスきかく)と通称されている。JISのSは英語standardの頭文字であって規格を意味するので、「JIS規格」という表現は冗長であり、これを誤りとする人もある。ただし、この表現は、日本工業標準調査会、日本規格協会およびNHKのサイトでも一部用いられている。

歴史

明治時代には、日本の工業規格は民間団体が作っていた。ただし、軍需品などの政府調達品には、政府の購入規格、試験規格、標準仕様書があった。

日本標準規格

1921年には、大正10年勅令第164号に基づいて工業品規格統一調査会が設置された。この調査会は、1941年までに520件の日本標準規格(旧JES、Japanese Engineering Standards)を制定した。

臨時日本標準規格

臨時日本標準規格(臨JES)は、1939年から1945年までの間に931件制定された。臨JESには、規格が要求する品質を下げて物資の有効利用をはかること、および、制定手続を簡素化して規格の制定を促進すること、というねらいがあった(工業技術院標準部 1997、p. 226)。臨時規格または戦時規格とも呼ばれた(国立国会図書館 2006)。

日本航空機規格

日本航空機規格(航格)は、航空機製造事業法第6条に基づいて定められた規格である。ここでいう航空機製造事業法は、昭和13年3月30日法律第41号であって、現行の航空機製造事業法(昭和27年7月16日法律第237号)ではない。工業技術院標準部(1997、p. 229)は、臨JESとは別に航格が設けられた理由の一つに「外部に対して秘匿扱いする必要があるものもある」ことを挙げている。1945年までに660件の航格が制定された。

航格の特徴は、強制標準である点にある。航空機製造事業法第6条は、航格に適合しない航空機部品の製造または使用を禁じていた。

日本規格

昭和21年勅令第98号によって、1946年2月に工業品統一調査会が廃止され、そのかわりに工業標準調査会が設けられた。旧JES、臨JESおよび航格を再検討し、これらのかわりに2,102件の日本規格(新JES)が制定された(工業技術院標準部 1997、p. 231)。旧JES、臨JESおよび航格は文語体で書かれていたが、新JESは口語体で書かれた(工業技術院標準部 1997、p. 231)。

日本工業規格

工業標準化法は、1949年 6月1日に制定され、7月1日から施行された。工業標準調査会は廃止され、現存する日本工業標準調査会が設けられた。10月31日には、最初のJISであるJIS C 0901 電気機器の防爆構造(炭坑用)が制定された。

性格

工業標準化法における定義

工業標準化法にいう工業標準化は、つぎの事項を「全国的に統一し、又は単純化すること」を意味し、工業標準は、そのための基準である(第2条)。この法律に基づいて主務大臣が制定する工業標準が、日本工業規格と呼ばれる(第17条第1項)。

  • 鉱工業品の種類、型式、形状、寸法、構造、装備、品質、等級、成分、性能、耐久度または安全度
  • 鉱工業品の生産方法、設計方法、製図方法、使用方法または原単位
  • 鉱工業品の生産に関する作業方法または安全条件
  • 鉱工業品の包装の種類、型式、形状、寸法、構造、性能または等級
  • 鉱工業品の包装方法
  • 鉱工業品に関する試験、分析、鑑定、検査、検定または測定の方法
  • 鉱工業の技術に関する用語、略語、記号、符号、標準数または単位
  • 建築物その他の構築物の設計、施行方法または安全条件

鉱工業品には、医薬品、農薬、化学肥料、蚕糸および農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律による農林物資を含まない。

国家標準

工業標準化法における定義から明らかなように、JISは、日本全国を単位とした標準化のための基準である。この意味で、JISは日本の国家標準 である。

JIS以外の日本の国家標準としては、日本薬局方日本農林規格などがある

公的標準

JISは、法律に基づく手続を経て制定される標準であり、JISには一定の公正さが期待できる。このため、日本の法令が技術的な基準への適合を強制するにあたって、その基準としてJISを採用することがある。この意味で、JISは公的標準 (デジュール標準、デジュール・スタンダード、de jure standard)である

工業標準

工業標準化法における定義から明らかなように、JISは鉱工業に関する標準化のための基準、すなわち工業標準 である。医薬品、農薬、化学肥料、蚕糸、食料品などの標準化は、日本薬局方および日本農林規格の範疇である。

情報技術についても工業標準であるため、工業の範囲が広がっている。情報技術分類では、対象となる情報そのものの標準を制定している。 そのため、「工業」の範疇に収まらないJISも、近年制定している。例えば、2007年にはJIS X 0814 図書館統計というJISを制定している。

任意標準

JISそれ自体は、JISに適合しない製品の製造、販売、使用、JISに適合しない方法の使用などを禁ずるものではない。この意味で、JISは基本的に任意標準 である。

ただし、国および地方公共団体に対して、JISは強制標準 に準じた性格を有している。工業標準化法第67条は、国および地方公共団体が鉱工業に関する技術上の基準を定めるとき、買い入れる鉱工業品に関する仕様を定めるときなどに、JISを尊重すべきことを定めている。

また、JISは法令が引用すれば、強制標準としてはたらくこともある。例えば、工業用水道事業法施行令第1条は、工業用水道事業者に対して、JIS K 0101 工業用水試験方法による水質の測定を、工業用水道事業法第19条の測定として義務づけている。

規格

少なくとも工業標準化法に関するかぎり、標準および規格を互いに区別すべき理由は見いだせない。そのうえ、工業標準化法第17条第1項は「第十一条の規定により制定された工業標準は、日本工業規格という」(強調は引用者による)と宣言している。

したがって、JISが国家標準であり、公的標準であり、工業標準であり、任意標準であることは、JISが国家規格であり、公的規格であり、工業規格であり、任意規格であることと言いかえられる。ただし、規格を標準よりも広い概念として、規格および標準を区別する人もいる。

制定から廃止まで

原案作成

JIS制定の手続は、主務大臣の意思または利害関係人の申し出によって開始される。

主務大臣の意思によってJISを制定するときは、主務大臣または主務大臣から委託を受けた者がJISの原案(draft)を作成する。主務大臣は、標準化のための調査研究やJIS原案の作成を、国費を支出して日本規格協会(JSA)などの適当な者に委託する。JIS原案の作成を委託された団体には原案作成委員会(drafting committee)が結成され、この委員会がJIS原案を作成する。主務大臣はできあがった原案を工業標準調査会(JISC)に付議する。

利害関係人は、みずから作成した原案を添えて、主務大臣に工業標準を制定すべき旨を申し出ることができる(工業標準化法第12条第1項)。申し出を受けた主務大臣がJISを制定すべきと認めるときは、大臣はその原案を調査会に付議する。制定の必要がないと認めるときは、大臣は調査会の意見を徴したうえ、その旨を理由とともに利害関係人に通知する。現在、つくられる規格の約80パーセントは利害関係人からの申し出による(日本工業標準調査会 2003)。

制定

日本工業標準調査会は、その標準部会(the Standard Board)のもとに設置された専門委員会(technical committee)において、主務大臣から付議された原案の審議(investigation)および議決をする。標準部会長から上申を受けた調査会長は、主務大臣に答申する。JISを制定すべき旨の答申を受けたとき、主務大臣がJISの制定(establishment)をする。

主務大臣は環境大臣経済産業大臣厚生労働大臣国土交通大臣総務大臣農林水産大臣または文部科学大臣である(工業標準化法第69条)。複数の主務大臣が連名でJISを制定することもある。経済産業大臣を主務大臣とする規格が圧倒的に多い。やや古いデータであるが、工業技術院標準部(1997)によれば、1997年3月末の時点で有効な規格8,161件のうち、通商産業大臣が主務大臣をつとめるものは、他の大臣と共管の135件を含めて7,193件である。これは全規格の88パーセントを占める。

JISを制定した主務大臣は、その旨の公示(announcement)をする。公示は、名称、番号、および制定年月日を官報に掲載することによりおこなわれる(工業標準化法施行規則第3条)。JISの内容は官報には掲載されない。内容は経済産業省本省、経済産業局、沖縄総合事務局または都道府県庁で閲覧に供される。調査会のサイトにおいてPDFで閲覧することもできる。

確認、改正または廃止

主務大臣は、JISの制定、確認または改正の日から5年以内に、それがなお適正であるかを調査会に付議する。調査会の答申に基づいて、主務大臣はJISの確認(re-affirmation)、改正(revision)または廃止(withdrawal)をおこなう。

制定、確認または改正から年月が経過しても規格が適正であるとき、規格は確認される。年月の経過にともなって規格を改める必要が生じたとき、規格は改正される。年月が経過して規格がもはや不要になったとき、規格は廃止される。

主務大臣は、JISを確認、改正または廃止したときには、制定したときと同様に、その旨を公示する。

適合性

製品がJISの要求を満足していることをJISに適合しているといい、適合していることを適合性(conformance)という。製造者や輸入者が製品のJISへの適合性を取引者や需要者に示す手段として、第3者による認証(certification)、第2者による確認および第1者自己適合宣言の三つがある。

認証

2005年10月1日から施行された改正工業標準化法のもとでは、製品のJISへの適合性を登録認証機関認証する。製造者または輸入者は、登録認証機関に認証を申請し、登録認証機関による審査を受ける。適合性の認証を受けた製品には、JISマークを表示することができる。

自己適合宣言

自己適合宣言の指針はJIS Q 1000 適合性評価—製品規格への自己適合宣言指針に定められている。

規格票

JISの内容は規格票という文書にあらわされる。

規格票の発行は日本規格協会が行っている。規格票の様式はJIS Z 8301 規格票の様式及び作成方法(Rules for the layout and drafting of Japanese Industrial Standards)というJISに規定されている。

JISハンドブック

日本規格協会は、複数の規格票を分野ごとにまとめた縮刷版をJISハンドブックとして発行している。JISハンドブックは、多くの規格について、規格票の末尾に付された解説を収録していない。また、一部の規格については、本文の一部を収録していない。JISハンドブックの各巻は1年から3年に1度改訂される。

規格番号

JISの部門記号および部門
部門記号 部門
A 土木及び建築
B 一般機械
C 電子機器及び電気機械
D 自動車
E 鉄道
F 船舶
G 鉄鋼
H 非鉄金属
K 化学
L 繊維
M 鉱山
P パルプ及び紙
Q 管理システム
R 窯業
S 日用品
T 医療安全用具
W 航空
X 情報処理
Z その他

個々のJISは規格番号によって識別できる。例えば、JIS B 0001は規格番号の一つである。

規格番号のうち、「JIS」のつぎのローマ字1文字は、部門記号と呼ばれ、JISの部門をあらわす。現在、表に示す19の部門がある。

部門記号に続く数字は、各部門で一意な番号である。かつて、番号はもっぱら4桁だった。現在、国際規格と一致または対応するJISについては、国際規格の番号とJISの番号を同じにしておくことが便利であるので、国際規格が5桁の番号を持つ場合には、それに合わせた5桁の番号が用いられるようになっている。ISO/IEC 17000を翻訳したJIS Q 17000 適合性評価—用語及び一般原則はその例である。また、「電子機器及び電気機械」部門において、一部の規格の規格番号がIEC規格に対応した5桁のものに変更された(日本工業標準調査会 2004)。

大きな規格は第1部、第2部といった(part)に分かれていて、部ごとに制定、改正などがおこなわれ、部ごとに規格票が発行される。部を識別するために枝番号が用いられる。番号の後にハイフンおよび枝番号を記載する。つぎは、枝番号を使用した例である。

  • JIS B 0002-1 製図—ねじ及びねじ部品—第1部: 通則
  • JIS B 0002-2 製図—ねじ及びねじ部品—第2部: ねじインサート
  • JIS B 0002-3 製図—ねじ及びねじ部品—第3部: 簡略図示方法

文書においてJISが規格番号によって参照されている場合、通常、読者がその文書を読んでいる時点での最新版が参照されていると考える。特定の版を参照したいときには、規格番号の後にコロンおよび制定または改正の年を西暦で記載する。例えば、JIS B 0001の2000年改正版を参照したいときは、JIS B 0001:2000と書く。

1995年以前のJISでは、枝番号が用いられていなかった。現在では番号および枝番号を区切るために用いられているハイフンは、かつては番号および年を区切るために用いられていた。例えば、JIS B 0001は1958年にJIS B 0001-1958として制定された。

JISマーク

JISマークは、製品がJISへの適合性の認証を受けたときに、製品そのもの、製品の包装、製品の容器または製品の送り状に付することができる、JISへの適合性を示すためのマークである。

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2004年の改定

2004年には工業標準化法が改正され、JISマーク表示制度が大きく変化した。これにともない、新しいJISマークの公募がおこなわれた(日本規格協会 2004)。これには5,000件ちかい応募があった(日本工業標準調査会 2005a)。応募の中から水野尚雄がデザインしたものが選ばれ、2005年3月28日に発表された(経済産業省 2005)。

この新JISマークは2005年10月1日から製品などに付することができるが、改めて適合性の認証を得たうえでなければならない。ただし旧から新への移行期間として3年間、2008年9月末日まで旧マークは付することができ、この3年間内に改めて適合の認証を得る。認証が得られない場合は新マークを付することができない。すなわち、2008年10月1日以降の製品などはすべて改めて適合性の認証を得たか、新たに認証を得て新マークを付したものとなる[2]

JISマークは直線および円弧のみを用いて描けるように設計されている。その設計図は、日本工業規格への適合性の認証に関する省令(平成17年3月30日厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省令第6号)第1条第1項から第3項に掲げられている。法令データ提供システムが提供する 日本工業規格への適合性の認証に関する省令[3] では、JISマークの設計図は省略されている。また、JISマークはこの省令の一部なので、著作権法第13条(権利の目的とならない著作物)の第1号に該当し、著作権法第3章に規定された権利の対象とはならない。

符号位置

JISマーク「〄」はUnicodeにおいて「JAPANESE INDUSTRIAL STANDARD SYMBOL」として個別のコードポイントU+3004を割り当てられている。Unicode 1.0.1までの符号位置はU+32FFであり、現在地のU+3004には漢字「」が割り当てられていた。Unicode 1.1において「仝」はU+4EDDに統合され、その跡地にJISマークが移動されることで現在の符号位置となった。

JIS X 0208などJIS自体による文字集合にJISマークが含まれていないことを考えるとUnicodeへの収録はやや奇妙に思えるが、これはShift_JISアップルによる拡張「MacJapanese」に旧JISマークが含まれていたことから、ラウンドトリップ変換対応への必要性から収録されたものであり、類似の事例としては韓国産業規格 (朝鮮語版)のマーク「㉿」がU+327Fに割り当てられていることが知られている。

新JISマークの制定後、新旧両マークの扱いについてはUnicode公式メーリングリストにおいて話題に上ることはある[4] ものの、「新旧双方の包摂」「新マークの新規収録」「新マークの非収録」等の具体的な決定はない。U+3004の文字名称が「JISシンボル」以上の意味を持たず、新旧いずれかを明示してはいないため、フォントによる実装にあたっては「旧JISマークの維持」・「新JISマークへの差し替え」のいずれを取るべきか、明確な判断材料に欠ける状態が続いている。JISマーク改定後に製作された代表的なフォントであるマイクロソフトの「メイリオ」においては、U+3004のデザインは旧JISマークのまま維持されている。

記号 Unicode JIS X 0213 文字参照 名称
U+3004 - 〄
〄
JAPANESE INDUSTRIAL STANDARD SYMBOL

JISおよび知的財産権

特許権および実用新案権

日本工業標準調査会(2006)は、特許権、実用新案権などと抵触する工業標準の案をJISとして制定するにあたっては、非差別的かつ合理的な条件で実施許諾する旨の書面を権利者から取り付けるとしている。また、JISの制定後に特許権等との抵触が明らかになった場合であって、権利者が非差別的かつ合理的条件で実施許諾する旨を表明しないときは、必要に応じて、JISの改正または廃止の手続をとるとしている。

JISと抵触することが判明している特許権のリストは、日本工業標準調査会のデータベース(#外部リンク)の「工業所有権情報」で閲覧できる。

著作権

現在、日本工業標準調査会(2005b)は、JISは著作権法により保護される著作物であると解釈している。それによれば、主務大臣または主務大臣の委託を受けた者が作成した原案の著作権は国に帰属し、利害関係人が作成して主務大臣に提出した原案の著作権はその利害関係人に帰属する。その一方、著作権法13条2号では、「国の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの」には著作権が存在しないともしている。だたしこの場合でも、JISの規格票の末尾に付されている解説は、JISの一部ではなく、その著作権は解説を著した原案作成者に帰属する。

なお、ISO規格、IEC規格、ANSI規格等は著作権により保護されている。また日本工業標準調査会を含むISO加盟団体は、1992年11月に採用され1993年1月1日から発効しているPOCOSA協定(ISO Policies and Procedures for Copyright, Copyright Exploitation Rights and Sales of ISO Publications)に基づいて、ISOが発行する規格を含む文書の著作権保護義務を負っている[5] 。しかし、日本と諸外国とでは国家規格の制定プロセス[6] において官民の違いがあり[7] 、民間団体により制定されている先進諸外国の規格と、主務大臣によって制定されるJISを同列に論じるのは適当といえず、その結果国家標準化機関が政府審議会である日本の体制では、ISOに対する著作権保護義務を果たせないとする著作権法学者の学術的見解がある[8] 。この点、日本工業標準調査会事務局に電話照会した際の、JISの著作権の根拠に関する回答は、

  1. 「(著作権法を所管する)文化庁に著作権をお認め戴いた」
  2. 「諸外国の国家規格はすべて著作権が認められている」

としている。 前者については、文化庁がJISに著作権がある旨認めた文書の詳細は不明である。また後者については、日本の著作権法の母法であるドイツでは2003年の著作権法改正で、国家規格に著作権を認めるために「法律、命令、布告又は官公庁の公示が、私的な規格文書について文言を再録することなく参照を指示する場合には、その私的な規格文書に関する著作権は、前二項によって妨げられない。この場合において、著作者は、出版者のいずれに対しても、相当なる条件のもとに、その複製及び頒布に関する権利を許与する義務を負う。複製及び頒布に関する排他的権利の保有者が第三者である場合には、この保有者が、第2文に基づいて、使用権の許与について義務を負う。」(第5条第3項)との特別規定を置いた[9] 。これはDIN(ドイツ標準協会)の規格を無断借用した出版社をDINが著作権侵害訴訟で訴えたところ、連邦通常裁判所連邦憲法裁判所で規格の著作権が認められず、請求が棄却されたことから、著作権法を改正したものである[10] 。また米国においても権威ある知的財産法研究者から、「標準は著作権法上の保護の対象外である」との指摘がなされている[11]

JISに著作権法13条2号が適用され著作権が発生しないとする見解に対しては、経済産業省から以下のような反論がなされている[12]

  1. 「著作権法第13条第2項(原文ママ。正しくは「第2号」。以下同様。)でいう告示とは、立法行為、司法行為、行政行為として権限のある者が作成し、その内容を公表することによって国民に知らしめ、また国民が自由に知るべきものであると性格づけることをいうものである。これに対して、JIS規格の官報への公示は規格の名称及び番号のみで、内容についてまで掲載されているわけではない。」
  2. 「JIS規格の原文は、原案作成者や利害関係人などの民間団体において作成されているものである。著作権法第13条第2項の対象となるのは、官公庁自身が創作し国民に知らしめることが目的であるような場合に限定されるものであり、JIS規格のように利害関係者が原案を作成して申し出たり、原案を委託によって作成した者がいる場合には、著作権法第13条第2項を適用するのは不適当である」

しかし1.については、同号の告示等は官報の掲載内容に限定されるものではなく、また主務大臣が制定した「工業標準は制定されることが目的ではなく、それが実施されることが目的であるから、各方面への普及徹底ということが最も重要である」。この点JISの官報公示においては、規格の名称、番号、制定・確認・改正・廃止の別、その年月日のみ掲載されるものであるが(工業標準化法第16条、工業標準化法施行規則第3条)、JISの具体的内容については、JIS規格票を各都道府県及び経済産業局に備えつけること等により、一般の閲覧に供するという方法をとっている[13] 。このJIS規格票の印刷・発行は、経済産業省基準認証ユニット(日本工業標準調査会事務局)の監督の下に財団法人日本規格協会が行い、上記の官報公示と並行して、制定又は改正されるJISの原稿を財団法人日本規格協会に回付し、同協会がその原稿に基づいてJIS規格票を印刷・発行し、同協会の窓口を通じて同規格票を販売・配布しているところである[14] 。このようにJISは官報と規格票を通じて公表され、JISの内容は官報に代わって、JISとして国(日本工業標準調査会)名義で公表された規格票に掲載されていることから、官報で規格内容が省略されたことを著作権発生の根拠にすることはできない。また「現在有効な法令約7,400件の中で、JIS規格を引用した法令は約360件(5%)もあ」るなど、「単なる技術標準としてだけでなく、行政制度とのつながりも深いものとなってい」るとの指摘がなされている[15] 。例えば、「指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令(平成十三年三月一日法務省令第二十四号)」では次のように日本工業規格を引用し、各規格の内容を知らなければ法令が規定する様式等を理解できず、規格が法令と同様のものとなっている。

(電子署名の方法)

第2条

法第62条ノ6第1項号及び第62条ノ8第1項第1号に定める措置は、電磁的記録に記録することができる情報に、工業標準化法(昭和24年法律第185号)に基づく日本工業規格(以下「日本工業規格」という。)X573118の附属書Dに適合する方法であって同附属書に定めるnの長さの値が1024ビット又は2048ビットであるものを講ずる措置(以下「電子署名」という。)とする。

2.については、法令、通達等の著作権が否定されるのは「公益的な見地から、国民に広く知らせ、かつ、自由に利用させるべき性質の著作物には、権利を認める結果としてその円滑な利用を阻害することとなるのを防ぐという観点から」であるところ[16] 、JISの原案作成者が官公庁以外の者であることを理由に著作権の発生を認めれば、JISを利用する国民の生活や企業活動等に支障をきたし、国内に広く知らしめることを主要な機能とするJISの役割を損なうことになる。なお原案作成者に著作権が認められない場合でも、原案を採用した主務大臣から補償金等を得て経済的利益を確保することは可能である。

標準仕様書(TS)と標準報告書(TR)

日本工業標準調査会には、一般の標準規格の制定作業とは他に、標準仕様書 (TS) 制度と標準報告書 (TR) 制度がある。これは進歩が早い技術分野において、まだ標準規格としては未熟でも将来重要と考えられる技術文書をJISとして公開することで、議論を促し、将来のスムーズな標準化につなげることを目的としている。TS文書・TR文書は誰でも提案することができる。

標準仕様書(TS)

現時点では日本工業標準調査会としてJIS化にふさわしいと判断されなかったが、将来は標準化の可能性があるとされる技術文書。

TS文書は公表後3年以内に、原則として廃止・JIS化・3年延長のいずれかの処理がなされる。なお3年延長は1度限りしか行われない。

標準報告書(TR)

標準に関連する技術文書であるが、JISでの標準化がふさわしくないもの。

TR文書は公表後5年以内に原則として廃止される。

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脚注

  1. ^ JIS全体を指すときは複数形のsを付けてStandardsとし、個々の規格を指すときはsを付けずに Japanese Industrial Standard とする。
  2. ^ 旧JISマーク認定工場の皆様へ! 日本規格協会
  3. ^ [1]
  4. ^ 2009年7月2009年8月のログを参照。
  5. ^ ISO の知的財産権保護に関する指針及び方針(理事会決議42/1996 で承認)〔GUIDELINES AND POLICIES FOR THE PROTECTION OF ISO’s INTELLECTUAL PROPERTY (as approved under Council resolution 42/1996)〕
  6. ^ 日本工業標準調査会「JISの制定等のプロセス<図の説明>」参照
  7. ^ 高柳誠一・田中正躬・松本隆太郎「座談会【国際標準化100年を記念して】」経済産業ジャーナル No.426(2006年10月号)13頁参照
  8. ^ 鳥澤孝之「国家規格の著作権保護に関する考察 ―民間団体が関与した日本工業規格の制定を中心に―」知財管理 Vol.59 No.7 (2009年7月号)793-805頁 参照
  9. ^ 本山雅弘訳『外国著作権法令集(43) ―ドイツ編―』(著作権情報センター、2010年)2-3頁
  10. ^ Dr. Torsten Bahke, "Comment: In Germany, the copyright to standards is no longer questioned", ISO Bulletin , vol.34 no.12, p.2, December 2003.
  11. ^ Pamela Samuelson, "Questioning Copyright in Standards," Boston College Law Review vol. 48 p.193(2007)
  12. ^ 産業技術環境局基準認証ユニット(一橋大学イノベーション研究センター 江藤学編)『標準化実務入門(試作版)』(平成22年7月)184頁〔長谷亮輔執筆〕
  13. ^ 通商産業省工業技術院標準部編『平成9年版 工業標準化法解説』(通商産業調査会出版部、平成9年)63頁
  14. ^ 日本規格協会編『JISハンドブック2010 56 標準化』(日本規格協会、2010年)1026頁
  15. ^ 山中豊「事業仕分けと標準化」情報処理学会 情報規格調査会 NEWSLETTER No.85 (2010-03) 2-3頁
  16. ^ 加戸守行『著作権法逐条講義 五訂新版』(著作権情報センター、平成18年)136頁

関連項目

参考文献

書籍

雑誌

  • 月刊『標準化ジャーナル』日本規格協会=発行

外部リンク

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