「こゝろ」の版間の差分
2008年2月22日 (金) 16:03時点における版
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『こゝろ』は、夏目漱石の長編小説。1914年(大正3年)4月20日から8月11日まで、「朝日新聞」で「心 先生の遺書」として連載。岩波書店より刊行。
友人から恋人を奪ったために罪悪感に苛まれた「先生」からの遺書を通して、明治人の利己を追う。漱石の代表的な作品。
注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。
あらすじ
時は明治末期。夏休み中に鎌倉に旅行に行った際、「私」は「先生」と出会った。先生は大学を出ているが就職せず、奥さんとひっそりと暮らしている。先生は雑司が谷にある墓地(雑司ヶ谷霊園)へ墓参りに行ったり、私に対して「私は寂しい人間です」と言ったりする。私はそんな生活を送る先生の事に興味を抱き、先生自身の事を色々と聞いたりするが、先生は答えてくれない。奥さんとの間に子供がいない事も不思議に思うが、やはり答えてくれなかった。また、私に対して「恋は罪悪だ」など急に教訓めいたことを言ったりもする。そんな折に私の父親が病気を患っている事を話すと、先生は「お父さんの生きてるうちに、相当の財産を分けてもらっておきなさい」と、現実的なことを言い出す。
私は大学を卒業後、実家に戻った。卒業後の就職先が決まっていなかった私に対し、家族から就職の斡旋を先生に依頼するように言われ、手紙を出すが、先生からの返事はなかった。父親は明治天皇の崩御と共に容態が悪化した。私は東京に戻る予定だったが、父の容態の急変により実家から離れる事が出来なくなる。
父親が危篤という状況になって、先生からの手紙が届く。私は先生の手紙から先生自身の死を暗示する文章を見つけたため、最期を迎えようとしている父親の元を離れ、東京行きの列車に乗る。列車の中で読んだ手紙には、衝撃的な先生の過去が綴られていた。
登場人物
- 私
- 「上 先生と私」「中 両親と私」の語り手。田舎に両親を持つ学生。父が大病を患っている。
- 先生
- 仕事に就かず、東京に妻とひっそり暮らしている。「下 先生と遺書」で"私"として自分の生き様を語っている。
- 先生の妻
- 先生から"静"と呼ばれている。「下」の前半部分では"お嬢さん"と書かれている。
- 先生の妻の母
- 物語では既に物故者。「下」の前半部分では"奥さん"と書かれている。
- K
- 「下」に登場する、先生と同じ大学の学生。故郷も先生と同じで、同じ下宿にいる。Kのモデルには、幸徳秋水、石川啄木、清沢満之らの名が挙がっている。
作品解説
作者が乃木希典の殉死に影響されて書いた作品である。明治天皇の崩御、乃木の殉死に象徴される時代の変化によって、漱石は「明治の精神」が批判されることを予測した。漱石は大正という新しい時代を生きるために「先生」を「明治の精神」に殉死させる。
恋愛における罪悪は許されるのか否かという問題に対し、自らの欲望で友を裏切った先生は、また自らで自分を罰する。ここに現代人の欲望に対する弱さを見出そうとしている。後期三部作とされる前作『彼岸過迄』『行人』と同様に、人間の深いところにあるエゴイズムと、人間としての倫理観との葛藤が表現されている。
なお、この作品が岩波書店が出版社として発刊した最初の出版物である。
もともと、漱石はいろいろな短編を書いて、それらを『心』という題で統一するつもりだった。しかし、第一話であるはずの短編「先生の遺書」が長引きそうになったため、その一編だけを三部構成にして、出版することにした。ただし、題名は『心』と元のままにしておいたのである。このことは単行本に書かれた序文から明らかである(なお、序文では『心』と表記されているが、それ以外は全て「こゝろ」という表記で統一されている。序文の内容は、外部リンク『心』自序を参照)。
映像化作品
- 1955年、日活により映画化。監督は市川崑。配役/野淵先生:森雅之、奥さん(お嬢さん):新珠三千代、梶(K):三橋達也、未亡人:田村秋子、日置(私):安井昌二、女中・粂:奈良岡朋子
- 1959年、KR(現・TBS)により「サンヨーテレビ劇場」の枠でテレビドラマ化。出演は佐分利信、高橋昌也、夏川静枝など。
- 1968年、MBSにより「テレビ文学館 名作に見る日本人」の枠でテレビドラマ化。出演は芥川比呂志、八千草薫、寺田農、内田稔、加藤治子、菅井きんなど。
- 1973年、近代映画協会により映画化。監督は新藤兼人。配役/K(先生):松橋登、S(K):辻萬長、I子(お嬢さん):杏梨、M夫人(未亡人):乙羽信子、Sの父:殿山泰司
- 1991年、MBSにより「東芝日曜劇場」の枠でテレビドラマ化。配役/先生:イッセー尾形、K:平田満、先生の妻:毬谷友子、私:別所哲也、佐々木愛など。
- 1994年、テレビ東京によりテレビドラマ化。配役/私:鶴見辰吾、先生:加藤剛(現在)・勝村政信(学生時代)、お嬢さん:葉月里緒菜、小宮(K):香川照之、その他:高橋恵子、岩本多代、てらそま昌紀
漫画作品
外部リンク
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