「FM音源」の版間の差分
2009年9月15日 (火) 15:46時点における版
FM音源(エフエムおんげん)は、Frequency Modulation(周波数変調)を応用する音色合成方式を用いた音源。
減算式アナログシンセサイザーにはない複雑な倍音を持った金属的な響きをことが可能である。ジョン・チョウニング博士を中心としてスタンフォード大学のCCRMA(Center for Computer Research in Music and Acoustics)で開発されたものを、ヤマハがライセンスを受け実用化した。FM音源の音は、1980年代のポピュラー音楽を象徴するサウンドとも評されている[1] 。
概要
原理
自然音のような動的に変化する複雑なスペクトルが、2つの発振器からの合成で現れる、変調合成の一手法である。FM合成器(オペレータ)に与えられる、キャリア・モジュレータを共に正弦波とすると、合成される信号波 FM(t) は以下の式で表される。
{\displaystyle FM(t)=A~\sin(2\pi Ct+I~\sin(2\pi Mt))}
ここで A = キャリア振幅, C = キャリア周波数, I = 変調指数, M = モジュレータ周波数
FM合成で得られた出力のスペクトルは、C±nM (n = 1, 2, 3, ...) という、キャリアの周りに、モジュレータ周波数の整数倍で側波帯が現れたものとなる。側波帯成分の振幅はベッセル関数で表すことができる。
シンセサイザーや音源チップでは、複数個の合成器を直列あるいは並列につなぎ(このつなぎかたをアルゴリズムと呼んでいる)、様々な合成結果を得る。また、ヤマハによる研究開発の過程で、出力をモジュレータにフィードバックするフィードバックFMが考案された。
応用と発展
ヤマハは、FM方式の特許のライセンスを取得し研究開発を進め、1980年にGS1ステージピアノを発表する。その後、1983年に発売されたシンセサイザーDX7によって、一般に耳にする音楽で広く使われるようになり、FM音源のサウンドは広く知られるようになった。
また、音源チップは、1980年代のパソコンやアーケードゲーム機、家庭用ゲーム機 メガドライブの内蔵音源として大量に使われ、これらから発せられる音としても聞かれることとなった。
TX81Zなどの後期のFM音源の機種やSY99などAFM音源の機種ではサイン波以外の波形で変調可能になった。
1989年に発売されたヤマハのシンセサイザーSY77ではAFM音源へとアップグレードされ、PCM音源を変調させることも可能となる。その完成形が1991年に発売されたSY99と言える。
その後、1998年に登場したFS1Rではフォルマントシンギング音源と呼ばれる人の声をもシミュレートできる音源とハイブリッドとなり、オペレータもDX7の6機から8機と増え、変調させられる幅が広がった。
特にエレクトリックピアノの音色は秀逸で、PCM音源にサンプリングされ今でもよく使用されている。マリンバやオルガンの音などはPCM音源に負けないほどリアルな音が出せるが、アコースティックピアノの音のシミュレートは苦手であり、PCM音源に押されて、一時はシンセサイザー市場から消えかけたが、FM音源独自のベロシティによる音色のダイナミックな変化が見直され、ソフトウェアシンセサイザーのFM7やヤマハのDX200やPLG150-DXなど近年もFM音源の機種が発表されている。
また、近年は携帯機器用音源チップ(MAシリーズ)にも組み込まれ、主にKDDI(auブランド)やSoftBank、イー・モバイル等の携帯電話に内蔵されている。
各種コンピュータのエミュレータソフトの流行と共に、PCM音源を使いソフトウェアで波形合成して再生するドライバが有志により開発されている。
音源チップ一覧
OPL系
2オペレータ。
- YM3526(OPL) 2オペレータ9chまたは6ch + リズム5ch。2オペレータなのでアルゴリズムは直列、並列の2種類のみ。バブルボブルなどで使用されている。
- Y8950(MSX-AUDIO) 2オペレータ9chまたは6ch + リズム5ch、ADPCM 1ch(16kHz/4bit/モノフォニック)、32kB〜256kBの波形メモリを外部に持てる。MSXの拡張カートリッジやPC-98用サウンドボード、アーケード基板、MZ-2861用ADPCMボード(MZ-1E36)などで使用。
- YM2413(OPLL) 2オペレータ9chまたは6ch + リズム5ch(リズム音はすべて1オペレータで生成されるため、FM3ch分のレジスタで5chのリズム音を同時に発音可能)。上記Y8950と比較して、ADPCMが削除された他、AM(アンプリチュードモジュレーション、トレモロ効果)が使用不能になった、アルゴリズムが直列で固定になった、音色を保持するレジスタが1セットしか実装されず、他に同時に使用できる音色は内蔵の15音色に限られる、などの違いがある普及版。MSXの拡張カートリッジ(FM-PAC)・マスターシステム・MSX2+、パチスロ機などで使用。
- YM3812/FM1312(OPL II) 2オペレータ9chまたは6ch + リズム5ch、Sound Blasterで使用。YM3812はYM3526とハードウェアレベルで互換性があり、そのまま差し替えて使用することが可能。サイン波以外の発振も可能になり、音作りの幅が広がった。
- YMF262-M(OPL3) 2オペレータ18chまたは2オペレータ12ch + リズム10chまたは4オペレータ12ch + リズム10ch、Sound Blaster Pro2で使用
- YMF278B-F/YMF278B-S (OPL4)
- 2オペレータメロディ18音同時発音、または2オペレータメロディ15音+リズム5音同時発音
- 4オペレータメロディ6音+2オペレータメロディ6音同時発音または4オペレータメロディ6音+2オペレータメロディ3音+リズム5音同時発音
- PCM24音同時発音,最大512音色
- 音声出力データのサンプリング周波数 44.1KHz
- 波形データは8ビット、12ビット、16ビット構成を選択可能
- 各音声出力チャンネルは個別に16段階のパン設定が可能
- 外部メモリはROMまたはSRAMを接続可能、容量32Mビット
- 1Mビット、4Mビット、8Mビット、16Mビット用チップセレクト信号出力可能
- 音声出力6ch、YAC513(DAC)を接続可能
- エフェクターYSS225(EP)接続可能
- 80ピンQFP(YMF278B-F)または100ピンQFP(YMF278B-S)
OPN系
4オペレータ。
- YM2203(OPN) 4オペレータ、3ch + PSG(SSG)3ch / FMの1chは効果音または音声合成モードとして使用可 + ノイズ1ch、PC-8800シリーズ・PC-9800シリーズ・MZ-2500・FM77AVなどで使用。AY-3-8910と同様の機能(音声出力機能だけでなく、8bi×ばつ2系統のI/Oポートも実装。レジスタの構造も互換を持たせている)を搭載。
- YM2608(OPNA) 4オペレータ、6chステレオ + リズム6chステレオ + SSG3ch + ADPCM1chステレオ + ノイズ1ch、YM2203上位互換、PC-8800シリーズ・PC-9800シリーズなどで使用
- YMF288 4オペレータ、6chステレオ + リズム6chステレオ + PSG3ch + ノイズ1chステレオ、YM2608下位互換、PC-9821シリーズなどで使用
- YM2610(OPNB) 4オペレータ、4chステレオ + SSG3ch + ADPCM6+1chステレオ + ノイズ1chステレオ、YM2608下位互換、ネオジオで使用
- YM2612(OPN2)/YM3438(OPN2C) 4オペレータ、6chステレオ、YM2608下位互換、メガドライブ・FM TOWNSなどで使用
OPM系
4オペレータだが、OPNに対して音色のパラメータが増えている。
- YM2151(OPM) 4オペレータ、8chステレオ、X1・X68000、アーケードゲーム基板などで使用
- YM2164(OPP) 4オペレータ、8chステレオ DX21、DX27、DX27S、DX100、FB-01、SFG-05、コルグDS-8、707等で使用。自社製楽器類および当時経営難に陥っていたコルグの支援のために供給したのみで、ICとしては外販していない。[要出典 ]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。
OPZ系
4オペレータ。
- YM2414(OPZ) 4オペレータ、8chステレオ。YAMAHA TX81ZおよびV2(DX11)ほか多数で使用。
- (OPZII) 4オペレータ、16chステレオ YAMAHA V50で使用。
OPX系
- YMF271-F(OPX)
- 2オペレータ(4アルゴリズム),3オペレータ(8アルゴリズム),4オペレータ(16アルゴリズム)のいずれかに設定可能。
- FM演算用に7種類の内蔵プリセットデータまたは外部メモリのPCM波形データを使用可能。
- エフェクターLSI(YSS225)との8chインターフェイス内蔵。
- PCM同時12音。
- 波形データ用にROMまたはRAMを8MBリニアアクセスで接続可能。
- 波形データフォーマットは8ビットまたは12ビットリニア。
- PCMはループ機能とオルタネートループ機能によりデータを節約可能。
- スロット数は48。
- LFO内蔵で各スロット毎に波形、周波数、周波数変調、振幅変調の設定が可能。
- 音声出力サンプリングレートは44.1KHz(マスタークロック16.9344MHz時)。
- 音声出力は4ch出力可能で、各チャンネルごとにパンの設定可能。
- パッケージは128ピンQFP。
その他
- YMF292-F (SEGA 315-5687) SCSP(Saturn Custom Sound Processor) MODEL3、セガサターンおよびその互換機、ST-Vなどで使用。
- SCSPはセガサターンのバージョンにより、複数の型番(タイプ)がある。
- PCM再生データサンプリングレート:DC〜44KHz
- PCMデータ:8ビットまたは16ビットリニア
- 32ch FMまたはPCM
- すべてFM 4オペレータで使用した場合、8ch FMサウンド出力
- すべてPCMとして使用する場合は32ch PCMサウンド出力
- 1スロットにつき1LFO割り当て可能、32chのLFO使用可能。
- 32ch エンベロープジェネレータ内蔵
- プリスケーラ内蔵8ビットデジタルタイマー内蔵
- デジタルミキサー内蔵
- ヤマハ製FH-1 DSP内蔵。各種サウンドエフェクト制御
- リバーブ(ホール、ルーム、ボーカル、プレートなど)
- 反響
- エコー/ディレイ(ステレオ、モノラル)
- ピッチシフタ(シングル、ダブル、トリプル)
- コーラス、フランジャー
- 交響曲サラウンド
- ボイスキャンセル、オートパン
- 位相、ひずみ
- フィルター
- パラメトリックイコライザ
- 4MビットDRAM接続可能(サウンドCPU 68EC000用プログラム、PCMサウンドデータ、DSP)
- DMA内蔵。SCSPとDRAM間のデータ転送に使用する。
- メインCPUインターフェイス:セガサターンの場合はSCUとSCSP間のインターフェイス(B-BUS)となる。
- サウンドCPUインターフェイス:68EC000とのインターフェイス。
- 割り込み出力(2ch):メインシステム用およびサウンドCPU用
- 外部割込み信号入力:3ch(サターンでは未使用)
- リセット入力:セガサターンの場合はSMPCから出力されるリセット信号を入力する。
- デジタルサウンド出力
- 外部デジタル入力(1ch)
- MIDIインターフェイス内蔵(入力1ch、出力1ch)
- YMU757(MA-1)
- 2オペレータ?FM4ch
- 4音同時発音
- YMU759(MA-2)
- 4オペレータFM8音(または2オペレータ16音)+4bitADPCM(4k/8khz)1音、ステレオ出力
- 同時発音数(チップ最大性能)16
- YMU762(MA-3)
- 4オペレータFM16音(または2オペレータ32音)+WaveTable音源8音+PCM/ADPCM(4〜48kHz)2ストリーム、ステレオ出力
- 同時発音数(チップ最大性能)40
- YMU765(MA-5)
- FM音源部はMA-3と同じ。Wavetable発音数増、フォルマント発声音源(HV)および簡易アナログ音源(AL)を追加。
- 同時発音数(チップ最大性能)64
- YMU786/790/791(MA-7/7D/7i)
関連書籍
DXシンセサイザーで学ぶFM理論と応用 1986 ヤマハ音楽振興会 ISBN-10: 4636208358
脚注
- ^ Daniel J. Levitin, "This is your brain on music", Penguin Books, 2006